手に手を取って。

女子美術大学に行ってきました。
相模大野駅から女子美相模原キャンパスまでは神奈川中央交通のバスに乗って終点まで行きます。片道20~30分。
(時間を調整したいので徒歩で行けないかと行く前に色々調べてはみたんですが
大学周囲のどの駅からもどんなにがんばっても片道30分以上かかってしまうとか
登り坂が多いということがわかって諦めました)

終点「女子美術大学」のバス停に到着。これは入口の看板です。
大学の正門とは別の場所に美術館の正門があるので左に向かって歩いていきます。

バス停から3分くらい歩いて到着。こちらが美術館の正門です。

女子美アートミュージアムの看板。
展覧会の看板もバス停とか大学正門とかここの入口とかあっちこっちにありました。

正門を入って見えてくる建物の1階がアートミュージアムです。
入場無料、撮影不可、入口で検温と手指消毒があります。あとマスク必須。

企画展「暁翠先生と女子美術学校」を鑑賞します!
女子美の黎明期に日本画の教授を務めた河鍋暁翠と教え子たちを紹介する展覧会です。
展示室は一部屋ですが、暁翠の孫の河鍋楠美氏から女子美に寄贈された5点の作品と
暁翠が女子美にいた頃の写真や資料がたくさんありました。
(休日でしたが鑑賞者はわたし1人しかいませんでした。学校の人とか見に来ないのかな)
暁翠については父親の河鍋暁斎とともに過去の展覧会で作品や遺品をいくつか見まして
展示室の入口に飾ってあった写真も見たことあったな~。
左右にいる教え子さんたちと手を繋いでいる、とてもあったかい写真。
1905年3月に普通科の3年生たちともに撮影された写真だそうです。
暁翠が女子美初の日本画の女性教授として勤務していたことは、実は最近までわかっていなかったらしい。
過去に女子美の校舎や関係者の自宅が火災に見舞われることなどがあって
多くの資料が失われてしまったことが影響しているそうです。
それでも、実家の河鍋家には女子美時代の写真や資料が残っていたり
女子美の同窓会誌に当時の学生が「河鍋先生」のことを覚えていて寄稿していたりと
女子美時代の暁翠をたどれる資料はいくつかあるようです。
1901年に女子美が開校し(今年で120周年ですね!)翌年1902年には教授として赴任していますが
在職記録の資料は残っていないようで、
当時、暁斎の門人だった島田友春が女子美で日本画を教えているのですが
彼が1902年11月に退職するにあたり後任として10月に採用されたのが暁翠だったということが
同窓会誌に卒業生が寄せた「島田先生から河鍋先生に変わった」という記述からわかるそうです。
1905年3月の卒業写真に暁翠が写っていて4月以降の写真には確認できないことと
1907年に長女を出産していることから考えて、おそらくこの間に退職しているのではないかとのこと。
(その後は内弟子の暁月が身重の暁翠の代わりに女子美に勤めていたようです)
暁翠の在職中は同じ日本画の教授として武村耕靄、端館紫川、仁田雪子などがおり
日本画の教室は生徒数が少なく一部屋で様々な年齢の生徒たちを教えていて
卒業生の寄稿には「とてもなごやかな気分」で過ごしていたという記述がありました。
教え子の石川千代や清水たつ、佐々木うめらの回想では
日本画や盆石(湖月遠山流)を習ったという記録があり、
暁翠と交流のあった大柳いくさんの回想では
「髪は夜会巻で袴をつけて、身体を大きく左右に揺らせながら独特の歩き方をする人」だったと。
ちなみにこの大柳いくさんの娘の大柳久栄氏(女子美卒業生)が行った調査によって
暁翠が女子美の教授だったということが判明したのだそうです~。
いくさんの母のふみさんが暁翠と2~3歳違いで仲がよくて交流があり、
いくさんは暁翠におんぶしてもらったことを覚えていると回想なさっています。(大きな背中だったらしい)
(大柳のお宅にも暁翠の作品や資料があったそうですが火災に遭ってしまったとのこと)
暁翠がいくさんに宛てた年賀状が展示されていて、
消印が1936年1月なので暁翠が亡くなった後に遺族が発送したものですが
真ん中に鶴を一筆書きにして「賀正」の文字が入ったシンプルなものでした。
暁翠最晩年の年賀はがき、とても貴重なものだ。
暁翠の女子美時代の写真は1902年10月~11月に着任記念で撮影されたと思われるものと
1903年3月28日の卒業式、1904年3月の卒業式、岡本操や児玉ゆきら教え子たちとともに写っているもの、
1905年3月の卒業式のものなどが残っているそうです。
どれも学生や先生たちとともにズラリと並んで撮影された集合写真で、
着任当時は少々緊張しているとみられる表情も、数年経つとやわらいでいるようで和みます。
(卒業写真には藤田文蔵(女子美創立者で初代校長)や佐藤志津(2代目校長)や
島田友春が写っているものもありました)
教え子の岡本操が1904年9月に渡米する際に暁翠に贈ったはがきも展示されていて
「渡米に際し河鍋先生に参上す」と記入されて2人で撮影した写真もありました。
日露戦争の影響もあってなかなか厳しい渡米だったそうですが
彼女は1915年に帰国して、巣鴨で琴を教えていて
1955年に発行された同窓会誌には「河鍋先生」について思い出を書いています。
