手のひらの宇宙その2。

東京国立近代美術館の「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」を見てきました。
写真は展示室の出口にあった写真撮影コーナーで
置かれている茶碗は初代長次郎の万代屋黒(複製)です。

万代屋黒の名前に何となく聞き覚えがあったのですが、東博の茶の湯展に展示されてたのを思い出して
「利休が持ってたあの渋黒くんかあ!」って、ちょっと感慨深かったです。
この複製はアルミ合金製の509g(本物の万代屋黒は317g)で持ってみたら確かにずっしりきまして
お寺などで接待を受けたときにいただくお茶碗よりは重く感じました。
長次郎が利休のために作ったお茶碗を、レプリカとはいえ持てるのはドキドキしたし
映画で海老さんが使ってたこととかも考えるとやっぱりドキドキした。
本当に最近はさわれる展示が増えてありがたいことです。美術館の配慮に感謝。
樂家に関しては前回の茶の湯展と同様にほとんど知識のないままでしたが
(長次郎や宗入など一部の宗家の名前を知ってる程度です)、
展示室のパネルに人物紹介や歴史がコンパクトにまとまっていたので助かりました。
あとキャプションが非常にシンプルで、タイトル・作者・年代が書いてあるだけで
歴史的・美術史の観点からの説明がまったくなかったのも特徴のような。
わたしはよく、キャプションに説明が書いてあったら読んだりメモ取ったりしますけど
今回の展示は説明が欲しかったら要所要所に設置されてるパネルに書いてあるの読めばわかるようになってたし
メモ帳をしまって無心で作品と向き合うのも、たまにはいいなと思いました。
樂焼は聚楽第の近くで茶碗を作っていた長次郎という人が
秀吉から「樂」の印字を与えられたのが始まりだそうです。
ろくろや型を使わず手で土をこねる作風が当代まで貫かれているそうで、
言われてみれば磁器みたいなすっきり感がなくてしっとりというか、手の形が見える茶碗が多いなあと思った。
利休のために作ることの多かった長次郎の黒は、真っ黒というわけではなくかすかに薄い部分もあって
面影とか太夫黒なんかは微妙に褪せた部分があったりする。
禿も利休が持っていた茶碗で利休忌の時にだけ使われるらしくて
名前は、利休のそばにいつもいた茶碗ということで遊郭の太夫のそばにいる禿から取られたとか。
無一物や太郎坊などの赤楽茶碗も真っ茶色ってわけじゃなく白釉を残していたりして、
これも利休の好みだったのかな。
絵や模様をほとんど入れてないのも特徴的というか…ほんとにすっきりまとめてるんですね。
あと、長次郎の現存する作品でもっとも古いとされる二彩獅子像(1574年)もあって
彫刻を作る人だったこともわかります。
阿吽のお獅子は茶色く色落ちしてしまってたけど、お尻を高く上げてきゅーっと目をこちらに向けていて
沖縄のシーサーみたいな迫力があった。
樂家二代目の常慶は、長次郎とともに作陶を行っていた田中宗慶の子で
以降の樂家は世襲だったり養子だったりしつつ現代まで一子相伝で続けられてきています。
宗慶の三彩獅子香炉は緑や黄色がしっかり残っていて
口をくぱあと大きく開けて胴体がふっくらして、足を踏ん張って立っててかわいらしさ満載☆
茶碗の作り方も長次郎と似通っていて、いさら井などは利休好みの形ですね。
常慶は時代が古田織部と被っているためか、
黒木などは織部好みを反映して中央がぐにゃっとへこんでいたりして一気に変わった感じがする。
また彼は本阿弥光悦に作陶を教えた人であり、
樂家三代目の道入は光悦から教わっているので作風のつながりが見られるのも楽しいです。
道入の青山は漆黒の中央に大胆に白を残しているし
僧正は赤に市松模様のような小さな四角い金色がぽつぽつ入っていて素敵~これちょっと使ってみたい…!
2人の間に生きた光悦の樂茶碗も、村雲は飲み口がぐにゃっと飛び出てるし
雨雲は飲み口が真っ白で糸尻までの漆黒のグラデーションが美しいし
白樂の冠雪はしんしんと積もる雪が赤い点々で表現されていて
織部から江戸初期ルネサンスの時代を生きた人感がめっちゃ出てました。
光悦ってこういう人だったんだなー!同時代の人と見比べるとめっちゃ楽しい。
光悦が宗達の下絵(蓮)に百人一首を描いた和歌巻断簡とか
宗達の舞楽図屏風(醍醐寺)にも久々に再会できてうれしかったです☆
四代目の一入の時代には色々と工夫がされるようになって
黒の山里には棒を持った人物(ふっくらしてかわいい)が白いラインで描かれていたりする。
五代目の宗入は尾形光琳・乾山の父である宗謙の弟・三右衛門の子で光琳たちとはいとこにあたり、
また宗謙・三右衛門の祖母は本阿弥光悦の姉なので
樂家と尾形家と本阿弥家は親戚になるのですな~。
この頃は初代回帰というか、長次郎の作風を意識しながらも
亀毛の金粉とか見てるとモダンさも忘れてないように思うし、
近くに展示されていた乾山の染付松図茶碗と見比べるとお互いに影響し合っていたかなあとも思う。
六代目左入の霏々や七代目長入の赤樂などを見てると先代とそんなに変わってなくて
作風が落ち着いた時代だったのかも。
早逝した八代目得入の萬代の友は黒地に2匹の亀がゆったり泳いでいてかわいい。
九代目了入の巌や白釉筒茶碗はごつごつした崖のような肌をしているし
十代目旦入の不二之絵黒樂の大胆な白とか秋海棠の赤色に緑べったりな色使いがすごい!
彼は織部や瀬戸など様々な技法を取り入れた人だそうですね。
十一代目慶入の潮干は茶碗の底に貝殻をつけて焼き上げてて
新しい!使いづらそう!でも面白い!って気持ちが行ったり来たりしてワクワク。
十二代目弘入の家祖年忌は長次郎300回忌で茶碗を300個作ったときのひとつで
初代を意識したのか割と小ぶりでした。
赤楽の羅漢は樂印をあっちこっちに押しまくってて鈴木其一展で見た「秋草に鶉水月図」を思い出しました。
こういうデザインする人ってどこにでもいるんだな^^
近代以降になると渋さは押さえつつも色遣いがわっと賑やかになってくるのは
折から入ってくる印象派やキュビスムの影響とかもあったのでしょうか。
十三代目惺入の若草は黒地につくし模様がかわいいし、
十四代目覚入の緑釉栄螺水指は黒々としたサザエが立派でかっこいいし
綵衣は赤・黄・茶・黒が絶妙なバランスで配置されてるし
杉木立は白地にざくざくした赤模様がするどい木を思わせるし、覚入のデザインは模様がでっかいねえ。
最後に十五代樂吉左衛門(当代)の作品がどっさり展示されていて
東博の法隆寺宝物館みたいな、一作品につき一展示ケースで360度ぐるっと見られるようになってた。
長次郎を思わせる黒からカラフルで大きなデザイン性高いものまで、
伝統的なものと斬新なものとはっきり分けて作られている。
夜の航海シリーズや岑雲に浮かんでシリーズは実際の茶会で使われるとしたら
和服でも洋服でも様になりそうな雰囲気でデザイン性の高さを感じます。
そして次代を継がれる篤人さんの作品は、長次郎の黒が見えるような黒と
お父上の白とは違う色彩を連想するようなモダンさがおもしろかった。
特別展の後は常設展を鑑賞します。

