食卓に珈琲の匂い流れ。

『茨木のり子の献立帖』を読んでいます。
作家のおやつとか画家の食卓みたいな本がありますが、あんな感じの本で
茨木さんが生前に書き残したレシピノートから再現した料理写真と
台所実測図や日常の写真、日記の一部などから
彼女が普段の生活の中でご家族やご友人と何を食べていたかが紹介されています。
茨木さんに限りませんがこういう本読むと「ああこの人、ほんとに生きて生活してたんだなあ」という
ごく当たり前のことをしみじみと感じずにはいられない。
茨木さんの詩は生活感があるけど、何よりもぴしっと伸びた背筋を感じさせる詩が多いので
三大欲求の面に触れるとなんだかホッとしますのです。ご飯はいいね。

通勤医の夫さんは普段は家にいらっしゃらない方だったので
茨木さんは自宅で家事をこなしながら詩のお仕事をされていたんだよね。
レシピも誰でも作れそうなものからちょっと手間暇かかりそうなものまで色々。
カレーに始まりサラダ、水炊き、茶椀蒸し、ナポリタン、リゾット、揚げ物、漬物、スープ、焼き魚、お汁に卵焼き。
ポテトキャセロールとか栗ぜんざいとか、鶏とびわの甘酢あんかけとか
マカロニナポリタン(うどん代用鶏もつ)とかおいしそう。
「ヤンソンさんの誘惑 スエーデン」はてっきりトーベ・ヤンソンのことかと思ったら
スウェーデンのクリスマス料理の名前なんですね。
じゃがいもやアンチョビなどを使った家庭料理ですごくおいしそうで作ってみたくなりました。
ノートには基本的にレシピと簡単な調理法しか書かれてないみたいですが
「1時間ほど煮るのが水炊きのコツ」とか、ガスパチョにパンくず入れると分離しにくいとか
蒸し物を何度も蒸し直さないとかちょっとしたメモ書きがあったり、
ご友人に教えてもらったレシピにその人の名前をつけたり
教えてもらったらノートに「〇〇さんより」と書いていたりするのが
お人柄が偲ばれるなあと思う。
チーズケーキのレシピの「衿子さんより」の添え書きは岸田衿子さん(岸田今日子さんのお姉様)ですね。
茨木さんが川崎洋さんと創刊した詩誌『櫂』に参加したりお互いに著書で言及したり
ずっとお付き合いがあったんですよな…。
お知り合いが亡くなられたとき茨木さんが岸田さんに「衿子さん私より先にしんじゃいやよ」と言われたと
岸田さんがどこかで語ってらして切なくなった覚えがあります。
(岸田さんも6年前になくなりましたけども)

レシピと一緒に書かれた日記も一部収録され仕事に家事に大忙しな日々が綴られていて
個人的にはこれが一番読めてうれしい。茨木さんの字はかわいい!
買い物や外食や初詣や同窓会に出かけたり、手紙書いたり書き物の仕事したり
丸善に万年筆を直しに行ったり、雑誌や中公新書や「日本史概説」を読んでいたり
関東大震災から50年目の防災訓練のこととか
大谷友右衞門(四代目中村雀右衛門)や幸田文のエッセイに一考したりとか
暮しの手帖展で花森安治に会ったとか、ドラマの大岡越前や勝海舟をご覧になっていたりとか
ディオニソスよ見捨てたまふなと呟いたりとか
すっきり晴れた夜空にシリウスと木星を見たりとか。
そして合間に色んな詩人の詩集を読んでひとこと感想を書き留めている。
茨木さんの日記は手短でまるでご本人の詩のようにてきぱきとして
その時その時の気持ちも一言主のように言い切っておられて
やっぱりそういうとこ上手いなあと思います。
あと、茨木さんの手料理を喜んで食べる夫の安信さんも日記に「Y」として登場していて
「Y、よろこぶ」「Y、ごきげん」「Yとランデブー」などと書かれてるのかわいい^^
お酒はおふたりともいける口だったらしくて
そういえば本のレシピも焼き鳥やお豆腐など、おつまみみたいなのも載ってます。

