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世田谷パブリックシアターで「杉本文楽 曽根崎心中付り観音廻り」を観てきました。
近松門左衛門作の人形浄瑠璃「曽根崎心中」に、写真家の杉本博司氏が演出や美術をほどこし
クールでアーティスティックな作品に仕上げていて
ローマやパリで上演されたときも絶賛されたようです。
ダイジェスト動画→こちら
また、現代に上演される曾根崎心中の台本からは演出の都合で省かれている
「観音巡り」の段も加えてあるらしくて
わー江戸時代の初演に近い形式じゃん!行く!とwktkしながら出かけました。

「曽根崎心中」は1703年4月、大阪の曽根崎は露天神の森で実際に起こった心中事件をモデルに
近松門左衛門が書いた浄瑠璃作品です。
近松は事件からわずか1ヶ月で台本を書き上げ、
上演中の竹本座には連日大勢の見物客が訪れて入場料もガバガバ入って
一座が抱えていた借金が全部返済できたらしい。
1727年刊の『今昔操年代記』には「(芝居小屋が)曽根崎心中と題を出せば町中の人間がおしよせる」と
書かれるほどの大当たり作品だったようです。
お江戸の忠臣蔵みたいですな~( ˘ω˘ )。
あと、それまでの浄瑠璃や歌舞伎は平家物語などの時代物を上演していたけど
近松の頃からだんだん世話物(庶民生活の劇)へと流行が舵をきり始めていて
そこへ「手代と遊女」という、バリバリの庶民が主人公の劇がぽーんと出てきて
庶民がより身近に感じたのではないか…というのも
曽根崎心中がヒットした理由のひとつとされているそう。
あの時代に生きる人たちにとって徳兵衛とお初の一件は人ごとじゃなかったのかもしれない。

ストーリーはご存知の方が多いと思いますので省略しますが(気になる方はサイト↑をご覧ください)、
今回は音声ガイドがないので、ある程度ストーリーを頭に入れて鑑賞してきたのですが
ひさびさに「やっべー江戸人の思考まったく理解できないどうしようこれ、
もう名誉とか義理立てとか頭おかしい、あの社会ゆえの不条理ー!」とか超もにょる話だった…。
最高にロックでしたよ(親指立てポーズ)。
やっぱり近松はすごい…ずっと残されてきただけあって完成されてる…!

本編は暗転からスタート。
現代の台本からはカットされているという観音廻りから始まりました。
(亡くなった徳兵衛とお初への慰霊の意味も込められているそうです)
チリーン、チリーン…と鈴が鳴りお経を読み上げる声明が響く中、
語りの太夫さんと三味線さんが舞台袖へ出てきます。
そこへ「とうざーい、とうざーい」と幕開けの口上をとなえながらひとりの黒子さんも舞台袖へ。
「ただいまの奥、観音廻りの段。語りまする太夫、豊竹呂勢太夫~。三味線、鶴沢藤蔵~」と
太夫さんと三味線さんの紹介をしてくださいました。
わー、東西声なんて忠臣蔵の観劇以来だ。なつかしい。

観音廻りはお初が主役で、大阪に33ヶ所あるお寺の観音様を廻るというものです。
(仏像を巡るということは浄化の作用があるといわれます)
ゆったりと力強い太夫さんの語りに、
ベン、ベン、ベベン、ベン…と三味線もゆったりした調子。
そんな中を、真っ暗闇の舞台の真ん中が割れてしずしずと現れるお初ちゃんがとっても清楚。
前帯に赤い柄の着物で、この演目のために新しく制作されたお人形だとか!
繰るのは三代目桐竹勘十郎氏、おーいつだったかBSTBSの江戸のススメに出ておられた方だ。
1人で繰ることから1人遣いというそうです。
ふつうの文楽は小さな舞台が置かれその上で演じられますが、今回はそれもなく
お人形の全身が見られるようになっていました。
お初ちゃんはゆらゆら歩いて、お寺に着くと伏し拝んで観音様に祈るのですが、
わたし人形浄瑠璃をナマで見たのは初めてだったんですけど
月並みな表現しかできませんけど
お初ちゃんの動きや仕草がもう、もう生きてるみたいだった!!
そっと手を合わせる動きひとつとっても繊細な、隅々まで神経と血管が行き届いたような
人がふと手を合わせたときの空気の動きも感じられさえした。
桐竹氏の技術と表現力…すごすぎる…!
そんなお初ちゃんの道行に華を添えるのが、現代美術家の束芋さんのアニメーション。
背景に白黒映像が投映されて奥行きがありました。
お寺の名前が流れていったり、舟が池に揺れたり、鳩が飛んだり、蓮の花がふわりと咲いたり
ぽちゃぽちゃと水が流れたり、揚羽蝶が飛んだり。
揚羽蝶のときは舞台の上手下手から黒子さんたちが蝶をヒラヒラさせて出てくる演出もあり、
かーらーの、たくさんの蝶の群アニメーションが背景いっぱいに!→こちら
束芋さんの作品は初めて見ますが美しかったです~☆


