仏様たちのポーズ集。

三井記念美術館の「仏像の姿(かたち)-微笑む・飾る・踊る」展に行ってきました。
タイトルからして色んな仏像が見られるのかと思って楽しみだったし
サブタイが「仏師がアーティストになる瞬間」というものでさらに楽しみで、
でも三井さんだからてっきり「この時代の仏像はこういう流行で~」とか
「この仏具を持ってるからこれは〇〇仏だから~」とか、ごく安定した企画かと思っていたら
まあ確かにそういう面もあったのですけど
「この仏像って基本こうだよね!でもこういうポーズした像もあってね!さらにこんな像もあってね!」って
例外や異形をどっさり提示している内容になってて、それがとてもおもしろかったです。
全体的に展示数が少なめで小ぶりな仏像が多かったのですが、かえってじっくり鑑賞できてよかったし
三井さんは展示ケースの幅が狭いからかなり作品に近づいて鑑賞できるので大きく見える不思議。
トップバッターは迦陵頻伽立像。妙音とされる声で歌いながら舞い踊る姿が表現されています。
迦陵頻伽は直立不動の姿であらわされることが多いですけど
この像は満面の笑顔で衣装も思い切り振って、心の底からうれしそうに歌っているように見えました。
翼も衣の一部も失われていますがそんなの忘れてしまうくらい楽しそうだったし
何よりこれが一木造というのに驚かされる。
如来立像(どの如来かは不明)は、立つポーズそのものは一般的でしたが
五花形の蓮華座に乗っているのと梵字の円相つき光背を背負っているのは珍しいそうです。
運慶の孫康円による四天王天眷属立像は南方を守護する南方天の眷属像で
これも運慶展のときに本館で見たなあ、ご無沙汰しております。
改めて見ると武器(戟かな?)を持っていたようなポーズなんだな…
あと東博では見られなかった後ろ姿も見られてよかったです。衣に龍がいるのを初めて知った!
飛鳥時代の菩薩像と奈良時代の薬師如来像が並んでいてやっぱりこの頃の仏像は手に取れる大きさだなと思った、
薬師さんが右手をだらんと下げて足の衣を握っていたのが気になりました。あまり見たことのない表現。
(あとY字の衣紋の上にU字の衣紋を重ね着している姿も珍しいそうな)
金沢文庫の観音菩薩・勢至菩薩立像は少し前かがみになったお姿で合掌・蓮華を手にしていて
平安時代の十一面観音立像は右足をわずかに浮かせてこちらへ踏み出そうとしているような。
平安時代の菩薩像(どの菩薩かは不明)2軀はポーズからしておそらく楽器を持っていたのでしょうけど
楽器だけが失われて今に伝わるそうです。
平等院の雲中供養菩薩みたいな感じだったのだろうか。
鎌倉時代の不動明王立像が独特のポーズをとっていて
おもしろくて周りをグルグル回って鑑賞してしまいました。

