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2020_11
14
(Sat)23:57

今を見つめて記憶のなかに。

※しばらくブログの更新をゆっくりにします。次回は21日に更新予定です。


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原美術館に行ってきました。
現代美術専門の美術館で、実業家・原邦造の邸宅として戦前に建てられた洋館が
そのまま美術館になっています。
(設計者は東博や銀座和光を設計した渡辺仁だそう)

ずーーっと気になっていた美術館で、なかなか訪れる機会がなかったのですが
去年の11月に建物の老朽化のため閉館することと
閉館後は渋川にある別館のハラミュージアムアークと統合して活動することが発表されたので
せめて最後の展覧会は見たいと思って訪問しました。

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前庭には屋外作品が点在しています。
右手前にある多田美波「明暗 No.2」(1980年)は
ステンレス製の三角錐に周りのお庭の景色が映ってきれいです。
その奥には関根伸夫「空相」があって、四角い金属の上に大きな石が絶妙なバランスで乗っていて
こちらもお庭の景色が映ってきれいですが、倒れないのかな…とちょっと心配になった。
これまで経ち続けているみたいなので大丈夫なんだろうけど。

あと玄関の脇にあった飯田善國「風の息吹」(1980年)は
金属でできた長方形の板状のオブジェが1本のポールに奇妙なバランスでいくつもくっついていました。
キース・ソニア「エスセシポール 1」(1982年)。ピンク色の公衆電話とブラウン管のテレビが並んでいました。
設置当時はテレビも点いたらしいですが、今はつかないそうです。電話は使えるそうです。
(この記事の1枚目の写真↑の左側にチラッと写っています)

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感染症対策のため、1日に入館できる人数は決まっていて
チケットは日時指定の予約制(ネット予約)です。
入館時に検温とアルコール消毒があり、館内ではマスク必須、人との距離を取って会話を控えます。
わたしが行ったのは平日のお昼過ぎだったので、そんなに混んでませんでしたけど
館内は元個人宅のため決して広くはないし天井もあまり高くなかったので
いつも以上にソーシャルディスタンスには気を遣いました。
小さな展示室の入口には一度に入れる人数が「2人まで」「4人まで」などと掲示されていました。

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「展覧会を記憶にとどめてほしい」という美術館側の希望により、館内は撮影禁止。
人数制限されてるとはいえ人はまあまあ入ってましたし、撮影しているとぶつかったりする危険もあるので
さもありなん。

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最後の展覧会「光-呼吸 時をすくう5人」を鑑賞します。
1~2Fのそれぞれの展示室と廊下に3人の写真家と2人の現代アーティストによる作品が展示されていました。

リー・キット「Flowers」(2018年)。
小さな展示室の壁にひとつだけアクリルのキャンバスが掛けられ、鉛筆で女性の横顔が描かれていて
それを部屋の隅に置かれたプロジェクターの白い光が照らしています。
たぶんその光もキャンバスも、部屋にもともとある暖炉も、白いレースのカーテンがかけられた窓も
全部が「Flowers」という作品の展示物として構成しているんだろうな…。
インスタレーションに添えられた「花か枝かの選択」の意味するものはなんだろう…。
昨今の香港(作者の出身地)に思いを馳せながら見ると色々考えてしまいます。

城戸保「梅と小屋」(2018年)ほか写真46点、Cプリント。
日常風景を写したものが中心ですが、いわゆる風景写真ではなくて
花や鳥、牛舎、建物の屋根、750円と書かれた金額表示、ガードレール、じょうろ、壊れた車、
傘を干した風景、木越しのモリゾーの絵、揺れるプールの水面、何かの光など
景色を独特な視点で切り取って撮影した写真が多かったです。
「ま」(2019年)の写真はたぶん、アスファルトに白ペンキで書かれた「止まれ」の字の一部だろうな…。
あと写真のほとんどにハレーションや逆光が差し込んでいたのもおもしろくて
樹や電柱や牛の顔などに赤やオレンジの光が被さっていました。
原美術館のどこかを撮影した写真もあったそうですが、どれかはわからなかった。