場面は変わり、生玉社の段。
結婚を迫られてどうしようと悩む徳兵衛、観音廻りから帰ってきたお初と再会します。
人形遣いさん、さっきはおひとりでしたが今度はそれぞれ3人ついて3人遣いとなりました☆
すごい…徳兵衛とお初の後ろに黒子が6人…!
(昔はお人形が小さかったので1人で繰っていたそうですが
最近の人形は大きいので頭・右手の担当、左手の担当、足の担当がいるそうですね)
友達に金を貸したら返ってこない、このままじゃオレ主人の姪と結婚しなきゃいけないどうしよう、
証の手形もあるのに…とお初に見せていると
友達の九平次が子分を連れてやって来て、徳兵衛にお金返してよって迫られると
「借金なんてしてないもん。その証文だってニセモノじゃねぇの。
俺3日前にハンコ落としてなくしたんだ。おまえが拾って手形作ってハンコ押したんだろ」とか
訳わからない言いがかりをつけられ子分たちにフルボッコにされる徳兵衛…。
お人形が増えると黒子さんもいっぱい出てくるので舞台は芋を煮るような大わらわぶりで
痛い場面なのにちょっと笑ってしまった。。
ここの徳兵衛、笠を脱いだり手形を懐から出したり、九平次に殴りかかって返討ちにあったりしますが
当たり前ですけどそれらを全部黒子さんたちがやっていて
後ろから手形渡したり、徳兵衛が脱いだ笠を受け取ったりと手際のよさに感心しきり。
こうして文楽は進行していくんですね…。
能や歌舞伎でいえばお人形さんが役者にあたり、黒子さんが進行のために動くのは同じなんだなあ。
あと、わたし徳兵衛は「とくべえ」と読むのかとてっきり思っていたのですが
太夫さんが「とくびょうえ」と読み上げていらっしゃいました。へー!


休憩をはさんで天満屋の段。
お初の職場のお茶屋さんで、舞台上部には赤い梅の暖簾が吊るしてあってきれいだった~。
ここも幕開けに太夫さんと三味線さん(さっきと違う人たち)が出てきて
黒子さんの「とうざーい」の口上がありました。
徳兵衛が心配でたまらないお初、同僚の遊女たちが「お初さん大丈夫?」と聞いてくれても
すっかり上の空。
(ここで姐さんたちがつまんなそうにキセルをカツンとやるのが面白い)
が、夜が更けて2階からふと外を見ると店の玄関先に徳兵衛の姿が!
あー、たぶん勤め先のお店に帰るわけにいかなくてここ来ちゃったんだな…。
で、お初ちゃん、降りていって「わたしの打掛の中に入って」と言って
着物で徳兵衛をくるんで隠しながら店の階段を登るというなんとも度胸のあることをやってくれました。
お店の人に見つからないようにとハラハラドキドキ。すげえ。

店に徳兵衛を入れたお初ちゃん、とりあえず縁の下に徳兵衛を隠して素知らぬ顔でキセルを吸います。
で、ここへまた九平次が豪遊しにやって来まして
「徳兵衛のせいで俺の面目丸つぶれだよー」とかしゃあしゃあと言いふらすので
徳兵衛はお初が縁の下にだらんと垂らした足にすがりついてグギギ、必死に抑えて抑えて、のお初…。
なんとも官能的な絵面。
「徳さんは死ぬ気だ。わたしも一緒に死ぬ」と九平次に言い放つお初ちゃんの気迫が
語りも三味線も、人形遣いさんの繰りも合わさってぐっと伝わってくるし
その言葉に感動した徳兵衛がまた足にしがみついて泣くとこなんか倒錯的だ。
近松の台本はどこまでも容赦しませんね…。
しかし、その夜足抜けするお初ちゃんの道中がちょっと面白くて
忍び足で階下へ降りていくも、玄関の前には下女が寝ていて蝋燭も灯ってて抜け出せない、
そこで考えたのは長いホウキの先に扇子をくくりつけて蝋燭の灯りを消す方法だった!
なんか唐突すぎて客席から笑いが。。
だらしなく着物をポロリさせた下女がむにゃむにゃと寝返りを打つ中、
階段の上からバッサバッサと扇子を振るお初ちゃんがシュール(;´∀`)。
それでもどうにか煽いで消したら、まあお約束ですがお初ちゃんがバランス崩して倒れ込んで
ガタンと音がして下女があられもない格好で跳ね起きて
火打石で行灯に火をつけようとするのですが、
お人形さんがカチカチやるたびに本当に火花が散っててすごかった!あれ本火なのかな…。
客席が笑いから一気に感嘆の声に早変わり。
お初が徳兵衛の手を引いて店を逃げ出して暗転。
2人が走ったり抱き合ったりやたら動き回るのでわさわさ舞台を移動する黒子さんたちも面白かった。


