百画繚乱その3。
東京富士美術館の「暁斎・暁翠伝」後期展示に行ってきました。
前期展示は4月に行きましたが、後期にかなりの展示替えがあると聞いたので
やっぱりナマで全部見たかったのと、
この日は河鍋楠美氏と山口晃氏の対談講演会があってものすごく聞きたかったし!
富士美の講演会を聴くには当日配布される整理券をゲットしなければならないのと
さらに今回は山口氏がいらっしゃるとなれば朝から混むだろうなと思って
いつもより早く家を出て美術館に着きましたらば。

なん…だと…!?щ(゚д゚щ)☆
前回はなかった撮影可能ゾーンができていました~ありがとうございます!
SNSアップもOKと書いてくれてるのマジで有難い、
入口の出品作品リストが置いてある台の隣に撮影OKリストも置いてあって
その名も「SNSスポット」って書いてあって笑ってしまった。
あんまりうれしかったのと、整理券の配布が始まる時間まではまだ余裕があったので
いてもたってもいられず展示室に飛び込んでSNS Spotマークを探しましたらば。

こ、この作品を撮影してよいですと…!?「枯木寒鴉図」。暁斎が百圓の値をつけたカラス。
暁斎の出世作を画像でお持ち帰りしてよいという、美術館なのか企画側なのか、どこのご厚意かわかりませんが
どうもありがとうございました。
あとこの絵を勧業博に出して妙技二等賞とった時の牌とか賞状も撮影可でしたよ。
この他にも撮影可の作品がたくさんありましたので撮ってきましたよ~。
以下、写真が多いのでたたんであります↓クリックで開きますのでどうぞ☆

暁斎「郭子儀図の下絵」。
紙を切り張りして何度も描き直した跡が見てとれます。
この下絵は河鍋暁斎記念美術館の所蔵で、
同館は河鍋家のご実家でもあるので暁斎の下絵がたくさん保管されているそうです。
他にも、七福神耕作図(布袋が苗を持ち弁才天が植え、恵比寿と大黒天が稲刈り、寿老人が秋を運ぶ図)とか
群猫百態図(無数の猫たちの背中にカウント用と思われる数字が書いてある)とかも展示されておりまして
これらの完成品はどうなっていたのか想像するのも楽しい。

郭子儀図の完成図。
すごく堅実に、色とかも細部までしっかり仕上げているから
このときの暁斎はたぶん狩野派モードにスイッチを切り替えてる。
前期に展示されていた狩野益信(探幽の養子)から繋がる系譜ですな…。
そういえば今期は当時の参考作品として長沢蘆雪の花鳥図も展示されていたけど
桃の花に鶯がとまっているきれいな小品でした。

暁斎「猫を抱く美人」。
遊女だと思いますが真っ赤な着物がとてもモダンだし、背後の牡丹もきれい。
抱かれている猫がく~~っと前足を伸ばしているのもかわいい。

暁斎「横たわる美人と猫」。
何やらじっとしている猫を見つめる女性、何を考えているのかな…。
表情とか雰囲気が、なんとなく前期に展示されていた「美人観蛙戯図」の娘さんに通じるような気がする。
あ。カエル絵は後期もばっちりありました!
「河鍋暁斎狂画巻」より、カエルがなめくじに騎乗してヤッホーとかやってる図。かわいい。
猫の絵は他にも展示されていまして、
「群猫釣鯰図」は木の上に群がった猫たちが池の鯰を釣りあげようとしていて
みんなお揃いの赤い首輪してたり、ボスっぽい猫が采配を振るっていたりしておもしろかった。
(猫の皮は三味線に使われるので芸者を、鯰は黒いので紋付の官僚をあらわす風刺画でもあるそうな)
団扇絵の「眠り猫」はすやすや眠っている猫のアップで、顔も毛並みもふわふわリアルで
戯画というより本画っぽくて猫がすごく気持ちよさそうなのが伝わってきた!
他にも生首を咥えた狼の絵「月に狼」とか(画鬼暁斎展でも見ました)、
鶴図屏風や動物図巻など様々な動物の作品が展示されています。
あと前期に川越の内田斧右衛門さんの家で描いたという寒山拾得図を見たけど
今期も同じく川越の内田さんの家で描いた「岩上の鷲図」という掛軸がありました。
こんなに大きな絵を描いてもらうなんて何者なんだろうな川越の内田さん…気になる。

暁斎「七福神書画会図」。
同時代に活躍した画家や書家たちとの合作です。
暁斎は七福神たちを担当。みんな思い思いに絵を描いていて楽しそう^^
他に神々を描いた作品としては白衣観音図やお多福像、日本神話の絵などがありました。
「龍神に観音図」の双幅は観音様が滝の中からザバーッとお姿を現した瞬間のようで神々しかったし
「風神雷神図」は二柱が空を疾駆しながら雷と風をぶちまける様子がダイナミックに描かれていて
まるで音まで聞こえてくるようなド迫力。
琳派の絵が有名なせいか雷神の体は白のイメージですが、暁斎の描く雷神は赤くてこちらもかっこいい。
ちなみに風神の体は琳派と同じ緑色でしたが、
「富士に船出、風神図」の風神の体はほのかに赤いのでずっと緑に塗っていたとは限らないみたい。
風神が空から舟の帆に風を送り、船上では神楽舞が奉納されているおめでたい図でした。
「走る恵比寿・大黒天」の掛軸は酒をすすめる大黒天から恵比寿が「いらない」って逃げる様子だそうですが
二柱がちょっとおもしろい笑顔なので
「あはは~わたしを捕まえてごらんなさ~い☆」「あはは~こいつぅ☆」的な図にも見えなくもない。
神々だけではなく妖怪絵もあって、
「桃太郎鬼征伐之図」は片方の掛軸には鎧に身をつつんだ桃太郎と動物たちが
おっかない顔で陣取っていて、
もう片方の掛軸には、たぶんもう負けたのでしょうね、しょんぼりした鬼たちが描かれていました。
女性の鬼は泣きじゃくる子鬼を抱いていたりして、
一見すると征服者の方が悪者に見えるのが暁斎の描き方。
「妖怪図屏風」は擂り鉢、すりこ木、瓢箪、「すずカ森」と書かれた破れ提灯などがぐるりと描かれて
おそらく長生きして魂を持った付喪神たちなのかな?みんな表情が無邪気でかわいかったです^^

