おれたち奇想組。

愛読書が展覧会になったので行ってきました☆

もとい、東京都美術館で開催中の「奇想の系譜」展です。
美術史研究者の辻惟雄氏が今から50年前に書いた同タイトルの本をもとに構成された展覧会で、
同書で紹介されているのは岩佐又兵衛・狩野山雪・伊藤若冲・曽我蕭白・長沢芦雪・歌川国芳の6人なのですが
今回は白隠慧鶴・鈴木其一を加えた8人の絵師の作品が展示されていました。
代表作をぎゅぎゅっと詰めて並べたダイジェスト展示会っていう感じでしたが、
又兵衛の作品についてはあまり知らなかったのでこの機会に色々見られてよかったです。
キャプションがあまりなくて、絵に集中できるキュレーションだったのも功を奏していると思う。
そんな集大成のような展覧会、トップバッターは伊藤若冲。
入口でどーん!と迎えてくれるのは象と鯨図屏風です!
若冲展以来の再会ですが、白象は相変わらずパオ~ンと鳴いているようだし鯨の潮吹きも音が聞こえるようだし
もうほんと、いつ見ても屏風の大きさと描かれたタッチのギャップに笑ってしまう。
ファンタジーアニメのキャラクターみたいに見えてしまうんだよね~かわいい。
旭日鳳凰図は、若冲展のときは展示ケースの関係で遠くからしか見られませんでしたが
今回は絵との距離が10cmくらいしかなくて細部までじっくり鑑賞できました!
細かく引かれた白とか金とか、羽根の目にも鮮やかな赤とか、波のしぶきとか
若冲の狂わんばかりの真骨頂を堪能してきましたよ。
エツコ&ジョー・プライスコレクションからも葡萄図や虎図、旭日雄鶏図などが展示されていて
(この展覧会は前期後期とありますがエツコ&ジョー・プライスコレクションは通期展示だそうです)
どれも久々の再会でした。
おふたりのコレクションはいつ見ても綺麗で、大切にしてくださっているんだなあとうれしくなる^^
個人蔵の梔子雄鶏図と石榴雄鶏図は初対面でした~。
石榴雄鶏図は最近見つかった新出作品だそうで、画面はモノクロなのですが
鶏図押絵屏風みたいな晩年の画風(墨の濃淡で色を表現)ではなく
カラフルな色が見えるようなモノクロ作品になっていました。
カラー絵を白黒コピーしたような雰囲気とでもいえばいいのか…カラーを意識して白黒で描いている感じ。
曽我蕭白。
朝田寺の阿吽の唐獅子図に再会できたのが一番うれしかった!
蕭白ショック展以来ですから、えっ、7年ぶり…もうそんなに経つ…!?
いやあ相変わらずなんて巨大な絵だと感心してしまいます…。
獅子のギョロ目、もふもふの前足、たくましい体つき、チクチクしそうな髭、
画面全体が墨まみれで決して美しい絵ではないのに見つめてしまう。作品としての引力が強すぎる。
どうしてこの絵にこんなに惹かれるんだろうな…
飲酒しながら一晩で描きあげたという蕭白のエネルギーが今も生々しく残っているような気が
荒々しいタッチから感じられるせいかもしれません。
他にも、かつて小林忠氏が「プロレスの赤コーナー青コーナー」と例えた雪山童子図や
雄大な景色の中にマッチ棒サイズの人が描かれた虎渓三笑図にも再会できました。
(群仙図や柳下鬼女図にも会いたかったけど後期の展示らしい)
富士・三保の松原図屏風は5色の虹がかすむグラデーションがよかったし、
楼閣山水図屏風は唐風のモノクロ風景に楼閣や塔の赤がきれいに映えていて
蕭白ってこういう絵も描けるんだけどなあ…。
でもわたしはやっぱり、唐獅子図みたいなぐっちゃぐちゃな絵のほうが
この人の本質が見えるような気がしています。
長沢芦雪。
蘆雪展や他の展覧会で既に見たものがほとんどでしたが
ここでもエツコ&ジョー・プライスコレクションとの再会が☆
白象黒牛図屏風、ほんとにこれいつ見てもでかい…!
