絵師の手技、絵師の手仕事。

今年で開館40周年を迎えた太田記念美術館に行ってきました!
画家になる夢を果たせず浮世絵収集に邁進した五代太田清藏のコレクションを遺族が公開するために
1980年1月13日に現在の場所にオープンしたそうです。おめでとうございます☆

そんな40周年記念の展覧会はこちらです。
美術館が所蔵する肉筆浮世絵コレクションの中から絵師41人、作品63件を
選りすぐって展示しています。
掛軸や絵巻や扇絵など様々なかたちの作品があり、
絵師も江戸初期の岩佐又兵衛、菱川師宣から近代の月岡芳年、小林清親まで
まさに東西の競演のような展示になっていました。
何より全部肉筆っていうのがいいよね!
錦絵のような版画とは違い、絵師の筆のタッチをそのまま見られるので隅々までガン見してきましたよ。
どれも人物の髪の生え際や着物の柄、背景までとても細かくすばらしかったです。
太田記念美術館は普段からそんなに混まないし、しかも展示ケースの奥行きが浅いので
絵を間近でゆっくり鑑賞できます。有難い☆
展示室に入ってすぐの畳のエリアにあったのは葛飾北斎・応為親子の掛軸。
「雨中の虎」は九十老人卍の落款があるので、北斎最晩年の作品とわかります。
最近まで虎だけの絵だと思われていたのが、数年前にフランスのギメ美術館にいる北斎の龍の掛軸と
一対になっている作品と判明したそうです。龍虎図だったんだ☆
北斎の作品は他にも、「風俗三美人図」や「源氏物語図」などがありました。
三美人は北斎40歳頃の作品で3対の掛軸、
それぞれに花魁道中・中村座の櫓の前の女性・風呂上がりの浴衣の女性を描いています。
画中に大田南畝の師である朱楽菅江の賛があり、彼の没年から制作年が判明しているそうです。
源氏物語図は朧月夜と光源氏が初めて会った夜の場面を描いています。雅な世界も描ける北斎先生。
「羅漢図」は87歳のときの作品で、足を組んで座る羅漢の手足や耳には金色のリングがついておしゃれだし
空には赤い雷が光っているしで、なんだこのモダンな絵は…江戸時代の絵なのか。。
かと思えば、扇子に描いた「猪口とほおずき」はざらざらっとしたタッチで表現されていて
本当にこの人のポテンシャル高っけぇなあと、改めて。
応為の「吉原格子先之図」も久々に見られてうれしかったですね。
シルエットで表現された人物たちと、お見世の中にいる絢爛豪華な遊女たちとの対比と
吉原の夜のしっとりしつつも賑やかな雰囲気が伝わってくるような。
画中の人物たちが持つ3つの提灯にそれぞれ「応」「為」「栄」という隠し落款があるんだよね。
応為の粋な面が感じられて好きです。
そして、展覧会のタイトルにある名前の3人目である歌麿せんせいの「美人読玉章」、
玉章とは手紙のことで、手紙を読みふける遊女の絵なのですが
着物についている紋から越前屋の唐土(もろこし)がモデルではないかといわれているそうです。
袖や裾の規則正しい模様、足元に置かれた小物の細かさに対し、遊女の襟元やお顔のタッチは大ざっぱ…
歌麿せんせいって時々大胆なのか細かいのかわからなくなるな…絶妙なバランスだと思う。
岩佐又兵衛の「小町図」、海辺にたたずむ小野小町が手に筆を持ち足元に硯を置いた立ち姿が
モノクロで描かれているのですが、じ~っと見ているとカラフルに見えてくる不思議。
菱川師宣の「遊女物思いの図」には賛が入っていて、遊女の後ろの屏風にも歌や絵が貼られていて
「美人遊歩図」の女性の着物には伊勢物語9段や69段の絵が入っていたりして
作者の教養が見えてくる作品だなあと。
「不破名護屋敵討絵巻」は、歌舞伎にもなっている不破伴左衛門と名古屋山三の物語を絵巻にしていて
特にキャプションなどで説明はありませんでしたが、おそらく名古屋が不破を父の仇として討つ場面が開いてあったのですが
珍しいなと思ったのが、女性が仇討ちに参加していたことでした。
薙刀で相手の首をバサー!と刎ねていて超おっかなかった…つよい…!
松野親信の「草子洗小町」はたすき掛けでたらいの中の草紙を洗っている小町の絵で
たすき掛けの小町ってあまり見かけない気がします。珍しいんじゃないかな?
懐月堂安度や宮川長春の描く美人たちは相変わらず姿勢がとてもよくて
特に長春の立姿図とか凛とした女性のかっこよさに見とれてしまう。