通期展示の「電信柱」。
河鍋楠美氏が4月の講演会で「こんなの2秒で描いてる」とおっしゃっていたのを思い出しますが
暁斎はここに至るまでずっと描いてきてるわけですからその年月+2秒だと思うよ…。
たった数本の線で電柱ってわかるもんなあ、表現力。

暁翠「羽衣」。
キービジュアルで見かけて、なんてかわいいんだと思っていたので撮影できてうれしい。

暁翠「百猩々」。
舞ったりお酒を飲んだり碁を打ったり琴をつまびいたり絵を眺めたり、
思い思いに過ごす猩々たちは表情も仕草も全部違っています。
能狂言の作品は、暁斎も暁翠も経験者だからだと思いますが
役者の立ち振る舞いも舞台設定も衣装や小物もものすごくきちんと描いてあって
取材もしたろうけど息を吸うように描いてる感じもするな…。
暁斎の「三番叟」とか、タッチが全然リアルじゃないのに役者の動きが見えるからすごい。
あとこれ、軸先が加納夏雄(帝室技芸員)だそうです。うっそ刀の鍔とか作ってた彼かよ!交流関係ェ(´Д`)
「節分」は女性に一目ぼれした鬼が笠をかぶって角を隠して会いに行く狂言ですが
鬼も女性も筆跡が思いっきり見えるタッチで大津絵みたいな雰囲気。
…かと思えば、たぶん席画だと思うんですけど明らかにふざけて描いた絵もあって
瓜盗人や膏薬練はタッチみてもそうですけどお酒入ってると思います(笑)。
でも人物が何やってるかはわかるからつぶれて描いたわけでもなさそうだよな。
大蔵流の末広がりの下絵、果報者を演じる役者の着物が大根柄なの絶対狙って描いただろー!
一見、まじめな絵でも仕掛けをほどこしてしまうのは暁斎の癖なのかもしれません。
暁翠の「高砂図」、暁斎もですがよくある高砂図は翁と媼が向かい合ったり一緒に同じ方向を見てるものが多いけど
この高砂図は2人が仲良く熊手を持って一緒に砂浜をかいていました。かわいい^^

暁斎「柿に鳩図」。
5歳の暁翠に与えたお手本で、暁翠はどうしてもうまく模写できずに泣いたんだよね。
でもお父さんのように描けないというのは、たぶんそれが暁翠の個性だったんだろうと思う。

暁斎・暁翠の合作「十二ヶ月年中行事之図」。
強飯式、闘鶏、鍾馗様を踏み台に藤の花を手折る女性、七夕の花扇、放生会、狂言など
古くからの宮中行事やファンタジーなどが入り混じって描かれています。

暁翠「百福の宴」。お福さんが100人います。
一人ずつ挨拶していたのが襖の向こうにはズラーッと並んでしまっている、という図(笑)。
美人画は他にも「払子を持つ美人」や「江口の君」などがありました。
「猫と遊ぶ二美人」は暁斎の下絵に色をつけたもので
鞠にじゃれる猫がとってもかわいいし、抱っこされてる猫も幸せそう^^
「祇王と仏御前」の絵が特にきれいで、祇王のいる寺(おそらく祇王寺)を訪ねた仏御前を
門前で祇王が出迎えるというドラマのワンシーンのような作品。
「そのせつは」「あらあら…」みたいな会話が聞こえてくるかのようでした。

暁翠「七福神入浴図」。
おおこれは、日本リーバ(現ユニリーバ)の宣伝ポスターではないかー!
石鹸の宣伝なので布袋さまの背中がものすごい泡立ってる。あと混浴なんですね…。
暁翠の神々の絵もたいへん素敵で、「観音菩薩像」はするりと腰かけた坐像で美しいし
波のしぶきに打たれる岩に腰かけた「不動明王図」は成田山の石川大上人に開眼供養を受けたらしい。
あと「立雛図」、小さな内裏雛がこぢんまりと立っていてかわいらしい図です。
「美人を驚かす内裏雛」はお内裏様が晴れ着を着た女性(持ち主でしょうか)に向かってアカンベーをして
女性はびっくりしていて、お雛様は犬筥を抱えて大笑いをしているというユーモラスな作品。
遺品のコーナーは全部撮影可でした!!まじすか!!!
内容は前期展示と同じですがせっかくなのでじゃんじゃん撮ってしまいました。
とても全部は紹介しきれないので一部だけ載せます。

暁斎のお葬式に出された葬式饅頭600個の領収書。
末尾に「河なべ様」と書いてある。

暁斎の持ち物、百鬼夜行牙彫太刀鞘(部分)。
もう本当に装飾がみごとで見とれてしまいます…こんなん家に飾ってあったら最高ですな。

暁斎の百鬼夜行筆洗い。
こ、これで筆を洗うのもったいなさすぎる…!暁斎はなんてフレキシブルな人なんだろう。

暁斎が気に入っていたという、鬼とお福の猪口。
これ使ってお酒飲む暁斎を想像すると楽しくなってきますね。

田中弥生氏によるアイシングクッキー!これも撮ってOKでした。
もう何度見てもすごすぎる、カエルたちの住処というか天国というか、鳴き声が聞こえてきそうだよ。

蛙を眺める美人。

暁斎先生(コンドルのスケッチより)もいます。

新板かげづくし。

丸まった猫も。

風神雷神。すごいよまじアートだよ…!
そんな感じでクッキーを夢中で撮影していたところ、
背後から「こちらがアイシングクッキーです」という声が聞こえてきまして
何だろうと思って振り向いたら山口晃氏が学芸員の人と一緒に立っておられて
は!??!!?って声出るところでした。。
展示室を案内されていらっしゃったみたいで…足音にも気づかなかったから
わたしが撮影に夢中すぎたのか山口氏が静かに歩く方なのか…。
まさか講演会前にお見かけするとは思わなかったので不意を突かれました。いやはや。
(あと別のタイミングでわたしが展示室にいたら
河鍋楠美氏がやっぱりスタッフの方と一緒に展示室をスタスタ通り抜けていかれて
思わず目で追ってしまった)
そうして山口氏ご一行を見送って、わたしも展示室を出ると
そこがすぐ講演会会場のロビーだったのですが
すでに整理券を待つ長蛇の列ができていたので慌てて最後尾に並びました。

