リアルとリアリティその2。
大森洋平『考証要集2 蔵出し!NHK時代考証資料』を読みました。
前作もおもしろかったですが今回もおもしろすぎる!
「アイスクリン」「あひる」「イラスト」「営業中/準備中」「お言いでない」「風見鶏」「ガッツポーズ」
「金魚すくい」「携帯カメラ」「高麗人参」「サイドカー」「信楽焼」「将棋倒し」「星条旗」「炭酸水」
「チャンバラごっこ」「土下座」「二人三脚」「発破をかける」「半鐘の鳴らし方」「左利き」
「ホイッスル」「三越」「龍宮小僧」「ロシアンルーレット」など
時代劇~近現代劇まで様々なドラマに登場する物や言葉や文化について
五十音順に並べて解説してくれています。
相変わらず興味のある項から先に読んでいたのですが、結局おもしろくて途中でやめて
最初から最後まで全部読んでしまった。いやはや楽しい時間でした。
時代劇で気になる言葉の言い回し。
赤字→大損、一丁前→一人前、応援→ご贔屓に・ご加勢、観客→見物の衆、感じが悪い→虫が好かない、
競争→勝負、教養→たしなみ、計画→企て、権利→筋合い、刻限→時分、賛成→承知、思案→了見、
情報→注進、程度→これしき、偵察→物見、道場→稽古場、悲劇→憂き目、復活→よみがえり、
資格がない→もってのほか、やばい→まずい・しまった、立候補→名乗りを上げる、など。
確かに言い換えてみると時代劇っぽくなりますな…。
権利や出勤などは江戸時代にも用例があるそうです。武士たちが使っていた言葉だそうな。
「ばか言っちゃいけねえ」ではなくて「ばかを言っちゃいけない」と
ちゃんと「を」を入れるようにというのは池波正太郎氏がおっしゃっているらしいとか、
「御用達」は「ごようたし」「ごようたつ」のどちらでもいいとか決まり事のようなものに気をつけつつも
ドラマを作るときは登場人物が日常会話でどういう言葉を使うかを考えながらやるそうです。
「時代劇の台詞は決して当時の言語を再現するものではない」という著者の記述は
時代劇を楽しむこちらも忘れてはならないと思いました。
(ほんとのほんとに当時の言葉で作ったら外国語を聞いているような気持ちになると思う)
なお岡本綺堂は随筆『江戸の言葉』に「(江戸っ子は)常に「べらんめえ」でしゃべると思ってはいけない」
「落語より講談の方がやや正しいが全部鵜のみにすることは避ける」
「あまり深く考えずに現代語で書いて、参考のために南北か黙阿弥の脚本でも読めばいい」などと
書き残しているそうです。
歴史創作クリエイターにとってたいへん頼もしいお言葉ですが、
「南北か黙阿弥」って、そういう名前がさらっと出てくるあたり綺堂は江戸に近い人だなあと思う。
以下、おもしろいなあと思った項の引用紹介と感想を少し述べます。
「刺青」。
刑罰としての入れ墨とは別におしゃれとして始めたのは江戸時代中期にいた浅草の侠客だそうで
彼は「南無妙法蓮華経」という文字を肩に入れたそうです。
それが駕籠かきや人足、鳶職、小者などに広まって後期に歌川国芳が錦絵に描くまでになるのですね。
「従って、戦国時代の足軽や、赤穂浪士の劇中に
倶利伽羅紋々のおアニイさんなんかを登場させてはいけない」と書いてあって笑いました。
驚いたのが浄瑠璃語りの和泉太夫という人が生首を描かせていたらしいこと!
浄瑠璃は殺陣や怪談などを語ることもありますしすごい心意気だなと。
「岩波書店」。
山本夏彦『戦前という時代』に、とある大学教授の家に著者検印をもらいに来た岩波書店の店員は
まだ縞の着物に角帯をしめていたと書かれているそうです。
お店で本を売る人が着物を着ていたっていうのが、何だか時代を感じる。
「運動会のピストル」。
徒競走などの号砲に使われるピストルがいつからあったか?というもの。
まあ近代なのですが、運動会の「よーい、ドン!」でピストルが使われるようになったのは
少なくとも戦前あたりからと推測できるそうです。
戦前生まれの作家早川良一郎『散歩が仕事』に、早川が通った麻布小学校の運動会には
近くの麻布一連隊から兵士が来てよーいドンの空砲を撃ったという記述があるそうで、
このあたりのドラマや小説なら号砲用の銃やピストルがあっても大丈夫ではないかとのこと。
「A4用紙」。
過去はB5やB4サイズの用紙が主流だった日本のオフィス、
その頃のドラマを作るときは登場人物にA4やA3を持たせないように注意するそうです。
言われてみれば子どもの頃はB5ノート使ってたもんなあ…!
