おれたち奇才組。
※しばらくブログの更新をゆっくりにします。次回は27日に更新予定です。

江戸博の「奇才―江戸絵画の冒険者たち」展に行ってきました。
江戸時代に全国で活躍した絵師たちの作品を紹介する展覧会です。
絵師35人、いわゆる奥絵師ではなく町や各地域で活躍していた絵師たちの作品がズラリと並んでいて
知ってる人もいれば知らない人もいて、ああ、まだまだ世界は広いなあ…!とワクワクしました。
知らないことがあるって楽しい。
各地のミュージアムが再開にあたり日時指定の予約制をとっているので
奇才展もそうしてくれないかなあと待っていたし要望も送ったんですけど結局そうはならず、
しかし会期は延びず明日で終わってしまう…。
どうしようどうしようと迷いに迷いましたが「とにかく行ってみて並んだり混んでたりしたら止めよう」と
思い切って行ってみました。

過去の経験上、朝一は並ぶだろうけどお昼ちょっと前ならその人たちが出てくるかなと思って
午前中に移動して博物館に到着。
扉が入口専用と出口専用に分かれていました。
出入口が自動ドアなのほんと有難いというか…自動ドアを発明した人は偉大だ…取っ手を触らなくて済む。

いつもなら人がたくさん並んでいるパーテーションが静まり返っていて悲しくなってしまう…。
こんな江戸博、初めてです。。
それでもマスクつけて来てる人はちらほらいて(わたしもですが)、
感染予防対策で鑑賞者も初めてのことばかりですし、博物館も対応が大変だと思いますが
みんな楽しみにしていたんだろうな…と。

博物館の入口でスタッフの方に検温をしてもらい、手に消毒液をつけて館内へ。
展示室の入口には人がほとんどいなくて、余裕を持って見られるかな…と入ってみたら
奥のほうは結構ざわざわしていました。
江戸博は特別展示室がおおまかに4部屋くらいに分かれているんですけど
どの展示室にも20~30人くらいはいたと思う。
距離を取るために、展示ケースの前に人がいなくなってから鑑賞するようにしました。
会話してる人もほとんどいませんでしたね…いつもなら話し声が色々聞こえてきますけども。
さて、肝心の展覧会ですが。
さっきも書きましたけど、今回展示されているのは地域の絵師たちの作品なので
基礎は習いつつもその後はあまり型に縛られることなく、割と自由に描いている人たちが多かったりします。
きっちり丁寧に描く人も大胆にぶっとんでる人もいるし、両立させている人もいて
「この人はこういう表現」などと一括りには語れない感じでした。
まずは京都の絵師たち。
トップバッターは俵屋宗達です。水墨で描かれた「墨梅図」。
白い花をつけた梅の木が2本、真ん中にまっすぐ1本、花のない枝がすっと天を突くように伸びていてかっこいい。
尾形光琳「流水図広蓋」は蓋をはずした状態で展示されていて、箱の中の流水が美しかったです。
見た目を考えてのことなのか、法橋光琳の署名が金泥で書いてあったのですが
文字が横向きに見える形で展示されていたのが気になりました。
同じく光琳の「菊図香包」はお香の包み紙で、紅白の光琳菊が散りばめられています。
折り目がつけられているので使用済みではないかとのこと。
狩野山雪「龍虎図屛風」左隻の虎!かっこいい!!
天を仰ぐ虎の視線は右隻の龍(展示なし)に向けられているのかなあ。
「寒山拾得図」はあちこちの展覧会で何度も見ています!久し振り。
この絵を見るといつもトウィードルダムとトウィードルディーを思い出すんだよなあ…仲も良さそうな雰囲気。
伊藤若冲「隠元豆・玉蜀黍図」は豆よりも葉っぱと茎がアップで描かれていて、虫もいます。
きっとこの後、これらの葉っぱは虫たちに食べられてしまうに違いない。
「鶏図押絵貼屛風」、若冲がいくつか制作している水墨の鶏の屏風ですね。
鶏たちが踊るようにたたずんでいて、鳴き声が聞こえてくるような。
円山応挙「淀川両岸図巻」は去年、文化財よ永遠に展でぴかぴかに修理されたのを見たばかりだ~!