無事に整理券をもらえました。ホッ。

講演会は人が多すぎて立ち見も出る盛況ぶり。
ずっとファンだった山口晃氏をついにナマで見られると思うと緊張でしにそうでした。心臓がやばたにえん。
司会の方が「拍手でお迎えくださいー!」と振ると袖のカーテンの向こうからすっと手が出てカーテンをめくって
それが河鍋楠美氏を先に登壇させるための山口氏の手だったとわかったときに
妙なこそばゆさでテンションが無駄にあがりました。レディファーストの男・山口晃!
しかし司会の方が引っ込んでしまうと、途方に暮れてしまわれたのか(そりゃそうだ)
「ええとこれは…勝手にやっていいということでしょうか…」とお小さい声でおっしゃったのが
ちょっとかわいかったです。
(実際、司会さんは本当に出てこなかったのでおふたりで好き勝手に話すハメになった)
山口氏は薄ピンクのシャツにベージュのジャケット、楠美氏は明るい青の着物に白い帯姿で
ステージ上はスライドを投影する他はホワイトボード(主に山口氏用)がひとつ。→こんな感じ
おふたりがユーモアあふれるワードを連発するので会場は常に爆笑につつまれて
終始なごやかな雰囲気でした。
「河鍋楠美先生と山口でございます」という、山口氏のかわいらしい挨拶に始まり
楠美氏による「暁斎は"ギョウサイ"ではなく"キョウサイ"でございます、覚えて帰ってね」という、
いつものお話からスタート。
(このとき後ろにあったホワイトボードに山口氏が大きく「ギョウ→キョウ」と書かれてた)
「戦前は暁斎と暁翠が有名すぎて、子どもの頃は名字を聞かれてあの有名なって言われるのが嫌だった」と
おっしゃる楠美氏、
「でも狩野派と違って暁斎は戯画でもなんでも注文されれば描いた人なので
本画の絵師としての評価がされず、戦後はパーッと忘れ去られてしまった」ともおっしゃいました。
山口氏が『ヘンな日本美術史』で暁斎のことを評価しているのを読まれたそうで
「プロの方は『暁斎を継ぐのは山口さん』とおっしゃるわね」などとおっしゃると
山口氏が「ああ、恐れ入ります、かしこまりました…ハードルが2mくらい高くなりました…」とか
やっぱりお小さい声でおっしゃるから笑ってしまった。
「暁斎はお酒が入るとリミッターが外れるので2~3分で描いた席画などは落款が酔っぱらってる」とか
「その場で1000枚描くと言って、でも200枚くらいしか描けなかったですけど」というお話も
おもしろかったです^^
(しかし山口氏は「200枚…!」と小さく戦慄されていた)
新富座の妖怪引幕の話で「山口先生だったら描けるでしょ、4時間で」とか急にふっかけられて
しどろもどろになった山口氏が「いやいや…でもどうかなって思う自分がいて…一度やってみたいです」と
おっしゃったのをとても喜んで「描いてもらったら並べましょう」とすっかり乗り気になっておられるのが
かわいかったけどさすがだなと思いました。
「暁斎は戯画を書いたので下品と言われるけど、作品はとても上品。
だから色んな人が欲しがって、日記に似顔絵を描いたら描かれた人が全部持って行ってしまったし
うちには全然集められていない。
皆さんのお家の奥にもし暁斎の落款のものが見つかったらゴミに出す前に持ってきてください」と
笑いながらおっしゃっていたけど、これ割と切実な問題ですよな…
お心当たりのある方はぜひ河鍋家にご一報を。
お祖母様の暁翠についても「私がふざけて絵の上に墨をひっくり返したときも
大人たちはどきどきしてるけど祖母はまた描けばいいじゃない?と笑う人で、
怒った顔を見たことがなくてお弟子さんも女子美の教え子も叱られたことがほぼなくて
…そういう人でした」としみじみおっしゃるのもよかったし
「だから暁翠の批評や悪口を見つけたら教えてね☆」っていうのもユーモアありすぎて笑った。
河鍋親子については評価軸を外国に任せてきた部分があるので
(外国では暁斎展は本画も素描の展示も普通に開催されるらしい)、
理性的か感覚的かの議論も含めてある程度言葉で語れるところへもっていけたらいいですね、とは
山口氏の対談締めくくりの言葉。
暁斎の技法や暁翠の色彩についてボードに絵を描きながら語る山口氏の熱量がすごい。
勢いがよすぎて時々ホワイトボードがバタンとひっくり返りそうになったりペンがうまく描けなかったり
慌てふためきながらも「つかみはオッケーです」「書けない」「…消えない!」とか
つぶやきながら描かれていて会場にずっとクスクス笑いがあふれていました。
暁斎のガイコツデッサンについて説明しようと頭蓋骨をボードにささっと描いたら
楠美氏から「暁斎は骨の数もきちんと正しく描きました」という言葉がふいに飛ばされたので
ペンが止まって「…急に自信がなくなってまいりました…」とかシュンとされながらも
がんばって描いてあれこれ持論を説明してくださったので、
恐れ多いですが何だか肩ポンしてさしあげたくなりました。
山口氏によると河鍋親子の絵を比べたとき暁翠の方が三次元的で暁斎は二次元的に見える、とのこと。
暁斎は着衣方法で描くけど、そこには必ずしもガイコツが必要というわけではなくて
絵を三次元までもっていくことはしない、絵を死なせないギリギリのラインを保っているらしい。
と、ここで養老孟司氏による暁斎評(常に骨格を意識して描いていた的な)を思い出したらしく
「…いや、別に養老先生をDisっているわけでは…」とお小さい声でおっしゃったのが
やっぱり笑ってしまって、大丈夫ですよわかってますよってやっぱり肩ポンしたくなった。
とにかく三次元ギリギリの二次元っていうことを説明したかったらしくて
そこで山口氏、何を思ったかホワイトボードにチェブラーシカを描き始めまして(!)
本当はチェブではなくノルシュテインのはりねずみを描きたかったらしいんだけど、