A4サイズのノートやバインダーを使い始めたのは大学に入ってからです。
「おね」。
秀吉の妻の名前ですが、時代劇では「おね」「ねね」「寧々」などバリエーションが様々ありますが
ご本人は手紙に「ね」とだけ署名しているのみなので、
本当のところ彼女の名前ははっきりわかっていないんですよね…裏付ける史料が見つかってない。
なのでドラマで使うときは彼女がそのドラマにおいてどういうキャラクターなのかを考えて決めるとか。
しかし武田信玄といい織田信長といい豊臣秀吉といい、あれだけの力をもっていた武将たちの
妻の名前がはっきりしないってどういうことなんだろう…。
名前を知られることは呪だとか、家族以外に名前を明かさなかったとか(これは基本的に男性もそう)
色々理由はあったにしても、誰か一人くらいはどこかに書き残していてくれたりしないだろうか。
あなたのお名前なんですか。
「案山子」。
戦国時代ドラマでスタッフから「田んぼに案山子を置いても問題ないか」と質問がきたそうで
ここで著者が引き合いに出しているのが一遍上人絵伝(鎌倉時代成立)なのですが、
この絵巻に烏帽子をかぶった案山子が描かれているので問題ないとしたそうです。
一遍上人絵伝は過去に一度見たけど案山子がいたかどうかは気づかなかった~!
今度見る機会があったら探してみよう。
「蚊取り豚」。
蚊取り線香の発明は近代ですが、それを入れるようになった豚の陶器は
すでに江戸時代からあったそうです。
この豚に最初に蚊取り線香を入れることを思いついた人は誰なんだろう。
「鍬」。
時代劇の鍬の引き方が載ってる本なんて世界中探してもこの本くらいだと思う。
土寄せや畝立てに使う道具なのでよくドラマとかで見る振り上げるポーズはやらない、
また勢いよく振り下ろすと土の中に石などがあった場合破損するおそれがあるのでやらない、
というのは畑をやっているうちの父親やご近所さんを見ているとわかることですが
ドラマとかだとやっぱりわかりやすさを考えて振り上げちゃうことがあるのかもなあ。
「好物」。
足利義政は湯漬、山縣有朋は大根の煮物、渡辺崋山は焼きおにぎり、
岡本綺堂は寿司やウナギ、サンドウィッチやパイナップルなどが好きだと判明しているようです。
高杉晋作が鯛の押し寿司や荒煮、刺身、塩汁など鯛が好きだったというのは過去に何かで読んだな…
病床でも2日おきに食べていたというから余程好きだったのでしょう。
笑っちゃったのが徳川吉宗に謁見した象が食べたもので、
ミカンや藁などではなくお饅頭をたくさん食べていたのだそうです。おいしかったのかな。かわいい。
あと別の項で、近藤勇の好物がふわふわ卵だったというのは「大河ドラマ『新選組!』の設定」であって
(いかつい顔の近藤さんがふわふわした卵が好きという意外性を表現したものだそう)、
「大河ドラマを鵜呑みにしてはいけません」とあって笑ってしまった。つまり創作なので気をつけましょうね~。
あと年越しそばの項で、先祖が幕臣だった幸田露伴は「食したことがない」と言っていたそうなので
武士には食べさせない方がいいらしいです。
わたしも絵師たちにおそば食べさせたけど彼らは町人なのでセーフですね、こういうのほんとドキドキするね!
「サボる」。
サボタージュするの略語だそうです。初めて知った!
