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先日ネサフをしていてたまたま、竹下文子さんの『酒天童子』を見つけたのですが
読んでみたら内容があまりにもツボで沼が深すぎて危うく足を滑らせ頭からドボンしかけたくらい
すばらしかったのでその事を書きます。
どこがどうツボって、魅力を語ろうとすると「筆舌に尽くしがたい」という言葉でしか表現できないし
しかも読んだの真夜中だったからおかしなハイテンションが脳天突き抜けて
沼に落ちそうなすんでのところで踏みとどまってどうにかこうにかお風呂入って寝たけど
目覚ましが鳴るまで夢も見ないで爆睡した。
気持ちがバンジージャンプしまくったのと、よほど頭使って疲れたっぽいです^^
実はまだ心が完全に落ち着いていませんので
たぶん今から語るのもまとまりのない話になると思います、ご了承ください(^v^)←

あらすじはリンク先に書いてありますしご存知の方も多いと思いますので割愛しますが
ざっと申し上げると今昔物語集や御伽草子集に載っている一条戻り橋の話、土蜘蛛、鬼同丸、
酒呑童子の説話などを源頼光を主人公にまとめてつなげた連作です。
ゆさは鬼びいきのためあまり頼光側の小説って読まないのですけども
この本は著者が黒猫サンゴロウシリーズの竹下文子さんと聞いたとたんに興味が沸騰して
図書館で借りてきてパラパラめくってみましたら描写がもういろいろツボだらけでしてな。。
たとえば渡辺綱が戻り橋で一悶着あって朝帰りしたときの様子は、

近づいて、顔を見た。口を横一文字にむすび、かたい表情をしている。
髪は乱れ、衣服もあちこち破れている。ふだん身ぎれいな男にしてはめずらしいことだ。
かたわらに、ぼろ布でくるんだ大きな包みがある。「ごらんいただけますか」
綱は、何重にもなった包みをほどいた。ごろりと出てきたのは、なんと一本の腕だった
」(p.16-17)

なんじゃこりゃーー!!!!!!(ダァン!!!←床叩)
無口でふだん身ぎれいな部下が乱れた服装でおっかない顔して帰ってきて
何重にも巻いた布から鬼の腕ごろんて出すとかむりむりむりむり怖いかっこいいずるい!!!!!
他にも、

「一条大宮まで使いにいってもらいたい」「承知しました」
なぜかとは決してたずねないのが綱である。4人のうちで自分が呼ばれたということは
内密のだいじな用なのだと、こちらが言わなくてもわかっている
」(p.13)
「おみごとでした」綱がそばに来て、すばやく手綱をつかみ、暴れる馬をなだめた。「おまえもだ、綱」」(p.93)
わたしが17のときから、渡辺綱は、そばにいた。
わたしの影のようにうしろにつき、あるいは盾のように前に立って、
いつも言葉少なく、わたしをまもり、支え、はげまし、ときには叱ってくれたのだ。
わたしの命に従わなかったことはない。呼びかけて答えなかったことはない
」(p.226)
「わたくしがお仕えするのは、頼光さまおひとりです」にこりともせず、さらりと言いきった。
その顔、いつもの綱である
」(p.229)

待って待って待ってもえしぬ待っっっって!!!!!!!!!!
なんだこのおまえの気持ち全部わかってるぜな主人と一を聞いて十を知る部下は。
綱が言葉を短く切っても表情だけで言いたいこと読み取る頼光がハイスペックすぎるし
綱も綱で口数少なくて頼光が話しかけなければいつまでも黙ったままとか
しかも12歳で17歳の頼光のもとへ来ておそらく10年以上仕えてる(←ここ重要)という、
まさに最強の萌え要素てんこ盛りの設定がやばすぎて沼落ち5秒前。
頼光やその部下の知識は名前と役職となんとなくの人物史だけで10年くらい更新されてなかったし
あえて誰と聞かれれば綱一筋だったのにまさか頼光&綱にセットで惚れるなんて
わたしが一番びっくりだよ!!
今まで好きって思ったこと一度もなかったからこわい。新境地こわい。
他にも空飛ぶ茨木童子から逃れて北野天満宮に落下して屋根は壊れたのに自分は無傷な綱とか
頼光が鬼同丸の目に深い闇を見て「わたしはこの男を救えない」って思う一瞬の交差の妙とか
そういうシチュエーションが大好物なのであれよあれよと物語に引きずり込まれてしまって
冒頭のような有り様になったわけです。