相変わらずなんて細かいのか…こうして展示されるようになったんですね。
あと今回、図巻の画稿(下書き)も展示されていました!
本稿からは省かれている地名が短冊の中に描かれていまして、
「伏見」「淀川」などの一般地名から「摂津/山城」の国境、「石清水八幡宮」など名所旧跡まで書きこんであって
応挙せんせいの作品づくりの計画が垣間見えます。
曾我蕭白「楼閣山水図屛風」左隻。まじめな蕭白ですね(笑)。
揚子江の金山寺をイメージしているそうで、画面いっぱいに中国の山河と楼閣が描かれています。
水墨画ですが楼閣の屋根や木に咲く花などには赤が使われていて綺麗。
長沢蘆雪「寒山拾得図」。山雪の同図とはまったく異なる表現でギリギリまでぼかされたタッチがおもしろい!
こっちの2人も仲が良さそうです。会話が聞こえてきそうな絵だと思う。
池大雅の「富士十二景図」は12幅対のうち4月と7月の2幅が来ていて、
妻の玉瀾のために30~40歳の頃に描いたものだそうです。お手本にしたのかしら。
(玉瀾も絵師ですけど、そういえば今回は女性の絵師の作品がひとつも展示されてなかったな…)
与謝蕪村「天橋立図」は蕪村が数年暮らした天橋立を離れる際に真照寺にて描いた水墨画で
現地の松が大雑把なタッチで表現されています。
当時尊敬していた彭城百川との画風を比較した長文の画賛が画面の半分以上を埋めており、
このとき詠んだという「せきれいの尾やはし立をあと荷物」の句も末尾に入れてありました。
「奥の細道図巻」の挿絵、ゆるゆるしたタッチでかわいかったあ…(*´ `*)。
祇園井特は初めて知りましたが生没年未詳の謎だらけ絵師、
医師の柚木太淳が死罪人を解剖したとき写生に巧みな絵師3人のうちの1人として彼の名があるそうです。
「鈴屋大人像」は本居宣長の最晩年を描いた肖像画で
黒い羽織を着た正装姿の宣長を、彼の死の1年前から描き始めて亡くなった後に完成したもの。
「本居宣長七十二歳像」は茶色の着物で手炉を使う宣長を描いた日常絵。
「虎御前と曾我十郎図屛風」は曽我物に取材した作品で
ゆったりと過ごす十郎と遊女(笹色紅つけてた)を独特のどぎつさをもって描いています。
狩野永岳の「熊鷹図屛風」は2匹の黒い熊をどどーん!と大きく描いていて
熊を絵に描いた絵師はあまりいないらしくて、当時の熊の表現として貴重なものではないだろうか。
「梅花図扇面」は骨を外して広げた状態で展示されていて、紅白の梅がきれいでした。
大坂の絵師たち。
中村芳中「公卿観楓図」は後ろ姿の公卿と紅葉を描いているのですが
背中が三角形になっていて、冠の纓だけがヒラヒラしていてかわいい。
「登城図」はお城に出勤する人々や馬を、行列の後ろからとらえていて
人々の背中や馬のお尻などが描かれていてかわいい。
「人物花鳥図巻」はたらしこみで色付けされた鹿や犬、亀などがいてかわいい。
耳鳥斎「別世界巻」は地獄に堕ちた人々の責め苦を描いたものですが
煙草好きが煙草になって鬼に吸われたり、大根役者が大根と一緒に釜茹でにされたりなど
生前の仕事や趣味が反映された地獄になっていておもしろいです。
「福禄寿」は福禄寿本人は描かれていなくて、鹿とコウモリと霊芝(きのこ)が描いてあって
そこから福禄寿を連想する判じ絵になっていました。
「十二ヶ月図」は一年の行事を描いていますが、お正月に裃を着ている鬼(1月)や
曇り空を見る織姫と彦星(7月)、月で餅つきをしている兎たち(9月)など昔話的でおもしろい。
墨江武禅「月下山水図」は月の光に照らされる村や山の様子を、輪郭を白くぼかして月光を表現しています。
「雪中図」「花鳥図」は西洋絵画を参考にしたようなリアリティがありました。
江戸の絵師たち。
葛飾北斎「女浪」と「鳳凰図」!
