fc2ブログ

kiitsu1.jpg
サントリー美術館にて「鈴木其一」展を見てきました。
おおまかに前期後期に分かれていたので2回行きまして、
本人の初期から晩年まで、そして同時代の絵師たちの作品もたくさん見られてよかったです。
日曜美術館効果もあってか、会期が迫るごとにどんどん混雑して
正直こんなに混むと思っていなかったわたしは其一を甘く見ていたよ…。
酒井抱一の弟子というだけではなく、ひとりの絵師として評価されている証拠でもあって
何だかうれしくなりました。
其一は割と作品数が確認されている絵師のひとりなので可能ならまた回顧展やってほしいですな、
できれば師匠と一緒に(笑)。

まずは其一の周辺から。
師の酒井抱一の作品がいくつか展示されてて、
「桜に小禽図」や「雪中檜に小禽図」など良質な小品がありました。
当たり前だよって言われそうですが、改めて抱一の絵を見て思うのは本当に抱一しか描けない粋というか
彼が美しいとする世界観がしっかり完成されてて構図も色彩も絶妙なバランスを保っている。
其一に隙があるってわけじゃないけど抱一みたいな完成度の絵を描ける人ってどれくらいいるのかな、
いやあマジかっこいいわ…。
其一が描いた「抱一上人像」の本物を前からずっと見たかったのですが
今回、展示されていてうれしかったです^^
丸顔で大きな目のおじいちゃん抱一かわいい(^ω^)。
冬に亡くなった師匠をしのぶような、表装の上下のススキがとても品がある。
また、其一の兄弟子に鈴木蠣潭という人がいて
其一は彼が若くして亡くなった後に鈴木家に入り家督を継ぐのですが、
その蠣潭の掛軸もいくつか。
亡くなる前年に描かれた「大黒天図」は、甲子の日に大黒天をまつる行事にちなみ描かれたと伝わり
ジャムおじさんみたいなやさしい顔の大黒さまが水墨でサラリと描かれているし
白薔薇図扇面は大きな白薔薇がハラリと散る図で余情を感じます。
こんな人たちの絵を其一は間近に見て修行時代を過ごしたのだな…。
当時の文人たちとの交流の名残もいくつかありまして、
「蓮に蛙図」は大きな蓮の葉にちょこんと乗った蛙の絵に太田南畝が賛を入れています。
「文政三年諸家寄合描図」は師の抱一や谷文晁、渡辺崋山、小鸞ほか総勢72人の絵師たちが
大きめの掛軸にみっちり寄せ書きした賑やかな掛軸。
中央に抱一が宝珠を描き、近くに其一が蟹を、文晁は蝶を、小鸞は漢詩を寄せていました。
この年は抱一の還暦にあたるためお祝いの席でワイワイ描かれたりしたのかも、なんて想像するの楽しい。

さて其一。一番多かったのは掛軸で、画題も様々でしたね。
本阿弥光甫を意識したかと思われる「藤花図」は紫の花の一部に紅色の花があったり
まっすぐに咲く「向日葵図」や可憐な花を咲かせた「林檎図」もかわいかった。
「雨中菜花楓図」の葉の下にモンシロチョウが雨宿りしてるのを見つけて思わず微笑んだり
「雪中檜図」で木に積もった雪がドサーと落ちる音が聞こえるような気がしたり
どの絵にもちょっとした工夫がされているように思いました。
其一は白椿が好きだったようで、鶯や茶椀や花鋏と一緒に描いてる絵が素敵でしたな~。
かと思えば「三社図」(伊勢神宮・春日大社・石清水八幡宮)で建築をしっかり描いてたり
「浅草節分図」で観世音菩薩の大提灯をでかでかと描いたりと、風俗画も色々あるようです。
歴史画もあって、「源三位頼政図」は平家物語にもある深山の歌からの着想で
弓矢をかまえてかしずく頼政がとてもかっこいいし、
「足柄山秘曲伝授図」は源義光が豊原時秋に笙を教えるエピソードの絵画化だし、
昔から描かれてきた画題を自分もやってみるみたいなリスペクト作品もよかった。
ファインバーグ・コレクション展で見た「大江山酒呑童子図」に再会できたのもうれしかった~、
相変わらず超細かくて童子が美青年に描かれてるのが本当にツボ!!