戦前の学生用語らしいので江戸時代より前の時代劇では「絶対不可」という著者の強いひとことが…。
時代劇ではどんな風に言い換えたらいいんだろう。
「じゃんけん」。
幕末に始まり近代以降に広まったので、江戸時代劇で出すのはNG。
現代のじゃんけんも、掛け声ひとつとっても地域によって様々な違いがありますから
ましてドラマでそれらを調べて出すのは大変な作業でしょうな…。
余談ですがグループ分けするときとかに使う「グッパー」も地域によって異なりますよね。
わたしの地域は「グッパーグッパーグッパージャス」でしたが
友人の地域は「グットパー」「グッパーわかれっ」とか、色々違っておもしろい。
「従軍看護婦」。
総婦長は准士官、婦長は下士官、看護婦は兵長クラスの待遇がそれぞれあったので
兵隊さんたちは上官に対する接し方をしていたそうです。知らなかった~。
基本的に軍人は従軍看護婦には丁寧に接したそうです。知らなかった~!
「スリ」。
戦国時代にはもういたらしい。マジすかー!
『日葡辞書』(1603年刊)に用例があるそうです…マジか…!!
戦国時代ドラマに使っても大丈夫な言葉ですが、物盗りなどと言い換えると時代劇っぽくなるとのこと。
「千枚漬」。
幕末に京都で発明されたらしいのでそれ以前の時代劇には出さないほうがいいとのこと。
「松永弾正や本阿弥光悦や大石内蔵助とかに食わせてはいけない」と書いてあって笑いました。
千枚漬け食べたことないのか光悦さんも内蔵助さんも…!
え、てことは宗達も光琳も応挙も大雅も若冲も食べてないのか…ちょっと、意外。
「ソメイヨシノ」。
時代劇で桜の満開シーンが出ると、だいたい視聴者から
「この頃の日本にはソメイヨシノはない」と突っ込まれるそうですが、
著者に言わせれば「百も承知でやっていること」だそうです。やっぱりそうかあ。
撮影のために木を引っこ抜くことはできないので、
「これは堺雅人が真田信繁を演じているのと同じく、ソメイヨシノが昔の桜を演じているのです。
どうか御寛容ください」と開き直りましょう。戦国大河でサラブレッドが駆けまわっていても仕方ないのと同じ」
などと書いてあって、そうだね…としか思えなかった^^;
過去からずっと同じ形で残ってるものなんて滅多にないしなあ。失われたものは多い。
「竹槍」。
子母澤寛の随筆に「竹槍を作るときは竹を斜めに切っただけでは不十分で
切っ先にごま油をたらして遠火であぶると固く締まる」とあるらしいのですが、
「百姓一揆ややくざの果し合い等の出撃準備シーンにどうぞ」と書いてあって
どんな豆知識だよと突っ込んでしまいました。
この本ときどきこういう変な用例事例をぶっこんでくるからおもしろいです。
「ちゅうちゅうたこかいな」。
行智『童謡 古謡』(1820年刊)に「ちうじ、ちうじ、たこのくわいが十ッ丁」という記述があるそうなので
19世紀以降の時代劇には使っても大丈夫のようです。
時代劇でたまに聞く言葉で何のことかと思っていたけど、数を数える言葉だったんですね。
ネズミの鳴き声とタコ、どちらも江戸にはなじみの深いものですが、由来はどこからなのだろう。
「鉄砲の数え方」。
一丁・二丁ですが、ある戦国ドラマで大名が鉄砲を見て「一丁いくらだ?」と聞き返すシーンの考証で
「初めて鉄砲を見たのに数え方を知っているのはおかしい」ということで「一ついくらだ」に訂正したそうです。
こういう言葉の綾は結構やらかすんですよねわたしも…気をつけようと改めて思いました。
「二連発」。
戦国時代に連発銃はないので、戦国時代大河ではNG。
確かに気をつけないとキャラクターにうっかり言わせちゃいそうなセリフではあります。
ちなみに複数の鉄砲で一斉に撃つのは「つるべ撃ち」というそうな。
「はぁ?」
何か問われてこう返すのは、つい最近まで「非常に行儀の悪い答え方」だったので
時代劇や近代劇では極力使わない方がいいみたいです。
「え?」「何ですって?」などに言い換えるとか。
「花札」。
