博物館に初もうでその8。

今年もミュージアム始めは東博本館です。
年末にチケットを予約して年明けに行ってきました。
平日の電車のすいている時間に乗って(雨も降らなかったので窓も開いてました)、
上野駅ではなく鶯谷駅で降りて東博まで歩いて(密を避けるためですが運動不足対策でもあります)、
展示室から人が少なくなるお昼過ぎに入館。
入口で検温と手指の消毒をして、マスクをして人との距離を心掛けつつ鑑賞。
展示室は多くて10人程度、誰もいない展示室もありました。
本館の常設展示はもっとたくさんの人が見てくれたらいいな…と常々思っているのですが
今はその状況が善しとされるという。。
当分都内へのお出かけは控えますが、今年は果たしてまた東博に行けるのかどうか。
ニコニコ美術館が早速、東博本館をやってくれたのでそちらも楽しみたいと思います。

お正月恒例の展示「博物館に初もうで-ウシにひかれてトーハクまいり」を鑑賞しました。
以下、気になったものをいくつか写真でご紹介します。
牛は昔から画題として好まれ、絵画や彫刻によくあらわされてきているので
担当学芸員さんによると割と展示品を探しやすいそうです。
かの菅原道真さんが丑年生まれなので、絵巻にもよく描かれているもんね。
(逆に未や亥、子はなかなか手強いらしくご担当の方は展示に使えるものを探すのに苦労されているらしい。
他に見つけやすいものというと寅や辰、午、酉などでしょうか)

重要文化財「阿弥陀如来および両脇侍立像(善光寺式)」(鎌倉時代)。
善光寺のご本尊はインドから来たという秘仏で
「善光寺式」と呼ばれる阿弥陀三尊像は鎌倉時代以降に多く作られたそうです。

「牛に引かれて善光寺参り」ということわざがありますが、
写真の善光寺如来絵詞伝などには、ある老婆が干していた布を牛が角にひっかけて走っていってしまって
老婆が追いかけたところ辿り着いたのが善光寺で、
観音堂に布があったことから牛が観音菩薩の化身だったことがわかるという説話があります。
江戸時代にはその説話を記した版本も出版されていたので人々に広く知られていたのでしょうね。

チューギェル立像(中国)。
チベット語で法王を意味するチューギェルは、古代インドの死神ヤマが仏教に取り込まれた姿。
ヤマは牛の頭をした神様だそうです。

十二神将図像の模本(部分)。
十二神将は干支の動物を頭上に乗せる姿であらわされることが多いですが、
こちらは擬人化された十二神将の絵が並んでいます。
丑の神様は弓を持った姿であらわされていました。
以下、写真が多いのでたたんであります↓クリックで開きますのでどうぞ。

牛王法印(江戸時代)。
寺社が出す刷り物の守り札ですが、なぜ「牛王」という名前なのかははっきりわかっていないそうです。
隅に「那智瀧法印」と書かれているので、これは熊野那智大社から発行されたもの。

十牛図(模本)。陶山雅純が模写したもので、原本は狩野探幽です。
禅の修行を十の段階に分けて絵にしたうちの1枚で、騎牛帰家の場面です。

歌川広重「高輪牛町」。
現在の高輪ゲートウェイ駅周辺がそういう名前の町だったそうです。
増上寺の造営のために京都から牛持ちを呼んだのが始まりらしい。

松崎天神縁起絵巻巻三の模本(部分)。防府天満宮(山口県)が所蔵する絵巻の模本です。
比叡山の僧侶である尊意のもとに道真の霊が現れて
「これから都に復讐に行くので止めないで」などと言って飛んで行ってしまったので、
慌てた尊意が牛車に乗って空飛ぶ道真を追いかける途中で、増水した鴨川をわたる場面。
尊意が念仏を唱えると川の水が割れたので川の底にいた道真の霊と問答をすることができ、
道真は復讐を諦めて去って行ったとのことです。
モーセみたいな物語ですがこの物語の作者(鎌倉時代)はモーセを知っていたのか、
それとも海幸山幸などの物語から連想したのか…気になりました。

三彩牛車・馭者(中国・唐時代)。
お墓に副葬するために作られた唐三彩で、装飾に隋時代の表現がみられるそうで
唐の焼き物としては比較的初期のものかもしれない。

長谷川晴定「御所車置物」。
大型の高級牛車の形をした香炉だそうですがどこから煙が出るのかな…使ってみたい。

伴大納言絵巻下巻の模本(部分)。
物語のラストで応天門の変の主犯とされる伴善男が
牛の引く八葉車に乗せられて連れていかれるシーン。
これ絵巻を全部見た後に見るとものすごく心えぐられるシーンなんですよね…。
出光美術館で原本を見たのが遠い昔のようだ。

