2018-01-29 (Mon)
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東京都美術館で開催中の「ブリューゲル展 画家一族150年の系譜」に行ってきました。
ピーテル・ブリューゲル1世に始まる親子4代150年の歴史をたどりながら
16~17世紀のフランドル絵画を概観できる構成になっていて、
直系の親子だけではなく孫や曾孫や子の結婚相手など関係者の作品まであって驚きました。
まさに一族郎党総アーティスト集団ですな。狩野派みたい。
(思えば去年のバベルの塔展でボスとピーテル1世について紹介し、
半年後にブリューゲル一族の回顧展をどーんともってくるのうまいなあと思う…
両方でフランドル絵画の歴史と美術史を学べるよね。
あらかじめ鑑賞者に事前知識を提供して次の企画につなげる主催者さんたち、さすがです)

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有難かったのがこの超わかりやすいキャプション!
ブリューゲルは昔から好きな画家ですけど、親とか子とかいまいち区別がついていない初心者なので
いつ誰の描いた絵か一目でわかるのは大変助かりました。
(後述しますがこれは写真撮影可ゾーンにて撮影したキャプションです、念のため)
あと、鑑賞しながら途中で気づいたんですけど
今回展示されている作品てほとんどが個人蔵なんですね!!
初公開の作品も多いそうで…持ち主の皆さんよく貸してくれたなあ。有難い。

まずはピーテル・ブリューゲル1世とその周囲の美術から。
バベルの塔展でピーテル1世の画風や人物については予習していたので
ああそうだったこういう感じの絵を見たなあ、などと感慨深く思いつつ鑑賞しました。
彼の生きた時代はヒエロニムス・ボスの版画が大流行していて(ボス・リバイバル)、
ピーテル1世もボス風の版画をたくさん制作し「第二のボス」と呼ばれた時期もあるんだよね。
ボスの「告解の火曜日-ワッフルを焼く人のいるオランダの厨房」は
謝肉祭の最終日にワッフルを作って食べる人々の様子を描いていて、
これは翌日から卵や乳製品を取らない断食の期間に入るので前日にワッフルを焼いて食べるという
フランドルの当時の習慣だそうです。
そんなボスの影響をもろに受けたピーテル1世の絵…
バベルの塔展にもあった七つの徳目シリーズからの「希望」や「最後の審判」は
洪水の傍らでびちびち跳ねていたり人々を地獄に飲み込む魚がまさにボスなんだよなあ。
「節制」は算術や天文学、舞台に立つ人や歌う人々など諸芸の中央に
頭に時計を乗せたTemperantiaの擬人化が立っていて
こういう概念の絵画化って昔のヨーロッパ絵画にはとても多いように思う。
「イカロスの墜落の情景を伴う3本マストの武装帆船」は
中央に黒々とした巨大帆船が遠近法を無視してそびえていてまるでバベルの塔の構図にそっくり、
帆船の足元にはボス風の魚が泳いでいます。
彼の周囲にいた人々や同時代を生きた画家の絵も展示されていて、
ピーテル・クック・ファン・アールスト(ピーテル1世の師)の工房による祭壇画は
人物がクローズアップされていて色彩も淡くて絵本の挿絵のような印象を受けました。
(ピーテル1世は師の娘マイケン・クックと結婚している)
ヘラルト・ダーフィット「エジプト逃避途上の休息」は
ユダヤ王ヘロデがベツレヘムの新生児を殺害させるために放った兵士から逃れるために
エジプトへ逃避行中のマリアと赤ん坊のイエスがひと休みしている様子を描いていて
こちらも人物のクローズアップと衣の描きこみがファンエイクを思わせるリアルさ。
マールテン・ファン・ファルケンボルフとヘンドリク・ファン・クレーフェによる「バベルの塔」は
ピーテル1世の同タイトル作品より後に発表されているので
おそらく彼らはピーテル1世の作品を見ているはず。
塔がコロッセオ風の建物に描かれているのは1世の影響を受けたのでしょうけども
手前に人々の生活を描いて塔を奥に配置し、青空に天使を飛ばしているので理想化したのかと思いきや
天使の陰にチラリと見える人物(おそらく神)は険しい表情をしていますから
次の瞬間この塔には雷が落とされるのかもしれない。
ピーテル1世の塔が未完成だったのに対しこの絵の塔は完成しかけているので
まさに現在進行中で神様激おこみたいな。ぶるぶる。

