冥途のみやげに見るものは。

東京藝術大学美術館の「うらめしや~、冥途のみやげ」展に行ってきました。
谷中のお寺・全生庵が所蔵する三遊亭圓朝の幽霊画コレクションを中心に
絵画史のなかの「うらみ」の表現をたどる展覧会です。
三遊亭圓朝は牡丹燈籠の記事にもちょこっと書きましたが
幕末~近代に活躍した落語家で無数の噺を創作しており、
得意とした怪談噺をやる際は幽霊画の掛軸を高座にかけて行ったことで有名な人です。
菩提寺である全生庵には圓朝が所蔵していた幽霊画50幅ほか遺品がありまして
今回はそのコレクションのほか、幽霊や怪談を描いた錦絵や日本画、能面などが展示されていました。
あと一龍斎貞水氏が話す四谷怪談の映像も流れてて、青ライトに照らされたアップのお顔にぞわってした。
まずは圓朝を紹介する展示。
河鍋暁斎による圓朝像の掛軸や、江戸勘亭流の骨太文字で書かれた東京演芸会のビラ、
演目の宣伝に使われたチラシや番付などが展示されていました。
『怪談牡丹燈籠』初版本は圓朝による高座の話を速記者が書きとめたのを本にまとめていて
当時から使われるようになった速記技術の宣伝にも一役かったようです。
全生庵所蔵のコレクションからピックアップして制作されたポストカードが7枚セットなのは
圓朝の七回忌に制作されたからだとか。
(しかも包み紙には七回忌じゃなく七怪奇と書いてあってブラックユーモアすぎた)
あと、圓朝は書や絵もやったらしく「月と萩」の掛軸には画賛も入ってました。
辞世の色紙には戒名のとなりに「眼を閉じて聞定めけり露の音」と流麗な筆致で句が書かれ、
扇面には圓朝の横顔がシルエットで描いてあってセンスを感じた。
圓朝が高座に持ち込んだ湯呑や楽屋で使っていたパイプ、
数珠、硯、矢立、湯たんぽなどの遺品もありましておお、生きた証…と思ってたら
展示ケース左上の壁にゆらゆらと展示品の幽霊画がプロジェクターで投影されててびっくりした。
続いて、今回の目玉となっている圓朝コレクションの掛軸。
本人による収集と、没後に彼の友人や支援者たちが全生庵に寄贈した絵で構成されているそうです。
(圓朝は百物語を意識して100幅集めようとしたという説もあるらしい)
会場は照明がギリギリまで落とされ雪洞が灯り蚊帳がつってあるし→こちら
掛軸は展示ケースではなくナマで堪能できるというものでしたが
絵の前には榊に注連縄がしめられた結界が張られていて、隙も抜かりもないという雰囲気でした。
(内覧会では全生庵のご住職による法要まで行われたそうだ)
江戸から近代の絵師たちによる掛軸はすべて肉筆画で、
それらと同じ空間に立てるというのは文句なしにドキドキします。ガラスなし効果やばい。
菊池容斎や鰭崎英朋が描いた「蚊帳の前の幽霊」の、幽霊と蚊帳の透け具合がパない。
幽霊画はどれだけ透明感を出せるかが真骨頂ではないかと勝手に思ってますが
この2点はそれが突出してるように見えました。
あと、渡辺省亭の幽女図みたいな「何かの向こうに何かいる」という構図も多いような気がする。
柳や火鉢の向こうとか、普段なんとなく見ている風景の中に突然何かの気配を感じて
「えっ何かいる?」と目を凝らしてじわじわ見えてきて、
それが何であるかがわかったときの怖さっていうかね。
とまあ、怖さももちろんあるのですがユーモアを感じる絵もありまして。
飯島光峨の「木魚の怪」は木魚から気配がすうっと立ち上って像を結ぶ前の様子を描いていて
何が出てくるのか想像すると楽しい。
勝文斎の母子幽霊図は四角い灯りに顔を照らす幽霊の絵なんですが
