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2018 / 10
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柏葉幸子さんの『涙倉の夢』を読みました。
山あいのおばあちゃんの家(屋号:さがえ)にやってきた亜美が
「(お仕置きや病気の隔離などで)倉に入れられた人はみんな泣く」ことから涙倉と呼ばれる倉にふと入って
数十年前の時代に迷い込んで昔のさがえの様子を目撃するところから物語が動き始めます。
(「蔵」ではなく「倉」なのは何か理由があるのかしら…たとえばこういう記事がありますけども)
当時温泉宿を経営していたさがえに住んでいたのは人間だけど、
時々その中にエッちゃんと呼ばれる猿が人間の子をあやしていたり
鼠の顔に着物を着たおばあさんに「おまえではない」と声をかけられたりして
現代に戻ってもハヤブサや猿や蛙の顔をした(ように見える)人がさがえにいることに気づいて
どうも人間の姿になってさがえで生活している動物がいるらしいと亜美は気づきます。
人が動物の顔に見えるのは亜美だけで、彼女の家族や町の人々はまったく気づかないでいるけど
はっきりした理由は最後まで明かされなかったね…
ラストで亜美が自分なりに考えて結論づけていたけど。

亜美がおばあちゃんとお出かけしたり、山から来たハヤブサの隼人や猿のエッちゃん先生と仲良くなったり
そういう心温まる交流シーンも素敵なんですけど
ねずみのばば様が話してくれたさがえの昔話がとにかくものすごいインパクトでした。
「ねずみにひかれる」という言葉が物語前半のキーワードになっていて
これは人間の世界(里)から動物の世界(山)へ連れていかれることだと町の人々が言っていて
亜美も過去と現代を行き来するうちに神隠しとか人身御供じゃないかと想像したりするんですけど、
2回目の過去への訪問で山と里を仲介するねずみのばば様に会って話を聞いたら
どうもそう単純な話ではなかったらしく。。
大昔に様々な理由から動物が山から里へ、人が里から山へ移動することがたまにあって
その仲介役を担っていたのがねずみのばば様だったので
里から山へ人が引き取られると「ねずみにひかれる」と人々は言ったと。
そして「ねずみにひかれる」ことは元々は親が育てられない子どもを殺すことの隠語で
間引かれた人の子どもを山が引き取る代わりに里へ動物を人間の姿にしてよこしていて
(山へ何人も引き取るわけにはいかないので)、
そうして山のものが里に混じる代わりに里で生きられない命を山で引き取る約束を人と動物は交わして
その仲介の場所がさがえで、ねずみのばば様は宿の西の塔にとどまり役目を果たしていたと。
引き取られていく人の中には間引かれる子だけではなく病人もいて、彼らは山の気に溶け込んでいき
山で生きられなくなった動物も里でなら生きる場所があってWinWinな場合もあったみたいだし
「戻りたい」とばば様に言えば戻ることも可能だそうですが、
子どもを間引いた親は本当のことは言いにくいから「ねずみにひかれた」と言って隠していて
やがて子どもが間引かれる時代ではなくなったので約束は忘れられていき、
さがえが宿を閉めて山との交流がなくなると「ねずみにひかれる」という言葉だけが残って
「悪さをすると鼠に連れていかれるよ」的なしつけに使われたりするようになる。
子どもが間引かれなくなるのはいいことだけど
言葉だけが形骸化した教訓として伝えられていく過程にぞっとしました。
これってたとえば、平安時代の鬼が姿を見せず詩や歌や音楽など風流を愛する生き物だったのに
いつしか陰陽道の丑寅と結びつけられ牛の角・虎パンツのいでたちに形づくられ
「悪さすると鬼に食べられるよ」的な、しつけに使われるようになっていくのと似てるな…。
しきたりが今なぜそうあるかを調査していったら
過去の人たちの決めごとの枠だけが残った結果今の状態になっているとわかる事例って
歴史を見てもいくらでもあるので、一定期間ごとに学び直すことと次世代へ伝達することって
本当に大事だと改めて思いました。
あと「猿がかでてる」って言葉も、過去の世界でエッちゃんがしていたみたいに
昔は文字通り山から下りてきた猿が人間の子育てを助けるっていう意味だったのに
亜美たちの時代には「赤ん坊が泣きやまないこと」の意味になっていて
言葉の語源が忘れられているのも怖かったです。
それらを物語に落とし込める柏葉さんはやっぱりすごいや。