要するに暁斎はデッサン的な描き方をしないとおっしゃりたかったみたい。
急に想定外のことをなさるように見えるけど、氏の中ではきちんと筋道が立っているんだよね。
学生時代に暁斎の絵を見たときは「まあなんて世をすねた奴」という感想だったそう(笑)。
(対談が始まる前に楠美氏から「遠慮なくけなしてください」と言われていたらしいですが
言いたいことを言いつつも終始楠美氏を気にしてらっしゃった)
山口氏はどちらかというと暁斎の完成品よりも下絵がお好きだそうです。
外国に行くと素描展をよく見かけるけど、日本ではあまりそういうのは人気がなくて開催されないので
「もっと開催されたらいい。画家としては下絵が見たいですね」と。
下絵は完成品よりも画家が見ている部分が深いというか、
本画として完成させる過程でどうしても型についてしまうきらいがあるというか
最初に紙に描かれた1回目の筆、即興さ、あがく生々しさなどが最も現れているのではないか、
「僕は下絵より生き生きした本画を描けたことがないんです」とおっしゃる山口氏に
首がもげるほど頷きました……わかる、めっちゃわかる。。
下書きでうまく描けたと思ってもペン入れするとあれ…?てなること、よくありますよね。
暁斎の瓜盗人をスライドで見ながら「肌の色は主線の墨が乾かないうちに3筆で入れてる」と
技法と技術に感心しながらも
「とても安定感があってフィギュアにしたら立つような重心の正確さ」にも驚いたそう。
フィギュアにしたら立つっていうのは過去にもおっしゃっていたけど
それと筆の速さを両立させてしまうのが暁斎のすごいところかもしれないね。
あと、天狗之集会図のスライドで「この木の幹の安定、わかりますか?アンドゥトロワですよ!」とか
暁斎のタッチのリズムまで想像してテンション高くなってるのも笑っちゃったし、
そんな山口氏を楠美氏が終始ニコニコしながら眺めておられることにようやく気付いて
「ハッ…(;゙゚ω゚)河鍋先生が全然しゃべってないですね……」と慌てふためいてるのかわいかった。
いまさら!?(笑)
大学でデッサンを教えていらっしゃるせいもあるかもだけど、語りだすと夢中になってしまうんだろうなあ。
「……暁翠さんのお話をしましょうか!」という山口氏の提案(笑)で楠美氏による暁翠のお話。
22歳で父親が亡くなり、展覧会に絵を出品して認められ、結婚・出産・家事をこなしつつ描き続けながら
弟子たちや生徒たちを指導していたようです。
人に「何派ですか」と問われると「狩野派」と即答するくらいには自分のルーツに自覚的だったらしい。
暁斎からのお手本「柿に鳩図」をホワイトボードに描きながら
暁翠のタッチについて身振り手振りで説明する山口氏、
「暁斎は、たとえば例の鴉は安定感があり木の幹も一筆ですが
暁翠さんは個人的にはどうものっぺりとして座りが流れるといいますか…
でも色を選ぶセンスは抜群でピタっとハマります。
暁翠の赤とか、すばらしいですよね。暁斎の赤はぶつかってくる気がします」との評を。
えげつなく決まってる構図の暁斎、色彩感覚が飛びぬけた暁翠というのは
わたしも前から薄々感じていたことだったのでわかるわ~ってなりました。
(楠美氏によると暁翠は(暁斎もだけど)自作の評価を書き残していないようです)
また、2人の教育方法について、暁斎は絵をペッと渡しておしまいだけど
暁翠は、まあ女子美の教員だったというのもあると思いますけど一から懇切丁寧に教える人だったと。
そこでまた山口氏の画家魂に火がついたらしく、
「暁斎の、絵を渡したり描いて盗めというのはとてもすごくて、
先生の絵を真似できないというのはものすごく悔しいことで、そういうときはけだものの目になるんです。
現代の大学では先生たちはあまり人前では描かないみたいですけど、それはとてももったいない。
先生が描くとき、しかも目の前で描いてくれるというのはものすごい情報量がある。
墨の付け方手の動かし方、線の引き方、なんとかして盗もうとするし
ああこうすれば、そう描けばよかったのかという、先生と生徒の共振があるんです」と
もう本日何度目かわかりませんが名言を出されました。わかるよ、わかるわー!
席画をやっていた暁斎はいくらでも人前で描いたし、
暁翠も書画会で絵を求められると「ここでは難しいんだけど」と言いつつその場でバンバン描く人だったと
楠美氏が補足なさると、山口氏も
「商業と個性がまだ分かれていない時代の職人的な芸術家ですね」とおっしゃっておられました。
氏はこういうときの言葉が本当に的確ですな。
後で知ったのですがこの講演会、ネット中継されていたみたいで
富士美のアカウントにアーカイブが残っているので見られる環境の方はどうぞ~。→こちら
講演会の後には楠美氏による著書『河鍋暁斎・暁翠伝』へのサイン会が行われまして
せっかくなのでショップで買ってサインいただきました!
筆でさらさらっと書いてくださって、すごい…めっちゃ字が美しかったです。はわわわわ。
この方のご先祖が暁斎・暁翠なんだと思うと楠美氏の向こうに江戸時代を見た気がして
むやみにムズムズしてしまいました。あととにかく楽しかったのでお礼が言えたのがよかった。
隣にいらした山口氏にも展覧会行ってますとか墨田の達磨見に行きました的なことを
豆腐メンタルを振り絞ってお伝えしましたらば
「ああそれは…何もかもお見通しなのですね…」と恐縮されてしまった。。あわわ。
いやいやいや楽しませていただいてますから!とお返ししたら
「ありがとうございます。がんばります」と丁寧に頭を下げてくださいました。
とにかく「応援しています」ということをお伝えしたくて、何とかお伝えできてお礼まで言っていただけるなんて
しかも御好意で一緒に写真を撮ってくださった\(^o^)/今日は善き日!