現代のような形になったのは近代以降で、
江戸時代ではルールやデザインが地域によってまちまちだったそうなので
江戸時代劇に現代の花札を出すのは適切ではないとのこと。
言われてみれば江戸時代劇の遊びで花札を見たことってないかもな…
よく見かけるのは独楽回し、羽根つき、凧あげ、双六、かるた、あやとりなどですかね。
「幕が上がる・下ろす」。
上げ下げするタイプの西洋式の緞帳が使われ始めるのは近代以降で、
江戸時代の芝居小屋では幕を横に「開け」たり「引い」たりしていたので
「ここらで幕引き」とかにした方がいいとか。
言葉ひとつとってもその背景に文化の輸出入があって、
その影響で新しい言い回しが生まれたりするのだなあとしみじみ思いました。
文化は響き合うものなのだ。
あと読んでいて思ったのが、考証において使われているのが研究書だけではなくて
歴史家や研究者の意見、過去の人々が書き残した随筆や記録、絵巻や日記など
多くの人の言葉や史料が考証の助けになっているということ。
随所に引用される史料や意見が本当に様々で、こんなところからも探せるんだなと勉強になります。
「享年」は数え年で数えても満年齢で数えてもOK、と飯間浩明氏からご教示があったり
「たくさん」という言葉は人につく言葉ではない、人間には「多くの」「大勢の」が正しいと
山根基世アナウンサーから教わったりしたそうです。
中でも、電話のかけ方の項で
戦前ドラマで電話器のハンドルを回すのは受話器を取る前か後か?という質問を検証するために
映画『翼よ!あれがパリの灯だ』を使っているのがおもしろかった。
あの映画でジェームズ・スチュアートはハンドルを回してから受話器を取っていたそうで、
「スタッフ、役者ともにその時代を知っている人々だから間違いない動作」と考えたみたいです。
史料だけじゃなく映画からも考証ってできるんですね…!同時代を描いた映画ならできそうですね。
そんなわけで今回も大変おもしろかったのですが、
個人的にもっとも秀逸だと思った問いは「千手観音はどっち利きなのでしょうか?」というもの。
著者は「あまねく衆生を済度するための数多の御手であるから右も左もない」と答えたようです、
お寺に確認してはいないそうですが。
仏様の利き手って考えたこともなかったのでその発想はなかった!と思ったのでした。どうなんだろう。
前作もおもしろかったですが今回もおもしろすぎる!
「アイスクリン」「あひる」「イラスト」「営業中/準備中」「お言いでない」「風見鶏」「ガッツポーズ」
「金魚すくい」「携帯カメラ」「高麗人参」「サイドカー」「信楽焼」「将棋倒し」「星条旗」「炭酸水」
「チャンバラごっこ」「土下座」「二人三脚」「発破をかける」「半鐘の鳴らし方」「左利き」
「ホイッスル」「三越」「龍宮小僧」「ロシアンルーレット」など
時代劇~近現代劇まで様々なドラマに登場する物や言葉や文化について
五十音順に並べて解説してくれています。
相変わらず興味のある項から先に読んでいたのですが、結局おもしろくて途中でやめて
最初から最後まで全部読んでしまった。いやはや楽しい時間でした。
時代劇で気になる言葉の言い回し。
赤字→大損、一丁前→一人前、応援→ご贔屓に・ご加勢、観客→見物の衆、感じが悪い→虫が好かない、
競争→勝負、教養→たしなみ、計画→企て、権利→筋合い、刻限→時分、賛成→承知、思案→了見、
情報→注進、程度→これしき、偵察→物見、道場→稽古場、悲劇→憂き目、復活→よみがえり、
資格がない→もってのほか、やばい→まずい・しまった、立候補→名乗りを上げる、など。
確かに言い換えてみると時代劇っぽくなりますな…。
権利や出勤などは江戸時代にも用例があるそうです。武士たちが使っていた言葉だそうな。
「ばか言っちゃいけねえ」ではなくて「ばかを言っちゃいけない」と
ちゃんと「を」を入れるようにというのは池波正太郎氏がおっしゃっているらしいとか、
「御用達」は「ごようたし」「ごようたつ」のどちらでもいいとか決まり事のようなものに気をつけつつも