頼光四天王の他の3人が明るくてアホでみんなかわいい。
「姫さまは軽いなあ」っておどけた調子で桜姫を抱えて助け出す坂田公時とか
諏訪明神のお告げひとつで頼光のもとへ押しかけてきちゃった碓井貞光とか
賀茂祭を見に行きたいけど堂々とは行きづらい(当時はまだ武士の身分がとても低かった)から
牛車を牛飼いごと借りてきちゃう卜部季武とか。
(結局3人とも車酔いでヘロヘロになって綱にめちゃくちゃ怒られる)(今昔物語集にある話だね)
風邪をひいて寝込んだ頼光に薬草をせんじた公時が言った
「苦いけど飲んでください、頼光さまがいなきゃおれたちはどうにもならないんですから」に
どうにもならないのはこっちの台詞だってごちる頼光のモノローグがツボでした。
ここに「この人たちよくわからないなあ…」って思ってそうな藤原保昌と
「この人たちほんとしょうがないですねえ」って思ってそうな安倍晴明が加わっててさらにツボ。
(竹下さんがブログでおっしゃっていますが、
保昌については月岡芳年の月下弄笛図をご覧になったそうで
わたしも大好きな絵なのでとてもうれしかった)

しかし本当にとんでもなかったのはさらにその先、
頼光主従の設定以上にドリームすぎたのが酒呑童子のキャラクターだった…。
廊下に足音と、衣ずれの音がした。あらわれたのは、ひとりの男だ。
色白で、まず美男子といっていい。黒々とした髪を結わずに切りそろえて肩にたらし、
とろりとなめらかな白絹の狩衣に、目のさめるような緋色の袴をつけ、
その長い袴のすそをしゅっしゅっと鳴らしながら足早に歩いてくる。
「山伏か。道に迷ったとな。それはいい」
」(p.169)

かっk…!!!!!!!(←かっこいいと言おうとしたけど萌えのあまり声帯が動かなくなった音)

若く、ものごしは尊大だが、けっして粗野ではない。育ちもよく教養もありそうなしゃべり方だ。
体格はがっしりとして胸も厚く、武人のようだが、顔や手は白い。
肩までとどく童髪がひどくちぐはぐで、どこか人形じみた印象をあたえている
」(p.170-171)

なんじゃこりゃーーーーーーー!!!!!!(ごろごろごろごろ←床転)
わかるわかるわかるわかる竹下さん、うわーっ*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
まさに!まさにわたしがイメージしていた酒呑童子はこれだ!!
絵本や御伽草子から抜け出てきたままの、世の中へのどうしようもない諦観にさいなまれながらも
好き勝手に生きる気持ちの方がずっとずっと勝っている酒呑童子ーーー!!!
長いことこんな鬼小説を探してて見つからなくて、誰も描いてないのかと思ってたけど
諦めずに探してよかった、こんなところにいたんだねえ(*´Д`)。
道理を無視して、気分のままに振る舞う、数百年も生きながらちっとも成長のない童子を
竹下さんが実に生き生きと描いてくれていて、泣くシーンじゃないのに涙出ました。
だから後半のバトルシーンでこんなシーンがあった後は、

童子が、ぱちりと目をひらいた。血走った眼玉がぐるりとまわって、
わたし(頼光)に焦点をあわせ、ひどくおどろいたように見つめた。
「だましたな、客人」口が、そう動く。「だましたな」
」(p.209)