ピーテル1世の息子ピーテル2世、ヤン1世兄弟の時代になりますと
画家たちの興味は人間よりも自然の風景に移っていったようです。
父親のピーテル1世も風景画を残しているけど
「種をまく人のたとえがある風景」など、何となく宗教的なモチーフが取り入れられていて
手前に地面と樹木を、中央に川を、奥に街と山と空を描く構図が多いように思います。
そんな父親の影響を受けたピーテル2世とヤン1世は祖母マイケン・ヴェルフルストにも学びながら
やはり地面と植物、川(または海)、山と空といったモチーフを使いながら
小さな画面の中に風景を描き続けていたようです。
(ブリューゲル一族のキャンバスはほとんどが小さいサイズです)
植物画を多く手掛け花のブリューゲルと呼ばれたヤン1世の「水浴をする人たちのいる川の風景」は
川で水浴びや散歩をする人々や川にかかる橋やその向こうの街並み、
さらに奥には平原や高くそびえる山や空があるというひとつの世界のような絵になっていまして
舟に乗る人々が水面に映っている水影まで描き入れたりと、色々と挑戦している様子がみられます。
「エジプト逃避途上の休息」は中央に大木がどーんと描かれて
根元に小さく、赤ん坊のイエスを抱いたマリアが描かれていて人物画というより風景画になってる。
兄のピーテル2世は主に父親の作風を受け継いでコピーをよく制作したらしい。
「鳥罠」は父親の同タイトルからテーマを引用した作品で
真冬に凍った川の上でスケートやカーリングをする人々と、雪原に設置された板の鳥罠を対比させています。
罠にひっかかる鳥を人は笑うけれど氷の下は水のためいつ割れて落ちてもおかしくないわけで
身の危険を感じ取れない者たちという寓意が込められています。
ヤン1世も同じく「鳥罠」を制作しているけど、
彼の作品は紙の表と裏にそれぞれ鳥罠と氷上スポーツの人々を描いたものでした。
これ意味に気づくとドキッとするな…この時代の作品て本当に頭を使うというか、鑑賞に教養が必要なのですね。
また彼らの絵を見て影響を受けた画家もいまして、
ヨセフ・ファン・ブレダールの「川の風景」や「市場からの帰路につく農民たち」などは
ヤン1世・2世の同タイトルからモチーフが引用されていたりして、リスペクトが見られました。

ヤン2世は父親ヤン1世の自然の描写力を受け継ぎながら、
親のコピーではなく自然をひたすら美しく理想的に昇華しているような表現をする画家です。
「花輪に囲まれた聖家族」は、メインはキリストとマリアですが
彼らをぐるりと囲む花々は種類まではっきりそれとわかるような表現力だし、
「聖ウベルトゥスの幻視」は鹿の角の間に十字架のキリストを見る奇跡がテーマだけどキリストはすごく小さくて
明らかにウベルトゥスの周囲にいる動物や、彼らのいる森の描写に力がそそがれている。
「風景の中の聖母子と天使」もバラに囲まれた人物たちという感じだし
「聖母子と洗礼者ヨハネと天使のいる森」に至っては人物が小さすぎて主役は森だよ。。
(何だか中国の文人画を思い出しました…あれも人物が下手すると点々で描かれたりするよね)
父親と伯父が「鳥罠」に描いた対比も、ヤン2世が描くと「スケートをする人のいるフランドルの風景」となって
スケートの情景のみが描かれて鳥罠は省かれ教育的要素が見られなくなります。
たぶん当時の流行とかもあるだろうけど…お説教より楽しいものが見たいみたいな。。
とはいえ、彼は四大元素や寓意の絵画化も行っているので
そこはやはり父親たちや祖父の系譜なのですね。
「四大元素 大気」は雄大な風景の中を天文の神ウラニアが舞い、
「四大元素 火」は鍛冶神ヘファイトスが妻のヴィーナスと子のキューピッドに盾を見せていて
周囲にはたくさんの鎧と武器が転がり、画面奥には火山も描かれています。
「平和の寓意」は空を駆ける馬車にヴィーナスが乗り、キューピッドが地上に花を振りまいているし
「戦争の寓意」は鎧や死体が転がる傍らで肉食獣や猛禽類が草食獣や小禽類を捕食しているし
「聴覚の寓意」はたくさんの楽器の中にさえずり歌う鳥たちがいるし
「嗅覚の寓意」は籠にどっさり入れられた切り花が今にも香ってきそうなリアリティがあるし
風景だけで作品を終わらせないのが2世らしいなと思います。
ちなみに四大元素の絵は弟のアンブロシウス・ブリューゲルが模写していて
大気と火は構図もテーマもすっかり同じでしたから、
このぶんだと大地と水もそっくりなんじゃないかな。(2世の大地と水は展示されていませんでした)
アンブロシウスの大地はデメテルと、奥に稲刈りをする農民たちの姿が描かれていて
水はアンフィトリテと、魚やカニや貝殻が細かくリアルに描かれていました。
そんな中に、いきなりルーベンスの工房による「豊穣の角をもつ3人のニンフ」が展示されていると
キャンバスの大きさと人物全身図の大胆な構図と色遣いの明るさに圧倒される。
同時代にフランドルに住んでいた画家でもこんなに違うんだなー!
(ちなみにルーベンスの同作はプラド美術館の同タイトルを忠実に模写した数少ない作品だそう)

