Hell-アンダーグラウンド-の世界。

国立公文書館で開催中の「ようこそ地獄、たのしい地獄」展に行ってきました。
平安時代~江戸時代の古典籍から日本史における地獄観や死生観の変遷をたどる展覧会です。
「地獄ってだいたいこういうイメージだよね」というオーソドックスなものから
「こんな地獄もありだよね」的な自由なものまであって楽しかった。
あとポスターも展示もやたら河鍋暁斎押してた(笑)改めていっぱい描いてたんだなあとしみじみ。

妖怪退治伝展のとき以来ですから2年振りの公文書館ですが
竹橋駅の出口ってややこしいので一瞬、反対方向に進みかけたりしましたが無事到着。
写真は入口のアスファルトに描いてあったトリックアートです。出典は暁斎の絵から。
鬼の手元に立ったり寝転がったりすると地獄に連れて行かれるっぽい画像が撮れますぞ。
(公文書館の人たちがツイートしてました→こちら。なんだか楽しそう)

入館すると目の前に巨大顔はめパネル。
暁斎の閻魔様にしばかれる体験ができます。迫力すごい(笑)。

入場料は無料で写真撮影もできて(フラッシュは×)、Twitterでつぶやいても大丈夫という
公文書館さんの姿勢は本当にありがたい。
というか公文書館さんのツイートは楽しく勉強できる素敵アカウントです。
毎日ネタ探すの大変でしょうけど続けていってほしいな。

展示室はこんな感じです。では早速いってみよー。
以下、写真が多いのでたたんであります↓クリックで開きますのでどうぞ☆
メソポタミアやエジプト、キリスト教など古代から表現されてきた地獄のイメージは様々ですが
日本における地獄イメージの発祥は古代インド辺りといわれます。
閻魔はもともとサンスクリット語のYamaに漢字を当てたものですし
(リグヴェーダでは人類最初の死者が閻魔とされている)、
それが中国の十王信仰と結びついて今のような怖い顔+道服姿の姿になったとされています。

さっきの顔はめパネルにもなっている、河鍋暁斎『暁斎画段』より鎌倉新居閻魔王。
暁斎が弟子のコンドルと出かけた鎌倉旅行で円応寺の閻魔堂を訪ねたときに十王像をスケッチしたもので、
左が閻魔です。
円応寺、ぐぐってみましたが本当に閻魔像の顔だけ真っ赤なんですね。
服は色落ちしてしまっているのか元々着色されていないのか…暁斎は忠実に再現している。

同じく『暁斎画段』より、春日権現験記から春日明神が地獄をめぐる様子の図をを模写した部分。
人間たちは鬼に追い回されたり杵で突かれたり板でつぶされたりロクな目に遭っておりません。
(暁斎画段には他にも、遊女と閻魔王の相合傘の絵とか
谷文晁の閻魔図や尾形光琳の達磨図を模写した絵が載っていますな)

地獄を描写した書物のうち、日本に現存するもので最も古い史料といわれる日本霊異記。
開かれていたページは、膳臣広国という人が地獄に落ちたとき責め苦を受ける妻と再会して
「なぜこんなことに」と問うと妻が「生前は他人の物を欲しがり生き物を殺したため」と答えているところ。
また、宇治拾遺物語には藤原敏行が魚食べながら法華経を写したら地獄堕ちになった話があったり
続古事談には藤原永手が五重塔を三重塔に縮めて建てたら地獄に落ちたという話があったり
宝物集には醍醐天皇が宇多天皇の命令にそむき菅原道真を流罪にしたので(以下略)
等々、いくつか展示されていました。
上記の書物のうち日本霊異記は平安時代初期の成立で、他3冊は鎌倉時代の成立ですが
どの書物も「前の時代の人はこんな罰を受けたよ」ってなってて当世の話じゃないのが、教訓っぽいよね。
特に鎌倉初期は末法思想の真っただ中だし源平のごたごたもあったし
そういう話が生まれやすい土壌だったのかもしれない。

源氏供養表白。
源氏供養というのは鎌倉時代に湧いて出た、紫式部を供養する思想です。
物語を書くことは仏教においては「嘘を書いた」とみなされ(狂言綺語といいます)、
源氏物語という虚構を書いた紫式部は地獄に落ちたと考えられたため供養した人々がいたそうです。
(ちなみに地獄で責められる式部を助けたのが小野篁という話も伝わってるよ!)