鳳凰図は長野旅行のときに北斎館で見ましたが女浪は出張中で見られなかったので会えてよかった!
正方形の画面の中で暴れまわっている波のかっこいいこと。
「弘法大師修法図」も凄まじい迫力だし、「桜に鷲図」の凛とした鷲のたたずまいも見とれてしまうなあ…。
加藤信清「出山釈迦図」は釈迦を描いているんですが、なんだかキリストのようにも見えたなあ…。
谷文晁「李白観瀑図」なんだあのかっこよさ!!
李白の「望廬山観瀑」を典拠に描かれた水墨画なのですが
巨大な巌から流れ落ちるド迫力の滝を李白と童子がぽつんと眺めていて
真っ黒に塗られた岩のタッチがすごいし滝の轟音までも伝わってくるような…いやあかっこいい絵でした。
鈴木其一「紅葉狩図凧」「達磨図凧」は過去の展覧会で見たよ!お久し振りです。
真っ赤な紅葉のど真ん中でくわっと口を開けた般若の表情がすごいんだ…。
狩野一信の五百羅漢図第二十三幅・二十四幅「六道 地獄」はとてもカラフルで
羅漢たちが天から地獄へ縄を下ろして人々を助けようとしていたり
宝珠を投げつけて牛頭馬頭にクリーンヒットさせていたり
寒地獄の氷に鏡で光を当てて溶かしてしまっていたりと、ストーリーが見えておもしろかったです。
歌川国芳「東海道中膝栗毛三島宿図」は小説の一部を絵にしていて
弥次さんの頭にスッポンが乗って大騒ぎになった様子を描いています。マンガみたいだ(笑)。
「浴衣を抱える美人」「遊女図」もよかったな~着物に大津絵の鬼がいる遊女…。
国芳の描く女性は強くてかっこいいんです。
「水を呑む大蛇」がたいへんすばらしくて見とれた…!
岩陰からにゅっと顔を出して水場の水を飲む白蛇をこんなに生き生きと…。
目がキラキラしていて、蛇の吐息や鱗のぬめり感まで伝わってくるようでしたよ。
わたし蛇は苦手なんですがこの白蛇には会ってみたい、目で会話とかできそう。
諸国の絵師たち。
蠣崎波響が原画を描き、松平定信が模写して詞書を書いた「夷酋列像図」。
波響は松前藩の家老で、13代目松前藩主は彼の異母兄にあたるそう。
波響が26歳のとき、圧政に苦しむアイヌの人々が和人を殺害する事件が起きて(クナシリ・メナシの戦)、
首謀者は藩によって処刑されるのですが、このとき松前に協力したアイヌの指導者12人の肖像を
松前藩主だった道広の命令を受けて描いたものだそうです。
マウタラケとチョウサマのページが開かれていまして、敷物の上にちょこんと座ったマウタラケと
楽器のようなものを持っているチョウサマの肖像はめちゃくちゃ細かくてびっくりしてしまった…!
この図は京都で評判となり(光格天皇も見たらしい)、諸国の大名が模写したそうです。
「御味方蝦夷之図」はその原画。イコトイ・ションコのページが開かれていました。
黒地の龍の着物に真っ赤な上着を羽織り、槍をたずさえています。かっこいいな。
菅井梅関「雪中紅梅図」は白い部分を残して描く外隈の技法が使われていて
紅梅や枝に積もった雪を城で表現していますが
画面にひらひらと舞い散る雪も外隈で残したんだろうか…気が遠くなりそう。。
林十江「花魁・遣手婆図」も「松下吹笛図」も墨で一気にざざっと描いた感じがあって
下書きのようにも見えるし、妙な生々しさがあります。
松下吹笛図の、後ろ姿で笛を吹く男の周囲には強い風が吹いています。こういう雰囲気好きだな。
河鍋暁斎「惺々狂斎画帖」は過去の展覧会で見ましたが
あのときは巨大猫ちゃんのページでしたが今回は別ページでした。
「狂斎興画帳」は厳しい表情で瞑想する達磨の隣のページに
障子の破れた部分から達磨の目が覗いているという、ちょっとぎょっとする絵があって笑いました。
佐竹蓬平「伯牙弾琴図」は春秋時代の2人の人物たちの絵で
琴が上手だった伯牙の理解者だった鍾子期という友人が亡くなった後、
伯牙は絃を切ってしまい二度と琴を弾かなかったという、伯牙絶絃の故事を描いています。
絵のタッチは丸くてほのぼのしますが、今後の2人を思うと泣けてくる絵だ。
高井鴻山「妖怪図」「妖怪書画会図」「妖怪山水図」長野旅行以来の再会だ~!
