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紙上の錦。

会期が1ヶ月しかないうえに図録もないらしいと聞いたので、
大急ぎで太田記念美術館の「春信・清長・歌麿とその時代」展に行ってきました。
それまで赤や黒しか使われていなかった浮世絵がフルカラー錦絵となって
江戸市民たちに衝撃を与えてから、
錦絵が浮世絵の定番として定着するまでに活躍した3人の絵師たちの絵を中心とした展覧会です。

美術館ホームページの展示作品リストを見る限り、
春信がたくさん見られそうでしたのでうきうきしながら行きました☆
入ってすぐ、絵暦の「鶴乗美人」が出迎えてくれましたよ~。
振り袖を着た少女が鶴に乗っていて、何とも優雅でお正月らしい感じの絵でした。
(絵暦は趣味人たちがお正月の挨拶をするときに交わしたものが最初なので、
年賀状のはしりとも言われています)
あと、錦絵になりたての頃の絵暦には
絵師の他に彫師・摺師・注文主の署名も入っているものが多いのですが、
この「鶴乗美人」にもちゃんと4人の署名があるから、だいぶ初期のものっぽい。
みんなで作りました感があってよいですな~。
「つれびき」の男女が、2人並んで座って一緒に三味線を弾いていて微笑ましかった。
2人の少女が散歩している「春の色」も、春を探しながらキャッキャする様子が
やさしいタッチで描かれていて綺麗だなぁと思いました。
「突風」は、特にキャプションによる説明はなかったのですが
絵を見る限りは、風神が雲の上から風をおこして
地面で手紙を書いていた女性の手元から手紙をかっさらってしまった様子っぽい。
「風流うたひ八景」の中から高砂と紅葉狩の展示もあって、
高砂は神主さんを商家の若旦那風にやつしていて
紅葉狩の鬼は少女の姿をしていました。こんな美鬼いたらぜひお目にかかりたい。
こういう、一見、当世風の人々を描いているから傍目ではわかりにくいんだけど
さり気なく古典を意識した絵に春信らしさを感じます。
古典が大好きだったんだろうな…さすが思古人と号するだけのことはあるな…。
その影響はたぶん師匠の西川祐信から色濃く受けているんだろう。

春信が挿絵を描いた絵本もありまして、こちらは白黒でした。
錦絵ができる前まではこれがデフォルトだったわけで、それがいきなりカラフルになったら
そりゃすごい衝撃だったろうな。
錦絵の発明は市民たちも驚いただろうけど、
発明した人たちにとってもターニングポイントだったんじゃないかという気がしています。個人的に。

お次は清長。
春信の可憐な絵から一転、8頭身以上のプロポーションを持つ女性たち(男性たちもだけど)を
描きまくったことで有名な人です。
いやーしかし頭身が高くなると絵が派手になりますね!
春信を見てきた後なので一気に重厚感が増した気がしました。
「浄瑠璃姫」の主役がピンクの花柄の着物を着ていてとてもかわいかった☆
あとこの絵、紫が使われているのですがきちんと色が紫のまま残っていることに感動…!
紫って色あせやすいのであまり残っていないことが多いのですが
この絵はしっかり紫でした。大事に保存してくれているのですな。
「三代目瀬川菊之丞~」などの役者絵の中に、
ふだんはあまり描かれないお囃子の人たちが描かれているのも珍しかったです。
「暫」図は、ふだん清長の8頭身美女を見慣れていると
えっこれ本当に清長…?と一瞬思ってしまうような肉筆絵ですが、
描かれた団十郎の顔を見るとやっぱりいつもの清長が感じられて
かえってそれが微笑ましいような気もしました。
わたしは舞台の「暫」を見たことはないのですが、ちょっと興味が湧きました。
だってこの団十郎ったらまるで起き上がり小坊師…(^ ^;)。。

歌麿は文句なしに美しかったですねぇ。
女性の全身を描いた絵もいいですが、やっぱり大首絵が一番きれいです。
歌麿の描く女性たちはわりと目が大きかったり、つるりとした顔をしていたり
良さげなところからほつれ髪が出ていたり襟元が緩かったりして、本当に色っぽい!
なんかドキドキしちゃうねえ。
今回の展示は、遊女や町娘の名前を直接は書かずに判じ絵にしているものばかりでしたけど
お上のおふれが厳しくなってきた頃の作品が多かったということなのかな…。
歌麿はちょうど、錦絵の華やかさに影が出始めた頃に活躍していたから
ものすごい色んなことに注意しながら絵を描いていた人じゃないかと思っています。
出版統制に気を配ってあれだけの数の作品を描き続けていたところを見ると
たぶん頭は相当良かっただろうと思うんだけど。
(そういえば水谷豊氏主演の歌麿ドラマの続編がそのうちやるそうですね。楽しみです)

同時代に活躍したライバルたちの作品もいくつか展示されていました。
鈴木春重時代の司馬江漢の肉筆とか、磯田湖龍斎(春信私淑)とか北尾重政(歌麿の育ての親)とか。
鳥文斎栄之の描く浮世絵は狩野派の影響もあってか、ちょっと四角四面な部分があるような感じが。
肉筆もありまして、画題が胡蝶の夢であるところも漢籍の知識を感じさせます。
本人が武士であることも関係しているんだろうな。
勝川春章の描く女形たちはみんな、頭の後ろに垂らした2房の髪が
くるんと巻いているのが特徴的だと思います。かわいいー♪

錦絵、もとい浮世絵は見れば見るほど作り手たちの工夫が見えてきて燃えて萌えてたまらん。
もし江戸時代に生まれていたら買い占めていたと思います。主に春信を。

そしてこの後、目黒雅叙園の「辻村寿三郎×平清盛」展も見てきたのですが
長くなりますので次回にしようと思います。


そんな時期もありました。※クリックで大きくなります
オチもないまま続いています…歌人たちの宿直はつらいよシリーズ8。7はこちら
躬恒が淹れてきた白湯を飲みながらおしゃべりです。

躬恒「そういやさー、聞いたよ、岑ちゃんの武勇伝」
忠岑「ん?」
躬恒「この間、酔っぱらった大将が春宮大夫のところに押し掛けたとき、岑ちゃんがとっさに一首詠んで取りなしたって」
忠岑「ああ、あれ」
貫之「オレも聞いた。“かささぎの渡せる橋に霜の上を 夜半に踏みわけことさらにこそ”だっけ」
躬恒「すごいよ、大夫に絶賛されたんでしょ。よく詠めたよねぇ」
忠岑「だーろー?見た目だけじゃないんだよ」
貫之「よく言うよ。出だしは家持だろうが」
忠岑「おおっ、バレたか。家持は歌い出しがうまいから、真似したくなるんだよなあ」
躬恒「従者も大変だね。…そういえば似たようなことゆっきーもやってたよね」
貫之「内教坊時代にな」
忠岑「マジ?」
貫之「おねえさまたちの使いっぱしりだよ。物言いだの恋文だの、しこたま運んだ」
忠岑「へえぇ」
貫之「あんたもだろ、躬恒」
躬恒「ヒマだった頃にね。代作をしただけだよ」
忠岑「へえぇ!誰の」
躬恒「えへへ~、秘密」
忠岑「けちー」

歌人悲喜交々。

ちなみに…
大将は忠岑が当時仕えていた藤原定国(右近衛大将)のことで、春宮大夫は藤原時平のことです。
*ブログ内のイラスト記事一覧はこちらです*
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