サンスクリット語のNarakaは奈落と翻訳されておりますが、
それはこの世の地下にあるとされているそうです。
写真の道成寺絵詞(室町時代の異本で江戸時代後期に谷文晁の門弟たちが模写したもの)では
蛇になった娘が僧侶を追いかけながら「共に奈落の底へ沈もう」と呼びかけています。
他にも今昔物語集では賀茂盛孝が入浴中に気を失って大きな穴に落ちてしまう話があったり
小袖曽我(戦国時代成立?)には悪行の限りを尽くした兄弟の足元が裂けて沈んでいく話があったりと
割とどこにでもある地獄の入口。
あのね、あのね、六道珍皇寺では井戸の中に飛び込むと地獄に行けまs(その話は後で

地獄の責め苦が大変なものらしいことはあらゆる書籍に書かれていますけど
空海『三教指帰』(江戸時代の写本)の地獄の描写、
剣山とか熱湯にぶち込まれるとか氷の川に落とされるとかのイメージ、平安時代初期からあるんですな…。
(約100年後に源信が往生要集を書くわけですけど彼も読んだのかな…地獄描写の部分とか影響受けてそう)
本朝文粋も展示されてて、宇多天皇が河原院に住んでいたとき女官に源融の幽霊が憑いて
「おれ、剣の林と鉄杵の責め苦に耐えられなくて時々ここへ休みに来るんだ…」と語ったという話、
地獄の描写もすごいけど生前の家に帰ってきてるというのが何かこう、泣けてきてしまった(T_T)。
金葉和歌集には地獄絵を見た和泉式部が詠んだ歌が収録されていて
「浅ましやつるぎの枝のたはむまで こは何の身のなれるなるらむ」ということで
やっぱり剣の山や林は地獄イメージの鉄板なんだなと。

地獄にいるのは閻魔様だけではありません。閻魔様を補佐する冥官がいます。(そわそわ)
写真は十訓抄から、藤原有国が泰山府君の法を行ったところ亡くなった父親が蘇生したという話。
文字通り地獄を見てきた父親の話によると、冥官は数人いて
親のために法会を行った有国に免じて「生き返らせてもいいんじゃない」と決定したようで
なんだか円卓の騎士みたいな、テーブルにずらりと並んだ人たちを妄想してしまった。

古今著聞集から、摂津の僧侶・尊恵が地獄の使者に呼ばれて閻魔府の法会に参加する話。(そわそわそわ)
彼が出会った使者は白張に立烏帽子の姿だったとか。
そして。

はい、来た!!(落ち着け)(そわそわの原因はこれです)
ちょっとここだけ詳しくやります。何せ展示ケース1個まるっと使ってたからね!ちゃんとレポしないと!!
(別にいけなくはない)

江談抄から、篁が藤原高藤を蘇生させた話のページ。
これね、高藤がパッタリ倒れたとき
「篁、即ち高藤の手を以て引き発す(高藤の手を取って引き起こす)」という描写とか
篁に抱きかかえられているにも関わらず倒れて目覚めた高藤さんが
「今、地獄見てきたんだけど閻魔様の隣に篁がいた」とか言って
まさに篁たん分身の術!?みたいな描写がありますので興味のある方ぜひどうぞ。
(余談ですが夢枕獏氏がこの話と篁物語をモチーフに小説を書いてらして
高藤さんがそれはそれはいい人に描かれているのが好き~陰陽師の博雅くんみたいなの)

大森盛顕『古今和歌集一首撰』(1853年刊)より、小野篁と在原行平。
篁の歌は「思ひきや鄙のわかれにおとろへて 海人の縄たきいさりせんとは」
うひょーっ流罪になった隠岐に到着してから詠んだといわれる歌じゃないすかうひょーっ!素敵チョイス。

今昔物語集の藤原良相を助けた話も展示されていたよ。
ここで閻魔様が言う「速やかにいて返すべし」が決め台詞っぽくて超かっこよくて大好き。
戻って来た良相に篁が「このことはみだりに他言いたしませぬよう」って微笑むのも大好き。
余談ですが、そして今回は特に展示がなかったのですが
古今著聞集には藤原重隆という人が死後に冥官になったという話が載っていて、
重隆がある人の夢に現れて亡くなった白河院が生まれ変わる場所が決まっていないと語ったところ
鳥羽院が追善を行ったということらしい。
この展示すごくおもしろいのでまたやってほしいんですが
その際はぜひ藤原重隆のことも紹介してさしあげてくれ。