大詰め、道行の段。舞台袖には3人の太夫&3人の三味線が勢ぞろい。
さあくるぜ…見るも語るも無残な話の始まりだぜ…。
死に場所を求めてさすらう2人、背景には曽根崎の森の画像がゆったりと左から右へ流れていきます。
白黒アニメ雰囲気ありすぎ。
「今年は徳さんは25歳の厄年、わたしも19歳の厄年、こうなるのは巡り合わせか」との
お初ちゃんのセリフを聞いてああ、そういう設定なのか…と。
現世で結ばれないなら生まれ変わって来世で結ばれようと歩く2人の前に
唐突に2つの人魂がふよふよと浮いて登場!
自分たちより先に心中した人たちがいる…と道行を憂いて2人ドキドキ。観客もドキドキ。
ここから近松の台本が容赦なくドライでクレバー。
突き放したようにたたみかけるト書きと、たたきつけるような語り&三味線の音、
クライマックスが近いぜ…!
どうせなら後世に残る死に方をしようと心中場所を天神森と決めた2人、
長い布でお互いをしっかり結び合い、親に先行く不幸を嘆いて、徳兵衛が脇差を抜いて
さあ行くぞ南無阿弥陀仏と唱えて、でも今までずっと愛しい愛しいと言ってきた恋人なので
目がくらむわ手は震えるわ、意を決して刺そうとしても脇差はあっちへそれこっちへそれて
そのたびに刃がキラリ、キラリと美しくきらめいてぞっとする。
やがてお初にグサッとやり自分のこともグサッとやって、南無阿弥陀仏と何度も唱えながら
夜明けに息絶えたというからたぶん相当長い間苦しんでるし
血の表現はまったくないのに血が感じられるのもぞわーっとした。
あかん。これロマンじゃない。悲劇だ。
「心中ってのはこんなにも悲惨なもんだヨ」と近松にサラッと言われた気がしました。
すごいよ近松…。
海老ぞりのお初ちゃん&重なるように倒れた徳兵衛に落ちるスポットライトが煌々としたライティングで強烈で、
ピクリとも動かないお人形さんとそれを支える黒子さんのプロ根性もすごい。
ほんとに、ほんとに、微動だにしなかったのですよ。

「誰が告ぐるとは曽根崎の、森の下風音に聞え、とり伝へ、貴賤群集の回向の種。
未来成仏疑ひなき、恋の手本となりにけり」
べべん。
暗転。

幕が下りたら場内が割れんばかりの大拍手!
終幕後にはカーテンコールまでありましたよ(笑)。
たぶん本来の文楽にはないのだろうけど、今回はあったらいいなと思っていたので感激。
徳兵衛とお初が観客にお辞儀して、お人形さん同士が軽くペコッと微笑み合う演出もあって
まるで「終わりましたねえ」「お疲れさまでした」とお互いを労っているように見えました。
わーこういうのステキ~いいなあ(ノ'▽')ノ
で、黒子さんが徳兵衛とお初から手をすっと抜いたとたんに
2人がだらりと首と腕を垂れて人形に戻ってしまって、わー!ってなりました。
こんなにあっけなくて、でも手を入れさえすればまたカラリと動き出すんだろうな…。
最後は出演者と杉本氏が勢ぞろいしてお辞儀してくださいました。

はああ、見ごたえのある内容でした。。
初めての文楽鑑賞でしかもそれが曽根崎心中で、お人形さんにもBGMにも感動して
近松にも新しい感慨と発見を得ることができてとても興味深かったです。
人形浄瑠璃は能や歌舞伎の迫力とはまた違った、人が手を入れた人形がふと首をあげて動き出した瞬間の
あの何とも言えないすっきりとした奇妙な感覚が魅力ですな…。
客層もいろいろで、お年寄りが多かったですが若い人もいて
「いつもの文楽と違う面白さだねー」とのんびりおっしゃるマダムたちがいらしたり
わたしの隣に座っていた青年コンビが淡々と解釈や意見を交わしていたりした。
議論の起こる芸術っていいなあ。
一方、わたしの後ろに座っていた老人コンビは「ラストは何度見ても泣けるね」と。

大阪のお初天神は過去に行きましたが、また行けたら2人に挨拶してこなくっちゃ…。

ノーマル文楽の曽根崎心中も観てみたい~(*´ω`*)。
どこかで上演されてないかな。
(そういえば来月復帰なさる坂東三津五郎さんに会いたくて歌舞伎座のチケット取ったんですが、
坂田藤十郎さん主演の曽根崎心中もやるとのこと…わああ。
文楽より歌舞伎との見比べが先にできそうです、wktk)


そうそう、文楽鑑賞のまえにカフェObscuraでお昼ごはん食べました~。
三軒茶屋駅から歩いて5分の隠れ家的カフェです。
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ひっそりとした佇まいですが、店内の椅子はいっぱいでした。常連さんもいたっぽかった。

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カモミールティー。
飲んでみたらほのかに甘くて、蜂蜜かな?すごく好みの味(*^ ^*)。

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和風バジルチキンのサンドイッチ。野菜たっぷり、ポテトサラダ添え。
パンがサクサクして香ばしかった。
パリッといい音がしたので開いたらパンに海苔が貼りつけてありました。新しい味。

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デザートは季節のスイーツから桜シフォンケーキをいただきました。小豆添え。
ふわふわもちもちの食感ですごくおいしかったです!
また三軒茶屋に来ることがあったらリピートしたい。
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