頭と肩と背と腰と手。

武蔵野美術大学に行ってきました。
入口が!入口がブルーピリオドで見たあれだ!(アニメブルピリについてはまた後日感想を書きます)
正門ゲートの守衛さんがイギリスの兵隊さんみたいなエレガントな制服を着てらっしゃって見とれた、
美術大学の守衛さんはファッションも一味違うぜ。

研究室や工房のなどの建物の通路をいくつか通り抜けて13号館へ。
目的はここにある民俗資料室の展示です。
(工房があるキャンパスいいですね…トンテンカンとかチュィ~~~ンとか色んな音が聴こえてたし
作業着に軍手つけた学生さんたちが動き回っていました。
コンクリートに絵の具や木くずが散らばっている大学あんまないよね?美大って感じ。
あと落ち葉を■の形に集めてあったところがありましたがあれ誰がやったんだろう)

階段を登ったら壺がいっぱい並んでた。
作品なのか置いてあるだけなのかわかりませんが、何だか不思議で強烈な場所。
座っていいのかな、とか一瞬考えたんですがたぶんダメなやつ。

民俗資料室に来ました~。企画展示「運ぶ—文化とかたち」展を鑑賞します。
(感染症対策のため学校関係者以外は完全予約・入れ替え制です)

展示室はこちらの一部屋。
武蔵美には民俗学者で武蔵美の教授だった宮本常一氏が世界中から集めた民俗資料が所蔵されていて
民俗資料室では定期的にテーマを決めてそれらを紹介しているそうです。
今回の展示は29回目にあたり、機械以前の時代に使われていた「運ぶ」道具がテーマで
収集先は主に日本やアジア、アフリカなど。
仕事内容はもちろん性別、気候、地域、移動距離などによっても道具の形は様々ですし
運搬方法や道具の製法なども現物を見ながら感じ取れておもしろかったです。
道具の形って普段あまり意識しないから、こういう形をしているんだなあと改めてちゃんと見られたような。

展示品は一部を除いて写真撮影可。
展示も無料で見られるうえにパンフレットも無料でいただけます。ありがとうございます。

まずは「頭で運ぶ」展示。
頭の上に籠を乗せて野菜や果物を運ぶ様子は国内外を問わず見かける気がする。
ちょこんと展示されているのは釜山で収集されたという頭上運搬台。
これをクッションとして頭に置いて、籠などを乗せていたのですね。

頭で運ぶ道具あれこれ。
幅を広めに作った帯ひもを額に引っ掛けて籠をつけて背負って運ぶ道具は
女性や子どもでも大きな荷物を運べるという利点があったようです。(軽いときは胸に下ろして運んだ)
頭に乗せる籠も大きさや素材が様々で、取っ手がついているものもありましたね。

きれいな模様だなあと思ったアイヌの頭かけ背負い道具、ライクルタラ(死者用の物入れ)。
亡くなった人のために生前使用していた道具を一緒に入れて埋葬するときの袋です。
こういう、ちょっとした部分に装飾性のある道具に弱い。キュンとする。

「背負う」展示。
リュックサックのように背負って運ぶための道具を紹介。
手前にあるのは佐渡島で収集された子ども用の背中当て。

真ん中の大きいものは八王子で使われていた背負い梯子。
(十返舎一九『諸国道中金草鞋』の八王子の項にもこのデザインの梯子が描かれているそうな)
奥に吊られているのは背中当てで、人間の背中と荷物の間でクッションの役割を果たし、
荷物との摩擦を防いでずり落ちなどを防ぐ目的があったようです。
一番奥のカラフルなものは麻布を編んだもので、デザインセンスもあるなあと思う。

「担ぐ」展示の天秤籠。天秤棒の両脇に下げて肩に担いで運ぶためのものですね。
籠の形によって魚、苗、蜜柑、水など運ぶものが異なるようです。知らなかった。
天秤棒は柔軟性も求められるので椋や樫の木で作られていたそう。
あと時代劇とかでよく「えっさほいさ」って掛け声をかけて運ぶ表現がありますけど
あれ実際に行われていたようで、声を出すことで肩への負担を軽減させる効果を狙っているとか。