ドラマを作るときは登場人物が日常会話でどういう言葉を使うかを考えながらやるそうです。
「時代劇の台詞は決して当時の言語を再現するものではない」という著者の記述は
時代劇を楽しむこちらも忘れてはならないと思いました。
(ほんとのほんとに当時の言葉で作ったら外国語を聞いているような気持ちになると思う)
なお岡本綺堂は随筆『江戸の言葉』に「(江戸っ子は)常に「べらんめえ」でしゃべると思ってはいけない」
「落語より講談の方がやや正しいが全部鵜のみにすることは避ける」
「あまり深く考えずに現代語で書いて、参考のために南北か黙阿弥の脚本でも読めばいい」などと
書き残しているそうです。
歴史創作クリエイターにとってたいへん頼もしいお言葉ですが、
「南北か黙阿弥」って、そういう名前がさらっと出てくるあたり綺堂は江戸に近い人だなあと思う。
以下、おもしろいなあと思った項の引用紹介と感想を少し述べます。
「刺青」。
刑罰としての入れ墨とは別におしゃれとして始めたのは江戸時代中期にいた浅草の侠客だそうで
彼は「南無妙法蓮華経」という文字を肩に入れたそうです。
それが駕籠かきや人足、鳶職、小者などに広まって後期に歌川国芳が錦絵に描くまでになるのですね。
「従って、戦国時代の足軽や、赤穂浪士の劇中に
倶利伽羅紋々のおアニイさんなんかを登場させてはいけない」と書いてあって笑いました。
驚いたのが浄瑠璃語りの和泉太夫という人が生首を描かせていたらしいこと!
浄瑠璃は殺陣や怪談などを語ることもありますしすごい心意気だなと。
「岩波書店」。
山本夏彦『戦前という時代』に、とある大学教授の家に著者検印をもらいに来た岩波書店の店員は
まだ縞の着物に角帯をしめていたと書かれているそうです。
お店で本を売る人が着物を着ていたっていうのが、何だか時代を感じる。
「運動会のピストル」。
徒競走などの号砲に使われるピストルがいつからあったか?というもの。
まあ近代なのですが、運動会の「よーい、ドン!」でピストルが使われるようになったのは
少なくとも戦前あたりからと推測できるそうです。
戦前生まれの作家早川良一郎『散歩が仕事』に、早川が通った麻布小学校の運動会には
近くの麻布一連隊から兵士が来てよーいドンの空砲を撃ったという記述があるそうで、
このあたりのドラマや小説なら号砲用の銃やピストルがあっても大丈夫ではないかとのこと。
「A4用紙」。
過去はB5やB4サイズの用紙が主流だった日本のオフィス、
その頃のドラマを作るときは登場人物にA4やA3を持たせないように注意するそうです。
言われてみれば子どもの頃はB5ノート使ってたもんなあ…!
A4サイズのノートやバインダーを使い始めたのは大学に入ってからです。
「おね」。
秀吉の妻の名前ですが、時代劇では「おね」「ねね」「寧々」などバリエーションが様々ありますが
ご本人は手紙に「ね」とだけ署名しているのみなので、
本当のところ彼女の名前ははっきりわかっていないんですよね…裏付ける史料が見つかってない。
なのでドラマで使うときは彼女がそのドラマにおいてどういうキャラクターなのかを考えて決めるとか。
しかし武田信玄といい織田信長といい豊臣秀吉といい、あれだけの力をもっていた武将たちの
妻の名前がはっきりしないってどういうことなんだろう…。
名前を知られることは呪だとか、家族以外に名前を明かさなかったとか(これは基本的に男性もそう)
色々理由はあったにしても、誰か一人くらいはどこかに書き残していてくれたりしないだろうか。
あなたのお名前なんですか。
「案山子」。
戦国時代ドラマでスタッフから「田んぼに案山子を置いても問題ないか」と質問がきたそうで
ここで著者が引き合いに出しているのが一遍上人絵伝(鎌倉時代成立)なのですが、
この絵巻に烏帽子をかぶった案山子が描かれているので問題ないとしたそうです。
一遍上人絵伝は過去に一度見たけど案山子がいたかどうかは気づかなかった~!