幽霊の顔がユニークすぎて、よく懐中電灯とかで下から照らすイタズラみたいに見えて笑っちゃった。
伊藤晴雨の「怪談乳房榎図」は去年の納涼歌舞伎の乳房榎を思い出してしまって
滝の中で赤ん坊を抱く幽霊が勘九郎お兄さんに見えて全然怖さを感じなかった(;´∀`)。
応挙が妻のお雪さんをモデルにしたという「幽霊図」が柔らかくて繊細で好きです、
どの幽霊よりもエネルギーを感じなくて、でも一番自然体だったな…。
半分以上の作品が筆者不詳でドキドキ。
誰が描いたかわからない絵というのはわかっている絵以上に不安定さを覚えるものですな…
名前って大事。
浮世絵の幽霊やオバケもよかったです。
四谷怪談や皿屋敷、平家物語、岡崎の化け猫など物語や歌舞伎を題材にした絵が多くて
ほとんどが国芳でしたね。
「五十三駅岡崎」では巨大な化け猫のほか手ぬぐいを被った小さな猫たちが二本足で踊っててかわいい^^
「大中臣能宣朝臣」は提灯に化けたお岩さんが描かれてて、
たぶんこれは四谷怪談の提灯抜けを意識しているよね~北斎が百物語シリーズで描いてるやつ。
そんな北斎の「皿屋敷」、これも何度も見たけど東博所蔵のとってもきれいな1枚。
あとわたし改めて月岡芳年が好きだなって思いました。
「平相国清盛入道浄海」「月百姿 横笛」「卒塔婆の月」「小野お通」どれも美しい、狂おしい。
「夕顔」は源氏物語の夕顔を描いた絵で背景に透けるような色遣いが素敵。髪がウェーブしてるね。
「老婆鬼腕を持去る図」は羅生門の鬼が渡辺綱から片腕を取り戻して去っていく一場面で
鬼の生き生きした横顔が大好きな1枚。
魁題百撰相シリーズからは「菅谷九右ェ門」がありまして、
本能寺の変に斃れた菅谷を戊辰戦争の彰義隊に見立てて描いた血みどろ絵ですが
身体にお経を巻いているのは上野に放置された彰義隊士たちの遺体に経巻をかけた人があったという
エピソードを元にしているとか。
「応挙之幽霊 雪舟活画」の、自分で描いた絵から幽霊が飛び出してきて
口も両手も全開にしてびっくりする応挙にはおかしくて笑ってしまいました。
雪舟の絵は、少年のとき涙でネズミを描いたら動き出したという逸話をもとにしてますね。
能面の赤般若、橋姫、生成などの静かなる迫力もすさまじくて釘づけでした。
最近は能面を見ると鬼になった人のバックボーンや制作した職人、能楽師の熱意などに心を寄せてしまって
「かっこいいなあ~」としか思えなくなってます…もはや末期。
後半の肉筆画コーナーは各地の美術館からやって来たもので、
曽我蕭白の「柳下鬼女図屏風」は蕭白ショック展以来の再会、相変わらずぶっとんでる。
河鍋暁斎の「幽霊図」はやっと本物を見られました~噂に違わずおっかない絵だ、
五代目尾上菊五郎に「これまでにない幽霊画を」と所望され描き贈ったものだそうで
妻のお登勢さんの臨終の顔を写したと伝わります。
落款に狂斎筆とあるので維新前後くらいに描いた絵ではないかな…。
吉川観方の「朝露・夕霧」は見覚えがあるなと思ったら
過去の幽霊・妖怪画大全集展で楽しそうにしゃべってらしたお岩さんとお菊さんではないか~。
あの時は圓朝の落語を桂歌丸さんから聴かせていただいたなあそういえば。懐かしい。
上村松園の「焔」はもう何度目かの再会ですが、怖さよりも先に「きれいだな」と思う。髪と肌のぼかしが秀逸。
所蔵している東博がとても大切に保存してくれてるな~さすがです。
次に本館に展示されるのはいつかな、2年前は写真に撮り忘れてしまったのでもったいなかった。