屏風が大きなのから小さなのまでたくさんありました。
メトロポリタン美術館蔵で今回の目玉ともなっている「朝顔図屏風」はかなり大きめサイズで
両面いっぺんにどーん!と展示されているまん前に立つと
奥行きが無限に続いているかのような錯覚を覚えてクラクラしてしまった。
これチームラボとかに動画作ってほしいな…きっと無限に増え続けては枯れていくに違いない。
夏秋草渓流図屏風」は右から左へ季節が移ろっていくもので
金に緑に青に茶色、と原色が強烈な絵だけあって
しゃがんで下から見上げると屏風から水が流れ出てくるような錯覚を覚えてしまってやっぱりクラクラ…
これもぜひチームラボに動画を(ry
「群鶴図屏風」もファインバーグ・コレクション展で見たので久々の再会、
手術用のメスにたとえられる其一の鋭さが垣間見えるし、
「三十六歌仙・檜図屏風」は光琳百図を踏襲した構図で学習とリスペクトを感じたし、
「松に波濤図屏風」は近年、其一のものと発見されたらしい水墨画で
波のくるくるうねうね感は光琳の描く波とそっくり。
「四季花鳥図屏風」は無数の植物が季節を問わず咲き乱れたファンタジーの庭園のような絵で
こんな庭あったらいいのに…!で素で思いました。

襖絵もきれいで、特に「萩月図襖」がむっちゃきれいだった!
銀色の月に照らされた萩がわずかに霞んでいるのとか…こんな月光が見える表現わたしもやってみたいよ…!
「松島図小襖」は宗達や光琳の松島図を彷彿とさせる小さな屏風で
島が点々と遠近法で描かれて大波小波が踊っていて雄大でした。
「風神雷神図襖」の前にはなぜか人が少なかったけど、
実物は4面×2の計8面もあるので少し離れたところから見ないと全体の雰囲気が掴めないとわかって
わたしも少し離れて見たり、近づいて細部を見たりしました。
お手本にしたのは抱一や光琳のそれだと思いますが、
この襖の風神は雷神を見てるけど雷神は下を向いていました。何か意図があったのかな。

描表装ってあまり展覧会で特集される機会はないと思うんだけど
(日本美術の展覧会で1点か2点はだいたいあって気がつくことはあるんだけど)、
其一は結構制作しているのでまとめて展示されていました。
ただ単に表装を飾りつけるのではなく、
絵と関連づけて表装も含めて丸ごと1つの作品に仕上げているのが粋だなと思います。
個人的に一番気に入ったのが「月に秋草図」、
ノコンギクやススキを表装に描き、月を絵に描いてまるで窓辺を思わせるような1枚で
徳島藩蜂須賀家に伝わったものらしい。
派手さがなくて渋いのが、何となく武家の雰囲気に合ってる気がして其一と蜂須賀さんの趣味が伺えます。
「夏宵月に水鶏図」の、紫陽花に降る雨を上下に配したセンスや
其一50歳の時の作品「三十六歌仙図」の波模様と扇子のデザイン性とか
「業平東下り図」の四季の草花とか。
あと息子の守一と一緒に制作した「秋草に鶉水月図」の表装は
親子が使っていた66種類の落款を画面全体に散りばめるように押しまくってて
えー、なんだあ、かわいいなあこの親子!って萌えてしまった。すてき。

其一の人物像や仕事ぶりがわかる資料として、直筆の手紙がいくつか展示されていました。
すべてパトロンの松澤孫八に送った手紙で、
尾形光琳の「王義之図」の鑑定を依頼されて「是」と返答したのとか
「今年の春はさむくて手がかじかむ」とか「撫子の花を送ります」など季節を感じるものとか、
「この前の三十六歌仙図は光琳ではないと思う」「光琳の松島図が売れ残ってるけどいかが?」
「画表具、あと3日でできます」みたいな鑑定や事務報告とか、
「袋戸の群青はすれると白くなっちゃうけど、筆とかで撫でれば元に戻ります」など
絵師の知恵袋みたいなものまでありました。
かわいいなと思ったのが「蕪の漬物をありがとう。今年は漬物が少ないから頼もうと思っていました」の記述がある手紙。
漬け物大好き其一さん^^
(そういえば其一が松澤さんに岩群青を大量に注文した手紙が残ってるけど
あれは夏秋草渓流図に使われたんだろうか…?)

