2017-09-18 (Mon)
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太田記念美術館の月岡芳年展、「妖怪百物語」「月百姿」に行ってきました。
先月が妖怪、今月が月の展示でやっと両方見られましたのでまとめて感想書きます。
(あまり知られてないのか両会期ともそんなに混んでなくてゆっくり見られました~。
鑑賞する側としてはありがたいですけど、
せっかくこんなすばらしいのだからもっと人来たらいいのに…とも思ってしまうジレンマ)

妖怪百物語は芳年の新形三十六怪撰シリーズと和漢百物語シリーズほか
水滸伝や芳年漫画、単発絵などから妖怪や怪異に関する絵を集めた内容でした。
同シリーズはこれまで展覧会で部分的に何枚か見たりWeb上で一覧とかで見たりしましたけど
紙で揃っているのをいっぺんに見るのは初めてです!
改めて本物を見て思ったけどほんっっっとに芳年の絵はかっこよくて綺麗でおどろおどろしい。
武将の真剣勝負、幽霊になった人々、ユニークな妖怪たちを描く筆致は劇的で
でもどこか哀愁がただようのは彼の生きた幕末~近代という時代背景や
彼が何度か発症したらしい精神病の影響もあるかもしれない。
見れば見るほど感情をぐらんぐらん揺さぶられて卒倒しかけるほどの気迫に満ちていて
どんな顔して描いてたんだろうとか想像してしまいます。
特に人がふとしたときに見せる一瞬の表情を切り取るのがうまいなと思う。

和漢百物語は26枚の連作で、芳年の初期の代表作。
歴史上の人物や物語や民話などから怪異の場面を引用したり想像のままに描いています。
「小田春永」は織田信長の絵なんですが(春永は歌舞伎でよく使われた名前ですね)、
蘇鉄を指さす春永が着ている着物がすごい!北斎の波のようなうねりに龍が飛んでてかっこいい。
「楠多門丸正行」はまだ少年だった頃の楠木正成が妖怪退治をする絵ですが
その妖怪ちゃんがどう見ても百器徒然袋の袋狢ちゃんの引用であった(笑)かわいい。
「宮本無三四」宮本武蔵が天狗の翼を斬りおとした図で武蔵はかっこいいのですが
翼の付け根がかなり生々しくて天狗さん痛そうって思っちゃった。
「伊賀局」吉野拾遺に取材。伊賀局は新待賢門院に仕えた室町時代の女性だそうで
藤原仲成の幽霊をまったく怖がらずに追い返していますが、取材した物語では藤原基任のようです。
仲成の顔が烏天狗みたいでおもしろい。
「源頼光朝臣」病気の頼光のもとへ土蜘蛛が天井から降りてくるというもの。
頼光と土蜘蛛は昔からたくさんの絵師が描いてますが、この絵の土蜘蛛はとても小さいというか
本来のサイズというか…とにかく昆虫サイズで土蜘蛛が描かれたこのテーマの絵では珍しい作品。

新形三十六怪撰は36枚の連作。
芳年はこのシリーズを描いている途中で入院しそのまま亡くなってしまったので
(最後の出版は芳年の没後)、弟子たちが完成させたそうです。
「小町桜の精」は常磐津「積恋雪関扉」に取材していて桜の木に宿った小野小町の霊が現れる
「地獄太夫悟道の図」は2枚あって、1枚は薄暗い背景にガイコツがうろついてるんだけど
2枚目はすっきりと誰もいなくて、ああこれは太夫が悟った姿なんだなと。
「葛の葉きつね童子にわかるるの図」は人間に化けた葛の葉という雌狐が
子の安倍晴明と別れる場面の絵。障子に映った葛の葉の影が狐になっています。
こういう、姿は別の生き物に化けていても影はごまかせない演出大好きだ!
「鍾馗夢中捉鬼図」は鍾馗が鬼を捕まえるかっちょいい絵ですが
キャプションに「鍾馗は科挙の試験に落ちて自殺した」と書いてあって「は!!?!?」ってなって
帰宅してぐぐったら本当だった…全然知らなかったよそうだったんですか鍾馗様…。
「大森彦七道に怪異に逢ふ図」は女性をおぶって川を渡る大森彦七が
水に映った女性の影に角があるのを見てあっこいつは…!と気づく一瞬の緊迫場面。
「源頼光土蜘蛛ヲ切ル図」は土蜘蛛は巨大だし頼光は刀を今にも抜こうとしていたりして
和漢百物語の絵よりもぐっと物語っぽい絵になっています。