「腰に下げる」展示。
鉈や砥石、山菜や魚などが腰に下げた道具で運ばれますね。
鉈入れは装飾性が高く糸が織り込まれていたり編み方も様々で、素材も木の皮やヤマブドウなど。

魚籠はくびれがあることで中身が飛び出すのを防ぐ形になっていますが
片方は平らになっていて、腰につけたときに落ちにくい工夫がされています。
写真は鳥取県でどじょうすくいなどに使われていた魚籠。

風呂敷。
広げるとやっぱり大きいですね…大は小を兼ねるって風呂敷のためにある言葉だと思う。(唐突)
結び方・運び方としては手さげのほかに背中掛け、斜め肩掛けなど。
最近はエコバッグみたいに使われることもありますね。(わたしも持ち歩いてるよ)

「手で運ぶ」展示。水筒や酒入れ、豆腐籠や魚を運ぶ籠など。
孟宗竹などから作られる水筒はそのデザイン性から、花入れにすることもあるそうな。
一升瓶入れは底が抜けないようにアケビの蔓で作られているとか。
手さげは最もポピュラーな運搬方法で、ほとんどの道具に取っ手がついていますね。
奥に並んでいるナップサックのようなものは台湾の麻袋(シカウ)で
口に紐が通されていて背負うと締まるようになっています。
木の皮をつかった背負い籠は使い込むとツヤが出てくるそうです。アンティークみたいだ。

あとこの日は収蔵庫の見学ができるらしくて、本当は事前に申込みをしないといけないんですけど
「今どなたもいらっしゃらないので」ということで特別に入らせていただけました!
学芸員さんが概要を説明してくださったのですが、収蔵庫には約9万点のコレクションがありまして
宮本さんが集めたものと、彼と親しかった写真家の薗部澄氏からの寄贈資料なのだそう。
着物や台所用品や仕事道具など生活用品が中心で、おもちゃや神社資料のような信仰資料もあって
焼き物や金物、竹製品、布など素材も様々。
中性紙箱とかで蓋をされているものもありましたが、
ほとんどの現物は棚からすぐ取り出しやすいように箱の蓋が開いて通路側を向いて中が見えるようになっていて
着物や刃物資料とかもあるんですがあれ蓋しないで置いといたら傷んだり錆びたりしないかな…などと
余計な心配をしたりしました。
(資料保存の天敵は火と虫と湿気なので…空調は動いていたので大丈夫だろうけど)
資料はひとつひとつに番号札がついていて、データベース登録されて検索できるようになっています。
どれも一つ二つとかじゃなく一定の数が集められていて、比較研究もしやすいのではないかなと思いました。
(絵馬や菓子型のコレクションが膨大でこれだけで展覧会できそう…と思ったら既に過去に何度か開催しているらしい)
宮本さんはこれらを少しずつ集めて研究したり武蔵美の学生の制作に役立てようとしたのだろうと思いますが
ちゃんと保存される施設があって本当によかったな…。
(過去記事にも少し書きましたけど宮本さんてそこらじゅうを歩き回って現物を収集してきた人で
コレクションが膨大なので整理も研究もものすごく大変だと思う、学芸員さんお疲れさまです)
薗部さんの郷土玩具コレクションもおもしろかったです。
こけしやダルマ、お面、張子、人形、土鈴などなど現在も旅行先で見かける玩具がありました。
天満宮の鷽とか今と昔じゃデザイン全然違うのね…地域によっても髪がくるくるしてたり目つきが鋭かったりする。
赤く塗ったばかりのダルマを乾かすための竹串と、串を刺すための藁の束があったのびっくりした。。
そりゃそうだ、玩具だけじゃなくて道具も保存しておかないと制作方法もわからなくなってしまうよな…。

武蔵美は鷹の台駅から徒歩20分ほどの距離にあるのですが
玉川上水に沿って歩いていると紅葉が綺麗でした。
周囲は他にも学校や幼稚園や公園があって静かな雰囲気でした。いいところだ。
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