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知っている。

2020.07.04 23:51|一般書
※しばらくブログの更新をゆっくりにします。次回は11日に更新予定です。


沢村凛『黄金の王 白銀の王』を読みました。
一族同士の争いを終わらせようと共闘する2人の主人公の物語です。
フォロワーさんのおすすめで読み始めたのですが、あらすじがとてもツボな感じだったので
どんな王国物語かとページをめくったら書きだしが淡々としていてちょっと戸惑ったのですが
19歳の穭にまみえた15歳の薫衣が「会いたいというから、来た。何の用だ」って言ったとたんに
あ、なんかわかった!ってなって、そこからぐっと熱量が上がってワーーーッと一気に読んでしまった。
キャラクターがはっきり見えてきたのもあの辺りだったなあ…。
ストーリーはわかりやすくて、ときどき作者都合っぽさを感じさせる雰囲気ではありましたが
(ファンタジーノベル大賞はキャラクターより物語の構成が優先される作品が多い印象があるので
後でプロフィール見てなるほど、とは思ったんですけど)
主人公2人の関係を細かく書くっていうところに重点が置かれているので先がすごく気になったし
登場人物の立ち位置の作り方とか感情がぐわっと爆発するシーンへのもっていき方がすさまじくて
やばいやばいやばい!って引き込まれてしまった。
あと読んでて色んな物語を思い出しましたね…歴史の流れは『獣の奏者』とか『雲のように風のように』とか
稲積と初めて会ったときの薫衣は『アースシーの風』のレバンネンとか
ラストの穭と薫衣は『おんな城主直虎』のおとわと鶴とか…。
章末に思わせぶりなト書きが多いのは『図書館の魔女』を思い出しました。
急にネタバレぶっこんできたりね…453ページのあれはずるいでしょ…。
このての物語ってだいたい2人とも生き延びるかどちらかが退場するか、2人とも退場するかのどれかだから
どこへ転がっていくのかなあと思って読んでいたので、
いきなりはっきり書かれてしまったことにびっくりして心臓がどきーん!となりました。
そういうところが何というか、歴史書を読んでいるような気持ちにもなりましたね…。
「たった今起こっていること」が書かれているのではなく「1年前か5年前か、300年前にあったこと」みたいな感じ。
お話の雰囲気や価値観が中世~近世っぽくもあるので、特に違和感はなかったけど。

かつてひとりの傑物が平定し、その子孫が玉座を代々継いでいたところ
四代目の子である双子の王子たちが世継ぎの座をめぐり争ったのを機に
その子孫たちも分裂し穐と厦の派閥をつくり互いに自分たちが嫡流であると主張し、
憎み合い殺し合いながら玉座を乗っ取ったり奪い返したりすること数百年の国・翠。
主人公はそんな二派である鳳穐と旺厦の頭領・穭と薫衣で
彼らの少年時代から壮年期までの出来事が書かれます。
現在の翠の国王は穭がつとめているので時代は鳳穐の天下であり、
薫衣をいずれ殺すつもりで人里離れた森の中に幽閉していたのですが
数百年におよぶ鳳穐と旺厦の玉座の奪い合いにより翠の国力はじわじわと弱っていて
このままでは海外の大国との戦争で飲み込まれてしまうと危惧した穭は
薫衣を城に呼び寄せて争いを終わらせよう…と提案をします。
両親に鳳穐を滅ぼすように遺言されていた薫衣は最初は断りますが
穭との対話を通して恨みを晴らすより成すべきことをなす方を優先させ共闘すると決めて、
でもいきなり和平宣言をしたら一族が混乱するのでまずは穭の妹と薫衣の結婚から始めることになります。
ここの描写が最初の盛り上がりというか、2人の葛藤がびしびし伝わってきて心が痛かった…。
お互いに「相手は過去に一族を多く殺してきた一族の頭領」なわけで
お互いに「ぶっ殺してやる」と強く思って機会をうかがってきたわけで、
でもその気持ちを抑えて手を組み同じ方向を見つめなければならないというのは生皮を剥がされるような痛みがありそう。
(同時に教育の力と恐ろしさをものすごく感じた…。
幼い頃から怒りや恨みとともに正しいと教えられてきたことを断念するって相当メンタル強くないとできないのでは…。
鶲が食事の席で荻之原の話をしたときも迪師おまえ…ってなった)
穭も言ってましたが2人に身内がほとんどいなかったのも幸いというか…これで親とかいたら地獄絵図だよな…。
妹の稲積も兄の考え方に異を唱える人ではなかったしね。(たぶんそう教育されてきたんだろうけど)