「煙吐く妖怪図」「もくれんと小鳥図」「菊図」は初めて見ました、
特に花の絵が美しくて…木蓮の紫がすばらしかったです。
原色に近い色が塗られているのは北斎の影響もありそうですな。
白隠「蓮池観音像」には観音は衆生を慈しみの目で見て福徳は海より深い、という賛がつけられていて
観音様は何となく色っぽいポーズで描かれています。
「布袋図」は禅問答が書かれた巻物の両側を持った布袋が紙を広げておりますが
紙の裏側から透けて見える文字の表現は本当に紙の裏側から書いたのだそうな。
田中訥言「日月図屛風」、左隻に金地の屏風に膨らんだ月と青い川、
右隻の下部分に白い波を描いただけのシンプルな画面づくりがすごいです。贅沢な屏風だ。
岩佐又兵衛「三十六歌仙図」は三条院女蔵人左近と、不詳の男性のページ。
又兵衛の描く人物は下あごが膨れているからすぐわかりますね…線が細くて美しい。
絵金は赤がすごかったなあ…。
「伊達競阿国戯場 累」「花衣いろは縁起 鷲の段」「東山桜荘子 佐倉宗吾子別れ」「播州皿屋敷 鉄山下屋敷」
どれにも人の血や女性の着物に強めの赤色が使われていて、タッチがくっきりしているので強烈でした。
仙厓「臨済図」は臨済の弟子・定上座が師匠に仏法について尋ねて
臨済にひっぱたかれて定上座が問いの答えに気づいた様子を描いていますが
仙厓の絵だとただケンカしてるみたいにしか見えない^^;
「朧月夜図」は縄を蛇と見間違えて怖がる子どもを描いていて
切れ縄に口はなけれど朧月、という句が書きこまれています。
片山楊谷「竹虎図屛風」左隻、竹林の中にいる虎の絵ですが
虎の輪郭をほとんど描かずに体毛だけで体格を表現していてすごい…!
「花王獣王図」の虎も毛がもさもさしていて…いやそんな優しい毛ではなくて
緊張してピンと立った、ハリネズミのような毛が虎の体にびっしりついているような感じでした。
「蜃気楼図」は波に揺れる蜃が気を吐いて楼閣が出現している絵で
気とともに2人の人間も吐かれていてヒュ~ッと上昇していく様子がおもしろかったです。
また、参考展示として加藤信清「阿弥陀三尊図」と
神田等謙「西湖・金山寺屏風図」がパネルで展示されていました。
展示される予定でしたが作品の輸送ができず、パネルでの紹介となったそうです。
阿弥陀三尊図は法華経の文字により作り上げられた仏画ですが
文字があまりにも小さすぎて肉眼ではわからなかったです。。拡大鏡持って行けばよかったなあ。
人と距離を取りつつもあまり絵の前に立ち止まらないようにして(近づいてくる人もいるので)、
普段は2~3時間かける鑑賞時間を1時間という弾丸で駆け抜けまして、
江戸博はカフェもミュージアムショップも楽しみのひとつなんですが、今回はどちらもスルーして
(カフェは人がそれなりに入っていたしグッズや図録は通販でも買えるので)、
展示を見終えたら即座に博物館を出て電車に乗って帰りました。
2月に歌舞伎座ギャラリーを訪れて以来、4ヶ月ぶりのミュージアム訪問…やっぱりあの空間は好きです…。
山手線と総武線も久々に乗りましたけど、どちらも窓が開いていてエアコンも効いていました。
先頭車両は間を空けて座れたので助かりました。
都内の鉄道は本数が多いですから、人が分散して乗ることができていると思います。
帰りに山手線に揺られていたら日暮里辺りで窓の外にE5系が並走して追い抜いていくのが見えました。
とっさのことで写真は撮れなくて、見送った後に涙が出てしまった。

江戸博の「奇才―江戸絵画の冒険者たち」展に行ってきました。
江戸時代に全国で活躍した絵師たちの作品を紹介する展覧会です。