甥の宮崎治さんが茨木さんのお料理について言及されているのは何度か読んだことありますけど
今回の本にもエッセイを寄せておられました。
茨木さんは外食でおいしいと思ったものを台所で再現できる特技があったとかで
食事中に「このソースに何が入ってるか当ててみなさい」と言われたとか
レストランのウエイターに「これどうやって作るの」と尋ねるのを見たとか、
ずっと彼女の詩集を読んできた身には、なんて"らしい"のかと感心するエピソードがちらほら。
毎日毎日ごはん作るの大変だったろうし楽しくもあったろうし、
新しい味を知ると作ってみたくなるとか、たまには奮発しておいしいもの食べに行こうとか
茨木さんも考えることあったかなあ。

茨木さんの60代の頃の詩に『食卓に珈琲の匂い流れ』というのがあって
この本にも一部が引用されていましたが
(添えられた写真に写っている藍色のテーブルクロスに白い四角模様が点々とあるのが
なんだか渋好みの茨木さんらしい感じ)、
茨木さんは東伏見の自宅から夫妻で吉祥寺によく出かけて映画を見たりコーヒーを飲んだとか
ちらほら書き残されているんですよね。
日記に書いたことを詩にも書いていて、繋がってるなあと思いました。
夫さんが秋口に「コートいらないからこれ欲しい」というほど気に入って買った椅子の記述があって
その椅子はずっと保管されてて後年『倚りかからず』のモデルになったそうで…。
(茨木さんは夫さんの遺品をほぼそのままにしていたらしい)
あと『夏の声』に出てくる「いくじなしのむうちゃん!」の記述が8月の日記にあって
本当に真夏に聞こえた声だったんですね。

ごはんの本読むとごはんを作って食べたくなります。
ぐりとぐらのカステラまた作りたいし赤毛のアンのマリラの料理も気になるし
ブシメシのお味噌汁すごいおいしそうだったし、パパと親父のウチご飯の唐揚げと鍋やりたいし
カルテットの4人がごはん作って食べるシーンがいつも楽しそうだし
(フードスタイリストの飯島奈美さんのお仕事が光っておられる…☆
そして家森さんがワシにもくれ!とかあれー?ってジブリみあるのかわいい、中の人が聖司くんだからかな)、
きのう何食べた?のトーストに苺ジャムごろごろ乗っけたやつにアイス乗せるのやりたい~。

dokushoneko1.jpg
本日の猫さま。
わたしの読書中ずっと膝でおねんねされていました。

dokushoneko2.jpg
そういえば茨木さんの詩に猫はいたっけ…と手元の詩集をパラパラとめくったら
『もっと強く』という詩にこんな一節がありました。
「猫脊をのばしあなたは叫んでいいのだ 今年もついに土用の鰻と会わなかったと」
わあ。
 
 

20170311.jpg
11日で、あの瞬間から6年。
去年は曇りで撮るのをためらったけど今年は撮りました。青空。

仕事上、当時の記録や手記などの資料に触れる機会が多くて
気持ちの上では忘れたいとも忘れないともなんか違うけど、
あの時起こったことはなるべく記憶の新しいうちに記録しておかないと曖昧になりそうな気もするし
でも書いた瞬間に別物になってしまいそうな気もするし
過去の記録は当事者がいなくなったら発掘されない限り忘れられてしまうし
発掘されたとしても200年経てば言葉も変化して読めなくなってるし
そもそも未来人が想像力をはたらかせて記録を実感しなければ活かすことも難しい。
保存して伝えて活かすことは何て困難なことかと思います。
いつ誰が使うかわからないけど、いつでも誰でも使いたいときに使えるようにするために
記録して集めて整理して残す作業にひたすら従事する日々です。

毎年のことですがテレビやラジオは消して過ごしました。
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テーマ : 読んだ本の紹介
ジャンル : 本・雑誌

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そっくり

一昨年亡くなった拙宅の猫、ミーによく似たデザインの猫さま。
可愛いですね。

Re: そっくり

> MK様

MKさんも猫さんと暮らしてらしたのですね、
その子も白黒さんだったのでしょうか。
かわいかったでしょうね(^^)。
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