古代の音色。

半蔵門ミュージアムに行ってきました。
地下鉄半蔵門駅に直結している小さなミュージアムです。
展示室は1フロアで入場無料ですが、小さいながらもとても充実した展示になっていて
気づいたら1時間くらい滞在していた。
展示品が少なくて鑑賞者も少なくて、ゆったり見られたからかなあ…よき空間でした。

現在、「復元された古代の音」という特集展示を開催中。
正倉院の琵琶や箜篌や方響、中国の馬王堆から出土した竽や編鐘を参考に
90年代以降に復元された楽器を展示しています。
また、それらの楽器は「古代の音を現代によみがえらせる」目的で復元されたので
実際に奏でた音の録音が、楽器の隣に置いてあるデジタル端末で再生されていて
展示室に笛や絃や金属音などの様々な音色が響いていました。
正倉院に残されている楽器はきらびやかな装飾がされているものが多いですが
今回の展示品は音色を復元するためのものなので機能性や実用性が優先されたためか
装飾はあまりなく、ほとんどが木材と糸と金属ですっきりと制作されていました。
最初にあったのは方響。
大小の金属の板を木枠に吊り下げて、板を叩いて演奏します。
正倉院に残っている方響の板は9枚、古代中国では平均16枚の板がついていたそうですが
復元品は2オクターブ音域を再現するために25枚で構成されています。
復元するにあたっては、法隆寺などの解体修理で見つかった釘や金具から当時の成分を調査したそう。
金属楽器は内部に含まれる不純物が音色に影響しますので
当時の治金技術や採掘場所などのデータも参考にされているとか。
金属の板は熱して叩いて作るので表面に凸凹がついていました。
音色は「チーン」と1枚だけ叩いた音と、「シャラララ~ン」と連続して叩いた音が流れていました。
鉄琴みたいできれいな音だった。
その隣にあったのは編鐘。
大小の青銅の吊り下げ鐘が音階順に吊られている、方響と同じく古代中国の楽器です。
復元されたのは2オクターブ13個編成ですが、
紀元前5世紀には65個編成の編鐘が湖北省にあったという記録も残っているそうです。どんだけ。。
端末からは青銅の鐘楼や風鈴を鳴らしたような音色が流れていました。
大篳篥。
平安時代中期に廃絶したといわれ、正倉院にも現物が遺っていないため
現存する篳篥や文献から推定復元したそうです。
端末からは、現代に伝わる篳篥よりも大きくて低い音が流れていました。
篳篥がソプラノリコーダーなら、大篳篥はアルトリコーダーみたいなものでしょうか。
隣にあった簫は西洋でいうパンフルートとか、ルーマニアのナイとか、アンデスのサンポーニャみたいな
18個の竹管を横に連ねた形の楽器です。
管には底がなく、内部につめた紙の位置で音の高さを調整しているらしい。
正倉院に甘竹簫という12管のものが残っているけど(去年の正倉院の世界展にも展示されていましたね)
あれも最近の調査で18管だったことがわかって復元品が作られましたっけ。
馬王堆の竽は2000年前の漢墓の出土品をもとに復元された、22本の竹を丸く束ねて吹管をつけた楽器。
(これをもとに日本の笙などが作られている)
美術品として副葬されたそうですが演奏されたものではないかとのこと。
さらにそれを参考に作られた竽は、音域を広げるために26本で復元されていました。
笙と同じく吹いても吸っても音が出ますが、笙より1オクターブ低い音が出せるそうです。
端末からの音色はまさに笙のような、きれいな和音が奏でられていました。
インド発祥の五絃琵琶は紫檀の厚板をくりぬき、サワグルミの腹板(共鳴板)を貼って復元したもの。
腹板には陰月の形の穴があいていました。正倉院にある螺鈿紫檀五絃琵琶と同じですね。
音色は琵琶にしては堅い音だった。
瑟は馬王堆出土品の25絃の絃楽器を参考に復元したもので、正倉院に一部残欠があるそうです。
琴のような形をしていて、胴はニレの木をくりぬいているとか。
絃は中央に長めの7本、その上下に9本ずつ張られていて、琴と同じように柱を置いて音階を調節します。
音色は琴を少し太く低くしたような感じでした。
箜篌はアッシリアに伝わるL字型の大きなアングルハープで、正倉院に2張の残欠があるそうです。
(正倉院のは右肩にかかえて演奏するけど復元品は左肩で演奏するそうだ)
復元品は25絃で、絹の絃を紐に結んで腕木に縛る縧軫箜篌で、
桐の丸太にヒバの響板をつけ、紫檀の腕木をつけています。
絃の張力が強いため胴と腕木の間に支柱を差し込んで支えていることが調査で判明しています。
音色は、絃が太いからでしょうか、低くて強い音でした。
また、楽器を奏でる菩薩が描かれた「阿弥陀聖衆来迎図」(室町時代)と「清海曼荼羅」(江戸時代)も
展示されていました。
来迎図では雲に乗った阿弥陀如来の脇にいる菩薩たちが4絃琵琶や笙や鞨鼓、横笛などを奏でていて
曼荼羅でも、楼閣をバックに説法する阿弥陀如来の前で
4絃琵琶や箜篌や竽を奏でる菩薩たちがいました。
正倉院や現存物のほかに、こうした絵画に描かれた楽器なども元に楽器が復元されるのですね。

おもしろかった…!
展示品はあくまでも復元なので、「きっとうこういう形」「きっとこういう音色」という想像のものではありますが
楽器とその音に浸れる空間になっていてとてもよかったです。
展示ケースがなくて楽器そのものを直に見られる構成だったのもよかった…!
ガラスがないだけで全然違って見えますよね。
また、半蔵門ミュージアムには常設展もありまして
運慶作とされる大日如来坐像や醍醐寺金剛王院ゆかりの両界曼荼羅、
同じく醍醐寺普門院ゆかりの不動明王坐像などがありました。
釈迦の誕生から涅槃までを表現したガンダーラ仏伝浮彫もおもしろかったです。
ガンダーラ美術はギリシャ彫刻のような彫りの深さが特徴だそうで、
確かに釈迦を含むどの人物も立体的なお顔をしていらっしゃった…。
ギリシャ神話に出てくる神様みたいなお顔のお釈迦様は初めて見ます。新鮮でした。
中にはくせっ毛で顎髭をたくわえた、ギリシャ人そのまんまのような人物も彫刻されていて
アジアや中東にもこういう人がいたんじゃないかと思わせてくれるような作品もあります。
古代のギリシャ彫刻のような作品がアジアから見つかる事例は結構あって、昔から美術品の販売ルートがあったか
ギリシャからアジアに移動して彫刻を作っていた人がいたのではないか…という説があると
どこかで聞いたのを覚えています。
国境はあっても大陸は繋がっているから、文化の交差点があるかもしれないなあ。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。 ジャンル : 学問・文化・芸術
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