其一は屏風や掛軸に限らず、様々な媒体に絵を描いていて
絵巻を制作したり、絵馬を奉納したり、扇子や香包や凧に絵を描いたりしていたようです。
紅葉と桜がぎっしり描きこみを背景にした般若の凧や、達磨の怖いドアップの凧は
本物の展示だけではなく吹き抜けの展示室に天井から吊るしてあっておもしろかったです。
鶯草図香堤包は金地の包み袋に三つ葉のクローバーが描かれていてかわいいし、
四季歌意図巻は在原業平・柿本人麻呂・西行・藤原定家の4人を
それぞれ春夏秋冬に配して季節の景色とともに人物たちを小さく描いてるし、
十二ヶ月図扇や十二ヶ月花鳥図扇面のセットは草花だけではなく曲水の宴や方相氏など季節の行事もあった。
ちょっとおもしろかったのが能の絵のコーナー。
ガラスケースの手前に縁側のような板が設けられ、能舞台みたいな展示になっていました。
こういう雰囲気の中に翁図や猩々舞図とかあると楽しいね!
道成寺図と釣鐘図はセットのような二品、
特に釣鐘図はシテと鐘ならともかく鐘だけ描いてる絵ってめずらしいような。
菊慈童図がめっちゃかわいかったんだけど、其一の能画の人物はお人形さんみたいですね~。
「羅陵王舞楽面図」はつくねんと置かれた蘭陵王の面を描いた掛軸で
西洋画でいうところの静物画のようなものでしょうか、
よくよく見ると面の両目に白いまつげが描かれていたのが個人的な萌えポイント^^

そういえば河鍋暁斎が能や狂言をテーマにした絵をいくつか残しているのですが
(暁斎は狂言を習っていて自分で舞う人でもありました)、
最近知ったのですが其一の次女・阿清が1857年に暁斎と結婚してるんですね。
其一と暁斎の交流については特に何か残っているわけではないけど
暁斎も風神雷神図を描いてるし、影響受けた部分もあったかもしれないな…(2人は36歳差)。
ちなみに阿清さんも絵を描く人だったそうだ。


kiitsu2.jpg
限定ショップで衝動買いした其一マスキングテープ。
「秋草に月図」の一文字に描かれていたうさぎがモチーフです。
うさぎの形が微妙に異なっててかーわーいーいー!

あと、今月は東博本館へも行きました。
酒井抱一の夏秋草図屏風が久しぶりに展示されているのです。
tohakuhoitsu.jpg
やっぱりいいな~。
夏に降る湿っぽい雨と風、草木が雨に打たれる音と、風にそよぐ音が聞こえてくるような。
一橋治済の依頼により光琳の風神雷神図屏風(同じく東博所蔵)の裏に描かれたもので
現在は保存のため別々に仕立てられています。
サン美の其一展は本日までですが実はこの屏風も本日までの展示でしたね、
たまたま重なっただけだろうけど師弟一緒に撤収っていうのが、ちょっとエモい。

tohakusotatsu.jpg
宗達の龍樹菩薩像もありました。
インドの龍樹(ナーガールジュナ)を描いた掛軸で、着想は中国の版本だそうです。
宗達はメリハリのあるタッチにのっぺりぺったりした着色で立体感はあまりないけど
見てると気持ちが落ち着く絵を描く人だなあと思う。

この宗達を光琳が見つけて、光琳を抱一が見つけて、
其一が抱一の見つけたものを大切にしながら制作していたことを思うと
改めて不思議なつながりの絵師たちだなあと思います。
好きで描いてたっていうのもあるでしょうけど、好きだけでは描けないのが絵師でありまして
(画材に紙にアトリエ、先達やパトロンがなくては続けるのが難しい職業です)、
そういう意味ではとても幸運な人々だったし、
掘り起こされた方も果たして自分の絵の行く末をどこまで想像していたのか…
魅力は尽きない。
スポンサーサイト