こんなの。
歌舞伎の見得みたいですがこういうポーズであらわされる不動明王は珍しいな…
だいたい直立不動か座ってる場合が多いですものね。
衣に赤や緑の顔料、截金の文様が少し残っていてきれいだった。
東博所蔵の毘沙門天立像は過去に運慶展でも見たし東博常設展にもたまにいらっしゃるので
どうもどうも、お元気そうですねって感じでしたが
今回みたいなテーマの展覧会に展示されているとやはりお姿に注目せざるを得ない。
童子のようなふっくらしたお顔に左足に重心をかけて腰を落とすポーズ、
衣の色も少し残ってるんですよね。
春覚寺の地蔵菩薩立像の持つ錫杖の頭に小さな五輪塔が4つ付いてて、あれはなかなかいいものを見た。
東博の阿弥陀如来立像は右手を下げた所謂「逆手阿弥陀」で
この印相は来迎印であり、たった今極楽から成仏者を迎えにいらっしゃったお姿だそう。
台座の蓮華にはしっかりと5色が残っていて美しかったです。
観音寺の阿弥陀如来立像は、立ちポーズはスタンダードですが
足の裏に吉祥文様が朱書きしてあるというもの。(写真が展示してありました)
四天王寺の阿弥陀如来坐像&両脇侍像が色んな意味でものすごいインパクトがあって
阿弥陀如来の髪型が螺髪じゃなく総髪になっていたり
脇侍の聖観音と勢至菩薩が片方は左足を、片方は右足をそれぞれ体の後ろへヒョイと曲げていて
まるでケンケンパでも始めそうな造形なんですよ!
脇侍の両腕は後補のため本来この姿だったかどうかはわからないそうですが…なぜ足を上げたし。
このポーズに何か意味があるのか注文主の好みなのか仏師の遊び心なのか、気になります。おもしろい!
毘沙門天立像がいくつか並んでいて、藝大所蔵のは肥後定慶の作と判明しているらしいし
西遊寺の毘沙門天が踏む邪鬼は手に蛇を持っているし
誓願寺の毘沙門天は鎧が立体的に浮彫されている。
そして見事なまでに全員、右手に武器を持ち獅噛をつけ左足に重心をかけている!そこは共通しているんだな。
光照寺の持国天・多聞天立像はデザインの異なる甲冑をつけて
持国天の口の中には舌と歯並びが再現されていて細かいなと。
不動明王半跏像はよく見かけるポーズですが
眉間にものすごい皺を寄せて弁髪に下唇を噛んでいるから過渡期の制作かな…。
(一般的に不動明王の表現の特徴は平安時代前期は両眼を見開く・下唇を噛む・総髪ですが
それ以降は天地眼・弁髪・口元に牙をむく姿としてあらわされる例が多いのだそうな)
地蔵院(川口市)の不動明王立像は過去に金沢文庫の展示で見たなあ、
剣をかつぐ姿で屹立し髪が風になびいて、というか煽られて逆立っている造形なのがおもしろいのです。
金沢文庫の不動明王&二童子像の不動明王には前髪があります!明王なのに童子なのだろうか。
光背にはデフォルメされた金翅鳥がいて脇侍の矜羯羅と制多迦は手ぶらですがたぶん武器を持っていたんだろうな。
荘厳寺の釈迦如来立像は衣文線がとても美しくて
まるで水紋を表現したみたいな、流れるような衣がすばらしくて見とれました。
若王寺の如来立像はさっき見た薬師如来立像と同じく、右手を下げて衣を握っていました。
奈良博の五大明王像はそれぞれ躍動感があっておもしろくて、
特に軍荼利明王が、これ蔵王権現のポーズじゃないの、頭にガイコツ乗っけて右足だけで立ってる。
蔵王権現も見るたびに思うけどあれ一体全体どういうバランスで立ってるんだろ…仏師すごい。
同じく奈良博の十二神将立像もみんな動きを感じさせる造形で
何かしゃべったり怒鳴ったりしているような雰囲気。
同じく奈良博の伽藍神立像は走り大黒みたいなポーズで(過去にそう呼ばれた時期もあったらしい)
よーいドン!で今にも走り出しそうな生き生きとした表現がすばらしいです。
南北朝時代の雷神立像は凄まじい忿怒相で両手に撥をにぎり前のめりの姿で
恐ろしさが強調されているなと思いました。300年後の宗達とは全然違いましたね。
また、東京藝術大学文化財保存室の取り組みを紹介する展示もありました。
彫刻家の中村恒克氏(藝大卒)が光明院の菩薩半跏像を復元したものがあって
髪が青、体が赤で塗られた等身大の仏像は目が印象的でドキドキします。
原型は8世紀の一木造で、木芯を前方に外した木取りの方法が使われているそうですが
現代ではそれを再現できる大径木の入手が困難であるため二材をつないで一木に見立てたそうです。
昔の技術を再現したくても材料が手に入らないってよくあるからな…難しいですな。
藝大に在学中(博士課程)の人たちによる仏像の模刻品や修復品もありました。
奈良時代から鎌倉時代まで、様々な地域の様々な仏像の模刻に取り組んでいるそうです。
模刻にあたり原型を徹底的に研究した写真つきパネルが何枚も展示されていて、
そこに書かれた凄まじいまでの試行錯誤に圧倒される。
復元の途中でやり方が判明したので路線変更したり
現在は材料の性質からためらうような技法を、当時は何事もないようにあっさりやっていたりしたこともわかったそうで
過去の仏師が何を考え、どんな技術でそれらを作り上げたのかを追体験することもできるんですな。
また模刻は復元と現状復元の2種類があって
復元は制作された当時を、現状復元は現代に伝わる姿を観察して復元しています。
復元された唐招提寺の薬師如来立像や道明寺の十一面観音像、
中性院の弥勒菩薩像などはすっきりしてきれい。
興福寺の天燈鬼・龍燈鬼は体がそれぞれ赤・緑に塗られて獣の皮を穿いていて
しかも牙が水晶でできていたのでびっくりしてしまいました。
うお~、運慶展で見た彼らがこんなカラフルに!
東大寺俊乗堂の阿弥陀如来立像(快慶作)の復元は髪が青で体が金色で蓮華が緑のスーパー美しい立像で
快慶が作った当初はそりゃ綺麗だったよね、そうだよねって当たり前を思い出させてくれました。
なにより快慶に挑戦する心意気がすごいと思う。
というか現代の学生や仏師たちがこんな風に先人の仏像を見たり研究したり
場合によっては修理に立ち会ったりしながら学んで作品造りをしているのと同じように、
高村光雲も円空も院達も木喰も運慶も快慶も康慶も院助も定朝も、他の無数の名もなき仏師たちも
自分たちの技術を磨きながら当時の流行とか先人の技とか注文主の思いとか全部汲み取って
仏を木の中から彫り出していたのかなァと思うと胸が熱くなります。
「おまえ運慶になれ!」「うおぉおれは運慶になるぞJoJo~~!」的に注文主と一緒に盛り上がっちゃたりとか
逆に注文主に「〇〇が作ったみたいな感じでしくよろ!」とか軽くリクエストされて
「えっ…」って当惑することもあったかもしれないよね。
あんな難しいの作るの?おれが!?とか、今時流行ってないし前例もないよ大丈夫??みたいな
やりとりが歴史のどこかであったかもしれない。楽しい。
全体的に躍動感にあふれた作品が多かったように思います。
歌ったり踊ったり、ポーズ決めたり、じっと立ったり座ったりしていても髪や衣が風になびいているとかね。
仏像の普遍的なポーズだけじゃなく色んなポーズを知りたい方はこの展覧会楽しいんじゃないかと思う。
なんというか、マンガやイラストの教則本によくある
「〇〇のデッサンポーズ集」の仏像Ver.みたいなの作れそうだなと思いました。需要ありますかね。
あと、先日から池袋の三省堂にあるおふくわけカフェにて
ライターの石井ゆかりさんによる星ダイアリーコラボカフェが来月いっぱいまで行われていて
そこで販売される佐藤屋さんの和菓子がすばらしすぎるので行ってきました!