極楽往生する人のもとへは飛天が音楽を奏でながら迎えに来てくれるといいますが
地獄に落ちる人にもお迎えは来るようです。
写真の平家物語(江戸時代の写本)、熱病に倒れた平清盛のもとへ獄卒がやって来ますが
妻の時子は前もってそういう夢を見ていたという話。
他にも古事談に、源義家が病気になったとき向かいの家の人が獄卒に連れ去られる義家の夢を見て
翌朝訪ねると本人が亡くなっていたという話があるとか。
西洋でいうところの死神のようなものかな。

地獄から助け出された人たちは何人かいますが、写真は宇治拾遺物語にある地蔵菩薩の話。
ある破戒僧が死んだとき、彼が唯一拝んでいた地蔵菩薩像が地獄まで助けに行ったので
戻って来たときには像の足元が汚れていたというもの。
お寺や道端の地蔵菩薩像の体のどこかが汚れていたらどこかで誰かを助けてきた証拠、というモチーフは
割とよく見かける類のような気がします。
田植えをしてくれたり、峠で後をついてきたりするやつ。
確か遠野の話ですが、子どもと遊ぶのが好きなお地蔵さんもいますよね。

六道輪廻についても。
源平盛衰記(江戸時代の写本)より、六道輪廻の世界について語り合う後白河院と建礼門院。
六道のなかでも畜生道・餓鬼道・修羅道あたりはよく絵画化されますな…わかりやすいのかな。

ちょっとおもしろかったパネル。
「南北朝時代を舞台とする武士たちはしばしば『勇猛に戦って地獄へ行こう』などのセリフを口にします」
とかいうのが最高にロックだった。
これだから南北朝武士ってやつらは!まったくもう!!(笑)
(尊氏とか正成とか見てると戦国時代人なんてまだマシだなと思えてくるから不思議)
こうした考えは室町や戦国時代にかけて強まっていき、
武士たちが地獄になだれ込んで閻魔様や獄卒を退治する「地獄破り」なる物語が流行したとか。
うおおやっぱりこの展示ぜひ第2弾を企画して太平記の該当箇所のページ展示してほしい~。

江戸時代になるとあの世の地獄のイメージ画に加えて
戦乱や災害など"この世の地獄"的な絵画作品が増えてくるようです。
写真は円山応挙「難福図」の模写資料より、火災の場面。
(原本は承天閣美術館が所蔵しててたまに公開されますよ)
他にも福岡県の洪水被害の図(1889年)などは流される人々や倒壊した家屋の絵がコマ割りで配置されて
現代の新聞に通じるようなリアリティがあった。

さあ今回のもうひとつのテーマ「たのしい地獄」のコーナーです。
展示見出しの数々が。もう。。なんとコメントしたらいいのか。。。(笑)

江戸時代は博物学や妖怪学など様々な図画ブームが巻き起こりましたが
閻魔様も放ってはおかれなかったようです。
写真は「新撰狂句図絵」から閻魔大王と人頭杖の図。すっごい、いい笑顔に描かれてる(^O^)。
他にも「閻魔さま仏師が下手で笑い顔」「極楽へやるぞと閻魔子を叱り」など川柳にされたりしているらしくて
これだから江戸文化は!まったくもう(笑)。

「萍花漫筆」より、江戸時代後期の染め物の図柄。その名も「地獄染」。
近藤勇は背中にガイコツの背守をつけていたし、
歌川国芳はガイコツのどてらを絵に書いたりしていますから
本当にこの柄に染めて着物とか手ぬぐいとか使ってた人がいても全然おかしくないですけども
それにしてもインパクトすごい。

再び出ました、暁斎画談。
人がみんな賢くなってしまったために幕末の地獄は不景気と考えられていたようで
閻魔様や鬼たちは極楽で就職活動をしているという図。
たぶん当時の世の中が反映されているんだろうな…。

宮崎成身『視聴草』より、当時の社会を諷刺した落書。
「鬼の鉄の臼、鉄製なんてぜいたくだ。今後は石臼を使うように。
剣山もぜいたく。今後は竹を使うように」などとおちょくられています。
あと鬼のパンツについても「豹や虎の皮はぜいたくだから、狸や狐の皮を使いなさい。
虎を使っていいのは茨木童子や石熊童子のほかは一切ダメ!」とか書かれちゃってる。

お子様向けのキャプションもあって、かわいらしい閻魔様や鬼さんが解説してくれてます。
イラストは、公文書館さんのツイートによると役員さんが描いてらっしゃるそうで
館内に線画だけのぬり絵もありましたのでもらってきてしまった。
どうでもいい余談ですがこの記事書いてるときずっと星野源の「地獄でなぜ悪い」が脳内リピートしていた。
映画は観てないですが、主題歌のPVが最高にサイコなのでおすすめです。
あとバックのピアノめっちゃかっこいい。
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