安度は「大江山絵巻」と題した絵巻物も展示されていて
羅城門における渡辺綱と茨木童子・輿に乗せられて鬼たちにさらわれる貴族女性・
武士たちの集合の場面が開かれていました。
鬼たちがカラフルで色んな体の色をしていました。御伽草子みたいにどれがどの鬼とか、名前は決まってるんだろうか。
奥村政信は「團十郎・高尾・志道軒之円窓図」にて、宝暦年間の人気者を円窓の中に描いてみせたり
「案文の遊女」にて、庭に手水鉢のある建物で手紙の文面を考える遊女を細かく描いていたりする。
西川祐信と鈴木春信の師弟が並んで展示されていたのうれしかったなー!
祐信は「やぐら時計」で遊女と禿を、「雪の送り」で雪道を歩く女性たちを描いていて
春信は「二世瀬川菊之丞図」に菊之丞を描いていました。
菊之丞という名前だけあって、着物にも持ち物にも菊の花が描いてあって
「深き渕はまるひいきにあふ瀬川 音にもきくの上手とはしれ」という内山播軒の賛もありました。
春信さん本当に菊之丞が好きだな…!
北尾重政「美人戯猫図」にて遊女たちがあやしている猫ちゃんがかわいいし、
勝川春章「子猫に美人図」にて女性が抱いている猫ちゃんも超かわいい!ふわっふわ!!
毛並みの柔らかさまで伝わってくるのは肉筆のすごさですな。
どっちの猫ちゃんも首輪として赤い紐を結んでいて、紐をつけて飼われていました。江戸時代の飼い方ですね。
同じく勝川春章「桜下詠歌の図」は、桜の下で歌を詠んでいる若衆(着物に源氏香)を一目見ようと
女性たちが13人も押しかけてきてしまったという絵。
女性たちがきちんと描き分けられているよ…みんなちゃんと表情が出ていました。
鳥居清長の「暫図」は團十郎も衣装も賛もざっくりしているのに対して(市川白猿と書きこまれていた)
歌川国貞の「七代目團十郎の暫」はそりゃあもう、きっちりしっかり描きこまれていて
絵師の違いを感じましたな…そうだな国貞にいさんはきっちり描く人ですよな。
かと思えば、同じく国貞の「桜下の花魁と禿」では2人いる禿のうち、
1人の禿の顔が花魁の巨大な前帯で隠れてしまっているという絵で
なんだこのオフショットというか、うっかり写真みたいな絵は!ってめっちゃ楽しくなりました。
これデジカメだったら撮り直しになる雰囲気ですよ^^;
歌川広重「京嵐山大堰川」「東都隅田堤」の一対は京都と江戸の女性たちを描いていて
京都の女性の着物はとても華やかに描かれているのに対し、江戸の女性たちの着物は落ち着いた色で
こうして東西の違いを出すんだなあと。
「日光山裏見の滝」「霧降の滝」「華厳の滝」の3幅対は明らかに景色がメインで人物が小さいし
「橋下屋根舟の女」は女性よりも橋桁がメインになっていてどっちが絵の主役だよって感じがしました。
本当にこの人はどこまでも風景の絵師なんだなあ。
河鍋暁斎の「達磨耳かき図」は、女性に耳かきをしてもらってデレている達磨の図で
ほんと…ガイコツとか閻魔様とか一休さんとか、この人にかかるとみんなこうなるなって思うけど
女性の着物に平安時代の人々が描かれていたりたばこ盆が細かく描かれていたりして
やっぱり絵の上手い人だなあとも思う。
月岡芳年の「雪中常盤御前図」は吹雪の中を行く常盤と牛若たちの絵ですが
着物がバサバサー!とはためいてほとんど常盤の顔が見えない。。余程すごい吹雪なのかな…。
ラストに展示されていた小林清親「開化之東京両国橋之図」がとにかくすごかった…!
隅田川の夜の風景で、人物と両国橋はシルエットで表現されていて
提灯のあかりとか川の水面に映る建物のあかりの揺らめきなどは赤や黄色で塗られています。
清親は版画でもこういう表現が多いけど、肉筆でも同じようなのを描いていたんですね。
彼よりちょっと年上と思われる葛飾応為も、さっきの吉原図でシルエットの表現をしてますし
広重も名所江戸百景の猿わか町よるの景で人物の足元に月光の影を入れたりしています。
江戸時代の日本美術で夜を描く場合はたいてい、空に月を描くのみで空は明るいままだったりしますが
後期になると人物に影を入れるようになり空を暗く塗るようにもなるんですよね。
西洋の表現と出会いやすくなったということだろうか…様々なものを見て取り入れて新しくなっていくんですね。
文化ってこういうことかもしれない。
この後は電車で両国に移動して、江戸博に行きました。