12星座和菓子と12星座ドリンク!
Twitterでカフェからのお知らせを見た瞬間、顔がSpace Catになったのが自分でもわかったし
「こ、これは何としても買いに行かねばならない…!」と拳を握りしめたのも覚えてますよ。
当日は早起きしてお店の開店と同時に飛び込みました。アホだ。

お店に着くまで「どれにしようかなあどれも綺麗だなあ素敵だなあ迷うなあ」と悶々と考えていたのですが
レジにて店員さんから「お持ち帰りできますよ」との情報を得るなり口をついて出たセリフは
「12種類1個ずつください」でした。大人買い!
左上から牡羊座(羊羹と寒天)、牡牛座(牛の角)、双子座(2つの水紋)、蟹座(銀箔の月と波)、
獅子座(ダンデライオン)、乙女座(緑のバラ)、天秤座(ふたつの玉)、蠍座(蠍の赤)、
射手座(矢羽)、山羊座(ヤギのいる草原)、水瓶座(甕の水滴)、魚座(透明な海底)。
牡羊座はリキュールが、双子座は柚子が、獅子座はレモンが入ってるし
山羊座は草からヤギの足元を、魚座は海底に泳ぐ魚たちを、
蟹座は月から蟹を連想させてるし(月の模様が蟹のハサミに見えるという言い伝えが南ヨーロッパ辺りにある)
もうどれを見てもアイディア満載で綺麗で美しい!
佐藤屋さんはチャレンジ精神が毎回すごい…こんな形?こんな発想!?っていつもびっくりする。
それが楽しみで新作が出るたび追いかけてしまいます。
(12月の聖者の行進(和菓子クリスマスケーキ)超絶たのしみです待ってます)
コラボは10月いっぱいなのでできたらドリンクも後で飲みにいこう~。

手毬のお月見うさぎ。
明日は中秋の名月ですね~天気予報ではいまいちのようですが雲の切れ間からでも見えるといいな。
うさぎうさぎ何見て跳ねる。十五夜お月様見て跳ねる。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。 ジャンル : 学問・文化・芸術
はじめまして
- 2018/09/24(月) 20:12:22 |
- URL |
- ヨリック
- [ 編集 ]
三井記念館ではとてもいい企画の展示会がありますね。
ときどきチェックを入れておりますが今回のは見逃しでした。
ワタクシが一緒に歩いております野田泉光院という
江戸時代後期の山伏も、先日来奈良を歩いてから
今度はちょっとだけ京都のほうへ行く予定です。
No.310 興福寺佛頭 から No.323 木津 あたりまでが
奈良のお寺。
宜しければお立ち寄り下されば有難く存じます。
Re: はじめまして
- 2018/09/27(木) 20:58:47 |
- URL |
- ゆさ
- [ 編集 ]
初めましてようこそ!
三井記念美術館はいつも落ち着いた良質な企画をやりますね。
今回もとてもすばらしいので、仏像にご興味ありましたらぜひ行ってみてください。
コメントありがとうございました。
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