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2017_12
12
(Tue)23:56

虫愛づる姫君。

ジャクリーン・ケリー『ダーウィンと出会った夏』『ダーウィンと旅して』を読みました。
実は初読は去年でして、タイトルに惹かれてパラリとめくったら文字がぎっしり(に見えた)、
でも読み始めたらグイグイ引っぱられて止まらなくて夢中で一気に読んでしまって
感想もそのとき書いたつもりだったのですが最近、書いていないことに気づいたので書くことにします^^;
1899年(続編は1900年)、世紀末のアメリカはテキサスに暮らすキャルパーニア・ヴァージニア・テイトが
家の裏の実験室で蒸留酒を作っている祖父ウォルター・テイトとともに
昆虫や自然現象を研究する「共同研究者」からの「同志」となり、
やがて科学者になりたいと行動し始めるまでの2年間が描かれています。
ファーブル昆虫記のような細かい観察描写や、シートン動物記のような動物との交流描写などが
テキサスの生活描写とともにリアリティをもってバランスよく綴られていて
あくまでひとりの女の子の毎日がゆっくり進んでいく感じなのが、読んでいて全然疲れなくて
結構ページ数あるけど定期的に読み返したくなる物語だと思う。

もうすぐ12歳を迎える11歳のキャルパーニアには、綿花工場を営む両親と祖父と3人の兄・3人の弟がいて
普段からスリップ姿で川遊びを楽しむようなアウトドア好きな女の子です。
ある日長兄のハリーにミミズの観察について打ち明けたところ「科学的な観察結果を書き留めるといい」と
小さなノートをもらって庭先で観察した色々なことを書くようになり、
それまで気づかなかった犬の口の形やバッタの色と大きさの違いなどを目にして
「これはなに?」「なぜこうなんだろう」と考えるようになっていきます。
観察を始めて数日後に庭で初めて黄色いバッタを発見し、
夏の暑さで黄色く枯れた芝生の中でどんな風に生きているかを観察して
緑色のバッタは鳥に見つかりやすいけど黄色いバッタは保護色で見つかりにくいため体が大きくても平気、などと
自分なりの結論をつけて祖父に報告しに行ったら「一人で考えたの?誰の助けも借りずに?」と驚かれ、
案内された書斎で初めてダーウィンの『種の起源』(1859年刊行)を目にします。
両親や他のきょうだいたちがほとんど興味を示さなかった科学や生物学に
まさか孫娘が首を突っ込んでくるとは思ってなかったみたいですなおじいちゃん…。
ちなみにウォルターおじいちゃんの科学始めは南北戦争中に出会った1匹のコウモリとの交流だったらしい。
戦闘中にテントに逃げ込んできたコウモリを保護し、常に無事かどうか心配していたという追想を
キャルパーニアに語る様子はとても心温まるシーンでした。

そうして始まったキャルパーニアの実験は蝶になると思って羽化させた毛虫が蛾になったり(放してあげた)、
見たことのない植物を見つけたので撮影するために写真館へ行ったり(スミソニアンへ送った)、
気圧計を自作して学校のピクニックに雨が降ると予想したり(当たった)、
ゴマダライモリや蛇を洋服ダンスの中で育てたり
夜空を見上げて北極星や北斗七星や星座のことを考えたりなど
生物だけではなく物理や天文学など多岐にわたります。
おじいちゃんの研究を一緒にやったり、自分が興味を持ったことを手当たり次第にやってる感じかな。
彼女が科学者になったときどんな専門を選択するのかはわからないけど(たぶん生物学系)、
色んなことを観察・経験しておけばきっとどこへ行っても慌てなくて済むだろうし
何より研究がますます楽しくなるからどんどんやった方がいいと思う。
(理系は物理を勉強しておいた方が絶対にいいと、かつて我が妹も言っておりました)
おじいちゃんはスミソニアン協会に手紙を送る際にキャルパーニアと連名で署名してくれて
年末に協会から電報がきたときも宛先が連名になっていて
しかも新種で学名をつけたと書いてあったときの2人の喜びようといったら!よかったねえ。
「女の子も科学者になれるわよね」って震えながら問うたキャルパーニアに
マリー・キュリーやメアリー・アニング、ソフィア・コワレフスカヤ等の話をしてくれたり、
裁縫が苦手と言ったら「戦争中は自分で戦闘服も繕ったし料理もした」と語ってくれたり、
13歳になる前に「女の子にできることは少ししかないのにお嬢さんと呼ばれるようになったらもっと減る」と
嘆いたら『ビーグル号冒険記』をプレゼントしてくれたり、
タイプライターで手紙を代筆したら「すばらしい」「機械の時代の到来だ」と
10セントの報酬を支払ってくれるおじいちゃんは素敵。
後にキャルパーニアがタイプの腕を活かしてプリツカー先生の処方箋を打つ仕事を見つけたのも
本当によかったなあと思います。
自分の力で生きていくことができるかもしれないと発見できたことは彼女にとって僥倖だよね。