牛は何とか画面内に収まっているけど、象はお腹もお尻もはみ出してしまっていて
意図的にそうしたのか描いているうちにそうなってしまったのか、想像すると楽しいです。
牛のお腹のあたりにちょこんと座っているおとぼけ顔の子犬がむちゃくちゃかわいいんですよな^^
(ミュージアムショップでもわんこグッズがいっぱい並んでいました)
牡丹孔雀図は応挙の模写で、応挙ほどバランスはよくないしまとまりもないカラーリングですけど
孔雀の羽1本1本に細かく描きこんでいるところは若冲のような執念を感じる。
方広寺大仏殿炎上図はたぶん初めて見る絵でしたね…。
方広寺は建立以来何度も火災に遭っていて、蘆雪の晩年にも一度燃えていますが
割と時事的な絵も描く人だったんだな蘆雪…。
建物が墨、炎を赤で描いていて、そんなにタッチの多い絵ではないのに
燃え上がる音がこちらまで聞こえてくるようなリアルさがありました。
落款が印ではなく筆だったんですが、黒→赤のグラデになっていて、
これもしかしたら絵を描いたノリで同じ筆でそのまま書いちゃったのではないかしら。
個人蔵の猿猴弄柿図は新出作品、柿をかかえて得意げな表情のお猿さんがかわいいです。
猿蟹合戦を思い出してしまったんですけど蘆雪は意識していたんだろうか。
あとなめくじ図ね。あれはずるい。
岩佐又兵衛。
洛中洛外図屏風舟木本の本物にやっと会えました!
過去に東博でレプリカを観たりプロジェクションマッピングを観たりしましたが本物を見たのは初めてで感動。
建物も人物もむちゃくちゃ細かくて、展示ケースの都合で屏風とも距離があったので
細部まではよく見えませんでしたけども
総勢2500人もの人物たちがひしめく画面から賑やかな雰囲気が伝わってきて楽しそうだなあと思いました。
一体どれだけの時間と手間暇をかけて描いたのかと…途方もない作業だったろうなあ。
逆に山中常盤物語絵巻はとても近い距離で見られました!
浄瑠璃を元に描かれた絵巻で(『奇想の系譜』著者の辻惟雄氏の修論テーマらしい)、
展示では源義経の母の常盤御前が山中で盗賊に襲われ殺害されるシーンが開かれていて
R15並みのグロテスクな殺害シーンもすさまじかったのですが
盗賊の鎧や常盤の着物の柄、馬の鞍やたてがみに至るまで細かく描かれていることに驚きました。
戦国時代人だった又兵衛は美しいものがあっという間に血にまみれていくのを何度も目の当たりにしたのだろうな…
鎌倉、室町や幕末など戦争が身近にあった人たちの絵は本当に血しぶきのリアリズムがすごい。
新発見の妖怪退治図屏風は又兵衛本人による筆の可能性は低いものの、工房作とみなされたようです。
武士たちに追われて黒雲にまぎれながら逃げていく妖怪たちは
百鬼夜行絵巻にも付喪神絵巻にも見られない、見たことのない姿形をしていました。
牛がヒントになってそうとか鬼に三つ目つけたみたいなデザインの生き物たちは
妖怪というより異形のような感じがしました。
これから研究が進めば作風とか意図とか元になった古典とか、色々わかってくるのかな。
狩野山雪。
寒山拾得図、久し振り!
大きな掛軸にバストアップで描かれた2人、この気持ち悪い俗っぽさがいいんですよなあ。
トウィードルダムとトウィードルディーみたいに会話のときは口をぱちぱち音を立ててしゃべりそうな気がする。
蘭亭曲水図屏風は王羲之をはじめとする文士たちが蘭亭にて曲水の宴を楽しんだ故事の絵画化で
八曲二双という長さの画面に童子を含む40人ほどの人物が描かれています。
酒を注いだ觴が流れてくる前に詩を作り、できなければ飲めないというルールのとおりに
詩ができて余裕の笑みで觴をとりあげ酒を楽しむ人もいれば
詩ができなかったのか悔しそうな表情で觴を見送る人もいて、
悲喜交々な時間が見事に表現されていました。
觴を大きな葉っぱ(蓮の葉かな?)に乗せて水に流しているのがおもしろいなと思いました。
四季耕作図の田植えの細かさ、韃靼人狩猟・打毬図屏風の狩りの勢い、
梅花遊禽図襖の画面からはみ出した梅の木の太さ、龍虎図屏風の一瞬の視線の交錯、
まさに狩野派という技量をまざまざと見せつけられます。
永徳の孫弟子にあたるので画風も永徳に近いものがあって、特に樹や岩を描くともうすごい!