今度見る機会があったら探してみよう。
「蚊取り豚」。
蚊取り線香の発明は近代ですが、それを入れるようになった豚の陶器は
すでに江戸時代からあったそうです。
この豚に最初に蚊取り線香を入れることを思いついた人は誰なんだろう。
「鍬」。
時代劇の鍬の引き方が載ってる本なんて世界中探してもこの本くらいだと思う。
土寄せや畝立てに使う道具なのでよくドラマとかで見る振り上げるポーズはやらない、
また勢いよく振り下ろすと土の中に石などがあった場合破損するおそれがあるのでやらない、
というのは畑をやっているうちの父親やご近所さんを見ているとわかることですが
ドラマとかだとやっぱりわかりやすさを考えて振り上げちゃうことがあるのかもなあ。
「好物」。
足利義政は湯漬、山縣有朋は大根の煮物、渡辺崋山は焼きおにぎり、
岡本綺堂は寿司やウナギ、サンドウィッチやパイナップルなどが好きだと判明しているようです。
高杉晋作が鯛の押し寿司や荒煮、刺身、塩汁など鯛が好きだったというのは過去に何かで読んだな…
病床でも2日おきに食べていたというから余程好きだったのでしょう。
笑っちゃったのが徳川吉宗に謁見した象が食べたもので、
ミカンや藁などではなくお饅頭をたくさん食べていたのだそうです。おいしかったのかな。かわいい。
あと別の項で、近藤勇の好物がふわふわ卵だったというのは「大河ドラマ『新選組!』の設定」であって
(いかつい顔の近藤さんがふわふわした卵が好きという意外性を表現したものだそう)、
「大河ドラマを鵜呑みにしてはいけません」とあって笑ってしまった。つまり創作なので気をつけましょうね~。
あと年越しそばの項で、先祖が幕臣だった幸田露伴は「食したことがない」と言っていたそうなので
武士には食べさせない方がいいらしいです。
わたしも絵師たちにおそば食べさせたけど彼らは町人なのでセーフですね、こういうのほんとドキドキするね!
「サボる」。
サボタージュするの略語だそうです。初めて知った!
戦前の学生用語らしいので江戸時代より前の時代劇では「絶対不可」という著者の強いひとことが…。
時代劇ではどんな風に言い換えたらいいんだろう。
「じゃんけん」。
幕末に始まり近代以降に広まったので、江戸時代劇で出すのはNG。
現代のじゃんけんも、掛け声ひとつとっても地域によって様々な違いがありますから
ましてドラマでそれらを調べて出すのは大変な作業でしょうな…。
余談ですがグループ分けするときとかに使う「グッパー」も地域によって異なりますよね。
わたしの地域は「グッパーグッパーグッパージャス」でしたが
友人の地域は「グットパー」「グッパーわかれっ」とか、色々違っておもしろい。
「従軍看護婦」。
総婦長は准士官、婦長は下士官、看護婦は兵長クラスの待遇がそれぞれあったので
兵隊さんたちは上官に対する接し方をしていたそうです。知らなかった~。
基本的に軍人は従軍看護婦には丁寧に接したそうです。知らなかった~!
「スリ」。
戦国時代にはもういたらしい。マジすかー!
『日葡辞書』(1603年刊)に用例があるそうです…マジか…!!
戦国時代ドラマに使っても大丈夫な言葉ですが、物盗りなどと言い換えると時代劇っぽくなるとのこと。
「千枚漬」。
幕末に京都で発明されたらしいのでそれ以前の時代劇には出さないほうがいいとのこと。
「松永弾正や本阿弥光悦や大石内蔵助とかに食わせてはいけない」と書いてあって笑いました。
千枚漬け食べたことないのか光悦さんも内蔵助さんも…!