賀茂祭草紙(模本)。
賀茂祭(葵祭)にて勅使が乗る餝車です。雅楽の楽器や舞人などの絵が描かれていて華やかだ。

平治物語絵巻院中焼討ノ巻の模本(部分)。
展示されているのは平治の乱の発端となった三条殿への放火のシーンで、
牛車が入り乱れて大騒ぎになっています。
あまりの状況にパニックになって走り回っているような牛さんもいる。。

和宮御車図。
和宮が江戸城へやってきた際に使用された絲毛御車(染めた糸で飾る牛車)の記録です。
色とりどりで美しい。

振袖「浅葱縮緬地松竹梅鷹御所車模様」の裾の部分(江戸時代)。
松竹梅の雪景色に御所車が表現されています。

国宝「片輪車蒔絵螺鈿手箱」。
平安時代後期の蒔絵の名品で、水に流れる金銀の車輪がとても美しかったです。
牛車の車輪は乾燥を防ぐために水に浸すことがあるそうですが、このデザインはそこからきていて
片輪車と呼ばれるもので当時流行した工芸意匠のひとつ。

重要文化財「駿牛図断簡」(鎌倉時代)。
もともとは牛車を引く優れた牛の姿を並べて描いた絵巻の一部だったそうです。
表装に片輪車が使われているのも粋ですな。

鳥獣戯画乙巻の模本(部分)。
模写した山崎董洤は花鳥画をよくする人だったそうですが
牛の後ろ脚の修正跡まで模写しているので、真面目な人だったのかな。
(東博では春に鳥獣戯画展が予定されていますが、さて、さて)

「酔墨」印「許由巣父図」(室町時代)。
皇帝から位を譲ると言われた許由は汚れたことを聞いたと川で耳を洗いますが
そのとき川に牛を連れて来ていた巣父が「汚れた水を牛に飲ませるわけにはいかない」と
そのまま立ち去るという故事に基づいた絵です。
巣父が思い切り引っ張っているのか、牛はちょっとつらそう。

鈴木春信「見立巣父」。
許由と巣父の故事に基づいて、巣父を女性に見立てて描いた絵。
この牛ちゃんは飼い主にやさしくされている雰囲気。

袱紗「淡紅繻子地騎牛笛吹童子図」(江戸時代)。
十牛図からの意匠で、2人の童子はそれぞれ得牛(牛(=知識)は得たが童子(=修行者)に慣れてくれない様子)と
騎牛帰家(牛(=目標)を飼いならすことができれば牛と一体化でき、御することなく家に帰れる)を表現しているそうです。

銅臥牛香炉(江戸時代)。
高野山安養院(毛利家の菩提所)に伝来したもので、伝法灌頂という儀式に使われたそうですが
通常、象の香炉が使われるそうですが珍しく牛の形をしているもの。
この牛ちゃん、正面から見たら目が合いそう。

牛童堆朱合子(中国・明時代)。
こちらも十牛図からの意匠で、得牛と騎牛帰家がセットで表現されています。

臥牛端渓石長方硯・牛鈕馬肉紅石印材(中国・清時代)。
広東省の端渓という川で採掘される端渓石を使っていて、
硯池の部分に臥せた牛が表現される硯を臥牛硯というそうです。こういうの初めて見た!
墨すってるうちに牛さんが摩耗したりしないんだろうか。でもちょっと使ってみたい。
この後は本館のいつもの常設展と、平成館の特集展示「世界と出会った江戸美術」も見てきたのですが
長くなりますので次回記事にてご紹介したいと思います。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。 ジャンル : 学問・文化・芸術
Re: タイトルなし
- 2021/01/16(土) 23:45:39 |
- URL |
- ゆさ
- [ 編集 ]
わたしも専門家ではないので
いつも作品を見て「ほえ~~」と感心したり見入ったりしてるだけですよ。。
もっと知識があればおもしろく見られるんだろうなあ、とか。
絵巻や絵図は、注文主や絵師の都合で盛ってる場合もありますが
当時の様子を伝えてくれる貴重なものですよね。
昔の人がどんな風に世の中を見ていたのかが伝わってきておもしろいです。
コメントありがとうございました!
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