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ゆさな日々

猫・本・歴史・アートなど、好きなものやその日考えたことをそこはかとなく書きつくります。つれづれに絵や写真もあり。


いい眺めだ。おまえに見せたいよ、サーシャ。

  1. 2022/02/05(土) 23:59:11_
  2. 映画
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映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』を見ました。
羅小黒戦記を見に行ったときに予告編が流れていて気になってはいたものの、
行くタイミングがなく観れないまま劇場公開が終わってしまったので見られてよかったです。
Eテレさんありがとう。

全編Flashで作られているそうで、絵が!絵が動いてるすごい!ってなります。
キャラクターにも背景にも縁取りがない美しいアニメーションが北極の世界へ誘ってくれました。
まず画面がいいですね!タイトルのとおり幻想的でアーティスティックな画面づくりがされていた。
シンプルで平面的、美術の知識やデッサンの裏付けがある上で徹底して引き算されてるのが伝わってくるし
色数も決して多くないのに陰影含めきちんと計算されて写真のようなリアリティがあって
どこを切り取っても絵画のように美しい画面ばかりで1秒も瞬きしたくなかったです。
何よりとーっても色がきれいですね!極北の暗さとか人々が吐く息の白さとか
冷たい空気の中のサンクトペテルブルクの街並みとかランプの温度差の対比とか。
キャラクターも描き込みは少ないけど作画は細かくて生き生きとした動きや立体感があって
こんなにもフラットなキャラデザでこんなに豊かで繊細な表現ができるのかと感心してしまいます。
あと引きのロングショットが多くて美術さん大変だったろうなあ!
背景美術も描き込みすぎないけど単調な画面ではなく、緻密な計算の結晶みたいな表現の美しさが
映画かぐや姫の物語や放送中のアニメ平家物語にも通じるような気がします。ああいう表現、好き。
というかタイミングの取り方(タイムシートのつけ方)がすごく日本のアニメに近い気がしましたけど
この監督のアニメはだいたいこんな感じなんだろうか。
(この映画はフランスとデンマークの合作で監督はフランス人)
楽曲のタイミングも完璧で、序盤でサーシャが髪をほどいて旅立つ決心をして顔を上げた瞬間、
静かだった音楽にマーチのようなピアノが加わり物語が動き出すのは見事でした。
SEもめちゃくちゃ細かくて臨場感があって、寒さの表現がもう。。
特に北極海に着いてからの流氷の表現が…氷に乗り上げて砕いていく砕氷船の作画もさることながら
氷をギシギシ言いながら砕いていく音が、現地で録ったのかというくらいリアリティありました。
氷山が割れて巨大なかけらとなって迫って来るシーンの音を聴いて
タイタニック号が沈没したのは無理もないと思ったし、宝石の国の流氷も思い出して怖くなった…。
でも初めて流氷の上に降りたときのサーシャの表情で
あの風景を「美しい」と思ってしまうからアニメーションのマジックはすごいです。
ブリザードのシーンはとにかく音がすさまじくて息が詰まりそうだった…。
テレビの前でこたつに入りながら見ていたのに自分の吸ってる空気がどんどん冷たく澄んでいく感じがして
寒い寒い寒い…!ってずっと言ってました。
劇場作品にこんなこと言うと身も蓋もないけどテレビで見てよかったと思います、
映画館で浴びていたら脳内で想像する寒さのあまり気絶していたかもしれない。

ストーリーは王道。北極に行ったまま行方不明になった祖父を孫が探しに行くロードムービーです。
後半ちょっとハラハラしますが見てて嫌な気持ちになるほどの長さではないし
テンポもいいし説明しすぎなくて、ジュブナイルとしての物語のみずみずしさがとても心地良い。
後半までは9割絶望ですけどラスト1割の希望が透きとおるような美しさで清々しい気持ちになれました。
(最近の日本のアニメやディズニーとかもうまくてすごい盛られてて楽しくて大好きですが
ストーリーも画面もちょっとサービス過多で描きすぎる部分もあるなあと思うこともあるので…
エンタメかそうじゃないかの違いかもしれませんけど)
航海や北極圏のシビアな環境や氷山の事故に混ざって人間の心理が描かれてドキドキします。
サーシャが一番きれいなものを見ながらスパッと終わるラストが潔くてかっこいいなと思ったんだけど
カットされたエンディングには帰港する様子やトムスキー王子が失脚するところや
両親との誤解も解けてめでたしめでたし!みたいなところが止め絵で流れていたそうなので
それも見たかったなあ。

