泥中の蓮、獅子奮迅、象は忘れない、岩をも通す、渡る世間に鬼はない。

根津美術館の「ほとけを支える-蓮華・霊獣・天部・邪鬼」展に行ってきました。
仏画や彫刻などを中心に仏像の乗り物に焦点を当てた展覧会です。
改めて見ると皆さん蓮をはじめ鳥獣、宝床、雲など様々なものに乗ってますね…
こういう一面をクローズアップした企画は大好物で、内容もとても楽しかったなあ。
今回、紹介されていたのは主に以下の乗り物が表現された掛軸や彫刻です。
・宝床:涅槃図などで釈迦が寝ている寝台
・蓮華座:蓮の花。蓮台とも
・鳥獣座:蓮華をのせた動物。普賢菩薩の白象や文殊菩薩の獅子など
・岩座:岩の台。盤石座とも
・鬼:四天王が踏む
・荷葉座:蓮の葉の形をした台。天部の事例が多い
・瑟々座:四角い岩を積んだ台。不動明王の台座
・雲座:来迎図などで仏が乗る雲
・その他:シヴァ神、水牛、鯉などに乗った絵もある
なお今回の展示品はすべて根津美のコレクションだそうです。
まずは宝床。
涅槃図に描かれる宝床が立派なのは前から気づいていたけど
絵師によってデザインも模様もそれぞれ違いますね。
(そして今回の涅槃図に猫は見当たらなかった…)
そういえば先日のボストン美術館展で見た英一蝶の涅槃図の宝床もきれいだったなあ。
おなじみの蓮華座。
南北朝時代の釈迦三尊像は赤い衣をまとった釈迦が蓮台に乗ってまして
一般的に蓮台は花弁が仏を包むような形(仰蓮)をしていますが
この絵は花弁が下向きにべろ~んと開ききって内側におしべがびっしりついてるのが特徴的でした。
こういう形は今まで見た覚えがない…それとも覚えてないだけなのかな。
気になるので今後仏画を見る機会があったら注意してみようと思います。
釈迦の隣に坐す文殊菩薩と普賢菩薩はそれぞれ、おなじみ獅子と象に乗っていたけど
立ってる姿が一般的な獅子と象がこの絵ではペタンと寝そべっておりました。
この絵は色んな意味で画期的なのかもしれない…!
同じくちょっとおもしろいなと思ったのが平安時代に描かれた密教の大日如来像で
ものすごく豪華な蓮華座から衣を垂らしていて、それが何となく花弁のようにも見えて
より華やかな絵になっているなあという印象がありました。
南北朝時代の釈迦三尊十六羅漢像では
釈迦は獅子のいる蓮台に乗り框座(泥沼の水面)は二重にかさねて巨大でした。
鎌倉時代の愛染明王像は赤い蓮華座(足元には宝珠を放出し続ける宝瓶つき)に座っているし
千手観音二十八部衆像の観音菩薩も赤い蓮華座にすわっておられました。
蓮華の色に注目したことがあまりなかったのでびっくり、白だけじゃないんですね。
壬生寺地蔵菩薩像は京都の壬生寺にある地蔵菩薩の彫刻を絵に模写したもので蓮台に乗っていました。
本物は1962年に焼失してしまったらしいので今となってはこの絵が彫刻を知る貴重な資料ですね…。
室町時代の七星如意輪観音像も蓮華座にすわって
頭上には北斗七星を擬人化した七つの星を頂いていてかっこよかった。
鎌倉時代の善光寺縁起絵では天竺で造られた阿弥陀三尊が善光寺に安置されるまでの物語で
ひとつひとつの場面が下から上へストーリーが進む形でぐるりと描かれて何だかマンガみたいだ…
中央に反花の蓮華に乗った阿弥陀三尊が描かれていまして、
善光寺の阿弥陀三尊は秘仏なのでどんなお姿かもどんな台座においでなのかもわかりませんが
この掛軸はヒントになるのではないかなあ。
そして隣に展示されていた勢至菩薩立像は両手を胸の前で水平に重ねていて
これは善光寺阿弥陀三尊のポーズなのだそうです。そして蓮華の框座に立っておられた。
鳥獣座。
文殊菩薩の乗り物が獅子なのは彼の知恵が獅子のように強いことをあらわしているそうです。
室町時代の稚児文殊像は童子が獅子にまたがっていて
これは文殊菩薩が奈良の春日信仰では若宮の本地仏とされる(本地垂迹説)ことから
童子の姿で描かれたのではないかとのこと。
平安時代の普賢菩薩十羅刹女像は蓮華に乗った普賢菩薩を白象が支えていて
周囲には眷属の十羅刹女たちが唐風の衣装で描かれています。
普賢菩薩は女人往生を説く法華経に登場し信者を守ってくれるとされ、
十羅刹女たちとともに表現されることもあったようです。
また、密教の普賢延命菩薩像も白象に乗ってますけど
象が一身三頭の姿で描かれていてちょっとおもしろかった、
密教はヒンドゥー教の神々を取り込んだので仏の姿と台座の種類がぐっと増えたそうです。
大日金輪・不動明王・愛染明王の掛軸は大日が獅子、不動が瑟々座、愛染が框座に乗っているし
尊勝曼陀羅で中央の大日如来は獅子、周りを囲む八大仏頂は蓮華に乗っているし
十二天のうち水天は亀に乗っていたりする。
シヴァ神夫妻を倒したという伝説のある降三世明王はそのまんまシヴァ夫妻を踏みつけていて