絵師35人、いわゆる奥絵師ではなく町や各地域で活躍していた絵師たちの作品がズラリと並んでいて
知ってる人もいれば知らない人もいて、ああ、まだまだ世界は広いなあ…!とワクワクしました。
知らないことがあるって楽しい。
各地のミュージアムが再開にあたり日時指定の予約制をとっているので
奇才展もそうしてくれないかなあと待っていたし要望も送ったんですけど結局そうはならず、
しかし会期は延びず明日で終わってしまう…。
どうしようどうしようと迷いに迷いましたが「とにかく行ってみて並んだり混んでたりしたら止めよう」と
思い切って行ってみました。

過去の経験上、朝一は並ぶだろうけどお昼ちょっと前ならその人たちが出てくるかなと思って
午前中に移動して博物館に到着。
扉が入口専用と出口専用に分かれていました。
出入口が自動ドアなのほんと有難いというか…自動ドアを発明した人は偉大だ…取っ手を触らなくて済む。

いつもなら人がたくさん並んでいるパーテーションが静まり返っていて悲しくなってしまう…。
こんな江戸博、初めてです。。
それでもマスクつけて来てる人はちらほらいて(わたしもですが)、
感染予防対策で鑑賞者も初めてのことばかりですし、博物館も対応が大変だと思いますが
みんな楽しみにしていたんだろうな…と。

博物館の入口でスタッフの方に検温をしてもらい、手に消毒液をつけて館内へ。
展示室の入口には人がほとんどいなくて、余裕を持って見られるかな…と入ってみたら
奥のほうは結構ざわざわしていました。
江戸博は特別展示室がおおまかに4部屋くらいに分かれているんですけど
どの展示室にも20~30人くらいはいたと思う。
距離を取るために、展示ケースの前に人がいなくなってから鑑賞するようにしました。
会話してる人もほとんどいませんでしたね…いつもなら話し声が色々聞こえてきますけども。
さて、肝心の展覧会ですが。
さっきも書きましたけど、今回展示されているのは地域の絵師たちの作品なので
基礎は習いつつもその後はあまり型に縛られることなく、割と自由に描いている人たちが多かったりします。
きっちり丁寧に描く人も大胆にぶっとんでる人もいるし、両立させている人もいて
「この人はこういう表現」などと一括りには語れない感じでした。
まずは京都の絵師たち。
トップバッターは俵屋宗達です。水墨で描かれた「墨梅図」。
白い花をつけた梅の木が2本、真ん中にまっすぐ1本、花のない枝がすっと天を突くように伸びていてかっこいい。
尾形光琳「流水図広蓋」は蓋をはずした状態で展示されていて、箱の中の流水が美しかったです。
見た目を考えてのことなのか、法橋光琳の署名が金泥で書いてあったのですが
文字が横向きに見える形で展示されていたのが気になりました。
同じく光琳の「菊図香包」はお香の包み紙で、紅白の光琳菊が散りばめられています。
折り目がつけられているので使用済みではないかとのこと。
狩野山雪「龍虎図屛風」左隻の虎!かっこいい!!
天を仰ぐ虎の視線は右隻の龍(展示なし)に向けられているのかなあ。
「寒山拾得図」はあちこちの展覧会で何度も見ています!久し振り。
この絵を見るといつもトウィードルダムとトウィードルディーを思い出すんだよなあ…仲も良さそうな雰囲気。
伊藤若冲「隠元豆・玉蜀黍図」は豆よりも葉っぱと茎がアップで描かれていて、虫もいます。
きっとこの後、これらの葉っぱは虫たちに食べられてしまうに違いない。
「鶏図押絵貼屛風」、若冲がいくつか制作している水墨の鶏の屏風ですね。
鶏たちが踊るようにたたずんでいて、鳴き声が聞こえてくるような。
円山応挙「淀川両岸図巻」は去年、文化財よ永遠に展でぴかぴかに修理されたのを見たばかりだ~!