開催中の大浮世絵展です☆
会期末ギリギリだったせいかむちゃくちゃ混んでいて、どの絵の前にも5層くらいの列ができていて
「まじかー」ってなりました。
もっと早く来なくちゃいけなかったなあ。

展示されているのは歌麿・写楽・北斎・国芳・広重の5人の錦絵。
ほとんど見たことある絵ばかりだったし、大混雑していたのでスルーできるところはスルーして
気になる絵を見る感じにとどめました。
歌麿は見事に女性たちの絵しかなくていっそすがすがしかった。。
いつも思うんだけど彼は女性のほつれ髪と着物のうなじの表現に鬼気迫るような強さがあると思います。
写楽の「2代沢村淀五郎の川連法眼と初代坂東善次の鬼佐渡坊」と
「4代松本幸四郎の山谷の肴屋五郎兵衛」は、それぞれ2点ずつ並んでいて所蔵先が異なるのですが
版が違うのか経年による変化かわかりませんが色の違いが気になりました。
これどっちが、当時の人が見ていた色なんだろうなあ、とか…どっちも違うかもしれないけど。
個人的には、幸四郎の絵はシカゴ美術館所蔵の方がきれいに見えました。
北斎はシリーズものが多くて、例によって富士や滝の絵がたくさんありましたが
各地の海の風景を描いた「千絵の海」シリーズは初めて見たのでおもしろかったです。
あとやっぱり、花鳥画がとてもうまいなと…西洋の静物画みたいな。
…などと見ていっていたら、画風がガラッと変わったように見えてびっくりしたら国芳のコーナーに入っていた。。
武士はもちろん、物語の英雄もお坊さんも水滸伝のおにいちゃんたちも彼の手にかかれば筋骨ムキムキ!
でも猫を描くととたんにリアル路線になるのよな…お着物着てくつろぐ夏の猫美人たちかわいい^^
そして広重の名所江戸百景はここでもやはり強い。絵の前から鑑賞者がなかなか動きませんでした。
晩年の作品なので新しいから、あまり色褪せていないのも魅力のひとつかもしれません。
版元がよほど力を入れて作ったんだろうな。

特別展入口にあった大きな熊手。今年もよろしくお願いします☆
あと、今日は池袋の三省堂書店でこんな展示も見てきたんですよ。

児童書売り場で展開中の「ぐりとぐら えほんのおともだち」展。
子年だからでしょうか、ぐりとぐらの絵本シリーズとか
他の作家さんたちによる動物たちが出てくる絵本を紹介しているのですが、、、

もうほんとこの展示物にめちゃくちゃ感動してしまった+゚+。:.゚:。+゚ +゚ (゚∀゚)パアアァ

ぐりとぐらの絵本に出てきた「おおきなたまごのくるま」です!!

すげぇ本当にたまごのくるまだ、立体化してるよ!すげぇ。。
もちろん乗ることもできまして、売り場に来ていたお子さんたちが
代わりばんこにキャッキャしながら乗り込んで楽しんでいらっしゃいました。
(この写真はお子さんたちがいなくなるのを待って待って待って待って撮影できたものです。
お子さんたちはやっぱり乗り物がお好きですね)

絵本の複製原画も展示されていましたよ。
山脇百合子さんのタッチは鉛筆みたいにやさしくて柔らかくて、見ていてホッとします。大好き^^

この日は運転士の彼を連れて来ていたので、せっかくなので運転席に乗ってもらったんですが
よく考えたら彼と卵の組み合わせってやばくない…?
14話…電気の消えた暗いキッチン…卵焼き…ウッ頭が。。。
…で、なぜ彼を連れてきていたかというとですね。

はい、夜の東京駅です(笑)今回は18番線にて待機します。
追記にシンカリオンな日々です。↓
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。 ジャンル : 学問・文化・芸術
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