世紀末のテキサスが舞台ということで当時の思想や技術や発明品などが随所にみられ、
アメリカの歴史小説でもあるなあと思いました。
ダーウィンの進化論とキリスト教の創造論がせめぎ合う過渡期だったり
新世紀の最初の日に世界が終わると言った団体があったり
おじいちゃんがアメリカ地理学協会(1851年結成)に参加していたり
ハウスキーパーのヴァイオラさんが黒人の血を引いていることは家族だけの秘密だったり
ロックハート図書館が子どもに種の起源を貸し出すのをためらったり
(今と違って人々が図書館を利用するには厳しい制限のある時代でした)、
クリスマスプレゼントに『シャーロック・ホームズの冒険』(1892年刊行)が贈られたり
奇術師ハリー・フーディーニ(1874-1926)やナショナルジオグラフィック(1888年創刊)の名前が出てきたり
自宅の農場で綿花を摘むためにきょうだいたちが学校を休んだり
(このときキャルパーニアは弟たちの世話をしてお駄賃がもらえないことを訴え父親からせしめている)、
おじいちゃんが「自動車を運転したい」と言って「爆音のおそろしい機械なのに」と呆れられたりします。
家庭に電話線が引かれたりコカコーラが発売されるのもこの頃からなんですね~。
おおこんな出来事が、これこの時期の登場なのかって色々と勉強になりました。

続編に描かれているガルベストンのハリケーンも1900年に本当にあった災害で、
高潮により6000人以上もの人が亡くなった大事件だったそうです。
ある時キャルパーニアがワライカモメを目撃したと聞いて
「こんな内陸で?」と疑問を持ちガルベストンに電報を打つおじいちゃんはかっこいい。
(そして父と兄たちが復興のためガルベストンに出かけている間も
ミミズの観察を怠らないキャルパーニアは本当に科学者だなと思う)
災害をまの当たりにした従姉のアギー(アガサ)が、家を建てる間だけテイト家に住むことになって
キャルパーニアのベッドで寝起きするんだけど、
最初は何も言わなかったアギーがキャルパーニアと衝突しながらも徐々に語り始めていくのは
前に進み始めた感がありますね…。
(でもキャルパーニアがゴマダライモリの学名や生態を説明したら
「何言ってるのかわからない」って返されるのは科学者あるあるだなと思った)
アギーの持ち物にタイプライターがあるのを知ったキャルパーニアが興味津々だったり
(The quick brown fox jumps over the lazy dogのことを初めて知りました)、
アギーが銀行口座を持っていると知って自分も親に頼んで作ってもらい預金通帳にわくわくしたり
何だかんだ会話が増えて最終的にはアギーが家族に秘密にしている恋人について共有できるまでになって
うおお仲良くなったなあ!と。胸熱。
「海ってどんなところ?」と聞いたキャルパーニアをアギーは最初はめんどくさがっていたけど
駆け落ち後に貝殻とハリセンボンを送ってきてくれたのが素敵だなと思いました。
アギー、しあわせに暮らせるといいなあ。

また、キャルパーニアはきょうだいの中で平等に扱われていない現実に直面してしばしば涙を流しています。
お母さんに「18歳の社交界デビューのために」と家事や料理を教えられたり
髪を切りたいと言っただけで「野蛮人みたいな姿で駆け回ってはだめ」と言われたり
(こっそり数センチ切ったものの翌日の朝がものすごく怖かったとか
その後1時間のブラッシングと栄養クリームを塗られ日光浴させられる描写もある)、
クリスマスまでに家族全員分の靴下をお母さんと2人だけで編むことを強制されたり
クリスマスプレゼントに『家事の科学』なる本をもらって蕁麻疹ができたり
何時間もかけてパイを焼いたのにたった数分で家族にたいらげられ「観察や標本のための時間を失った」と嘆いたり
成虫になる前に雄になるか雌になるか決められる蜂がいると祖父から聞いて
なぜ人間の子どもは5歳までにそういう選択肢がないのか、わたしなら絶対男の子になる…と
きっぱり思うキャルパーニアが痛々しい。
だから電話交換手になることを夢見たり、ディケンズを読んだり、部屋の中でお玉杓子を飼ったりする姿は
すごく生き生きして解放されているように見えます。
そしてそういう環境で育つと女の子だけではなく男の子にも影響があるもので
「コーリー(キャルパーニアの愛称)に料理を手伝わせればいい」みたいな意識を持つことに
きょうだいたちがまったく抵抗を覚えていない描写がしばしばあってゾッとした。
(そんなときキャルパーニアは悪意を込めて睨みつけ怯ませたりしている)
共進会の手芸部門に出品したら3位をもらえたけどそれは出品者が3人だったからとわかり
いまいち喜べないキャルパーニアに戦争中の裁縫の話をしたおじいちゃんに救われましたが、
当主を退いたおじいちゃんはキャルパーニアの鋭い質問を「すばらしい」と誉めることはできても
両親の教育方針に口出しできるわけではないのですね。

新世紀前夜、大晦日に家族の前で人生の決意を宣言するところで
キャルパーニアが「死ぬ前に見たいもの」と題してオーロラや太平洋やカモノハシや雪をあげていて
ハリーが拍手してくれる描写がとてもいいし
(続編の大晦日には「大学に行って学位を取りたい」に変わっている)、
翌朝の1月1日にテキサスに数十年振りの雪が降って
銀世界の中を走り回るキャルパーニアが「どんなことも起こりうる」と
希望を見出すシーンは救いでもあり絶望への序曲だったらどうしよう…という不安もあり
やっぱり希望であってほしいと心から思います。
キャルパーニアは科学者になれるのか。トラヴィスは獣医になれるのか。
まだまだ続きが読みたいけど、出ているのかな。出してほしいなあ。
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