白鳥は悲しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ。
上野誠さんの『天平グレート・ジャーニー 遣唐使・平群広成の数奇な冒険』を読みました。
Twitter上の、主に歴史クラスタさんたちの間で時々この本が話題になっていたので
少し前から気になっていたのですが、
これは、かなり、読み応えがありました!
遣唐使として唐に渡り、帰るときに嵐で遭難してしまい崑崙国(今のベトナム)に漂着して
流行病で部下を失ったり政府に幽閉されたりさんざんな目に遭いながらも
あきらめず旅をしつづけて中国の蘇州に戻り、阿倍仲麻呂に謁見して助けられて
渤海国使節団とともにようやく帰国することができた、平群朝臣広成が主人公の歴史小説です。
(その割に表紙の絵は「弘法大師行状絵詞」でしたけど^ ^;)
著者の上野氏は本業が大学の研究者なので
正直、読む前は「学術書みたく文語で書いてあるのかな」とか勝手に思っていたのですけど
蓋を開けてみたら全然そういうのじゃない、むしろちょうどよい具合にくだけた
大冒険小説でした。。
表紙の折り返し部分の内容紹介で、「学芸エンターテインメント」とあってああそれだって思った。
小説とも学術書とも違う感じがするのは、
登場人物(実在の人物なのでそう表現するのも何だかムズムズするけど)の会話が口語調で、
地の文が講義のプレゼン風(いい意味です)だからかもしれない。
章タイトルが「諸国の巨木、竊に伐られ、時に平群広成、私に多治比広成の邸を訪ふ」とか
漢詩の書き下し調なのも雰囲気があってよいなあ。
遣唐使の航路や、長安までの旅路、長安においての儀式や学習活動なども
こと細かく書いてあって、読むのが大変でしたが勉強になりました。
市販の研究書だと、「遣唐使がこういう航路で海を渡って、この道順で長安まで歩いて、
長安についたら皇帝に謁見して」などなど
物事の進行が一言で済まされていたりしますけれど、
この小説は、たとえば長安の儀式においても挨拶の言葉や献上品の内容や
並んでいる人たちの表情ひとつひとつにも気を配ってあって
見てきたような感じがしてリアリティあるなと。
多少は政治劇っぽい部分もありますけど、広成は大使や副使ではなく判官なので
あまり表舞台は書かれていなくて、でもこれくらいがいいんじゃないかと思いました。
タイトルにもあるけど、あくまで広成の冒険が主体なんだもんね。
安一族がすごくいい味を出していて大好きです。
特に安東が広成と三麻呂を崑崙国から連れ出した手段の鮮やかさがハイレベルでした。
かっこよかったよ安東~もう、好きっ☆
こういう、「外見からは何を考えているかわからないけれど
行動には筋がとおっている」人はゆさ的にはクリティカルヒットでして。
広成たちが安一族の手で蘇州に送り届けられるあたりは
タイムスクープハンターとか歴史秘話ヒストリアあたりで映像化すべきでしょ…。
特に安仁の一件を聞いて、広成が「かくや、かくや」と呟くシーンは
ナレーションではなく役者さんの声でやってくださいまし…。話がずれてきた…。
阿倍仲麻呂が広成を試しながらも広成の帰国に手を貸す、という構図は
同じく上野氏が脚本を担当されたオペラ『遣唐使』にも見られたので
ちょっと懐かしく思いました。
(あのオペラもっかい関東でやってくれないかな…観たい…)
仲麻呂と広成のやりとりはほぼ会話文だけで構成されていて
すいすい読めて楽しかったです。
わたしは「お互い、立場を理解しながらも相手のために全力を尽くす」というパターンに
ものすごく弱いのですが
仲麻呂が立場のボーダーラインギリギリのところまで歩み寄って来て
広成を助けようとする姿があまりにかっこよくて、
広成も最初は仲麻呂に頼るべきか判断しかねているけど
仲麻呂の真意に気づいてからは全面的に信頼していて、
「こういう関係いいなあ…」と2424しながら読んでいました。
広成たちが帰国していく部分には当時の外交関係もからんでくるので
「こういう形だとまずいから、こういう解釈でいかがでしょう」とか
当然のように行われているところがニヤリとしますね( ̄▽ ̄)。
広成も「しばらく考えて(考えるふりをして)」とかぬけぬけとやっちゃうし。
というか、仲麻呂と別れてからの広成はやたらと勘がはたらく人になっていてビックリした。
いろいろ経験して立ち回る術を身につけたのですなー。
(そもそも彼は遣唐使だから、日本を出発する前に外交教育は一通り受けているだろうけど
その知識の使い方を覚えたということでしょうか)
あと聖武天皇のキャラが新しすぎる件。
「ゆうゆうと俳優(わざおき)のように歩く」とかどういうことなの…!