相変わらずなんて細かいのか…こうして展示されるようになったんですね。
あと今回、図巻の画稿(下書き)も展示されていました!
本稿からは省かれている地名が短冊の中に描かれていまして、
「伏見」「淀川」などの一般地名から「摂津/山城」の国境、「石清水八幡宮」など名所旧跡まで書きこんであって
応挙せんせいの作品づくりの計画が垣間見えます。
曾我蕭白「楼閣山水図屛風」左隻。まじめな蕭白ですね(笑)。
揚子江の金山寺をイメージしているそうで、画面いっぱいに中国の山河と楼閣が描かれています。
水墨画ですが楼閣の屋根や木に咲く花などには赤が使われていて綺麗。
長沢蘆雪「寒山拾得図」。山雪の同図とはまったく異なる表現でギリギリまでぼかされたタッチがおもしろい!
こっちの2人も仲が良さそうです。会話が聞こえてきそうな絵だと思う。
池大雅の「富士十二景図」は12幅対のうち4月と7月の2幅が来ていて、
妻の玉瀾のために30~40歳の頃に描いたものだそうです。お手本にしたのかしら。
(玉瀾も絵師ですけど、そういえば今回は女性の絵師の作品がひとつも展示されてなかったな…)
与謝蕪村「天橋立図」は蕪村が数年暮らした天橋立を離れる際に真照寺にて描いた水墨画で
現地の松が大雑把なタッチで表現されています。
当時尊敬していた彭城百川との画風を比較した長文の画賛が画面の半分以上を埋めており、
このとき詠んだという「せきれいの尾やはし立をあと荷物」の句も末尾に入れてありました。
「奥の細道図巻」の挿絵、ゆるゆるしたタッチでかわいかったあ…(*´ `*)。
祇園井特は初めて知りましたが生没年未詳の謎だらけ絵師、
医師の柚木太淳が死罪人を解剖したとき写生に巧みな絵師3人のうちの1人として彼の名があるそうです。
「鈴屋大人像」は本居宣長の最晩年を描いた肖像画で
黒い羽織を着た正装姿の宣長を、彼の死の1年前から描き始めて亡くなった後に完成したもの。
「本居宣長七十二歳像」は茶色の着物で手炉を使う宣長を描いた日常絵。
「虎御前と曾我十郎図屛風」は曽我物に取材した作品で
ゆったりと過ごす十郎と遊女(笹色紅つけてた)を独特のどぎつさをもって描いています。
狩野永岳の「熊鷹図屛風」は2匹の黒い熊をどどーん!と大きく描いていて
熊を絵に描いた絵師はあまりいないらしくて、当時の熊の表現として貴重なものではないだろうか。
「梅花図扇面」は骨を外して広げた状態で展示されていて、紅白の梅がきれいでした。
大坂の絵師たち。
中村芳中「公卿観楓図」は後ろ姿の公卿と紅葉を描いているのですが
背中が三角形になっていて、冠の纓だけがヒラヒラしていてかわいい。
「登城図」はお城に出勤する人々や馬を、行列の後ろからとらえていて
人々の背中や馬のお尻などが描かれていてかわいい。
「人物花鳥図巻」はたらしこみで色付けされた鹿や犬、亀などがいてかわいい。
耳鳥斎「別世界巻」は地獄に堕ちた人々の責め苦を描いたものですが
煙草好きが煙草になって鬼に吸われたり、大根役者が大根と一緒に釜茹でにされたりなど
生前の仕事や趣味が反映された地獄になっていておもしろいです。
「福禄寿」は福禄寿本人は描かれていなくて、鹿とコウモリと霊芝(きのこ)が描いてあって
そこから福禄寿を連想する判じ絵になっていました。
「十二ヶ月図」は一年の行事を描いていますが、お正月に裃を着ている鬼(1月)や
曇り空を見る織姫と彦星(7月)、月で餅つきをしている兎たち(9月)など昔話的でおもしろい。
墨江武禅「月下山水図」は月の光に照らされる村や山の様子を、輪郭を白くぼかして月光を表現しています。
「雪中図」「花鳥図」は西洋絵画を参考にしたようなリアリティがありました。
江戸の絵師たち。
葛飾北斎「女浪」と「鳳凰図」!