鬼を踏む例はよく見るけど神を踏むというのは初めて見たのでびっくりしました。こんな絵ありなの…!
岩。
南北朝時代の不動明王像は盤石の上に立ってるし、鎌倉時代の毘沙門天図像も平らな岩座に立っています。
盤石(堅固の意)という言葉はここからきているんですねえ。
鬼たち。
公式Twitterさんがジャッキーと呼んでおられますが
いじらしいほどにがんばっている彼らを見ているとほんと応援したくなる。お仕事お疲れさまです。
四天王、特に毘沙門天(多聞天)によく踏まれている印象が強いなあ。
鎌倉時代の毘沙門天立像は30cmほどの小さな像で慶派みたいな力強さでかっこいい、
1人の鬼(手指4本に足指3本)を踏んでいます。
白描の四天王図像(平安時代)は5本指の鬼たちを踏んでいた。四天王は巨体だから重そう、てか痛そう。。
荷葉。
鎌倉時代の弁才天像は荷葉座に乗っていました。水の神でもあるので蛇も一緒だった。
(今回は展示されてないけど鬼子母神や吉祥天などが乗る座でもあるそうです)
そして、金剛界八十一尊曼荼羅は台座の集大成のような巨大掛軸でした。
中央で大日如来が七頭の獅子によって支えられる蓮華座に乗り、
周りを囲む四波羅蜜たちは迦楼羅や孔雀、有翼の馬や象に乗って
さらに弥勒菩薩や馬頭観音が蓮華に、大威徳明王が岩に、降三世明王はシヴァ神に乗っていました。
密教ってすげぇな…台座を見るだけでその仏がどんな位でどのグループに属しているかが一目でわかる。
雲。
平安時代の来迎図の雲は空中にゆったりと漂うように描かれているけど
鎌倉時代以降は長~く尾を引く雲になって
スピード感のある斜め構図で描かれるようになる傾向があるとキャプションに書いてあって、
のんびりしていた時代から早く来てー!みたいな切迫感が出るようになったのかなあと。
南北朝時代の阿弥陀三尊来迎図とかまさに長い長い雲でおもしろいし、
阿弥陀二十五菩薩来迎図は中央に如来が雲の蓮台に立っていて
左右の雲に楽人たちが乗り楽器を奏で踊りながら下りてくる絵で
雲の航跡がくねくねしていて動きまで伝わってくる。
鎌倉時代の文殊菩薩像が、獅子に乗ってるのは他の時代と同じですけど
さらに獅子を雲に乗せて海の上を移動する姿に描かれていて
これは渡海文殊ではないかとみられているらしい。
あと、珍しく釈迦が雲に乗る釈迦如来像もあって(鎌倉時代)たぶん霊山浄土へ導いてくれる来迎図とのこと。
そういえばお釈迦様は特にこれと決まってなくて色んなものに乗ってる気がする…
涅槃図の宝床をはじめ、今回展示されていた岩上観音像の岩とか
魚籃観音像で巨大な鯉に乗って水の上をゆく姿とか。
仏教美術は見慣れているつもりだし、鑑賞する際は仏だけじゃなく台座も見てるつもりだったけど
台座ひとつひとつの形とか込められた意味などを様々な事例とともに見せていただいて
ものすごく勉強になりました。
同じように見えていた蓮華座にも色々種類があるんだな…そしてそれは祈りであり願いなんだなあ。
常設展も鑑賞しまして、青銅器の部屋にいた双羊尊ちゃんは2年前以来の再会。
茶道の展示室が今月は「菊月(旧暦9月)の茶会」というテーマになっていて
秋らしく菊や柿、栗などをイメージした茶器や調度品を鑑賞できました。
尾形乾山の銹絵染付菊形向付が、花の形をした器の内側に菊がたくさん描いてあって
乾山のいつものざっくりしたタッチがとてもよかったです。
野々村仁清の柿文水指も、本阿弥光甫の茶碗(銘:武蔵野)も落ち着いた渋い色あい。
高麗の雨漏茶碗(銘:蓑虫)は茶色いシミが内部に広がっていて
これたまたまできたのか意図的なのかわかりませんが、何ともいえない味わい深さ。
芋子茶入(銘:有明)はつるりとした手のひらサイズの茶入で
藤原俊成の「又たぐひあらしの山の麓寺杉の庵に有明の月」(玉葉和歌集5巻)が書かれていました。
千宗旦の一重切花入(銘:三井寺)は祖父の利休の園城寺を写したもので
謡曲「三井寺」は中秋の名月の日が舞台になっているので季節の茶器なのですね。
(そして三井寺は正式には園城寺という名前のお寺だ)

帰りに東急ハンズ池袋で開催中のねこ路地2017を覗いて、コラボスイーツ「ジジ」もゲット。
他にも三毛猫や黒猫など色んな猫ケーキがあったけど迷わずこれにしました!!
ハロウィンだし、魔女猫だし、紫芋クリームで妖しさ炸裂してるし。

後ろには尻尾チョコもついてるよ。
お尻から食べていったら渋皮栗がまるっと1個入ってました。栗がおいしい季節。栗たべたい。

シャトレーゼの黒猫チョコケーキと黒猫練り切り。どちらも濃厚でおいしかったです☆
ハロウィンには黒猫が似合います。
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