約束が形骸化した後、動物たちが里に混じる理由は人間が山を崩して道路やダムを作ったり
山へ何かしようとするときに仲介者を通して動物たちに知らせるためという感じになっていて
そうして山や、山に暮らすものたちを守っていると。
ジブリのぽんぽこも人間世界での狸たちの生きづらさが描かれますが
この物語における動物たちの生きづらさもハンパなく生々しい。
エッちゃんは山を下りて里で成長できたけど夫や子どもに自分のルーツを話せるまでには至っていなくて
山から来たとバレないように気を張って生きていたし
(彼女は怪我をして群に置いていかれたので山では生きられず里なら生きられた猿だった)、
ねずみのばば様は現代ではもういなくなっていたから隼人は里へ混じるのも大変だったみたいで
ふとしたときにハヤブサだった頃の癖で飛ぼうとして塀から落っこちたりする。
亜美が汲んできた鳴滝の水を隼人が飲んで「なつかしい」と涙をこぼすシーンはちょっとウルッときた…
今の生活圏にある水道水もミネラルウォーターもまずいって飲めなくて
やっと飲めた水が生まれ育った場所の水だったっていう。
終盤でバイト仲間の家の井戸水が「まあまあ飲める」って発見できてよかったね^^
帰命寺横丁の夏の記事にもカズと裕介の読書シーンについて書いたけど
柏葉さんの物語はこういう何気ないシーンがすごく胸を打ちます。好きっ)
ねずみのばば様、柏葉さんの描くおばあちゃんキャラは目力が強いイメージですけども
このおばあちゃんは無言で見つめられると威圧感があるイメージ。
着物姿でお茶飲んでる挿絵はちょっとドキドキしました。
あ。挿絵!
読みながらどうも見たことある絵柄だなあと思ったら青山浩行氏だったー!
シンプルな線だけで動物の毛並みまで描き出す表現力は見習いたい。

『岬のマヨイガ』を読んだときも感じたけど柏葉さんはしゃべる動物たちを描くのが自然体でいいなあ、
素朴で、生きる意志が強くて、人間の世界や用語に精通していて、時々ちょっと怖くて。
ねずみのばば様が「おまえじゃないね」って手をしっと振ると人を里へ戻す力を持っていることとか
隼人が亜美の尾行に気づいて「なんのまねだ」って睨むところなんかは
亜美も猛禽類に狙われた獲物の気分と言ってるけどわたしも読んでてうわってなった。
でもってその怖さも悪意があるわけじゃなく結果としての怖さだったりもする…
マヨイガの海ヘビがそうだったように今回も山の気がひとりの人を狂わせてしまって
でもそれは山へひかれた怒りや里への未練かもしれなくて…
西遊記の金閣銀閣みたいな解決法だったのも、誰も傷つかなくてなるほどなあって思ったし
できることなら水じしゃくを使って水脈を動かすところも見てみたかったけど
それは山の領域で行われるもので人間が見るものではないのかもしれない、
すぐりさんが使うのか、それとも鳴滝の誰かが使うのかな…。
すぐりさんがまた亜美たち家族に会えるのかはわかりませんが
涙倉があくびをしてしまったので当分は無理かな、また会えるといいですね。
亜美のお母さんが倉を買ったのも涙倉からすぐりさんの泣き声が聞こえるといわれたからだしね。
それにしてもあくびする倉を想像するとちょっとおもしろい(笑)付喪神みたい。

自分が過去へ行けたのは涙倉が目覚める前に見た夢に迷い込んだせいだと亜美は判断するんだけど
夢見る倉って、眠っている倉ってなんだかロマンだ…。
荻原規子さんのRDGでも九頭龍大神が見る夢が真澄だったりしたけど
物語で人でないものが見る夢は人のできないことをヒョイと具現化させてしまうことが多い気がします。
そして涙倉のその後にもだいぶびっくりしました。よくある話だけど、したたかだなあ。
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【No title】
父の実家の蔵で遊んでいた子供たちが神隠しみたいにいなくなって
声も聞こえないし、、やっと見つかって大騒動は終了したけど
その後の蔵番が、大声で、何度も何度も確認したらしい、
蔵は別世界らしかったわ。

ありそうなお話ですね。
【Re: No title】
> hippopon様

蔵は、特に土蔵だったりしますと壁が音を吸収するので中は静かで
声が聞こえにくくなったりしますよね。
暑さ寒さも防げますし。

前に遠野の伝承園でオシラサマを見に土蔵へ入ったとき
急に環境音が消えてびっくりしたのを覚えてます。
本当に別世界なんですよね。
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ゆさ

Author:ゆさ
飼い猫に熱烈な愛をそそぐ本の蟲
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