舞台は19世紀のロシア、サンクトペテルブルク。
伯爵家に生まれたサーシャは社交界デビューを控えた14歳ですが
太平洋と大西洋をつなぐ航路を見つけた祖父を尊敬していて、
祖父の名前がつく予定のオルキン図書館のオープンを心待ちにしています。
(イヌイット調査のときのお土産も展示されるらしい)
そんな祖父は沈まぬ船と言われた砕氷船「ダバイ号」で北極への航海に出たまま行方不明で
政府も捜索しましたが見つからなかったので伯爵家の名誉は失われつつあり、
サーシャの父がローマ大使になる望みをかけた社交界デビューの日に
サーシャはトムスキー王子に祖父の再捜索を願い出ますが政府の方針を否定し恥をかかせたとして
父親に叱られてしまいます。
サーシャが祖父の研究室で見つけたメモにスバールバル諸島アレクサンドラ島、
北緯79度53分45秒東経59度67分00秒とあったことから
当時カラカイは大荒れだったので進路を変えたダバイ号はおそらく
スピッツベルゲン島とフランツヨセフ島の間で氷に阻まれて動けなくなっていると予想、
探す場所が間違っていると考えたのですね。
というわけで諸島のスピッツベルゲン島をめざして翌日の夜に密かに出発するサーシャのかっこよさと強さ、
おじいさんがくれた髪飾り(何の石でできてるのかな?)を耳につけて結った髪をほどいて歩き出します。
金髪からひとすじ垂れてる1本の前髪、社交界デビュー前にそのひとすじを耳にかけるんだけど
ラストでそのひとすじを風になびかせるままにしてるのがすごくよかったですね。
オルガさんのお店に来たばかりの頃は鞄を運ばせるわドレスを取れだのパンケーキがいいだの言ってたけど
ノルゲ号を待つ1ヶ月間の間にお店の仕事にも服にも慣れて「これも悪くないわ」って考えが変わるし
ノルゲ号に乗ってからは大荒れの海で暴れまわる救命艇にロープをひっかけて回ったり
カッチに挑発されてマストのロープを登って景色を眺めたり
厨房で2人で向かい合ってジャガイモの皮をせっせと剥いたりする。
(余談ですがこのシーンで壁にかかって揺れるおたまやフライ返しのぶつかる音が音楽のようだった)
航海の経験はないけどおじいさんの残したメモと地図を読み込んでいるので知識があるし
普段から物事をよく見て考えてどんなときも慌てず冷静で誰とも対等に行動できてお荷物にならない。
流氷に飛び降りて船長の足にからみついたロープを斧で切った子が
「船から脱出するなら南を目指すものでしょ、北へ向かってダバイ号を探す」と提案している。
彼女だって不安だろうし流氷域で寒くてたまらないはずなのに
おじいさんに会いたい気持ち、会えなくてもダバイ号を何としても見つけ出したい、
あと何よりもおじいさんとダバイ号に何があったのか知りたい…という気持ちが
サーシャの行動理念になっているからくじけないんだろうなと。たくましい子です。