河鍋楠美氏が登壇される日だけ販売されるアイシングクッキー☆
前回は猫又を買ったので今日はカエルをげっと。
一つ一つ手作りなので形や表情が微妙に違っていて
どの子をお持ち帰りしようかなと売り場で悩んだのですが目が合ったこの子にしました。
睫毛パッチリ、手にした紫陽花もきれいだ^^
前期展示は4月に行きましたが、後期にかなりの展示替えがあると聞いたので
やっぱりナマで全部見たかったのと、
この日は河鍋楠美氏と山口晃氏の対談講演会があってものすごく聞きたかったし!
富士美の講演会を聴くには当日配布される整理券をゲットしなければならないのと
さらに今回は山口氏がいらっしゃるとなれば朝から混むだろうなと思って
いつもより早く家を出て美術館に着きましたらば。

なん…だと…!?щ(゚д゚щ)☆
前回はなかった撮影可能ゾーンができていました~ありがとうございます!
SNSアップもOKと書いてくれてるのマジで有難い、
入口の出品作品リストが置いてある台の隣に撮影OKリストも置いてあって
その名も「SNSスポット」って書いてあって笑ってしまった。
あんまりうれしかったのと、整理券の配布が始まる時間まではまだ余裕があったので
いてもたってもいられず展示室に飛び込んでSNS Spotマークを探しましたらば。

こ、この作品を撮影してよいですと…!?「枯木寒鴉図」。暁斎が百圓の値をつけたカラス。
暁斎の出世作を画像でお持ち帰りしてよいという、美術館なのか企画側なのか、どこのご厚意かわかりませんが
どうもありがとうございました。
あとこの絵を勧業博に出して妙技二等賞とった時の牌とか賞状も撮影可でしたよ。
この他にも撮影可の作品がたくさんありましたので撮ってきましたよ~。
以下、写真が多いのでたたんであります↓クリックで開きますのでどうぞ☆

暁斎「郭子儀図の下絵」。
紙を切り張りして何度も描き直した跡が見てとれます。
この下絵は河鍋暁斎記念美術館の所蔵で、
同館は河鍋家のご実家でもあるので暁斎の下絵がたくさん保管されているそうです。
他にも、七福神耕作図(布袋が苗を持ち弁才天が植え、恵比寿と大黒天が稲刈り、寿老人が秋を運ぶ図)とか
群猫百態図(無数の猫たちの背中にカウント用と思われる数字が書いてある)とかも展示されておりまして
これらの完成品はどうなっていたのか想像するのも楽しい。

郭子儀図の完成図。
すごく堅実に、色とかも細部までしっかり仕上げているから
このときの暁斎はたぶん狩野派モードにスイッチを切り替えてる。
前期に展示されていた狩野益信(探幽の養子)から繋がる系譜ですな…。
そういえば今期は当時の参考作品として長沢蘆雪の花鳥図も展示されていたけど
桃の花に鶯がとまっているきれいな小品でした。

暁斎「猫を抱く美人」。
遊女だと思いますが真っ赤な着物がとてもモダンだし、背後の牡丹もきれい。
抱かれている猫がく~~っと前足を伸ばしているのもかわいい。

暁斎「横たわる美人と猫」。
何やらじっとしている猫を見つめる女性、何を考えているのかな…。
表情とか雰囲気が、なんとなく前期に展示されていた「美人観蛙戯図」の娘さんに通じるような気がする。
あ。カエル絵は後期もばっちりありました!
「河鍋暁斎狂画巻」より、カエルがなめくじに騎乗してヤッホーとかやってる図。かわいい。
猫の絵は他にも展示されていまして、
「群猫釣鯰図」は木の上に群がった猫たちが池の鯰を釣りあげようとしていて
みんなお揃いの赤い首輪してたり、ボスっぽい猫が采配を振るっていたりしておもしろかった。
(猫の皮は三味線に使われるので芸者を、鯰は黒いので紋付の官僚をあらわす風刺画でもあるそうな)
団扇絵の「眠り猫」はすやすや眠っている猫のアップで、顔も毛並みもふわふわリアルで
戯画というより本画っぽくて猫がすごく気持ちよさそうなのが伝わってきた!
他にも生首を咥えた狼の絵「月に狼」とか(画鬼暁斎展でも見ました)、
鶴図屏風や動物図巻など様々な動物の作品が展示されています。
あと前期に川越の内田斧右衛門さんの家で描いたという寒山拾得図を見たけど
今期も同じく川越の内田さんの家で描いた「岩上の鷲図」という掛軸がありました。
こんなに大きな絵を描いてもらうなんて何者なんだろうな川越の内田さん…気になる。

暁斎「七福神書画会図」。
同時代に活躍した画家や書家たちとの合作です。
暁斎は七福神たちを担当。みんな思い思いに絵を描いていて楽しそう^^
他に神々を描いた作品としては白衣観音図やお多福像、日本神話の絵などがありました。
「龍神に観音図」の双幅は観音様が滝の中からザバーッとお姿を現した瞬間のようで神々しかったし
「風神雷神図」は二柱が空を疾駆しながら雷と風をぶちまける様子がダイナミックに描かれていて
まるで音まで聞こえてくるようなド迫力。
琳派の絵が有名なせいか雷神の体は白のイメージですが、暁斎の描く雷神は赤くてこちらもかっこいい。
ちなみに風神の体は琳派と同じ緑色でしたが、
「富士に船出、風神図」の風神の体はほのかに赤いのでずっと緑に塗っていたとは限らないみたい。
風神が空から舟の帆に風を送り、船上では神楽舞が奉納されているおめでたい図でした。
「走る恵比寿・大黒天」の掛軸は酒をすすめる大黒天から恵比寿が「いらない」って逃げる様子だそうですが
二柱がちょっとおもしろい笑顔なので
「あはは~わたしを捕まえてごらんなさ~い☆」「あはは~こいつぅ☆」的な図にも見えなくもない。
神々だけではなく妖怪絵もあって、
「桃太郎鬼征伐之図」は片方の掛軸には鎧に身をつつんだ桃太郎と動物たちが
おっかない顔で陣取っていて、
もう片方の掛軸には、たぶんもう負けたのでしょうね、しょんぼりした鬼たちが描かれていました。
女性の鬼は泣きじゃくる子鬼を抱いていたりして、
一見すると征服者の方が悪者に見えるのが暁斎の描き方。
「妖怪図屏風」は擂り鉢、すりこ木、瓢箪、「すずカ森」と書かれた破れ提灯などがぐるりと描かれて
おそらく長生きして魂を持った付喪神たちなのかな?みんな表情が無邪気でかわいかったです^^

通期展示の「電信柱」。
河鍋楠美氏が4月の講演会で「こんなの2秒で描いてる」とおっしゃっていたのを思い出しますが
暁斎はここに至るまでずっと描いてきてるわけですからその年月+2秒だと思うよ…。
たった数本の線で電柱ってわかるもんなあ、表現力。