佐藤雅晴「東京尾行」(2015-2016年)。
昨年亡くなった作者が東京各地の風景を定点カメラで映像として撮影し、
写りこんだものの一部をトレースしてアニメーション表現にして実写に紛れ込ませています。
公園の風景の中でブランコだけがアニメーションで揺れていたり
犬の散歩をしている人が街を歩いているけど犬だけアニメーションだったり
誰もいないどこかの事務室でキャスターつきの椅子だけがアニメーションでくるくる回っていたり
テーブルの上の小さな卓上鏡だけがアニメーションでくるくる回って部屋の中に光を振りまいていたり。
展示室のサンルームにあった自動演奏ピアノがドビュッシーの「月の光」を演奏していたのですが、
このBGMを聴きながら作品を見ると見事にマッチしていてすごかった。
これも作品の一部で、この音色がないと完成しないんですね…。

佐藤時啓「光-呼吸 Harabi」シリーズほか写真9点。
作者がペンライトや鏡を持って原美術館の展示室内を、ハラミュージアムアークの庭を歩きまわって
カメラのシャッターを開け放しにして撮影した写真を大きく引き伸ばして展示しています。
美術館の床や芝生に細いコードのような光があふれてかえっていて、
光の海みたいだなと思いました。
「こんな夢を見た-親指と人さし指は、網目のすき間の旅をする」(2020年)は映像作品で、
加工された原美術館の建物のあっちこっちをふわふわ飛びながら移動しているような印象。
そうだね夢を見てるときってこういう動きすることありますね…。
どこにでも飛んでいける、でも意外と遠くへは行けないような、あの感じ。
建物にぼやけた加工がされているのも、背景がはっきりしない夢の世界のようでした。

今井智己「Semicircle Law」(2011~2020年)シリーズ、写真24点。
作者は福島第一原発から30km圏内にある場所、
阿武隈山や大倉山ほか数ヶ所の山頂から原発方面に向かって定期的に写真を撮り続けている人で
事故当時から現在まで撮影された写真が展示されていました。
日付はバラバラでしたが各月の11日が多かったです。
(一番近い距離は2020年2月に撮影された原発から12km地点の写真で
一番遠い距離は2017年に9月に撮影された原発から33kmの地点)
数年ごとに同じ場所から撮影された写真は、木が伸びていたり街に変化があったりして年月を感じさせます。
展示室で上映されていたプロジェクトの記録映像は固唾をのんで見入ってしまったし
映像の近くには方位磁石と日本地図が置かれていて、地図には赤い線が引いてあって
原発と撮影地点を結んでいました。
事故は今も続いている。


あと、常設展も鑑賞しました~。
(企画展示の間に常設展示物がヒョイっと置かれているので、常設展と言っていいのかわかりませんが…)

まずは1F。
鈴木康広「募金箱 『泉』」(2011年)。
美術館1Fの階段横、白い壁にとても小さくて細~~い穴が空いているだけの展示で
最初はそんなところに展示があるとは知らず素通りしていたのですが、
見学しているお客さんがいたので気づけました。ありがとう。
よく見ると穴の上に鉛筆で文字が書いてありました。以下引用。
「コインは自分の分身です。それを投入することは自分自身が原美術館の活動に参加すること。
自分の投じたコインによる一滴の雫が、その活動に波紋を生み、そこから新しいアートの世界が広がるのです。
壁面に空いたスリットの中にコインを投入してください」
ほうほう…と思って、試しにお財布から10円玉を出して入れてみましたら中からポチャンと水音がしたので
穴を覗くと、細い穴の奥で水面の映像がゆらゆら揺れていました。
コインを入れることで壁の中にある映像に変化が起きて、それを鑑賞できるアートなんですね。
(ちなみにこの作品、鈴木さんが美術館のために寄付したもので
投じられたコインは美術館の活動支援金として使われるそうですが
設置した2011年は東日本大震災が起きたのでこの年だけは義援金として被災地に寄付されたとか)
コインを入れると見られる映像は、すべて原美術館のどこかで撮影されたものだそうです。素敵だ。