単発でも芳年は色んな怪異を描いてる。
「一魁随筆 朝比奈三郎義秀」地獄巡りをしたという伝説をもつ朝比奈三郎さんですね。
閻魔様がシメられて泣いてるのかわいそう。。
「芳年存画」貧乏神から隠れる大黒天と恵比寿がかわいい。
「皇国二十四功 田宮坊太郎宗親」田宮坊太郎くんが金比羅大権現の加護で仇討ちを果たす絵で
金毘羅さんは天狗のようなお姿をしています。スタンド天狗。
同じく皇国二十四功の「信濃国の孝子善之丞」は少年善之丞くんが地獄の浄玻璃鏡の前で父親の無実を訴えていて
そういえば地獄絵ワンダーランド展でも同じモチーフの絵があったなあと。
「祐天不動の長剣を呑む図」祐天上人は少年時代、物覚えが悪かったので成田山で修行していると
不動明王が現れて短剣を呑むか、長剣を呑むかと問われどっちでも痛いだろうから長剣を呑んだところ
次の日には頭がよくなり物覚えの力もついていたというお話の絵画化。
不動明王の体が一瞬、黒く見えたけどたぶん青が色落ちしたんじゃないかな…青不動さま。
「袴垂保輔鬼童丸術競図」かっこいいー!2人ともかっこいいー!!しびれるー!!
「羅城門渡辺綱鬼腕斬之図」ご存知渡辺綱と茨木童子の羅城門バトルで
綱も童子もかっこいいけど、羅城門に降りしきるすさまじい雨風に見とれてしまいました。
「金太郎捕鯉魚」水中の金太郎が巨大な鯉につかまってゆったり泳いでいて
青い水流の表現がこちらも美しい。

江戸時代はそれまでにはないほど妖怪が描かれまくった時代ですけども
そのほとんどは取材や模写が多く、見慣れた人間には「これあそこの引用だね」とわかるけど
絵師の個性は人それぞれなので同じテーマでもひとつとして同じ絵が存在しないのがおもしろい。
芳年の妖怪は何というかこう、肉を感じますね…手触り感があるというか、
体温が感じられるみたいな、切ったら血が出そうというか。

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太田さんはひとつのテーマや絵師の展覧会のときよくリピーター割引をやってくれまして、
今回もありました。
妖怪も月も2回目以降の鑑賞は半券を持って行くと200円引きが適用されます。ありがたい。
チケットにプリントされているのは「源頼光土蜘蛛ヲ切ル図」の土蜘蛛ちゃんですが
これ先日ネットで、「寝坊した子どものベッドから起きろ!ってシーツ引っぺがすお母さんみたい」的な
書きこみを見かけて以来そういう風にしか見えなくなってしまった(笑)。
いやあの絵の頼光さんは病気で寝てるところを襲われたので似たようなものかもしれないけど。


月百姿は芳年が晩年に刊行した月百姿シリーズがズラリと。
妖怪展と同じくこのシリーズも紙に印刷された現物を100枚すべて見るのは初めてでした!
いつか100枚全部を一気に見たいと思っていたので叶ってうれしい^^
夜空、波間、山入端、木の影、夜明けの空などのシチュエーションに浮かび上がる月を
歴史上の人物や物語の人物、江戸風俗のなかの人々から妖怪まで様々な生き物が見上げていて
月好き歴史好き妖怪好きなわたしにとっては最高の内容でした。
展示室のどこを見ても月、月、月!絵のお月見大好き、楽しい☆
妖怪百物語とはまた違って静かな雰囲気の絵が多くて
でもやっぱり、見ていると感情をぐっと揺さぶられる絵が多かったなあ。
月百姿の月は月よりもむしろ人物の気持ちや動物の情緒が伝わってくるというか
月はあくまでそっと誰かに寄り添うように照っていて、そこがとても好きです。
あとタイトル部分や女性の着物などに空摺りが使われているので実物を見られたのはうれしい、
紙のエンボスは図録や画集だとほとんど再現されにくいのでね。生で見る醍醐味。