ミュージアムショップ。展覧会タイトルにもある冥途のみやげ(笑)が買えます。
ある時間になると現れる幽霊店員さんに会いたかったけど、明るい時間だったのでいませんでした。
大大吉が出たらポスカプレゼントという冥途おみくじがあったので引いたら小吉で、
旅行運が「近くへ気分転換の旅に出ましょう」だったのでおお、ちょうど良かったなあと満足。
あと、この日は東京藝術大学の文化祭の初日だったので
キャンパス内や上野公園内がライブやマーケットなどで賑わってましたよ~。

上野公園の噴水広場で行われていた、学科対抗お神輿パレード。
毎年すごいと聞いていますが見たのは初めて、とにかく圧倒されました~。
写真は工芸・楽理チームのオオサンショウウオです。
藝祭のTwitterで知りましたが表彰式で大賞だったとか。おめでとうございます☆

建築・声楽チームの大ダコは海から乗り上げて神殿ぶっ壊してる。

デザイン・作曲チームのイノシシ。仁王襷つけてるよ!かっこいいな。

彫刻・管楽器・ピアノチームの鉞かついだ金太郎。
熊の吠え声とか聞こえてきそうな大胆なデザイン!

芸術学・弦楽器チームのタヌキ。
閻魔大王のコスプレをしているということで怒った顔つきで
尻尾の辺りで怒りの炎が燃えています!カチカチ山かよ!(笑)

油画・指揮・打楽器・オルガン・チェンバロチームの、ええと、なんだろうこれ(笑)。
かなり鮮烈な色彩が目を引いて、ど真ん中の笑顔がすてき。

先端芸術表現・音楽環境創造チームの、卵から羽化しようとしている何か。
恐竜っぽいけど取り付けられたコードやメカが怪しすぎて一体何が産まれるのか。SFですね~。

個人的にベストヒットだった日本画・邦楽チームの闘牛☆
写真だとわかりにくいかもしれませんが、後ろに壊れた牛車を曳いています。
今にも大地を轟かせながら走り出しそうな造形に見とれました。
あとで聞いたら学長賞を受賞されたそうです~おめでとうございます!

かっこいいー!!
どのお神輿もすべて1年生だけで制作しており、原材料は発泡スチロールだというから驚き。
作ってる人たちが写真をアップしていましたよ→こちら
噴水広場から旧音楽学校奏楽堂までのストリートでは小物市が開かれていて
アクセサリーやTシャツ販売などが行われているし、
キャンパスでは出店や音楽ライブ(J-POPからオーケストラや雅楽まであるらしい)もやってました。
芸術系大学の文化祭って学生さんたちのものづくり魂が噴火してて
なんじゃこりゃ!って度肝抜かれるのから繊細で美しいのまでたくさん見られて楽しいですな!
あと藝大OBの伊勢谷友介氏もいらしてたみたいで楽しそうな写真がツイートされていた。

キャンパスを物色していたら突然の豪雨に見舞われたので
東京文化会館のカフェに避難してオヒルゴ・ハーン。
ずっと食べ損ねていたパンダ肉まんをハヤシライスとともにいただきました。
パンダパンケーキもあるからそのうちまた来たい。
雨は5分で止んだので、やれ有難やとランチ後に西洋美術館のショップを物色していたら
中から出てきた女性が「誘ってくれてありがとね、楽しかった」とお連れの男性に声をかけてて
男性はニッコリしてわたしはほっこりしたという話。
ふらっと入った東博本館でも親御さんに抱かれた赤ちゃんがアウアウおしゃべりしながら長船長光を眺めてて
大きくなったらまた来てね!美術館行ってね!と、心の中で勝手にステマを連発。
雨上がりの上野公園でした。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。 ジャンル : 学問・文化・芸術
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