国芳(えど)の方舟。

先日、ブロとものkanayanoさんと一緒に
横浜美術館の「はじまりは国芳 江戸スピリットのゆくえ」を見てきました☆
江戸時代後期に活躍した浮世絵師・歌川国芳を起点として
彼の弟子から孫弟子、その弟子、そのまた孫弟子へと、
約50年ほどの年月を下りながら日本美術の系譜をたどる展覧会です。
美術史展って大好きです、歴史の流れがわかるので♪
全部で40~50人ほどの画家の絵があったのですが、楽しかったのはやっぱり国芳ですね~。
どの絵もハリウッド映画並に筆が荒ぶっていて最高にワクワクです☆
猫の当て字や金魚づくし、武蔵のクジラ退治や荷宝蔵壁のむだ書など、
去年の歌川国芳展で見たものも多かったですが、何度見ても飽きないなあ。
特に金魚づくし!
国芳の金魚はヒレがひらひらしてて、大きな目をパチクリさせていてかわいさ炸裂です。たまらん。
あと、「一ツ家」といって、浅草寺の絵馬堂に奉納された国芳の巨大絵馬があったのですが
見たこともないビッグサイズでひたすら感心しまくりました。もはや壁。
でもそこが国芳の国芳らしいところだな…(*´∀`)。
今回見た展示は後期展示だったのですが、出品作品リストを見たら前期に「相馬の古内裏」があったらしい。
うわー!なんだよもー超見たかった!!
そして国芳門下というと落合芳幾・月岡芳年・河鍋暁斎が3羽鴉ですけども。
ありましたありました、もう師匠の影響をビシバシに受けまくってる絵の数々(笑)。
暁斎が描いた国芳の仕事部屋は画集でしか見たことなかったので、本物が見られて良かったです。
部屋中が紙だらけ猫だらけで、師匠の大声や弟子たちの喧噪が聞こえてきそう。
芳幾は挿絵がいくつかあって、国芳死絵もありました。こちらもやっと本物が見られました。合掌。
芳年はやさしく繊細な線を引くけど、ダイナミックな構図は師匠そっくりだと思う。
彼の弁慶&牛若丸と、袴垂保輔&藤原保昌の絵は何度見てもいいなあ~。
(そして3人の描くどの絵からも独特の情念が感じられるような気がするのは、
彼らが全員、幕末の戦争を見てきた絵師だからかもしれない)
3人とも師匠のこと大好きだったから、一緒に絵を並べて展覧会してもらえて良かったね。
なんたって国芳の死後40年経っても、芳幾主催でまだ法事やってるもんね!
もうぅこいつらの師匠デレひどすぎる、いとしいよう(*´艸`)。
芳年の孫弟子のひとりが鏑木清方というのは初めて知りました。そうだったのかあ。
清方が芳年の顔を描いた掛け軸がありましたが、かなり似ていてびっくりしました。
芳年は写真が残っているから、清方は後年それを見たかもしれないし、
清方の少年時代と芳年の晩年は若干被ってるから、会ったことあるかもしれないし。
繋がってるんだなあ。
あと、清方は「春のななくさ」と「にごりえ」が良かったです。
「にごりえ」は一葉ねえさんへの愛に満ちていたな…清方は一葉が大好きだったんですね(^ ^)。
で、その清方の弟子が伊東深水というのも初めて知りました。。
ぬおー、今回初めて尽くしすぎる(笑)。
現代美人集の「吹雪」がめちゃくちゃ綺麗で感動した。
女性が着ている紫色に紅白梅の柄の着物、ほ、欲しいぃ…!!
同門の川瀬巴水の版画は、去年の日本橋展でも見ましたが、やはりとても綺麗だと思いました。
絵の具が水彩だからか、絵の中の空も海も、空気もみずみずしく見える…。
東京十二題シリーズがいいなー。特に「木場の夕暮」がいいなー。
国芳の時代から約50年、どんぶらこと流れて辿り着いた系譜が巴水だと思うと感慨深い。
江戸時代が終わったばかりの頃の人々は、江戸を古いものとみなし否定してから
新しい時代へ踏み出している、と最近読んだ本の中に書いてありました。
で、江戸が少し遠い時代になって、回顧趣味というか、世の中に昔を顧みる余裕が出てくると
よくよく見てみると江戸もなかなかいい時代だったんじゃない?という考えが出てきて
お江戸の文化や学問を(近代主義的に)再考する風潮になっていく、とも書いてあった。
つまり…
国芳が江戸っ子スピリッツてんこ盛りの絵を描いていて、
門下3羽鴉は国芳スピリッツを継承しつつ動乱の影響も受けて描いていて、
清方の頃は文明開化にどっぷり浸かっていて、
巴水の頃になるとお江戸もいいんじゃね的世の中になってるから
日本画と同時に版画がもてはやされるようになっていく、的な流れなのかな。
新時代が旧時代の否定から始まるのは、だいたいどの時代にも共通して見られる現象だと思います。
そうしないと変われないからねー。
あれだ、新選組や坂本龍馬が、江戸が終わったばかりの頃は全然見向きもされなかったけど
時代を下るごとにぐんぐんリスペクトされていったっていう、あの流れだ。
江戸生まれの人がお年寄りになる頃には、元新選組隊士のインタビューが新聞に載ったりしてるし、
それまでは無名だった龍馬が某女性の夢枕に立ったとかいう話が出て一躍有名になったりもしてるし。
お江戸ルネサンスですな。
そんなわけでまるっと楽しんで、美術館のレストランでランチをいただいたあとは
展覧会の関連講座である多色摺版画の実演ワークショップに行きました。

