百着繚乱。

埼玉歴博の企画展「銘仙」に行ってきました。
博物館に寄贈された銘仙コレクションを中心に、銘仙の歴史と流行を紹介する展覧会です。
2021年に開催予定だった展覧会で図録もチラシも招待券も作られていましたが
緊急事態宣言のため博物館が休館になって展示そのものが中止になりまして
今回ようやく開催となったものです。
入館にあたってマスクの着用は必須で検温・消毒、会話を控えることなどの注意書きがありました。

企画展示室の前にあった高織。ちちぶ銘仙館の所蔵品です。
地機に比べて腰掛ける位置が高いことから名づけられたもので
足元の踏木をふむことで操作します。
過去にちちぶ銘仙館に行ったとき入口あたりに織機が置かれていたけど、これだったような気がする。

こちらもちちぶ銘仙館所蔵。ご当地銘仙のパネル。
1929年の「婦女界」にて雑誌記者と三越仕入係長の対談が掲載されていまして
その中で有名な銘仙の産地として秩父、伊勢崎、足利、桐生、八王子の名前が挙がっています。
パネルでは各地の特徴を述べたうえで、新しい技術やデザインへの挑戦についても書かれていました。

企画展示室に来ました。
ここの企画展は撮影禁止が多いのですが、今回は写真撮影ができました!
やったー!!ありがとうございます。
(まあ、言うたら所蔵品展ですからね)
以下、写真が多いのでたたんであります↓クリックで開きますのでどうぞ☆

黒地花文様銘仙。
今回の展覧会は秩父市在住のコレクター木村和恵さんが所蔵する約2000点もの銘仙コレクションのうち
500点余が博物館に寄贈されたことから企画されたそうで、
その木村さんが最初に手にした銘仙がこちらとのこと。
井上光三郎『機織唄の女たち-聞き書き秩父銘仙史』(1980年刊)の出版記念パーティーで
この銘仙を譲り受けたのをきっかけに収集を始められたそうです。
(木村さんは旧埼玉県繊維工業試験場(現ちちぶ銘仙館)の保存活動にも参加しておられます→こちら)
もともと銘仙は昔から生産されていたわけではなく、
生糸の輸出が主力となっていった近代に発明されたものとのこと。
生産工程で発生する屑糸(売り物にならない糸)を使って農家が自家用に織っていた太織に
絹紡糸(屑繭を原料とする撚糸)を使うようになったことから生産が始まり、
品質の安定化とともに量産化が可能になって様々な模様が作られていくようになったそうです。
つまり正絹や友禅などの高価なものではなくお手頃な普段着なのですな。

秩父で織られた男性用の日常着の黒縞で太織。
秩父の織物は堅牢なつくりのため鬼太織と呼ばれることもあるそうです。
太織は縞が中心でしたが絣織の技術が取り入れられて複雑な模様表現が可能となり、
やがて伊勢崎で発明されたほぐし織という技法で染められるようになります。
ほぐし織で作られた銘仙を「模様銘仙」といいます。

併用絣の紹介。
経糸・緯糸の両方を型で染めて織り上げます。
展示品は薔薇模様銘仙で、糸を織る際に少しずつずらすことでグラデーションを表現していて
バラの花の立体感が出ています。

半併用絣の紹介。
型で染めた経糸に緯糸を組み合わせて織り上げます。
経糸でつくられた模様を緯糸で引き立たせたり柄に変化をつけたりできるそうです。
展示品は黒地花模様銘仙で、緯糸に白と黒の糸を使って
花模様の部分に白糸を重ねることで柄を目立たせています。

ほぐし織の紹介。
織機にかけた経糸に型紙を置いて模様をつけ、緯糸を織りこんでいく技法です。
展示品は桜草文様銘仙。

緯総絣の紹介。
経糸には無地を、緯糸には染めた絣の糸を使って模様を織り出します。
展示品は椿文様銘仙。

玉虫織の紹介。
経糸と緯糸の色を変えて光や角度によって色に変化を持たせる効果を狙います。
展示品は玉虫地篠竹文様銘仙。経糸に萌黄色を使っていて
見る角度によって萌黄色の印象が変化します。