暁翠「羽衣」。
キービジュアルで見かけて、なんてかわいいんだと思っていたので撮影できてうれしい。

暁翠「百猩々」。
舞ったりお酒を飲んだり碁を打ったり琴をつまびいたり絵を眺めたり、
思い思いに過ごす猩々たちは表情も仕草も全部違っています。
能狂言の作品は、暁斎も暁翠も経験者だからだと思いますが
役者の立ち振る舞いも舞台設定も衣装や小物もものすごくきちんと描いてあって
取材もしたろうけど息を吸うように描いてる感じもするな…。
暁斎の「三番叟」とか、タッチが全然リアルじゃないのに役者の動きが見えるからすごい。
あとこれ、軸先が加納夏雄(帝室技芸員)だそうです。うっそ刀の鍔とか作ってた彼かよ!交流関係ェ(´Д`)
「節分」は女性に一目ぼれした鬼が笠をかぶって角を隠して会いに行く狂言ですが
鬼も女性も筆跡が思いっきり見えるタッチで大津絵みたいな雰囲気。
…かと思えば、たぶん席画だと思うんですけど明らかにふざけて描いた絵もあって
瓜盗人や膏薬練はタッチみてもそうですけどお酒入ってると思います(笑)。
でも人物が何やってるかはわかるからつぶれて描いたわけでもなさそうだよな。
大蔵流の末広がりの下絵、果報者を演じる役者の着物が大根柄なの絶対狙って描いただろー!
一見、まじめな絵でも仕掛けをほどこしてしまうのは暁斎の癖なのかもしれません。
暁翠の「高砂図」、暁斎もですがよくある高砂図は翁と媼が向かい合ったり一緒に同じ方向を見てるものが多いけど
この高砂図は2人が仲良く熊手を持って一緒に砂浜をかいていました。かわいい^^

暁斎「柿に鳩図」。
5歳の暁翠に与えたお手本で、暁翠はどうしてもうまく模写できずに泣いたんだよね。
でもお父さんのように描けないというのは、たぶんそれが暁翠の個性だったんだろうと思う。

暁斎・暁翠の合作「十二ヶ月年中行事之図」。
強飯式、闘鶏、鍾馗様を踏み台に藤の花を手折る女性、七夕の花扇、放生会、狂言など
古くからの宮中行事やファンタジーなどが入り混じって描かれています。

暁翠「百福の宴」。お福さんが100人います。
一人ずつ挨拶していたのが襖の向こうにはズラーッと並んでしまっている、という図(笑)。
美人画は他にも「払子を持つ美人」や「江口の君」などがありました。
「猫と遊ぶ二美人」は暁斎の下絵に色をつけたもので
鞠にじゃれる猫がとってもかわいいし、抱っこされてる猫も幸せそう^^
「祇王と仏御前」の絵が特にきれいで、祇王のいる寺(おそらく祇王寺)を訪ねた仏御前を
門前で祇王が出迎えるというドラマのワンシーンのような作品。
「そのせつは」「あらあら…」みたいな会話が聞こえてくるかのようでした。

暁翠「七福神入浴図」。
おおこれは、日本リーバ(現ユニリーバ)の宣伝ポスターではないかー!
石鹸の宣伝なので布袋さまの背中がものすごい泡立ってる。あと混浴なんですね…。
暁翠の神々の絵もたいへん素敵で、「観音菩薩像」はするりと腰かけた坐像で美しいし
波のしぶきに打たれる岩に腰かけた「不動明王図」は成田山の石川大上人に開眼供養を受けたらしい。
あと「立雛図」、小さな内裏雛がこぢんまりと立っていてかわいらしい図です。
「美人を驚かす内裏雛」はお内裏様が晴れ着を着た女性(持ち主でしょうか)に向かってアカンベーをして
女性はびっくりしていて、お雛様は犬筥を抱えて大笑いをしているというユーモラスな作品。
遺品のコーナーは全部撮影可でした!!まじすか!!!
内容は前期展示と同じですがせっかくなのでじゃんじゃん撮ってしまいました。
とても全部は紹介しきれないので一部だけ載せます。

暁斎のお葬式に出された葬式饅頭600個の領収書。
末尾に「河なべ様」と書いてある。

暁斎の持ち物、百鬼夜行牙彫太刀鞘(部分)。
もう本当に装飾がみごとで見とれてしまいます…こんなん家に飾ってあったら最高ですな。

暁斎の百鬼夜行筆洗い。
こ、これで筆を洗うのもったいなさすぎる…!暁斎はなんてフレキシブルな人なんだろう。

暁斎が気に入っていたという、鬼とお福の猪口。
これ使ってお酒飲む暁斎を想像すると楽しくなってきますね。

田中弥生氏によるアイシングクッキー!これも撮ってOKでした。
もう何度見てもすごすぎる、カエルたちの住処というか天国というか、鳴き声が聞こえてきそうだよ。

蛙を眺める美人。

暁斎先生(コンドルのスケッチより)もいます。

新板かげづくし。

丸まった猫も。

風神雷神。すごいよまじアートだよ…!
そんな感じでクッキーを夢中で撮影していたところ、
背後から「こちらがアイシングクッキーです」という声が聞こえてきまして
何だろうと思って振り向いたら山口晃氏が学芸員の人と一緒に立っておられて
は!??!!?って声出るところでした。。
展示室を案内されていらっしゃったみたいで…足音にも気づかなかったから
わたしが撮影に夢中すぎたのか山口氏が静かに歩く方なのか…。
まさか講演会前にお見かけするとは思わなかったので不意を突かれました。いやはや。
(あと別のタイミングでわたしが展示室にいたら
河鍋楠美氏がやっぱりスタッフの方と一緒に展示室をスタスタ通り抜けていかれて
思わず目で追ってしまった)
そうして山口氏ご一行を見送って、わたしも展示室を出ると
そこがすぐ講演会会場のロビーだったのですが
すでに整理券を待つ長蛇の列ができていたので慌てて最後尾に並びました。