摺師さんの仕事は写真や動画で見た経験はあるものの、実際に見るのは初めてでした。
(kanayanoさん色々ありがとうございましたー☆)
渡邊木版美術画舗の渡辺社長の解説を聴きながら、同社の渡辺摺師の実演を見るという
何とも贅沢な時間でありました。
紹介してくださったのは、江戸時代の版画から発展した「新版画」です。
社長さんいわく「歴代浮世絵版画のいいところを集めて描いた版画」とのこと。
絵師・彫師・摺師の共同制作という点は江戸の頃と変わりないけど、
それまで職人たちが生み出してきた数々の技をふんだんに取り入れているから
伝統の安定さとともに新しさも感じられる版画ができあがるわけですな。
そしてこの新版画の発展に関わったのが、社長さんのおじいさまである初代渡邊画舗社長らしい。
文明開化で西洋画が流行する中、衰退しかけていた浮世絵版画の再興をめざして
外国人向けに浮世絵展覧会を催しながら会社を創業して、
橋口五葉や伊東深水などに呼びかけて、やがて川瀬巴水を見つけて
主に風景の浮世絵版画をオリジナルで制作したり、復刻して販売したりしてきたそうです。
一番多く手がけたのが巴水っぽかったな…600点くらい作ったらしい。
ある雨の日に当時の社長さんと巴水が散歩していたとき、
巴水が急に立ち止まって景色のスケッチを始めたときには
社長さんは黙って傘を差し掛けていた、なんてエピソードも残っているそうです。
大事にされてるなあ、巴水…☆

作業中の摺師さん。
巴水の「東京二十景 荒川の月」を摺ってくれました。
ゴシゴシ、ゴシゴシ、シャカシャカシャカ、カタン、コトン、シャーコシャーコ、ゴシゴシゴシ。
そんな音の連続でした。静かで力強い音だった。
(熟練の人になると摺りの調子の良しあしが音でわかるとか)
版画の道具や使い方、用語などは知識として持ってはいますが、それは知識でしかないからなあ。
実演鑑賞は五感をともなうのでやはり重みが違います。
何より技法そのものや、版画を摺る紙に越前産の奉書紙を使うというのは
錦絵が誕生した鈴木春信の頃とまったく変わっていないと
社長さんがおっしゃっていたのが一番感動した!
ふおおお目の前に250年前があるんや…!って感じでした。嬉しかった。ふるえた。
ちなみにこの実演というやつ、摺師さんにはちょっとした苦行らしいです(;´∀`)。。
最初に数枚摺ってみて調子が出てきたところで100枚とか200枚とか摺るそうなので、
一番いい色が出る頃には時間的に実演が終わってしまう…ということにならないように
がんばってください、と社長さんに言われて摺師さんは苦笑しておられました(笑)。
(でも素人目で見る限り、摺師さんの腕前は最初から最後までクライマックスだった)
摺り方は、基本的に学校の授業などで習う版画と同じ。
絵の具を版木につけて、糊をつけて、紙を当ててバレンで摺ります。
版木は裏表3枚で計6面ですが、新版画は江戸の版画と違って摺る回数が倍以上なため、
今回は空や海などの4面だけ、色を大きく使う部分を摺る実演でした。
ちなみに今回使われた版木、初版を摺ったものだそうです!
版木は年月が経つと反ってしまうので、摺師さんはあれこれ工夫しながら摺るそうですが
100年前の版木が目の前にあるかと思うとそれだけでテンションあがりました☆
だって初版ってことは、巴水もこの版木を目にしたってことですよ!
これだから美術館や博物館通いはやめられないんだよねーヽ(≧▽≦)ノ

実演で摺られた版画。
奥から手前にかけて、空のブルーが濃くなっているのがおわかりでしょうか。
色を何度か塗り重ねて濃くしたもので、一番手前は4~5回重ね摺っていたかなあ。
そうすることで色に深みが出て、画面に奥行きも出てくるとか。
完成まで見られないのがちょっと残念でした。どんな色に仕上がるのかな。想像するのも楽しい。
そういえば川瀬巴水は版画を作ってもらうときに、きちんと色を塗った完成予想図を用意して
「こういう絵にしてほしい」と職人さんにイメージを伝える人だったそうです。
色摺りのときも立ち会ったらしく、
当時の社長さんや職人さんと話し合いながら作業を進めていたのかもしれません。
あと、今回実演の「荒川の月」は夜の景色ですが
摺師は夜だけではなく、絵の具の色を変えて夕暮れや朝、昼などに摺ることもできたそうで
どれがいいですかと巴水に見せることもあったとか。
えええ何それ何それ超わくわくする、その現場めっちゃ居合わせたいーー!!
江戸時代には1000人以上いた職人さんも、現代は摺師60人程、彫師は10人いるかいないかだとか。
関東大震災や戦争や不況などで版木も職人も減っていく中、社長さんたちは道を模索中だそうです。
わたしも微力ながら応援し続けていきたい。
そういえば実演中に、摺師さんと社長さんが
「だんだん濃くなってきたね」「もうちょっと濃くていいよね」とか会話しながら作業されていたのが
ライブ感あって良かったです。
「摺りは調子が出るまで時間かかるんです」と言った社長さんに
「大丈夫ですよ、何とか、やりますよ」と摺師さんが言ってて、そこも笑ってしまった。。
こういうところが生鑑賞の醍醐味だと思います。
現場の声っていいよねー☆

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