涙腺決壊につき自分の涙で溺れかけたアリスのごとく涙の海へ出航いたしました!!面舵いっぱい!!!
御伽草子の「鬼神に横道なきものを」のような絶叫ではない、
でも低く低く冷え切った声が聞こえてくるような描写がぐわっとくる。
絵本や御伽草子を読むたびに思うのですが、この本でも思ったので書きますが
鬼で盗賊って時点で常に死と隣り合わせなのは童子も承知の上だったと思うけど、
お酒が入っていたとはいえ寝込みを襲われる可能性を考えなかったのは童子の落ち度だけど
山伏(の姿の頼光)たちを客と疑いもしなかった心根の良さを感じずにはいられないんですよ。
伊吹山に捨てられて山の動物たちに育ててもらったのと
刹那的な性格だけど盗賊の本領発揮したらとてつもないのと
いわゆるはみ出し者のまま社会の影で死んでいくことを考え始めると沼の深さにゾッとする。
…あれ、これ大学時代に小野篁がはみ出し者っぽいことの残酷さについて考えすぎて
気がついたら沼に落ちていた感覚と似て…る…??
あかん思考を停止しろわたし!!
これ以上鬼小説沼にはまってみろ、間違いなく仕事も私生活にも支障が出るぞ!!!

あと茨木童子もいろいろすばらしくてですね(結局語ります)、
一条戻り橋で綱を誘惑しながら「行く先は愛宕の山ぞ」と凄んで綱に襲いかかるシーンの迫力!
虫の垂れ衣姿の女性の袖からぬっと毛むくじゃらな鬼の腕が出てくるとこ想像してくださいよ、
ちぐはぐな妖しい魅力に拍車がかかって頭がこんがらかりそうになりました。。
闘って腕を斬られてしまっても諦めずに取り返しにいって
「綱の顔をみてにたりと笑」って屋根をつきやぶって空を翔けていくシーンは
ありありと姿が想像できて頭を抱えたくなるくらいかっこよい。
でも最後の最後で綱に「三度はだまされん」と見破られて戦って負けてしまうけど
顔が綱をだましたときの女性に次々変わってから灰になり消えていくっていうのが切ないよね…。
御伽草子だと鬼たちの最期ってあまり詳しく描かれてないので待ってそこんとこkwsk!って思ってたけど
ここまでがっつり書かれると逆にしんどいもんですね。
(でもそういう結末が、嫌いじゃないんだ(どうしようもない)

何だかテンションがおかしいですが、鬼に関しては沼どころかマリアナ海溝に沈んでますので
いつものことです、ご安心ください。
しかし四方八方にときめきすぎてとても疲れる本ですた…。
竹下さんて、短いけど的確でいきいきと洗練された文章を書きますよね。かっこいい。

あ、あと変なテンションついでに語ってしまいますが
サントリー美術館の「酒天童子絵巻」と逸翁美術館の「大江山絵詞」については
これまでにも何度か書いていますが、あえて何度でも力説する!
あの2つはものすごくよくできた絵巻だぞ!
比喩とか誇張でなく本当に、見れば見るほどとにかくすごいって思う。
首だけになった酒呑童子が頼光の兜にくらいついていくクライマックスは狩野元信の筆が踊ってるし
少年姿の童子の美しさたるや土佐派の筆が冴え渡ってるよ!
しかしやはり武士と鬼の戦いを描いた絵巻なので梨汁、じゃなかった血ブシャーな場面もあって
美術館で見るといつも「ギャーー怖えええええ!」と心底思うのですが、
大江山絵詞を見た後で酒天童子絵巻を見ると
とても残酷に感じた土佐派の筆致も元信に比べるとまだマイルドで控えめだったんだなと思う。
ほんと殺し合いとかするもんじゃないな…。


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「風神雷神図屏風Rinne」光琳・乾山編その8。7はこちら
季節は冬を迎え庭も真っ白のある日、乾山が訪ねてきました。

乾山「にーちゃーん、どこまで進んでますか…って、何その格好」
光琳「さむい」
乾山「北山におしどり見に行かない?」
光琳「いやだ。さむい」
乾山「もー出不精……何描いてるの」
光琳「今月の支払い分」
乾山「……」
多代「細井さんと吉田さんとこ」
乾山「ああ、はい」

こたつに入っているのは妻の多代と、光琳の娘のそねです。

龍安寺は冬になると鴛鴦が飛来したため、鴛鴦寺と呼ばれることもあったそうです。

光琳は生涯で妻と妾が合わせて6人、子どもが7人いて1人は早世、数人を養子に出しました。
細井つねから子の認知をめぐり訴えられた際には屋敷や諸道具、金子を差出しています。
5番目の子寿市郎が養子に入った小西彦五郎(銀座役人)の家に尾形家の遺品が伝わり、
今日において光琳や乾山の生涯を知るための貴重な資料となっています。
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