その後ヤン2世は宗教モチーフから離れて植物単体を描くようになっていきますが
それらはこの後のコーナーで爆発していました。
エスカレーターで2階フロアに上がりましたら、
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展示室入口にこの看板!
ほぼ1ヶ月もの間、このフロアは写真撮影ができるとのことです。わあ。

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待ってこんなにいっぱい絵があるよ全部撮っていいの???
主催者の企画力とコレクターの皆様の英断に感謝感謝、有難く撮影させていただきます。

かなりの数があるので全部は紹介しきれませんので、一部を。
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アンブロシウス・ブリューゲル「ガラスの花瓶に入った花束」。
バラや百合やチューリップなどが丁寧に描かれています。オランダといえばチューリップ。

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ヤン1世と2世の親子による合作「机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇」。
ヤン1世は花の静物画というジャンルを確立した人のひとりといわれます。

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ヤン・ブリューゲル2世「籠と陶器の花瓶に入った花束」。
花も籠も色遣いが明るくて、リアルとは違う美しさがあるなあ。

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アブラハム・ブリューゲル「果物の静物がある風景」。
アブラハムはヤン2世の子で、オランダからローマ、ナポリに拠点を移して活躍したそうで
道理で南国風の鳥や果物が描かれていると思った。

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ヤン・ファン・ケッセル1世「蝶、カブトムシ、コウモリの習作」。
大理石に描かれた昆虫画です!
昆虫に混じってコウモリがいるのがおもしろい、当時は虫と同じと思われていたのでしょうか。

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ピーテル2世「七つの慈悲の行い」。
マタイによる福音書に書かれた七つの行いを市井の人々が行う様子を描いたもので
宗教行為をあくまで農村の様子として描いたところがミソなのかな。
父親の作風を受け継ぎながらも風俗画と組み合わせた2世の挑戦が見てとれます。

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ピーテル2世「野外での婚礼の踊り」。
今回展示されている中でルーベンス工房作品を除けば最も大きい作品です。
これぞブリューゲルとでもいえそうな、群衆の楽し気なダンスが生き生きと描かれているなあと思う。
(個人的にはブリューゲルって静物画というより群衆画のイメージなので
おお、やっとわたしの見慣れた彼らが出てきたぞという感じだったのだ)

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解説パネルに掲載されていたピーテル1世「野外での農民の婚礼の踊り」。
2世はこれを見て同タイトルの作品を描いたと思われますが
1世の絵で踊っていた花嫁が2世の絵では座っているんですよね。
2世が参照した版画には花嫁は妊娠しているため踊るのを諦めたという銘文があるそうです。


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美術館1FカフェのArtでいただける、コラボメニューのシュークリームとワッフル☆
断食前にワッフルを食べるフランドルの習慣から考案されたのでしょうか、
ボスの「告解の火曜日」も会場にあるしね。
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