どっちかというとワクワクドキドキしたり「あーおもしろかった」という読後感はなくて、
銀英伝を読み終えたときのような、「はあ~終わった…」と、ゆっくり本を閉じるような読み終わり方でした。
長期に渡る二派の争いに過去や現代の戦争を重ねて考えてみたりもしました。
幼い頃から頭領としての生き方や指導者としての心構えを徹底的に教え込まれていたにも関わらず
その道をあきらめて別の理想を掲げて歩き出した2人は
隙あらば薫衣と旺厦を滅ぼそうとする城内の勢力や、薫衣に立ち上がれと迫る旺厦の勢力、
海の向こうから攻めてくる敵など想像を絶する困難をひとつひとつクリアしていくのですが
いっときの感情や周囲の影響で生じたズレを必死に軌道修正して被害を最小限に食い止めようと
思考と行動を尽くす2人の姿があまりにシビアで痛々しくてつらい…。
孤高を気取らず、衝動に身を任せず、英雄視されるまなざしに酔わず、
百年先を見据えていることを周囲に漏らさずに自分たちの行動の意味を説明することのなんと難しいことか。
だいたいの物事はしっかり根回しして説明したことはうまくいって
予定外だったり突発的だったり説明を怠った際に生じたほんの少しのズレが積み重なって
やがて致命的な、取り返しのつかない事態につながっていくのすごくリアルでしたね…。
薫衣が駒牽を斬り殺したときは正直、なんでここまでしなくちゃいけないの…!ってなったし
薫衣の長期的視点とそのために押し殺された彼の感情を思うと吐きそうになってくる。
十二国記とかもですが国王が今生きている人やこれから生まれてくる人たちのために行動しようとすると
国民に犠牲が出てしまうのほんとつらい…。
そしてそういう気持ちを理解できるのも2人だけだから
薫衣にかける言葉を慎重に慎重に考える穭の気持ちも伝わってくる。
お互いに殺したい感情を抑え込みながら、でもお互いの気持ちが一番わかるのもお互いだけで
誰もわかってくれなくても貴殿は知っていてくれる…みたいな関係めちゃくちゃしんどいです。
小さい頃から教え込まれてきた方向に身と心を委ねてしまうほうが
2人にとっては楽だしそう思ってるだろうけど、それは思考の停止だというのもわかってるからな彼らは…。
彼らの周囲にいる人たちは思考停止してる人たちが多いけど、それは彼らの親世代の教育や境遇のせいだけど
2人のように考える人たちは過去にはいなかったのか、いたとしても出る杭として打たれたのか…。
(そういう記録は往々にして残されなかったりするので辿れなかったりもするんですよな)
穭と薫衣があまりにも2人きりすぎてほかに理解者はいなかったのかな、いてほしかったなとも思いますけど
もしそういう人がいたら彼らの孤高さはこんなにも際立たなかったろうな…。
お互いに相手の才能をうらやましいと思ったり尊敬したり、悩んで迷って自分の行動や指針に不安を覚えたり
両者とも少し隙があるのが人間らしくて好ましいけれど、
おそらく2人はそれを善しとしなかったろうな…とも思いました。

薫衣の最後の決断はわたしには納得がいきませんでした。わたしは政治家に向いてないな…。
物語としてあの結末はあり得るし薫衣の尊厳が守られたのはわかるけど、やっぱり受け入れ難くもある。
わたしが彼ほどの覚悟を持つことができないから感情で納得できないのか、
何となくですが彼が選んだことなのか作者がやりたかったことなのか、
いまいちはっきり落とし込めてない気もしてしまっているというか…うまく言えない…。
生きていてほしかったから色々考えてしまうのかもしれないけど。
ただ「死者の言葉が生者を縛ってはならない」からと遺言を残さなかったのはよかった、
たぶん穭もそうするだろうな…2人とも大変な思いをしましたからね。
稲積や鶲との家族関係もうまくいっていない部分があったけれど
一挙一動を見張られている薫衣にとって、家族と接する時間さえもそういうことだったから
「会えば揺らぐから」の言葉で鶲に薫衣の気持ちが少しでも伝わったなら、よかった。
次世代の様子などもう少し読みたかった気もするので外伝とか出される予定はないのかしら。

「四隣蓋城様」「頭領様」「穭様」って、立場とかTPOによって呼び方が変わるのが
時代ものって感じがしてよかったです。
穭と薫衣が名前で呼び合ったり「鳳穐殿」「旺厦殿」って呼び合うのとかね。
海の民に話しかける薫衣が完全に変わり者扱いだったり
その海の民と薫衣たちでは言葉遣いが異なったりする部分も
薫衣の前で舞う河鹿を見た稲積が文化の違いを認識してしまうのも歴史ものっぽいなと。
(そういえば翠は女性が国王になることは想定されていないんですかね)
あとこれは職業病なので言っていいかわからないんですが、
薫衣が働いていた文書所の仕事で、紙が劣化するから新しい紙に記録を書き写すのはいいんですが
人の手でそういうことをやると写し間違いというリスクがありましてな…。
(現実は古代史あたりから既にそういう事例がいくつも見つかってる)
人員も増やしてるみたいだし、穭のことだからトリプルチェックくらいはさせてると思うけど
下手したら記録を書き換えられかねない職場に薫衣を入れた穭がほんとにすごい。
書き換えられるリスクより薫衣が知識をつけることを優先させたってことよな…百年先の未来のために。
薫衣が不正をするような人物ではないと確信していたからできたことでもあると思う。

タイトルですけど、最初は太陽と月なのかなと思ったんですけど
歴代国王の遺体を包む布の色のことだったんですね。
鳳穐の王は黄金、旺厦の王は白銀の布で体を包まれて城の地下室に保管されている。
鳳穐の家紋がススキ(黄色)で旺厦の家紋が雷鳥(冬毛が白)というのにも関係しているのかな…。
四代目の王の子どもたち、穐・厦の双子の王子の名前は
穐は秋の旧字で(千穐楽の穐だよね)長い年月のこと、厦は大きな家の意味だそうで
国が長く続くことを願ってつけられた名前だったんだろうか。
ちなみに穭は刈った株から再生した稲の意で、稲積は刈り取られ積まれた稲のことだそうですが
薫衣はラベンダー(薫衣草)なんですね。
家紋が雷鳥だし子どもに鶲や雪加とつけているので旺厦は鳥の名前をつける一族なのかと思ってたけど
薫衣がそうならなかったのは…いやでも孫は松藻だから植物の名前もつけるのか…ふーむ。

表紙の皇なつきさんの絵がとてもかっこいい!
薫衣が持っているのは初代の王の剣かな。
ラストで穭が鶲に「そなたに渡したい」と言うシーンがよかったです。あれは薫衣のものだものね。
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ジャンル:本・雑誌

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Author:ゆさ
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