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ゆさな日々

猫・本・歴史・アートなど、好きなものやその日考えたことをそこはかとなく書きつくります。つれづれに絵や写真もあり。


魔法の呪文のことを考えて…。

  1. 2013/11/21(木) 23:45:51_
  2. 絵本・児童書
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ジークリート・ラウベ『庭師の娘』を読みました。
約250年前のオーストリアを舞台にした、庭師になりたい少女マリーの1年間の物語です。
1768年ということはマリア・テレジアの治世ですな。
ヨーゼフ2世とか、シュタルツァーとか、メスメル博士とか、ルソーとか、
世界史でおなじみのお名前がちらほら。
(ちなみに主人公マリーと同じ名前のマリー・アントワネットはこの2年後にフランスへ行って
ルイ王太子と結婚します)

岩波書店さんの新刊情報で見かけたときまず淡い色の表紙に一目ぼれしまして
(表紙絵の中村悦子さんは茂市久美子さんの「つるばら村シリーズ」でおなじみですね)、
あらすじもすごくわたし好みで、
読む前から何となくドキドキしていたのですけども。
岩波さんとこの児童書だしハードカバーだし大きい本かしらと想像していたのですが、
実際に手に取ったら両手にすっぽりなじむ大きさで
表紙をめくったら紫のパステルカラーの遊び紙で
目次にも春夏秋冬の植物の挿絵がありましてな…。
なんだ、なんだこの装丁フェチのツボを刺激しまくる(当社比)本は。どきどき。

マリーは植物が好きな女の子なのですが、庭師の父親の意向で修道院に通っています。
でも本当は庭の仕事をやりたいので授業中も窓の外の植物が気になるのですね。
シスターに怒られて同級生に笑われるのはよくあるパターン。
帰宅してお手伝いさんのブルジに雑になぐさめられるのもよくあるパターン。
(このブルジがかっこよくて…!彼女の「できる女オーラ」はすごい)
修道院の人たちやパン屋の親方、そして何より父親がかなりの壁になってはいるものの
パン屋の息子と、父親の雇主であるメスメル夫妻と、おチビさんのモーツァルト少年が味方で
マリーも素直になれたりする。
メスメル夫妻がマリーの能力を高くかって信じてくれているのがやさしくてあたたかいです(*´∀`*)。
モーツァルトとの出会いは最悪でしたけども(笑)、
お話の後半には「あの子は天才よ」ってヤーコプに言ってておおっ成長したなあって(笑)。
シュタルツァー夫人にモーツァルトをこきおろされて思わず庇っちゃうところとかね(´ー`)。
(でもその後、夫人とは思わぬ共通点があって何となく打ち解けたりする)
本気で庭師になりたくて植物への興味も人一倍強くて
でも壁を超えるやり方がわからないマリーのもどかしさが時々息苦しいけど、
だからこそ終盤の解放感がたまりません。
たぶんマリーには今後も色んなことがあるだろうけど、きっと未来もすてきだ、と思えました。

人物描写も丁寧でよかったですが、
マリーが庭師を目指す子なので植物の描写がたくさんあるのがいいなあと思います。
授業中や帰り道でマリーが妄想する庭とか、植木屋さんとか、
雑草を抜いたマリーが「草も首のところに寒気がしたろうか?」って地面に戻すのとか
早霜が降りそうな寒い秋の日に、植物が枯れないよう懸命に守るマリー&ヤーコプとか
ほんと細かくてすごい。
(ヤーコプの「僕らは魔法をかけてるんだよ」っていう明るさがいいですね)
メスメル夫妻が庭にいる描写がすごく美しいですよ。
この夫妻、素敵すぎるのでそれだけで絵のように感じられる。
植物の絵が描ける人は無条件で尊敬しますが、植物が美しく描写できる人も尊敬します。

あと、同じ庭でも、修道院の薬草園とメスメル博士の庭の雰囲気が全然違う。
当時のウィーンではフランス式庭園(ベルサイユ宮殿のような庭園)が流行っていて
植物が整然ときっちり並べられる形式なのですが、
マリーがめざしたのは植物をありのままに活かす風景式庭園で
ちょうど同時代にイギリスで流行りだしたものだそうです。
ラストでマリーがメスメル夫妻の庭に植えた植物なんだと思います?庭にかぐや姫がきちゃうよ。

モーツァルト少年はこのお話でも、史実に違わず自由に飛び回っていますが
作曲に詰まったり頑固になったり、時々なにか思い出すように黙ったりと表情がコロコロ変わります。
彼もマリーと似たようなもので、子どもだからとせっかく作ったオペラを上演する機会を奪われていて
(ウィーンではかなり有名な話だそうです)、
「どうにもならなくなっちゃった」ってシュンとしちゃうのかわいい。
本人の出番はそんなになくて、人々が語る描写が多いのですが
シュタルツァー夫人が「メロディを口ずさみながら、ペンにインクをぱちゃぱちゃつけて
あれよあれよと新しいアリアを書いてしまった」って首を横に振るのですが
わたしのイメージするモーツァルト像とぴったりで笑ってしまいました。
たぶん後半のクライマックスの作曲もそうしてたんだろうなあと思う。

メスメル博士…。
世間的にはこういう人を「いっちゃってる」と言うのかもしれないけど、
確かに付き合うには骨が折れそうだけど
それでも彼のような人が「誰かが最初にやらなくてはならない。勇気を出すだけだ。やってみよう」って
世間の壁をヒョイとぶち破ってやってきたことが
歴史の積み重ねなんだなあとつくづく。
いわゆる常識というものから外れた行動をした人は歴史上にいっぱいいる。たぶん小説やドラマ以上に。
若者への不条理に怒りを感じてかつらむしり取っちゃう博士かわいい。
マリーにブルーストッキングについてさらっと語って女性の庭師のグループを作ることを提案して
マリーが「本気ですか?」と聞き返すと「本気だとも。かなりね」と返す博士イケメン。
でも職業はお医者さんです(笑)。

作者のジークリートさんは歴史ものを得意とされる作家さんだそうです。
読みたい…岩波さんもっと紹介してほしい…。
オーストリアの方が書いたエリザベートやモーツァルトの本とか、本場すぎるじゃないか…。
(どっちも日本語未訳)



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年賀状始まってます…今年もこの季節がやってまいりました。
さあお前ら、大晦日というゴールテープへ向かってほふく前進で走ろうぜ…。
今年は江戸時代の女性文学者がテーマです。
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テーマ : 児童書    ジャンル : 本・雑誌

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Author:ゆさ
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