シャックルがかわいい。
氷山越えで極限状態になったときにクルーたちからおまえのせいだと責められて
ブリザードの中へ飛び出して行ったサーシャをシャックルだけが追いかけてきてくれて、
シャックルが導いてくれなかったらおじいさんを見つけることもできなかった。
普段は人間にじゃれてばかりしているけどいざというとき頼りになるワンワン大好きです。
(埋もれた雪の中から出てくるシャックル、あれモロの君の作画に似てるなって思った)
あとオルガさんも好き。やさしくて厳しい。
ラルソンに耳飾りを渡してしまい持ち金がなくなったサーシャに
寝る場所と食べ物をくれる代わりに労働力の提供を要求、
5時に起こしたりまかない飯出したり、サーシャがお嬢様だとわかっても一切容赦なく鍛えてくれて
サーシャがテーブルに広げていた地図を見て両親から捜索願が出されていることも全部わかってて
警察にも言わず泊めてくれたオルガさんは賢くて素敵な人だと思います。
港にあるお店で色んな人を見て来て、人を見る目が確かなんだろうな。
お父さんが残してくれたノルゲ号に乗るルンド船長とラルソンの兄弟、対照的でとてもいいです。
サーシャの話を聞いてくれて最初は乗せない、諦めろって言うけど
ラルソンがサーシャの耳飾りを取ったと知ったら乗せてくれるルンド船長は話のわかる人ですね。
流氷域でダバイ号の救命艇を発見したときは自ら捜索に向かうし
危険だから自分たちは気にせず1時間後に船を出すようラルソンに指示を出しているし
サーシャを一緒に行かせなかったのはもし彼女のおじいさんがいた場合のことを考えて
「見ない方がいいかもしれない」って、サーシャがショック受けるかもしれないことを考えてくれてたり
(結局サーシャ、ダバイ号を知っているの彼女だけなのでついてきちゃうんだけど)
停泊していた近くの氷山が崩れ落ちてノルゲ号が大破したときに
「なぜ逃げなかった、この事態はお前が招いたんだ」って、船長としての判断がいちいち正しいよ船長。。
でも「置いて行けるかよ」って叫んだラルソンの言葉も正しいよな…。
ラルソンのいいところはどんなときも誰のことも見捨てず助けようとするところで
氷山に引きずり込まれるノルゲ号のロープに足がひっかかって、兄は諦めるんだけど
ラルソンは何がなんでも手を離さなかったし(サーシャがロープを切って助かった)、
氷山越えで食糧がもたなくなって、自分を置いていくようにと猟銃を構えた兄を
最初は置いていくふりをして、カッチに目配せして兄の死角から銃を奪い取らせて連れて行くのを見ると
彼はやさしい船長になりそうだなあと思います。本人は「荷が重すぎる」って言ってるけど。
だいぶ後になってからですけどサーシャに耳飾りのこと悪かったってちゃんと謝ったしな。
兄も「ラルソンなら代わりが務まる」とか「ラルソンが正しい」ってだんだん言い始めますからね。
たぶん兄弟2人とも肝心な部分では考えが一致するタイプなんでしょうね、
今回はそれが「ダバイ号を目指す」っていう判断だったという感じ。
「あの子を守ってやれ」っていう兄に頷く弟はかっこよかったです。
サーシャと出会ったときにお礼はキスかな?とかふざけたこと言ってたカッチが
ブリザードの中から助け出したサーシャへの人工呼吸をためらったのはあぁぁ!?ってなって
ちょっと待て~~ためらってんじゃねえぞゴルアアァァ人命優先!!って画面に叫んでしまいました。
いや、とてもいいやつなんですけど。カッチ。
サーシャと年齢が近くてクルーの男衆との間を取り持つことを自然にできる子ですね。
ノルゲ号のクルーは仕事はできるけどあまり人の話を聞かない海の男たちで
いつでも正しいわけではないしいつでもダメというわけでもない。
彼らはサーシャの依頼を受けてダバイ号を探してくれますが命まで賭けているわけではないから
ノルゲ号を失ってからどんどん荒れていくのは無理もないですね…。
19世紀あたりから北極や南極への探検隊が世界中から派遣されるようになりますが
ロバート・スコット隊の件とか知ってるとそりゃ怖いよなあ…と思うので。
だからダバイ号が見つかったときは心の底から安心したろうし
みんなよかったね~~帰れるよ!ってなりました。誰一人欠けなくてよかった。

流氷をダイナマイトで吹っ飛ばしたり船長の怪我の手当てにペニシリンが使われていたり
何だかんだ近代だなあと思います。
サンクトペテルブルクでは洋服だったサーシャが
流氷域に入ってコサックスタイルになるのわくわくしたー!!足首なしのブーツかわいい。
あとホッキョクグマが出たシーンでわたしもクルーたちに結構シンクロしてて極限だったのか、
怖いというよりもメシだ!食糧だ!ライフル持ってこい!(ぐるぐる目)ってなってました。
実際あれでかなりみんな助かったしね…クマさんお命をありがとうございました。

おじいさんが残した「サーシャへ」のノート。
流氷に閉じ込められたせいで船員たちの反乱に遭い、
船員たちは捕鯨船を求めて救命艇で南へ向かい(後にサーシャたちが残骸を見つけた)、
おじいさんはひとりで北極を目指した経緯が書かれていました。
「冬が私の権威を奪ったのだ」冬の国に住む人たちは冬に勝てないことを知っているのだなと。
海が凍ってダバイ号がどうしても進まなくなったので降りて歩き、体力を消耗しながらも北極点に到達、
ダバイ号に戻る力がなくなりその場に座り込んで凍ってしまったおじいさんに
サーシャがたった一瞬でも会えることができてよかった…。
サーシャが計算して計算して計算してダバイ号の位置を突き止めて望遠鏡で発見したときには
サーシャたちと一緒に「いたー!」って声が出てしまいました。。
エンジンが動いて煙が出たときの感動よ…!動いてくれてよかったです。
「いい眺めだ。おまえに見せたいよ、サーシャ」と書き残したおじいさん、
彼が見せたかった景色をサーシャは間違いなくしっかりと見ることができましたね。
とんでもなくしんどい旅でしたけれども、それも含めて。

あと高畑勲氏がこの映画の日本での公開を熱望していたそうで(海外での公開は2015年)、
生前にはかなわなかったけど、高畑さんの見る目は正しかったと思う。


追記にシンカリオンZの35話・36話感想です。↓
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テーマ : 映像作品の感想    ジャンル : 映画

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Author:ゆさ
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最近は新幹線とシンカリオンも熱い
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