この日は上村松園「母子」が展示されていると聞いていたのでワクワクしながら行きましたー!
はあぁあやっぱりきれいで柔らかくてあったかい…無言でボーっと見つめてしまったよ。
モデルは松園の孫である淳之さんと母のたねさんです。

工芸館の方にも行きまして、開催中の「動物集合」を鑑賞。
近現代の作家による動物をテーマにした作品を集めた展覧会です。
鳥、虫、馬、うさぎ、象など大きいのから小さいのまでたくさんの工芸品を見ましたが
目が行くのはやっぱり猫(笑)。
特に写真の結城美栄子「猫に小判」は最高にかわいかった!(撮影OKでした)

志村ふくみさんの紬「鈴虫」。
秋の夜に聞こえる鈴虫の声を色にしたらこんなかなあ、きれいでした。

近美と工芸館の間にはさまれている国立公文書館では「誕生 日本国憲法」展を開催中で
無料だったので見てきました。
天皇の署名原本や憲法ができるまでの計画、議事録、草案、写真などから
憲法がどのように作られ施行されたのかをたどる内容です。
「あたらしい憲法のはなし」は教科書で読んだなあ…三権分立とか戦争放棄の挿絵とか。
「憲法改正草案に関する想定問答」には思わず吹き出してしまって。こんなのも考えられてたんですな…
答弁した金森徳次郎はNDL初代館長で納本制度を始めた人ですが
憲法制定にあたり大臣を務めていたのは知らなかった、勉強になりました。

個人的に一番ドキドキした憲法公布原議書。
最終的にこの文章でいきましょうと閣議決定されたもので
赤であちこち修正が入ってて細かく作られてるなあと思う一方、
なんだか淡々と事務的にも感じられました。
憲法できた!っていうととてもドラマチックに聞こえるけど(ドラマや映画で人がワーッと集まって歓声あげるみたいな)、
実際は小さな作業の積み重ねなんですよね。
おしまいにあった「日本国憲法は国立公文書館で大切に保存しています」の看板の頼もしさよ…
何気ないひとことですけど大切なことなので色んな人に公文書館の仕事を知ってほしいな。
クリックで拍手お返事。↓
皆様いつもありがとうございます(^-^)/
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。 ジャンル : 学問・文化・芸術
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