この道より我を生かす道なし、この道を歩く。

三井記念美術館の「日本の伝統芸能展」に行ってきました。
国立劇場開場50周年を記念して、雅楽や能狂言、歌舞伎、文楽、演芸、民俗芸能など
現代の日本に伝わっている芸能について絵画や芸道具からたどる展覧会です。
神事から始まった踊りや音楽がやがて宮中、一般市民へ伝わっていく過程をみていくと
過去を学んだ人が新しいものをつくり、それらをおもしろがって盛り上げた人がいて
途絶えてしまうのはもったいないと伝えてきた人がいて…と、
芸能史は人の連鎖だなあと改めて思いました。
国にしろ地域にしろ、何かを伝えていくには体力が要ると最近思うようになったのですが
芸能はそれが顕著な事例の気がする。
まずは雅楽。
古代日本において演じられた舞楽のお面や和楽器が並んでいました。
尾張徳川家3代目の綱成が熱田神宮に奉納したと伝わる陵王(蘭陵王)の面は
口をくわっと開けて目をまんまるに見開き、額に龍を乗せたいさましい顔、
隣には同じく尾張徳川家奉納と伝わる納曽利の面がありました。
蘭陵王と納曽利は番舞で演じられることが多いから、セットで奉納されたのでしょうか。
重要文化財の抜頭面は真っ赤な顔にちぢれ毛の黒髪、しの字につり上がった眉などただならぬ表情で
これ踊ってたらどんなかなあと想像。
「実性丸」と銘のある琵琶は紀州徳川家に伝来したもので東大寺の実性僧正の愛用品、
小さく誰でも演奏しやすそうな印象でした。
銘「蘭(アララギ)」の篳篥は螺鈿の装飾がほどこされ、
収納されている扇型の箱にも貝殻などの模様の螺鈿細工がほどこされていて美しい。
銘「鹿丸」の笙も頭に鹿と紅葉が金色にきらめいていました。
北三井家11代目の娘久子さんの初節句のために作られた雛道具の楽器は
すべて手のひらサイズのミニチュアで
鞨鼓・太鼓・鉦鼓・笙・龍笛・琵琶・筝・和琴・三味線・胡弓などが揃っていて
琵琶や太鼓に家紋が入り、太鼓の真ん中に大きな牡丹が描かれていました。
こういうのほんと楽しい…!和楽器ってどうしてこんなに美しいんでしょう。
舞楽を描いた屏風作品もあって
輪王寺所蔵の舞楽図屏風は陵王や納曽利ほか約20点の舞楽を踊る人々が散らし描きされていた。
能狂言。
翁の面は髭が細く長くて、目が三日月のようにニッコリしてて見てるこちらも幸せになれそう…
世界を祝福する人はこんな顔をしてるんだろうかと。
孫次郎作の女面は、金剛流の太夫が早逝した妻の顔をモデルに作ったらしくて
「オモカゲ」という別名もついているとか。
楽器蒔絵小鼓胴は笙や琵琶など能に使われる楽器が蒔絵で描かれていて豪華な作り、
楽器に楽器を描くっておもしろいと思いました。
観能図屏風は豊臣秀吉が宮中で催した「翁」の上演会の様子で
御簾ごしに天皇が見ていたり、遠巻きから南蛮人が見物していたりと当時の雰囲気まで再現されてる。
古狂言後素帖は狂言の演目の1シーンのスケッチをまとめたもので
翁や高砂など見覚えあるものから知らない演目まで様々。
女山賊というのが気になった…薙刀を振り回す女性に追われて男性が逃げていく絵で
このシーンに至るまできっとアホな理由がありそうだなあと思いました、狂言だけに(笑)。
文楽人形の展示も。
ちょっと広いスペースに桐竹勘十郎さん監修による三人遣いのマネキンが再現されていたよ~。
人形は義経千本桜「道行初音旅」の忠信(実は源九郎狐)で
3人の黒子がそれぞれ頭と手足を担当しているようです。
ガラスなしの展示なので近づいて色々観察できて結構、ダイレクトに手つっこんでるんだなとか
手首が動かしやすいように割れてるのとか、物を持つ演技のために引っ掛ける突起がついてたり
わかることがたくさんありました。
人形の首も20個くらい並べてあって、首ごとに文七や与勘平や検非違使や娘など名前がついてるそうで
傾城の首が一番豪華だったな…簪どっさりついてる高級遊女。
ガブを間近で見てみたかったけど展示されてなかった。
裸人形もひとつ展示されていて頭と手足が紐でつながれているだけのシンプルな構造にびっくりした、
胴体まで作ってあるわけではないのですね。
初菊と弁慶の一式も展示されていて、弁慶の首は文七が使われてるのとか初めて知りました。
(文七は熊谷直実や明智光秀などの首でもあるそうだ)
文楽はあまり見たことないので来年はもうちょっと見に行けるといいな…。
歌舞伎。
出光美術館の阿国歌舞伎図屏風は阿国の一座が「茶屋あそび」を上演する様子を描いていて
舞台の上で覆面に腕組みをしている男装の阿国は目だけギラギラしててかっこいい。
中央に北野天満宮の社殿が描いてあるのはこの時期の歌舞伎図にはよくあるポイントらしいです。
岩瀬文庫寄託の四条河原遊楽図屏風は左隻が若衆歌舞伎で右隻が女歌舞伎、
垣根越しに見物する人や敷き物しいてお弁当を囲む人たちまで様々いて
なんだかピクニックみたいだなと思いました。
五代目歌舞伎座の杮落しの際の歌舞伎展でも思ったけど
この時代の人ってほんと自由にお芝居見物してるよね^^
伝菱川師宣工房の上野花見歌舞伎図屏風はでかでかと芝居小屋が建っていて