女子美60周年に発行された「女子美祭」の冊子(1960年10月29日~30日)には
卒業生の山脇敏子が「あの頃」というタイトルの随筆を寄稿していて
「手をとって教えていただいたのは河鍋先生と新田雪子先生の2人だった」という記述がありました。
教え子の人たちは暁翠に教えを受けたことを数十年経っても綴っているのだなあ…。
河鍋楠美氏の回想では、暁翠は1935年5月7日に国府津の島田氏別邸に行き
出産祝いに鍾馗の水墨作品を2点描いているのですが、
描き終えて「少し休ませてほしい」と横になってそのまま脳溢血で亡くなったんでしたね。
1935年10月26日発行の同窓会誌13号には「職員及会員の死亡」というページがあって
数人の名前の中に「河鍋暁翠」とありました。
暁翠の初七日参列者名簿(1935年7月)も展示してありましたがこれ過去に展覧会で見たなあ、
正田富美子さん(暁翠に絵を習っていた)とか
ベルツ花子さん(暁斎の晩年の主治医だったエルヴィン・フォン・ベルツの妻)などの名前があるもの。
上部が焦げてるの何でだろうと思ってたんですが火事で燃え残ったからだそうで…そうなんだ…。
暁翠の遺品である砂子用具(にかわ)や焼筆入れ(焦げた柳箸)、
絵の具箱(暁斎→妹のきく→弟の記六→暁翠と受けつがれた)や絵の具の展示もあって
これも過去の展覧会で見たな~と。
「河鍋豊印」「暁翠女史」印など17個もの印章の展示もありまして
暁斎より多いとは聞いているけどこんなにあったんだな。。
他にも、1892年の大日本書画大家一覧には婦人画のところに「日本バシ 河鍋暁翠」とあったり
1899年11月発行の「暁翠能楽図絵」の道成寺のページが開かれていたり
1961年に高島屋で開催された近代百年を彩る女流画家展に暁翠の「老松群鶴図」が展示されたり
『女子美100年の歴史』(2001年)の1900年~1912年の項に岡本操の暁翠宛はがきが載っていたり
暁翠の功績をたどれる資料が展示されていました。
「筆をとめてこちらを見つめている暁翠の後ろに柿と鳩の図の掛軸がかかっている」写真は
暁翠を紹介する資料や映像で何度か見たことがありますな…。
村松梢風が1926年7月に撮影した「河鍋暁翠先生」は59歳の頃の写真で夏着物を着ていますね。
あと暁翠の死後に浅草寺伝法院で暁翠遺墨会が開催されたこともあるようで
参加者の集合写真の中に暁翠の遺影が飾ってあるのが写ってました。
最後に暁翠の作品展示。
「柿に鳩の図」「百福図」「江口の君」は過去に展覧会でも見ましたので久々の再会。
百福図のお多福さんたちが画面にい~~~っぱいいるの本当に見てて楽しい☆
暁斎の死後に引き継いだという七福神錦絵シリーズから「毘沙門天寅狩之図」「巳年の福神遊図」、
暁斎のタッチを懸命に再現した様子が見て取れました。細かくてすごいよ…。
「夕顔と蟲図」は夕顔の葉っぱに群がる5匹のバッタが描かれていて
葉っぱもそうですがバッタの細かさよ…!普段から虫を観察していないと描けない絵だと思う。
「婦人図」は春夏秋冬それぞれを4幅の掛軸で表現していました。
春は囲碁を打つ人たちの近くの衝立に蕨の絵が描いてあって
夏は赤ちゃんを抱っこした人の近くを竹笹を持った子どもが歩いて行ってて
秋は三味線を弾いている女性の着物が紅葉柄で、庭に萩の花が咲いていて
冬は猫を抱っこした女性の近くに子どもが水仙の花を持っている。
暁翠も猫の絵を描くんだ!お父さんやお父さんの師匠(歌川国芳)みたいに。
そういえばさっきの大柳久栄氏の回想で、池の端の暁翠宅に行くとスズメが籠で飼われていたり
猫に牛乳(当時は高級品)を与えていたりしてびっくりしたというエピソードもあるそうな。
展示物もキャプションもとても勉強になったので小さくていいから図録かパンフとかあるとよかったな…。
せめてパネルの解説だけでも撮影できるとよかったな…著作権で難しいのかもしれないけど…。
あ!そういえば澤田瞳子氏の『星落ちて、なお』がパネルで紹介されていました。
まだ読んでないんですけど、女子美時代のこととかも書かれてるみたいなので気になるなあ。

相模原キャンパスの紅葉も綺麗でした。

相模大野駅の改札前にあった巨大クリスマスツリー。
今年は紅葉がゆっくりでまだ何となくクリスマス気分ではないので不思議な感じです。さてさて。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。 ジャンル : 学問・文化・芸術
- 2021/12/07(火) 02:31:14 |
- URL |
- hippopon
- [ 編集 ]
日本画の系譜が継がれていったんですね。
河鍋暁斎の系譜、考えても見なかった。
トロイ私です。
そして 正田富美子って 美智子様のお母様の名前でびっくりも。
よもや、、ですよね。
Re: タイトルなし
- 2021/12/12(日) 19:11:32 |
- URL |
- ゆさ
- [ 編集 ]
河鍋暁斎の系譜でした!
学生たちととても仲の良さそうだった河鍋先生素敵です。
正田さんは女子美生ではないので個人的に習っていたのかも。
暁翠先生の印象とか知りたいですね…。
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