え、てことは宗達も光琳も応挙も大雅も若冲も食べてないのか…ちょっと、意外。
「ソメイヨシノ」。
時代劇で桜の満開シーンが出ると、だいたい視聴者から
「この頃の日本にはソメイヨシノはない」と突っ込まれるそうですが、
著者に言わせれば「百も承知でやっていること」だそうです。やっぱりそうかあ。
撮影のために木を引っこ抜くことはできないので、
「これは堺雅人が真田信繁を演じているのと同じく、ソメイヨシノが昔の桜を演じているのです。
どうか御寛容ください」と開き直りましょう。戦国大河でサラブレッドが駆けまわっていても仕方ないのと同じ」
などと書いてあって、そうだね…としか思えなかった^^;
過去からずっと同じ形で残ってるものなんて滅多にないしなあ。失われたものは多い。
「竹槍」。
子母澤寛の随筆に「竹槍を作るときは竹を斜めに切っただけでは不十分で
切っ先にごま油をたらして遠火であぶると固く締まる」とあるらしいのですが、
「百姓一揆ややくざの果し合い等の出撃準備シーンにどうぞ」と書いてあって
どんな豆知識だよと突っ込んでしまいました。
この本ときどきこういう変な用例事例をぶっこんでくるからおもしろいです。
「ちゅうちゅうたこかいな」。
行智『童謡 古謡』(1820年刊)に「ちうじ、ちうじ、たこのくわいが十ッ丁」という記述があるそうなので
19世紀以降の時代劇には使っても大丈夫のようです。
時代劇でたまに聞く言葉で何のことかと思っていたけど、数を数える言葉だったんですね。
ネズミの鳴き声とタコ、どちらも江戸にはなじみの深いものですが、由来はどこからなのだろう。
「鉄砲の数え方」。
一丁・二丁ですが、ある戦国ドラマで大名が鉄砲を見て「一丁いくらだ?」と聞き返すシーンの考証で
「初めて鉄砲を見たのに数え方を知っているのはおかしい」ということで「一ついくらだ」に訂正したそうです。
こういう言葉の綾は結構やらかすんですよねわたしも…気をつけようと改めて思いました。
「二連発」。
戦国時代に連発銃はないので、戦国時代大河ではNG。
確かに気をつけないとキャラクターにうっかり言わせちゃいそうなセリフではあります。
ちなみに複数の鉄砲で一斉に撃つのは「つるべ撃ち」というそうな。
「はぁ?」
何か問われてこう返すのは、つい最近まで「非常に行儀の悪い答え方」だったので
時代劇や近代劇では極力使わない方がいいみたいです。
「え?」「何ですって?」などに言い換えるとか。
「花札」。
現代のような形になったのは近代以降で、
江戸時代ではルールやデザインが地域によってまちまちだったそうなので
江戸時代劇に現代の花札を出すのは適切ではないとのこと。
言われてみれば江戸時代劇の遊びで花札を見たことってないかもな…
よく見かけるのは独楽回し、羽根つき、凧あげ、双六、かるた、あやとりなどですかね。
「幕が上がる・下ろす」。
上げ下げするタイプの西洋式の緞帳が使われ始めるのは近代以降で、
江戸時代の芝居小屋では幕を横に「開け」たり「引い」たりしていたので
「ここらで幕引き」とかにした方がいいとか。
言葉ひとつとってもその背景に文化の輸出入があって、
その影響で新しい言い回しが生まれたりするのだなあとしみじみ思いました。
文化は響き合うものなのだ。
あと読んでいて思ったのが、考証において使われているのが研究書だけではなくて
歴史家や研究者の意見、過去の人々が書き残した随筆や記録、絵巻や日記など
多くの人の言葉や史料が考証の助けになっているということ。
随所に引用される史料や意見が本当に様々で、こんなところからも探せるんだなと勉強になります。
「享年」は数え年で数えても満年齢で数えてもOK、と飯間浩明氏からご教示があったり
「たくさん」という言葉は人につく言葉ではない、人間には「多くの」「大勢の」が正しいと
山根基世アナウンサーから教わったりしたそうです。
中でも、電話のかけ方の項で
戦前ドラマで電話器のハンドルを回すのは受話器を取る前か後か?という質問を検証するために
映画『翼よ!あれがパリの灯だ』を使っているのがおもしろかった。
あの映画でジェームズ・スチュアートはハンドルを回してから受話器を取っていたそうで、
「スタッフ、役者ともにその時代を知っている人々だから間違いない動作」と考えたみたいです。
史料だけじゃなく映画からも考証ってできるんですね…!同時代を描いた映画ならできそうですね。
そんなわけで今回も大変おもしろかったのですが、
個人的にもっとも秀逸だと思った問いは「千手観音はどっち利きなのでしょうか?」というもの。
著者は「あまねく衆生を済度するための数多の御手であるから右も左もない」と答えたようです、
お寺に確認してはいないそうですが。
仏様の利き手って考えたこともなかったのでその発想はなかった!と思ったのでした。どうなんだろう。
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