変わり織の紹介。
ドビー織機(経糸を上下に開口させる織機)を使って連続した模様を織ります。
展示品は浅葱地植物模様銘仙で、小さな葉の模様を経糸に染めて
市松模様の地文を作り出しています。
あと、写真撮影は禁止でしたが雑誌がつくる流行ということで
戦前に刊行された女性雑誌から銘仙に関する特集記事が紹介されていました。
主婦之友1928年10月号には流行銘仙くらべ
主婦之友1929年10月号には主婦の友が主催する銘仙即売会のお知らせが載っていて
出品するお店の名前が都道府県ごとに並んでいました。
愛知と山口、福岡が多かったかな。朝鮮からも。埼玉は本庄・熊谷・羽生のお店が載っていた。
婦女界の1929年10月号には小説に登場する女性はこんな銘仙を着てるかも?みたいな特集があって
当時読まれていた小説(菊池寛が多かったかな)の女性たちをイメージした着物が載っていました。
デュマの椿姫に着てもらいたい着物のところのコメントに
「黒地に朱・茶色等の柄の丸を飛ばしたモダーンな柄です」とか書かれていておもしろかった。
婦女界の1929年5月号には関東織物五大産地ということで秩父・伊勢崎・八王子・足利・桐生が紹介され、
夏の優秀品陳列会がデパートで開催される宣伝記事がありました。
松屋のお歳暮のしおりには新興銘仙と仙縞模様の特集が載っていた。

様々な銘仙が大きな展示ケースにどどーん!と並んでいました!
すごーいファッションショーみたい。
海外から輸入されたアールヌーヴォーやアールデコ、モダニズムなどの影響は
染織にいちはやく取り入れられたそうです。
写実的なものから抽象的な模様まで様々なデザインの柄がありました。

反対側からもどどーん。
割と模様を繰り返したものが多いような気がします。型紙で染めてるからかな。

ポスター「銘仙は秩父」と青地矢絣文様銘仙。

養蚕に使われる生産道具。
蚕種箱、蚕籠、繭かき台、拾い鉢、桑切り鎌、桑切り包丁、貯蔵箱、座繰りなど。
江戸時代の秩父地域の農家では養蚕に加えて製糸や絹織も行っており、
近代になって横浜港が開港すると生糸が重要輸出品となったために生産が追い付かず、
繁忙期には蚕の籠で家中が埋め尽くされ人の寝る場所もないほどだったらしい。

明治期国内生糸商標貼交帖。
国内で発行された生糸商標を集めたもので、埼玉県のページが開かれていました。
秩父地方では横瀬町のものがありました。

秩父郡明細地図(1926年)。
こちらは裏面で、秩父の営業家案内が掲載されています。(表面は地図)
秩父銘仙の織物工場や糸商の名前も載っていました。

検印のある銘仙。
白地幾何学模様銘仙の襟の辺りに秩父の検印が押されています。
粗悪品が出回らないように各生産地が組合を作って検査していたしるしです。
あと、写真撮影は禁止だったけど高篠村(現秩父市)の機業同盟会による秩父銘仙の競技会で
入賞した作品の一覧があって、特優賞と一等賞のページが開かれていました。
このときの特優は青い椿の模様の銘仙だったようです。

夜具地見本。
銘仙は着具地のほかに布団や掻い巻きなどにも使われていました。
夜具の模様は区切られるのが特徴で、縁起のいい模様が求められたそうで
亀甲や市松などの伝統模様や山や農村などの風景柄も織られたそうです。