無事に整理券をもらえました。ホッ。

講演会は人が多すぎて立ち見も出る盛況ぶり。
ずっとファンだった山口晃氏をついにナマで見られると思うと緊張でしにそうでした。心臓がやばたにえん。
司会の方が「拍手でお迎えくださいー!」と振ると袖のカーテンの向こうからすっと手が出てカーテンをめくって
それが河鍋楠美氏を先に登壇させるための山口氏の手だったとわかったときに
妙なこそばゆさでテンションが無駄にあがりました。レディファーストの男・山口晃!
しかし司会の方が引っ込んでしまうと、途方に暮れてしまわれたのか(そりゃそうだ)
「ええとこれは…勝手にやっていいということでしょうか…」とお小さい声でおっしゃったのが
ちょっとかわいかったです。
(実際、司会さんは本当に出てこなかったのでおふたりで好き勝手に話すハメになった)
山口氏は薄ピンクのシャツにベージュのジャケット、楠美氏は明るい青の着物に白い帯姿で
ステージ上はスライドを投影する他はホワイトボード(主に山口氏用)がひとつ。→こんな感じ
おふたりがユーモアあふれるワードを連発するので会場は常に爆笑につつまれて
終始なごやかな雰囲気でした。
「河鍋楠美先生と山口でございます」という、山口氏のかわいらしい挨拶に始まり
楠美氏による「暁斎は"ギョウサイ"ではなく"キョウサイ"でございます、覚えて帰ってね」という、
いつものお話からスタート。
(このとき後ろにあったホワイトボードに山口氏が大きく「
「戦前は暁斎と暁翠が有名すぎて、子どもの頃は名字を聞かれてあの有名なって言われるのが嫌だった」と
おっしゃる楠美氏、
「でも狩野派と違って暁斎は戯画でもなんでも注文されれば描いた人なので
本画の絵師としての評価がされず、戦後はパーッと忘れ去られてしまった」ともおっしゃいました。
山口氏が『ヘンな日本美術史』で暁斎のことを評価しているのを読まれたそうで
「プロの方は『暁斎を継ぐのは山口さん』とおっしゃるわね」などとおっしゃると
山口氏が「ああ、恐れ入ります、かしこまりました…ハードルが2mくらい高くなりました…」とか
やっぱりお小さい声でおっしゃるから笑ってしまった。
「暁斎はお酒が入るとリミッターが外れるので2~3分で描いた席画などは落款が酔っぱらってる」とか
「その場で1000枚描くと言って、でも200枚くらいしか描けなかったですけど」というお話も
おもしろかったです^^
(しかし山口氏は「200枚…!」と小さく戦慄されていた)
新富座の妖怪引幕の話で「山口先生だったら描けるでしょ、4時間で」とか急にふっかけられて
しどろもどろになった山口氏が「いやいや…でもどうかなって思う自分がいて…一度やってみたいです」と
おっしゃったのをとても喜んで「描いてもらったら並べましょう」とすっかり乗り気になっておられるのが
かわいかったけどさすがだなと思いました。
「暁斎は戯画を書いたので下品と言われるけど、作品はとても上品。
だから色んな人が欲しがって、日記に似顔絵を描いたら描かれた人が全部持って行ってしまったし
うちには全然集められていない。
皆さんのお家の奥にもし暁斎の落款のものが見つかったらゴミに出す前に持ってきてください」と
笑いながらおっしゃっていたけど、これ割と切実な問題ですよな…
お心当たりのある方はぜひ河鍋家にご一報を。
お祖母様の暁翠についても「私がふざけて絵の上に墨をひっくり返したときも
大人たちはどきどきしてるけど祖母はまた描けばいいじゃない?と笑う人で、
怒った顔を見たことがなくてお弟子さんも女子美の教え子も叱られたことがほぼなくて
…そういう人でした」としみじみおっしゃるのもよかったし
「だから暁翠の批評や悪口を見つけたら教えてね☆」っていうのもユーモアありすぎて笑った。
河鍋親子については評価軸を外国に任せてきた部分があるので
(外国では暁斎展は本画も素描の展示も普通に開催されるらしい)、
理性的か感覚的かの議論も含めてある程度言葉で語れるところへもっていけたらいいですね、とは
山口氏の対談締めくくりの言葉。
暁斎の技法や暁翠の色彩についてボードに絵を描きながら語る山口氏の熱量がすごい。
勢いがよすぎて時々ホワイトボードがバタンとひっくり返りそうになったりペンがうまく描けなかったり
慌てふためきながらも「つかみはオッケーです」「書けない」「…消えない!」とか
つぶやきながら描かれていて会場にずっとクスクス笑いがあふれていました。
暁斎のガイコツデッサンについて説明しようと頭蓋骨をボードにささっと描いたら
楠美氏から「暁斎は骨の数もきちんと正しく描きました」という言葉がふいに飛ばされたので
ペンが止まって「…急に自信がなくなってまいりました…」とかシュンとされながらも
がんばって描いてあれこれ持論を説明してくださったので、
恐れ多いですが何だか肩ポンしてさしあげたくなりました。
山口氏によると河鍋親子の絵を比べたとき暁翠の方が三次元的で暁斎は二次元的に見える、とのこと。
暁斎は着衣方法で描くけど、そこには必ずしもガイコツが必要というわけではなくて
絵を三次元までもっていくことはしない、絵を死なせないギリギリのラインを保っているらしい。
と、ここで養老孟司氏による暁斎評(常に骨格を意識して描いていた的な)を思い出したらしく
「…いや、別に養老先生をDisっているわけでは…」とお小さい声でおっしゃったのが
やっぱり笑ってしまって、大丈夫ですよわかってますよってやっぱり肩ポンしたくなった。
とにかく三次元ギリギリの二次元っていうことを説明したかったらしくて
そこで山口氏、何を思ったかホワイトボードにチェブラーシカを描き始めまして(!)
本当はチェブではなくノルシュテインのはりねずみを描きたかったらしいんだけど、
要するに暁斎はデッサン的な描き方をしないとおっしゃりたかったみたい。
急に想定外のことをなさるように見えるけど、氏の中ではきちんと筋道が立っているんだよね。
学生時代に暁斎の絵を見たときは「まあなんて世をすねた奴」という感想だったそう(笑)。
(対談が始まる前に楠美氏から「遠慮なくけなしてください」と言われていたらしいですが
言いたいことを言いつつも終始楠美氏を気にしてらっしゃった)
山口氏はどちらかというと暁斎の完成品よりも下絵がお好きだそうです。
外国に行くと素描展をよく見かけるけど、日本ではあまりそういうのは人気がなくて開催されないので
「もっと開催されたらいい。画家としては下絵が見たいですね」と。
下絵は完成品よりも画家が見ている部分が深いというか、
本画として完成させる過程でどうしても型についてしまうきらいがあるというか
最初に紙に描かれた1回目の筆、即興さ、あがく生々しさなどが最も現れているのではないか、
「僕は下絵より生き生きした本画を描けたことがないんです」とおっしゃる山口氏に
首がもげるほど頷きました……わかる、めっちゃわかる。。
下書きでうまく描けたと思ってもペン入れするとあれ…?てなること、よくありますよね。
暁斎の瓜盗人をスライドで見ながら「肌の色は主線の墨が乾かないうちに3筆で入れてる」と
技法と技術に感心しながらも
「とても安定感があってフィギュアにしたら立つような重心の正確さ」にも驚いたそう。
フィギュアにしたら立つっていうのは過去にもおっしゃっていたけど
それと筆の速さを両立させてしまうのが暁斎のすごいところかもしれないね。
あと、天狗之集会図のスライドで「この木の幹の安定、わかりますか?アンドゥトロワですよ!」とか
暁斎のタッチのリズムまで想像してテンション高くなってるのも笑っちゃったし、
そんな山口氏を楠美氏が終始ニコニコしながら眺めておられることにようやく気付いて
「ハッ…(;゙゚ω゚)河鍋先生が全然しゃべってないですね……」と慌てふためいてるのかわいかった。
いまさら!?(笑)
大学でデッサンを教えていらっしゃるせいもあるかもだけど、語りだすと夢中になってしまうんだろうなあ。
「……暁翠さんのお話をしましょうか!」という山口氏の提案(笑)で楠美氏による暁翠のお話。
22歳で父親が亡くなり、展覧会に絵を出品して認められ、結婚・出産・家事をこなしつつ描き続けながら
弟子たちや生徒たちを指導していたようです。
人に「何派ですか」と問われると「狩野派」と即答するくらいには自分のルーツに自覚的だったらしい。
暁斎からのお手本「柿に鳩図」をホワイトボードに描きながら
暁翠のタッチについて身振り手振りで説明する山口氏、
「暁斎は、たとえば例の鴉は安定感があり木の幹も一筆ですが
暁翠さんは個人的にはどうものっぺりとして座りが流れるといいますか…
でも色を選ぶセンスは抜群でピタっとハマります。
暁翠の赤とか、すばらしいですよね。暁斎の赤はぶつかってくる気がします」との評を。
えげつなく決まってる構図の暁斎、色彩感覚が飛びぬけた暁翠というのは
わたしも前から薄々感じていたことだったのでわかるわ~ってなりました。
(楠美氏によると暁翠は(暁斎もだけど)自作の評価を書き残していないようです)
また、2人の教育方法について、暁斎は絵をペッと渡しておしまいだけど
暁翠は、まあ女子美の教員だったというのもあると思いますけど一から懇切丁寧に教える人だったと。
そこでまた山口氏の画家魂に火がついたらしく、
「暁斎の、絵を渡したり描いて盗めというのはとてもすごくて、
先生の絵を真似できないというのはものすごく悔しいことで、そういうときはけだものの目になるんです。
現代の大学では先生たちはあまり人前では描かないみたいですけど、それはとてももったいない。
先生が描くとき、しかも目の前で描いてくれるというのはものすごい情報量がある。
墨の付け方手の動かし方、線の引き方、なんとかして盗もうとするし
ああこうすれば、そう描けばよかったのかという、先生と生徒の共振があるんです」と
もう本日何度目かわかりませんが名言を出されました。わかるよ、わかるわー!
席画をやっていた暁斎はいくらでも人前で描いたし、
暁翠も書画会で絵を求められると「ここでは難しいんだけど」と言いつつその場でバンバン描く人だったと
楠美氏が補足なさると、山口氏も
「商業と個性がまだ分かれていない時代の職人的な芸術家ですね」とおっしゃっておられました。
氏はこういうときの言葉が本当に的確ですな。
後で知ったのですがこの講演会、ネット中継されていたみたいで
富士美のアカウントにアーカイブが残っているので見られる環境の方はどうぞ~。→こちら
講演会の後には楠美氏による著書『河鍋暁斎・暁翠伝』へのサイン会が行われまして
せっかくなのでショップで買ってサインいただきました!
筆でさらさらっと書いてくださって、すごい…めっちゃ字が美しかったです。はわわわわ。
この方のご先祖が暁斎・暁翠なんだと思うと楠美氏の向こうに江戸時代を見た気がして
むやみにムズムズしてしまいました。あととにかく楽しかったのでお礼が言えたのがよかった。
隣にいらした山口氏にも展覧会行ってますとか墨田の達磨見に行きました的なことを
豆腐メンタルを振り絞ってお伝えしましたらば
「ああそれは…何もかもお見通しなのですね…」と恐縮されてしまった。。あわわ。
いやいやいや楽しませていただいてますから!とお返ししたら
「ありがとうございます。がんばります」と丁寧に頭を下げてくださいました。
とにかく「応援しています」ということをお伝えしたくて、何とかお伝えできてお礼まで言っていただけるなんて
しかも御好意で一緒に写真を撮ってくださった\(^o^)/今日は善き日!