森村泰昌「輪舞」(1994年)は、元々トイレだった部屋に作品を設置してしまったもの。
部屋の壁も天井も鏡張りになっていて、真ん中にはマネキンが床に腰を下ろして足を広げていて
マネキンの足の間に便器(特注)が置いてあります。
マネキンは作者の森村さんが取ったポーズを石膏で型を取ったもので、つまり作者本人なのですね。
ちなみに便器はトイレとして今も使えて、水も流れるみたいですがわたしはとても使えないですね。
部屋中が鏡張りで落ち着かないし、何より作者に見られながらというのがキツイ。

ナム・ジュン・パイク「ニーシェインT」(1984年)。
カラーテレビとビデオディスクとコンピューターを使った作品で、作者はビデオアートの先駆者だとか。
表面にいくつもの小さなモニターが設置された大きな黒い箱が置いてありまして
様々な映像を映すことで情報社会を表現していたそうですが
現在、使用機材が製造中止になっているため修復ができず箱のみ展示しているとのこと。
マシンを使うアートはその時代をズバリと表現するものだと思いますが
部品が故障したとき直せる人やメーカーがいないと展示できなくなるリスクがあるんだよね…
保存と展示の課題。

2F。
須田悦弘「此レハ飲水ニ非ズ」(2001年)。階段を登ってすぐ、左手にありました。
2000年9月に美術館のイベントで集められた寄付により実現した作品です。
元々は写真を現像するための暗室だった部屋だそうで、壁はタイル張りになっていて
部屋の奥には2本の水道管がむき出しになっており、そこに紫色の花が2輪添えられていました。
まるで水道管から芽を出して花を咲かせたみたいだ…花にとっては水源だからね。
(ちなみに花は定期的に変えられているそうです)
気になったのが壁に貼ってあった「This water unfit for drinking」という小さな紙だったのですが
後でぐぐったら、この建物が戦後にGHQに引き渡され外国の大使館として使用されていた際の名残で
つまり当時の人が書いた水道管が使えないというメモを今もそのまま残しているのだそう!
エーーーーーっもっとよく見てくればよかった…なんという歴史…!

宮島達男「Time Link(時の連鎖)」(1989年/1994年)。
壁も天井も真っ黒で明かりもついてない、奥行きのある真っ暗な小部屋(奥がカーブしている)の天井と床付近に
赤と緑のLEDのデジタルカウンターが奥に向かって無数にずらーーーーーっと並んでいて、
それぞれが1~99までの数をカウントしています。
カウントのスピードは個々のLEDによって差があり、時計の秒針の速度からいっこうに動かないものまであって
共通しているのは99になると消えてしまうところ。
すぐに1からまた始まりますが、何のカウントなんだろうと考え始めると止まらないです。
これだけカウンターが並んでいると、数字の組み合わせもそのとき見たものが最初で最後というか
同じ組み合わせは二度と見られないと思うとその一瞬がとても大切に思えてきます。
時間はどんどん過ぎ去っていってしまうんだ。

奈良美智「My Drawing Room」(2004年8月~)。
バスルームだった部屋を奈良さんのアトリエのような展示室にしたもの。
壁や天井は木製で白いペンキが塗られていて、部屋の奥に机があって(椅子はない)、
さらに窓があって外の景色が見えます。
床には描きかけのドローイング、真っ白なキャンバス、色鉛筆、カセットテープやCD、
人形、ダンボール、ポット、帽子、飲みかけワインの瓶などが雑然と置かれています。
2004年に奈良さんが原美術館で個展を開催した際に制作されて
その後もときどきご本人が来たときに物を置いていったりするらしい。
床にあおもり犬が7匹いて、それもある時から急に出現したらしいから設置当初はいなかったんだろうな。
訪れるたびに変化する展示室は楽しい!
「Lanila」の文字で始まる外国語で書かれたA4サイズの紙が壁に貼ってあったんですが
書き足りなかったのか、紙をはみ出して壁に続きを書いていたのがおもしろかったです。