型紙。厚みがありしっかりしたものです。
染めの作業で使用する色の数だけ型紙が必要でした。

羽織の桃地薔薇模様銘仙と退紅地薔薇模様銘仙。
地色が異なるだけで同じ模様の羽織です。
色が濃いものと薄いものに見えるのは緯糸の違いによるものです。

秩父ほぐし捺染の道具。
台に仮織りした経糸を置き、型紙を枠で押さえ、
鉢に入れておいた染料をしゃもじですくい取って布に乗せてハケやゴムベラで染めます。
終わったら経糸を巻き取り、蒸して色を定着させてから本織りとなります。

戦前から戦後にかけて作られた新しい銘仙を紹介。

紅葉柄、菊柄、抽象模様、幾何学模様。
色がたくさんあってカラフルです!
銘仙は色の数だけ型紙が要るのでものすごい手間がかかってそう。

ヨット柄とガス灯柄。
ヨットは航跡がゆらゆら表現されていてゆったりした海を感じるし
ランプの種類も並びも法則性はあるのに色が違うからすごくカラフルに見えるのおしゃれだと思う。

テニスのラケットとボール柄の羽織。
テニスは近代になって日本に輸入されたスポーツで、女性を中心に人気があったそうです。

子ども用銘仙。
お宮参りや七五三のお祝いなどハレの日に着用されたものと考えられます。
裾には破れや汚れを防ぐためのフチが施されていました。

銘仙にみる女性の一生。
子どもの頃はお宮参りや7歳のお祝いに銘仙を着て、成人するとちょっとしたお出かけに着て
婚礼衣装でも着て、子どもが生まれたときに使うねんねこ半纏も銘仙をほどいて作りました。
花や折り鶴や抽象模様を着ていた若い頃から地味で落ち着いた色合いを着るようになる高齢期まで
着物の変化も見てとれます。

標準服とモンペ。
戦争が激しくなってくると派手な柄の銘仙は着られなくなり、
ほどいて標準服やモンペに縫い直されたそうです。

復刻された銘仙。
秩父市では近代に作られたアンティーク銘仙の柄を復刻して商品を作っており、
その際に使われた緯糸や新聞紙(捺染の際に下敷きにする)がありました。
最近の新聞紙が薔薇模様に染まってておもしろい。

伊勢崎や足利の銘仙小物。
伊勢崎が得意とした併用絣や足利の半併用絣の技法が使われているそうです。

銘仙関係の冊子。
ちちぶ銘仙館、いせさき明治館、足利織物伝承館のパンフレットがありました。
わたしは秩父にしか行ったことないけど、銘仙を伝えたり商品を販売する施設は各地にあるようです。
お客さんは少なかったけど、着物の展覧会だったせいかお着物を召した人を何人か見ました。
「この柄素敵ね」「おばあちゃんが着てた」「懐かしいね」などの囁きも聞こえたし
お着物を見ながら色々思い出されるのか地元の着物や自分史を語っていらっしゃる人もいたし
そういう語りが本当はとても大事なんだよなあと思いました。
服は生活に密着した文化なのでファッションの展覧会の会場は展示品と鑑賞者の語りが一体化して
民俗学の宝庫になったりするよね。

常設展示室では特集展示「国宝太刀・短刀の公開」が行われていました。

短刀 備州長船住景光(1323年)。
刀身に秩父大菩薩と刻まれていて大河原氏が秩父神社に奉納したと考えられているそうです。
のちに上杉謙信が愛用しており拵えはそのときのものと考えられているとか。

太刀 景光・景政作(1329年)。
承久の乱後に播磨に移住した大河原時基が姫路の廣峰神社に奉納したもの。
持ち手の部分に「武蔵国秩父郡住大河原左衛門尉」と刻まれていて、故郷にいるときに作ったのかな?
しかしこの太刀ちゃんとしてるなー。
注文主、作者、制作年月日がきちんと刻まれている!えらい!!
お陰で未来人のわたしたちはその情報をもって鑑賞することができます…ありがとうございます。
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テーマ : 美術館・博物館 展示めぐり。 ジャンル : 学問・文化・芸術
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