山雪も機会があったらもっと多くの作品を見てみたいな。
白隠慧鶴。
「すたすた坊主」は過去にかわいい江戸絵画で見てなんじゃこりゃと思った絵ですが
今見てもなんじゃこりゃって思う!かわいい。
町中をこんな格好のおじさんが走っていたら目で追っちゃうと思います。
萬壽寺の達磨図の本物を見たのは初めてですが、一度見たら忘れられないインパクトとフォルム!
これだけ大きな目玉がどうやって顔に収まっているのか考えるとドキドキしちゃいますが
白隠はそれさえも楽しんで描いてそう。
隻手は、「隻手音声。両手は叩けば音はする。では片手ではどうか聞いて来い」という
白隠自身が出した問いを絵画化したものだそうです。
開いた右のてのひらが描かれていて、これ白隠が自分の手を見ながら描いたのでしょうか。
蛤蜊観音図は、文宗が蛤を食べようとして香をたいたところ中から観音が現れたという俗説を絵にしていて
細長い面の観音様が人々に有難や~と拝まれている様子が、荘厳というよりもかわいい。絵のタッチのせいだな。
鈴木其一。
3年前の鈴木其一展で見た夏秋渓流図屏風との再会、相変わらず強烈な色遣い…!
水の色がどぎつい爽やかな青で流水音が聞こえてくるようです。
アメリカから初めて里帰りした百鳥百獣図、これすごいですよ!
中国を思わせる山中の景色の中に、たくさんの種類の獣たちと鳥たち。
牛、犬、猫、馬、ロバ、狐、リス、うさぎ、猪、鹿、象、ホワイトタイガー、獅子、麒麟、
雀、鴨、カラス、鸚鵡、鶴、鳳凰など現実の生き物から空想の生き物までが
同じ画面の中で生き生きと動きまわっています。
これだけの生き物が集まる画題というと涅槃図くらいしか思いつかない…
この絵の真ん中に釈迦が横になっていても全然違和感ないような気がします。
歌川国芳。
相馬の古内裏、武蔵の鯨退治、為朝と鰐鮫、相州江ノ島図、朝比奈小人嶋遊、猫の当て字、
近江国勇婦お兼、みかけハこハゐがとんだいゝ人だなどなど、国芳といえば!な錦絵がどっさり。
どれも国芳展や他の展覧会で何度も見た作品たちです。
国芳は錦絵の世界では本当にエンターティナーだと思いますね。
浅草寺と成田山に奉納された絵馬に今回は引き付けられてしまいました。
浅草寺に奉納された一ツ家ははじまりは国芳展でも見ましたが
改めて大きさに圧倒されたし、
寝ている旅人(実は観音菩薩の化身)から金品を奪うために殺害しようとする老婆と
彼女を止めようとする娘のドラマチックなワンシーンがやっぱりすごい。
錦絵の国芳のマンガちっくなタッチを見慣れた後でこういうリアリティのあるタッチを見ると凄みを感じますね。
成田山の火消千組の図は、江戸町火消の千組の行列を描いていて
梯子を持った人を先頭に纏などの道具を持った火消たちが威勢よく歩いていてかっこいい。
背中や肩に彫り物をしている人も描かれていたのは実際にそういう人たちがいたからだろうなあ、
国芳は彫り物のデザインも天才的だなと改めて思いました。
思えばここ数年間は彼らの回顧展が相次いで開催されていましたな…。
・若冲展(都美)
・蕭白ショック!展(千葉市美)
・長沢蘆雪 奇は新なり展(MIHO)
・歌川国芳展(森アーツセンター)
・鈴木其一 江戸琳派の旗手展(サン美)
・白隠展 HAKUIN(Bunkamura)
・狩野山楽・山雪展(京博)
・岩佐又兵衛展(福井県美)
これらがすべて10年以内に開催されている奇跡!
わたしが行けたのは上から5つまでで、下の3つは行けてないのですが
白隠と山雪の作品は他の展覧会でもちょこちょこ見ていたので何となく知っていたし
又兵衛も洛中洛外図舟木本がそうだと判明してからぐんと知名度が上がったように思う。
今回の展覧会が開催されるのも彼らの社会的知名度が上がってきて
「今ならやれるだろう」と企画側が判断したからかもしれませんね。
江戸時代の美術は東西を問わず豊かであることを、今回の展覧会を通して知られていったらいいなと思います。
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