鳳凰図は長野旅行のときに北斎館で見ましたが女浪は出張中で見られなかったので会えてよかった!
正方形の画面の中で暴れまわっている波のかっこいいこと。
「弘法大師修法図」も凄まじい迫力だし、「桜に鷲図」の凛とした鷲のたたずまいも見とれてしまうなあ…。
加藤信清「出山釈迦図」は釈迦を描いているんですが、なんだかキリストのようにも見えたなあ…。
谷文晁「李白観瀑図」なんだあのかっこよさ!!
李白の「望廬山観瀑」を典拠に描かれた水墨画なのですが
巨大な巌から流れ落ちるド迫力の滝を李白と童子がぽつんと眺めていて
真っ黒に塗られた岩のタッチがすごいし滝の轟音までも伝わってくるような…いやあかっこいい絵でした。
鈴木其一「紅葉狩図凧」「達磨図凧」は過去の展覧会で見たよ!お久し振りです。
真っ赤な紅葉のど真ん中でくわっと口を開けた般若の表情がすごいんだ…。
狩野一信の五百羅漢図第二十三幅・二十四幅「六道 地獄」はとてもカラフルで
羅漢たちが天から地獄へ縄を下ろして人々を助けようとしていたり
宝珠を投げつけて牛頭馬頭にクリーンヒットさせていたり
寒地獄の氷に鏡で光を当てて溶かしてしまっていたりと、ストーリーが見えておもしろかったです。
歌川国芳「東海道中膝栗毛三島宿図」は小説の一部を絵にしていて
弥次さんの頭にスッポンが乗って大騒ぎになった様子を描いています。マンガみたいだ(笑)。
「浴衣を抱える美人」「遊女図」もよかったな~着物に大津絵の鬼がいる遊女…。
国芳の描く女性は強くてかっこいいんです。
「水を呑む大蛇」がたいへんすばらしくて見とれた…!
岩陰からにゅっと顔を出して水場の水を飲む白蛇をこんなに生き生きと…。
目がキラキラしていて、蛇の吐息や鱗のぬめり感まで伝わってくるようでしたよ。
わたし蛇は苦手なんですがこの白蛇には会ってみたい、目で会話とかできそう。
諸国の絵師たち。
蠣崎波響が原画を描き、松平定信が模写して詞書を書いた「夷酋列像図」。
波響は松前藩の家老で、13代目松前藩主は彼の異母兄にあたるそう。
波響が26歳のとき、圧政に苦しむアイヌの人々が和人を殺害する事件が起きて(クナシリ・メナシの戦)、
首謀者は藩によって処刑されるのですが、このとき松前に協力したアイヌの指導者12人の肖像を
松前藩主だった道広の命令を受けて描いたものだそうです。
マウタラケとチョウサマのページが開かれていまして、敷物の上にちょこんと座ったマウタラケと
楽器のようなものを持っているチョウサマの肖像はめちゃくちゃ細かくてびっくりしてしまった…!
この図は京都で評判となり(光格天皇も見たらしい)、諸国の大名が模写したそうです。
「御味方蝦夷之図」はその原画。イコトイ・ションコのページが開かれていました。
黒地の龍の着物に真っ赤な上着を羽織り、槍をたずさえています。かっこいいな。
菅井梅関「雪中紅梅図」は白い部分を残して描く外隈の技法が使われていて
紅梅や枝に積もった雪を城で表現していますが
画面にひらひらと舞い散る雪も外隈で残したんだろうか…気が遠くなりそう。。
林十江「花魁・遣手婆図」も「松下吹笛図」も墨で一気にざざっと描いた感じがあって
下書きのようにも見えるし、妙な生々しさがあります。
松下吹笛図の、後ろ姿で笛を吹く男の周囲には強い風が吹いています。こういう雰囲気好きだな。
河鍋暁斎「惺々狂斎画帖」は過去の展覧会で見ましたが
あのときは巨大猫ちゃんのページでしたが今回は別ページでした。
「狂斎興画帳」は厳しい表情で瞑想する達磨の隣のページに
障子の破れた部分から達磨の目が覗いているという、ちょっとぎょっとする絵があって笑いました。
佐竹蓬平「伯牙弾琴図」は春秋時代の2人の人物たちの絵で
琴が上手だった伯牙の理解者だった鍾子期という友人が亡くなった後、
伯牙は絃を切ってしまい二度と琴を弾かなかったという、伯牙絶絃の故事を描いています。
絵のタッチは丸くてほのぼのしますが、今後の2人を思うと泣けてくる絵だ。
高井鴻山「妖怪図」「妖怪書画会図」「妖怪山水図」長野旅行以来の再会だ~!