看板に中村座って書いてあったり舞台の演目に「太平をどり」とあったりして
舞台では役者たちが総踊りのようなことをやっていて賑やかでした。
女歌舞伎や若衆歌舞伎が幕府によって禁止されてからの野郎歌舞伎時代。
錦絵の歌舞伎はこれまで何度も見てる絵が多かったけど
歌川豊国「中村座内外の図」は黒御簾が上手にあった頃の貴重な資料になってることを
キャプションで指摘されているのを読んで勉強になったり、
歌川広重「東都繁栄之図 中村座」の演目の看板に「ワキ狂言 酒てんどうじ」というのを見つけて
うおおお見たい!ってなったりした。
おもしろかったのが、歌川国輝「五代目大谷友右衛門の横川覚範」が
花道のスッポンの床下で奮闘するスタッフの姿を描いていたり、
歌川国貞「楽屋錦絵」シリーズが楽屋にて稽古や読み合わせや化粧をする役者たちの姿を描いていること。
仕初め式に向かう團十郎、仁木弾正の扮装で出番を待つ五代目幸四郎、
化粧をする瀬川菊之丞、息子に振付を教える三代目三津五郎、
殺陣を教わる宮島重郎(鶴屋南北の子)など当時の稽古や風俗についての一級資料だよこれ!
国貞の観察力もほんと細かくて、やっぱり取材したのかなあ。
役者たちだけでなく、かつらを作っている友九郎(羽二重を発明した人)や
2月の天神祭のために地口行灯に菅原伝授手習鑑の絵を描く職人や
日待ち(寝ないで願い事をとなえて日の出を拝む行事)の最中に義太夫の稽古をする役者たちなど
様々な場面を描いてくれています。
こういうのはさすがに国立劇場ならではの所蔵品という感じがする。
あと歌舞伎衣装もありました。
七代目團十郎使用と伝わる白地三升格子模様着付はインパクトのあるでかさの格子模様。
五代目中村歌右衛門の黒繻子地雪持竹南天雀文様打掛はたわわな南天に雀がとまっている豪華な衣装で
先代萩の政岡役の際に着用したもの。
六代目尾上菊五郎の黒綸子地雪持松文様羽織は菅原伝授手習鑑の松王丸役らしく
雪の積もった大きな松の木が点々とつけられています。
七代目松本幸四郎の木綿地龍丸入格子文様羽織はものすごい金色で
何匹もの金色の龍が背中にどっさり刺繍されてて、重さどんだけなんだろうと思った。
七・八代目市川中車の寄せ裂着付はツギハギだらけで何これと思ったら
俊寛に使われた衣装だそうで…美しく派手な衣装だけが歌舞伎ではないですね。
地域の芸能。
片山春帆の民俗芸能スケッチ帖は田植踊りや笠踊りなど
各地域を回ってその土地の芸能や衣装をスケッチしたもので、
展示してあったページには「執心鐘入」「浜千鳥」などのタイトルも書いてありました。
1936年5月の日本青年館での琉球芸能会のスケッチが載っていて
当時の情勢を考えるとたいへん貴重な記録とか。
国立劇場おきなわ所蔵の、女踊り用の紅型衣装や花笠もたいへん美しかった。
江戸上りの図(転写本)は将軍の代替わりなどで琉球が慶賀使を江戸へ送ったときの行列を描いてて
使者の持つ旗に翼の生えた虎というフェアリーな生き物が描かれてて心がとても和みました^^
ライオンに羽だったらグリフィンですが虎は何か名前があるのでしょうか…よく知らない。
愛知県東栄町の大入地区の花祭衣装や榊鬼の面、鏡やまさかりなどの持ち物にふむふむと思っていたら
隣に長田神社の追儺の鬼面がズラッと並んでて心臓飛び出るかと思った、
なんてこった長田神社だーーー!!!
いつか、いつか見に行きたいと思っている長田神社の節分行事に使われる鬼面に
まさかまさかこんなところで会えるなんてまさか。
い、いや、実際に見に行けたとしてもお面をじっくり眺める時間はないかもしれんから
よい機会だと思ってとことん鑑賞してきましたとも…。
7匹みんな忿怒の相ですが餅割り鬼と尻くじり鬼(すごい名前だ)には角がなかったり
赤鬼青鬼に至っては牙さえもない。
神の使いである長田神社の鬼たちには不要なものなのかもしれません。

美術館を出て、道路の斜め向かいにある奈良まほろば館の前のせんとくんが
帽子とマフラーでクリスマス仕様に(笑)。
鹿の角があるからサンタというよりトナカイみたいでした。かわいい。
あと大仏プリンが入荷してたから買ったよ~レアチーズ味おいしかったです。
あとこの日は品川まで足を延ばして下神明天祖神社にも行きました。

下神明駅から歩いて5分、住宅街の中に建っている小さな神社です。

目的はこちら。来年1月3日まで頒布されている熊本地震復興祈願の御朱印です。
初穂料を募金箱に入れると書き置きをいただけます。
募金は熊本の神社庁に寄付されるとのことです。

新宿高島屋のワカタクにも寄った。
和菓子もクリスマスシーズンですよ~!
サンタクロースはこの前、目の前で猫を作ってくださった引綱さんのお菓子です。
左は日の出楼さんのお菓子ですが上からだとわかりにくいので↓

冬支度するミノムシでした!かわゆす。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。 ジャンル : 学問・文化・芸術
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