河鍋楠美氏が登壇される日だけ販売されるアイシングクッキー☆
前回は猫又を買ったので今日はカエルをげっと。
一つ一つ手作りなので形や表情が微妙に違っていて
どの子をお持ち帰りしようかなと売り場で悩んだのですが目が合ったこの子にしました。
睫毛パッチリ、手にした紫陽花もきれいだ^^
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。 ジャンル : 学問・文化・芸術
NoTitle
- 2018/06/04(月) 08:31:00 |
- URL |
- kanayano
- [ 編集 ]
むしろ画伯とゆささんのツーショットというだけで私が垂涎なのですが…。
山口さんは、あんなに頭もいいし、顔もいいのに、すごく奥ゆかしくて、使われる言葉の選び方が秀逸で、
しかも息をするように線を引くから雲の上の人のようだと思います。
先日は本当に失礼しました。今回もドキドキしながらコメントします…>< うう、言葉って難しい。
Re: NoTitle
- 2018/06/07(木) 21:04:09 |
- URL |
- ゆさ
- [ 編集 ]
お話してしまいましたーー!!あの日は善き日!!!
写真は他にもお願いしてる人がいらっしゃったのでいいのかなあと思ってお願いしたら
まさかのツーショットで撮っていただけたという、
こんなことになるなんて1ミリも予想してなかったのでサプライズすぎました。
画伯のお話をナマで聴くのは初めてでしたが、本当に言葉選びが的確で
わかります!わかりみ!いいね!!ボタンを心の中で100連打くらいしてました。
ますますファンになったのでまた機会ありましたらお話聞きに行きたいです~☆
> 今回もドキドキしながら
いえいえいえいえわたしこそすみませんでした。
もっと意図を汲めるように精進しますのでこれからも遠慮せずコメントしてくださいね!
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