般若のかなた。

観世流能楽師の小島英明さん主催の皐風会が、毎年深谷で開催している
「能楽のススメIN深谷」に行ってきました♪
能楽の公演のほかに、演目の解説や、狂言の魅力について、能装束の着付けなどを
実際に能楽師や狂言師の方々が舞台で実演つきで行ってくださるという、
何とも贅沢なイベントです。
しかも、自治体や流派からの協力があるとはいえ、ほとんどは皐風会の手弁当なのだそうな。
昔も今も芸能を生業とする方々には本当に頭が下がります。すごいよなぁ。
能楽やお舞台の歴史について簡単に説明をいただいた後、
今回の演目「安達原」でシテを務める小島さんから、内容の解説をしていただきました。
安達原の鬼女は、道成寺、葵上の女たちとともに能の「三大鬼女」と言われているそうです。
女性の怒りや悲しみ、人の弱さや愚かさがひとりの鬼を通して表現されており、
ストーリーが明解でわかりやすく大変人気のある演目なのだとか。
かなり有名な物語なのでご存知の方も多いかもですが、ざっくり言うと
「旅の山伏一行が安達原で宿を求め、宿の女性は薪を取りに行くと言って山へ行く。
女性に「見るな」と禁じられた閨をのぞき、死骸や人骨を見つけた山伏たちは逃げ出す。
女性は鬼となって追いかけてくるが、山伏に調伏され退散する」というお話です。
ストーリーの元ネタは、平安時代の歌人・平兼盛が残した歌である
「みちのくの安達原の黒塚に鬼こもれりと聞くはまことか」だというのは有名ですけれども、
実際に、福島県二本松市安達原にある観世寺というお寺の境内に
鬼の女性が住んでいたという伝説があり、住処の岩屋まで残っているのだそうです。。
かつて平兼盛が歌った歌が巡り巡って元ネタになり、それが伝説化したともいわれています。
岩屋と聞くと天照大神を思い出しますけれども、
昔から高い山や巨大な岩には神々が住むという伝説が多いから
案外そういうところからきているのかもしれない。
また、「安達原」には「間狂言(あいきょうげん)」と呼ばれる中入があることから
今回の演目でアイを務める狂言師の高野和憲さんが、狂言の魅力と題して
ワークショップのような解説をしてくださいました。
能ではセリフの語尾を必ず「~そうろう」と言うけれど、狂言は「~ござる」と言い、
能に狂言師が出演するときは、能楽師と同じく「~そうろう」という風に揃えるそうです。
ところが、能の中でも「~ござる」と言う場合が3つあるのだとか。
それが、
・籠太鼓の「(牢屋から)抜けてござる」
・道成寺の「(鐘が)落ちてござる」
・安達原の「(閨を)見てござる」
とのことです。
アイの役目は、舞台の中盤でこれまでのストーリーを解説することなのですが
やはり狂言師の役回りというか、ついでというか、ちょっと面倒事を引き起こしたりもします。
今回の安達原では「決して閨を見てはいけない」という女性の言いつけを破って
閨を覗いたアイ(高野さん)が「ぎぃやあああああ」とか
「見てござぁぁるうぅ」とか言いながら、
とてもコミカルでおっちょこちょいでかわいらしく演じていらして、
会場中で大爆笑が起こっていました(笑)。あー狂言って面白いなぁ☆
そして、白状しますと演目よりも楽しみにしていた(笑)能装束の着付け実演!