3F。
ジャン=ピエール レイノー「ゼロの空間」(1981年)。
部屋全体が純白のタイル張りになっている真っ白な空間の壁に
同じくタイル張りの正方形が4つ設置されていて、数字の「0」の形をした金属プレートがぶら下がっていました。
(金属プレートのレプリカはミュージアムショップで買えます)
真っ白で何もなくてまったりしてしまいましたが、長くいるとたぶん虚無を感じる場所だと思う。
元々は建物の屋上に出るためのスペースだったみたいです。


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1F中庭に面したカフェ「d' Art」にて
「ベリーX2 クレームダンジュ」(フレンチスタイルのチーズケーキ)をいただきました。
カフェの厨房は個人宅だった頃の配膳室を利用しているそうです。
この日は少し肌寒かったけど、屋内はやめてテラス席を選んで座らせてもらいました。

中庭にも常設の屋外展示作品がありました。
三島喜美代「Newspaper-84-E」(1984年)。
土の新聞というシリーズのうちのひとつで、シルクスクリーンで陶器に新聞の記事をプリントしたものです。
くしゃくしゃっと丸められた新聞が陶器でできている凄まじさ。どうやってあの形を作るんだろ…。
(ちなみにプリントされていたのは1984年8月31日のニューヨークタイムズで
アポロ13号の月面着陸記事などが載っている)
あとお名前に聞き覚えがあったと思ったらあれだ、直島旅行でゴミ箱の作品を見たのでした。再会に感謝。
イサム・ノグチ「PYLON」(1959-81年)。アルミニュームに亜鉛メッキで制作されたモニュメント。
李禹煥「関係項」(1991年)。芝生に置かれた正方形の鉄板を挟んで石が2つ。
ソル・ルウィット「不完全な立方体」(1971年)。
白い棒を使って骨組みのように立方体を作っていますが、
立方体を構築するうえで必要な12本の辺のうち4本が外されているオブジェ。
ダニエル・ポムロール「自分に満足しない私」(1982年)。
ガラスのような透明な素材と、黒光りする石のような素材を組み合わせて壁のように並べたもの。
アドリアナ・バレジョン「空想の万能薬」(2007年)。
横に長く並んだタイルのひとつひとつに薬草(幻覚作用のあるもの)の絵が描かれていました。

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正門を出てしまった。。何だかさみしいです。


元々個人宅だったせいもあると思うのですが、
かつては書斎や居間、厨房だったところが展示室になっていたりカフェになっていたり
(展示室のフローリングは当時の床板のままらしい)、
壁の中とかお手洗いとか水道管とか、えっそこにそんなもの置く…?みたいな驚きもあって
日常生活の中にアートが点在しているようでとても楽しかった。
閉館は寂しいですが、作品は渋川のアークに移動すると聞いてちょっと安心しました。
レイノーや宮島達男、奈良美智など部屋ごと展示室になっている作品も移築されるそうですし。


ところで。
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美術館までは地図を見ながら行ったので気づかなかったけど、
北品川駅と原美術館の間にはJRの線路が通っていて、その上の鉄橋(御殿山橋)を渡るんですが
金網越しに電車が見下ろせることに帰り道で気づきました。

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在来線も新幹線も見られる!
写真は東京方面に向かって走っていくN700a X50編成です。
屋根がぴかぴか真っ白だ~!全検明けとかでお掃除してもらえたのかな。

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帰りの電車に揺られながら外を見ていたら、田町駅の向かいのホームで京浜東北線の試運転が。
最近、こういう車両に気が付くようになりました…わたしたちが気が付いていないだけで
営業車両に紛れてひっそり走っているんでしょうね。お疲れさまです。
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