「月宮迎 竹とり」竹取物語のラストシーンに取材。
かぐや姫も月の使いもきれい、見送る翁は後ろ姿ですが背中から悲しみが伝わってきました。
「孝子の月 小野篁」は篁が山で薪を集める姿で一瞬、隠岐にいたときの絵かと思ったのですが
どうも母親が恋しくて遣唐使を蹴ったら流罪になったけど戻っても母のために尽くしてる、みたいなテーマらしい。
珍皇寺の井戸に飛び込んだ理由といい、篁はマザコン説話が多いね…薨伝の「家貧親老」の記述のせいかな。
「大物浦上月」の弁慶はポスターになるだけあってかっこいい。
「卒都婆の月」能の卒塔婆小町から。
さっきの三十六怪撰シリーズでは若い姿の幽霊だったけど、こちらでは生者の老婆ですね。
「朝野河晴雪月 孝女ちか子」鈴木春信が清水の舞台から飛び降りる少女をこういう構図で描いてますが
他にも浮世絵で何点かこういう構図の絵を見た覚えがありますな。
「悟道の月」にて月を指差す布袋や、「金時山の月」で猿と兎の相撲を見守る金太郎はコロコロ丸くてかわいい。
「吉野山夜半月 伊賀局」の題材は和漢百物語にもあったね。
基任が天狗みたいな姿をしていたり、絵のタイトル枠に手をかけているメタ構図になってたりしておもしろい。
「五節の命婦」十訓抄10巻61話の絵画化で、嵯峨野に住む五節の命婦を訪ねた源経信と源俊明が
命婦の奏でる琴を聴いてあまりのすばらしさに涙しています。
いかなる時にも泣かないため犬目の少将と呼ばれる俊明もこの時ばかりは泣いたというところから
命婦の曲がどんなに美しかったかが想像できますね。
「北山月 豊原統秋」は夜道を歩いていた統秋が2頭の狼に遭遇し、
あかん死ぬと思ってこの世の名残に笛を吹いたら狼が聞き惚れて襲ってこなかったという伝説の絵画化。
音楽で殺意をなくすというと藤原保昌と袴垂保輔の逸話を思い出しますね。(芳年も何枚か描いてる)
「志津が嶽月 秀吉」は木に背中をおしつけて法螺貝を吹く秀吉のかっこいいこと。
「あまの原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出し月かも」は百人一首の阿倍仲麻呂の歌の絵画化で
唐の仲麻呂が欄干にて誰かと語り合っています。誰だろうな。李白かな王維かな。
「三日月の頃より待し今宵哉 翁」三日月の夜、村人に俳句を求められた老人が同句を詠んでみせて
名を聞かれて松尾芭蕉ですと答えて、村人はびっくりしたという話。
小林一茶にも同じ逸話が残っているのでこの絵の翁はどちらなのかな…好きな方を想像しよう^^
「名月や来て見よかしのひたい際 深見自休」男伊達の深見十左衛門が俳句を口ずさみながら色街を散歩。
大柄な花模様の黒い着物は市松模様が正面摺で入れられていて
光の角度によって見えたり見えなかったりします!摺師の腕。

月の使い方がおもしろいなと思った作品も。
「玉兎 孫悟空」月の宮殿から逃げ出したウサギと孫悟空の戦いのバックには巨大な満月、
この2匹は月にかなり近い場所で戦っているのかな…。
「嫦娥奔月」は西王母から不老不死の薬をもらった嫦娥が薬を飲んで月にのぼる姿で
バックの巨大満月がピンク色になっててきれい。
「つきの発明 宝蔵院」宝蔵院流の創始者・宝蔵院胤栄が十文字槍を思いついた瞬間の絵で
空の三日月に槍を重ねて「これだ」って声が聞こえてくるような。

キュレーションがおもしろいなと思ったのは「霜満軍営秋気清 数行過雁月三更 謙信」と
「信玄 きよみかた空にも関のあるならば月をとゝめて三保の松原」が隣同士に並んでいたり
「月下乃斥候 斉藤利三(鎧つけてる)」「堅田浦の月 斎藤内蔵介(鎧はずしてる)」が
やっぱり隣同士に並んでいたことですかね。
歴史で因縁ある人物同士の共演や、同一人物の服装の違いなどを見比べられて
こういうのは展覧会ならではの楽しみ方ですね^^

あえて画面のどこにも月を描かずに月光や月影や視線で想像させる絵もありセンスを感じます。
タイトルになった和歌や元になった説話などを知るとなるほど確かにそこに月が見えてくる。
「はかなしや波の下にも入ぬへし つきの都の人や見るとて 有子」のタイトルは厳島の巫女の辞世の句で
叶わぬ恋をはかなんだ巫女有子が舟から入水する直前の姿を描いていますが
荒々しい波の上に揺れる月光は太陽かと思うほどの明るさで、有子の黒い着物とのコントラストが強烈。
「心観月 手友梅」は、病気で目が見えなくなった武将の手友梅が
「暗きよりくらき道にも迷はじな心に月の曇りなければ」という歌を短冊に書き
青竹につけて背に挿し自分の目印として戦場で戦う姿。心の月ですね。
「ほとゝきすなをも雲ゐに上くる哉 頼政とりあへす 弓張月のいるにまかせて」は
鵺退治をした源頼政が褒美に刀を授かるシーンの絵画化で
藤原頼長が天皇からの刀を渡そうとすると空からほととぎすの鳴き声が聞こえ、
「ほとゝきすなをも雲ゐに上くる哉」と詠んだところ頼政が「弓張月のいるにまかせて」と返事したと。
頼政は空を見上げますが正面向きのため月は描かれず、頼政の顔に当たる月光から想像します。
「朧夜月 熊坂」は背景が藍色と水色の色違いが並んでいました。

最後に「大蘇芳年像」がありました。芳年の死絵で、弟子だった金木年景によるものです。
紋付袴で正座して、手には筆を持ち背筋をぴっと伸ばした姿でかっこいい。
辞世「夜をつめて照まさりしか夏の月」も入れられていました。(1892年6月に亡くなったから夏だね)

芳年やっぱり好きだ~。

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山種美術館のカフェにも寄って上村松園展のオリジナル和菓子も買って来たよ~。
小林古径「清姫のうち『寝所』」に描かれている清姫がモデルの「道成寺」と、
橋本明治「秋意」に描かれた舞妓の着物がモデルの「舞妓」。
清姫は杏が入ってて甘酸っぱくておいしかったです。


週末に長野へ行ってきますのでちょこっと留守にします~!
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