舞台の真ん中に役者と、着付けをする方々が出てきて
安達原のクライマックスで登場する鬼の装束の着付けを見せてくれました。
綿入れを着て、襟をつけて、胸箔と唐織を着て、かづらと帯をつけて、面をかけて完成。
能面は、両手で持って、一礼してからかけるのだそうです。
面に礼を尽くすのが大切なのだとか。
しかしさすが般若面で、面をかけた役者さんが顔をついと上げたら
一瞬にして会場の空気がざわりと変わったような感じがしました。
抜き身の日本刀の輝きを目の前にしたというのか…あの瞬間のドキッとした気持ちは
ちょっとうまく説明できません。
あと、鬼が着ている唐織はウロコ箔といって、正三角形が連なったような模様です。
(↑記事上の写真参照)
この模様は、主に鬼や蛇や龍をあらわし、それらの演目の衣装に使われるそうです。
今度、そういう演目を見る機会があったら注意して見てみようと思います☆
安達原の公演そのものはもう、なんというかただひたすら圧倒された1時間でした。
本当にすごかった。
前半の静かな場面から一転、後半の、鬼と山伏の対決シーンに心臓ばくばくでした。
手に汗握るとかそんなもんじゃなくて、ただただ汗が出てくる感じ。
お囃子も力強くてすごく盛り上がってた。
鬼が金の扇子を手に、数珠を手にした山伏に立ち向かっていくのですが
何度も調伏させられそうになって、そのたびに足をどん!と踏みならして応戦していて
山伏たちも負けずに数珠を鳴らし呪を唱えて、ほとんど合戦って感じ。
セリフは一切なく、まさに「考えるな、感じろ」という世界かなと。
そうして、立ち回りを終えた鬼が扇子を閉じて、静かに舞台から去っていくラストで
鬼の背中が思ったより小さく見えたことに少々びっくりしました。。
よく考えてみれば、それまでの山伏たちとの会話を思い出してみると
そんなに背丈が抜きんでているわけでもなかったのですが。
たぶん、鬼という生き物である以上は迂闊に相手にできないと思っていたのと
結構、客席ぎりぎりまで迫ってくる立ち回りが多かったのとで
その威圧感のためにとてつもなく大きな存在のように感じていたみたいです。
安達原は、道成寺と並んで「いつか見てみたい能」のひとつだったので
今回、見ることができてとても嬉しかったのですが
安達原でこんなにテンションあがるわたしが道成寺を見たらどうなってしまうんだろう。
(などと言いつつも、見てみたい気持ちに変わりはないのですけども)
ところで…。
鬼面、特に般若の面というのは、能面の中でも一度見たら忘れられないくらいに
強烈な印象を残す面でもあります。
般若は仏教では智慧の象徴で、女性の悟りの境地の顔とされますが
今回の鬼や清姫や御息所が「約束したのに裏切られた」ことで悟りの顔、つまり般若となるなら
なんという境地かと思う。
鬼が旅人にタブーを課すのは、今度こそ約束を守ってくれる人に会えたのではないか、
自分はもう一度誰かを信じてみたい、今度こそ大丈夫なのではないか…という
鬼の心の現れかもしれません、と、小島さんが内容解説でおっしゃっていました。
清姫も御息所も、橋姫も鉄輪の姫も、裏切りとプライドと悲しみのために鬼になったしなぁ。
そう考えると、安達原の鬼も決して人を傷つけたかったわけではなくて
本当は人を信じていたかった人なんだ…というような気がいたします。
(確か馬場あき子氏が『鬼の研究』の中で似たようなこと書いていらしたと思う)
明日から夏休みをいただいて北海道旅行に行ってきますので、ちょっこし留守にします~。
twitterにはちょこちょこ出没している予定です☆

「貫之1111首」歌合編その14。13はこちら。
講師「左。女郎花吹きすぎて来る秋風は眼にはみえねど香こそ知るけれ。前甲斐権少目」
講師「右。秋ならで逢ふこと難き女郎花天の川原におひぬものゆゑ。右近衛少将」
中宮「左」
上皇「うむ」
中宮「花は右」
躬恒の歌が選ばれました。
忠岑「やったじゃん」
躬恒「ありがと」
貫之もこっそり手を振ります。躬恒も振り返します。無言で伝わる言祝ぎと返礼。
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