「煙吐く妖怪図」「もくれんと小鳥図」「菊図」は初めて見ました、
特に花の絵が美しくて…木蓮の紫がすばらしかったです。
原色に近い色が塗られているのは北斎の影響もありそうですな。
白隠「蓮池観音像」には観音は衆生を慈しみの目で見て福徳は海より深い、という賛がつけられていて
観音様は何となく色っぽいポーズで描かれています。
「布袋図」は禅問答が書かれた巻物の両側を持った布袋が紙を広げておりますが
紙の裏側から透けて見える文字の表現は本当に紙の裏側から書いたのだそうな。
田中訥言「日月図屛風」、左隻に金地の屏風に膨らんだ月と青い川、
右隻の下部分に白い波を描いただけのシンプルな画面づくりがすごいです。贅沢な屏風だ。
岩佐又兵衛「三十六歌仙図」は三条院女蔵人左近と、不詳の男性のページ。
又兵衛の描く人物は下あごが膨れているからすぐわかりますね…線が細くて美しい。
絵金は赤がすごかったなあ…。
「伊達競阿国戯場 累」「花衣いろは縁起 鷲の段」「東山桜荘子 佐倉宗吾子別れ」「播州皿屋敷 鉄山下屋敷」
どれにも人の血や女性の着物に強めの赤色が使われていて、タッチがくっきりしているので強烈でした。
仙厓「臨済図」は臨済の弟子・定上座が師匠に仏法について尋ねて
臨済にひっぱたかれて定上座が問いの答えに気づいた様子を描いていますが
仙厓の絵だとただケンカしてるみたいにしか見えない^^;
「朧月夜図」は縄を蛇と見間違えて怖がる子どもを描いていて
切れ縄に口はなけれど朧月、という句が書きこまれています。
片山楊谷「竹虎図屛風」左隻、竹林の中にいる虎の絵ですが
虎の輪郭をほとんど描かずに体毛だけで体格を表現していてすごい…!
「花王獣王図」の虎も毛がもさもさしていて…いやそんな優しい毛ではなくて
緊張してピンと立った、ハリネズミのような毛が虎の体にびっしりついているような感じでした。
「蜃気楼図」は波に揺れる蜃が気を吐いて楼閣が出現している絵で
気とともに2人の人間も吐かれていてヒュ~ッと上昇していく様子がおもしろかったです。
また、参考展示として加藤信清「阿弥陀三尊図」と
神田等謙「西湖・金山寺屏風図」がパネルで展示されていました。
展示される予定でしたが作品の輸送ができず、パネルでの紹介となったそうです。
阿弥陀三尊図は法華経の文字により作り上げられた仏画ですが
文字があまりにも小さすぎて肉眼ではわからなかったです。。拡大鏡持って行けばよかったなあ。
人と距離を取りつつもあまり絵の前に立ち止まらないようにして(近づいてくる人もいるので)、
普段は2~3時間かける鑑賞時間を1時間という弾丸で駆け抜けまして、
江戸博はカフェもミュージアムショップも楽しみのひとつなんですが、今回はどちらもスルーして
(カフェは人がそれなりに入っていたしグッズや図録は通販でも買えるので)、
展示を見終えたら即座に博物館を出て電車に乗って帰りました。
2月に歌舞伎座ギャラリーを訪れて以来、4ヶ月ぶりのミュージアム訪問…やっぱりあの空間は好きです…。
山手線と総武線も久々に乗りましたけど、どちらも窓が開いていてエアコンも効いていました。
先頭車両は間を空けて座れたので助かりました。
都内の鉄道は本数が多いですから、人が分散して乗ることができていると思います。
帰りに山手線に揺られていたら日暮里辺りで窓の外にE5系が並走して追い抜いていくのが見えました。
とっさのことで写真は撮れなくて、見送った後に涙が出てしまった。
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