今まで読んだどの歴史小説にも、こんなますらお全開な聖武天皇は出てこなかったぞ(笑)。
…というわけでだいたいの点においては面白かったし勉強にもなったのですが。
実は気になる点がひとつあったりします。
何かというと、吉備真備のキャラクター造形について。
わたしが真備びいきということもあるのですけど(というか最大の原因はそれだと思うけど)、
この小説の真備は広成に対して全然本心を明かさなかったり、
井真成がなくなったところへやって来て蔵書をごっそり持って行っちゃったりと
妙にいやらしく書かれていてあーこれ無理だわ…と本を閉じかけてしまった。。
たぶんわたしと上野氏の真備観が異なっているのでしょう。
あと、タイトル忘れちゃったのですが、以前に井真成が主人公の小説を読んだときも
なぜか真備や玄昉があまりいい人じゃなくてですね…。
山之口洋氏の『天平冥所図会』とか、高橋克彦氏の『風の陣』での真備は
前者はあたたかくやさしいおじさん、後者は老獪なデキるおじさんという感じだったので
個人的にとても好感が持てたのですが。
…とかなんとかで、100%満足とはいかないのですけれども
読み応えがあった!というのが総合的な感想です。
381ページと割と厚めな本ですが、時間をつくってあと2回は読み返したい。
※クリックで大きくなります
「貫之1111首」古今集編その4。3はこちら。
明日のためのその2。まずは歌の分類を決めます。
貫之「四季・恋・賀・羇旅・離別・哀傷…」
友則「おおすじ、これでいいか。あとは分類しながらひとつひとつ決めよう。場合によっては範疇広げてもいいし」
躬恒「分類できなさそうな歌は?」
忠岑「むやみに外したくねぇしなー雑体でまとめるとか?」
貫之「それがいいな」
友則「よし決まり。明日は、みんな空いてる?」
貫之「暇」
忠岑「暇です」
躬恒「今夜宿直なんで、これから戻ります」
友則「じゃあ明日の午後からやろう。急ぎじゃないし、無理せず、ゆっくりね。無理だったらすぐ言ってね」
古今和歌集の撰者たちは編集所に常勤していたわけではなく、
それぞれの仕事とかけもちしながら資料の収集にあたっていました。
アフター5は別の顔(違)。
Twitter上の、主に歴史クラスタさんたちの間で時々この本が話題になっていたので
少し前から気になっていたのですが、
これは、かなり、読み応えがありました!
遣唐使として唐に渡り、帰るときに嵐で遭難してしまい崑崙国(今のベトナム)に漂着して
流行病で部下を失ったり政府に幽閉されたりさんざんな目に遭いながらも
あきらめず旅をしつづけて中国の蘇州に戻り、阿倍仲麻呂に謁見して助けられて
渤海国使節団とともにようやく帰国することができた、平群朝臣広成が主人公の歴史小説です。
(その割に表紙の絵は「弘法大師行状絵詞」でしたけど^ ^;)
著者の上野氏は本業が大学の研究者なので
正直、読む前は「学術書みたく文語で書いてあるのかな」とか勝手に思っていたのですけど
蓋を開けてみたら全然そういうのじゃない、むしろちょうどよい具合にくだけた
大冒険小説でした。。
表紙の折り返し部分の内容紹介で、「学芸エンターテインメント」とあってああそれだって思った。
小説とも学術書とも違う感じがするのは、
登場人物(実在の人物なのでそう表現するのも何だかムズムズするけど)の会話が口語調で、
地の文が講義のプレゼン風(いい意味です)だからかもしれない。
章タイトルが「諸国の巨木、竊に伐られ、時に平群広成、私に多治比広成の邸を訪ふ」とか
漢詩の書き下し調なのも雰囲気があってよいなあ。
遣唐使の航路や、長安までの旅路、長安においての儀式や学習活動なども
こと細かく書いてあって、読むのが大変でしたが勉強になりました。
市販の研究書だと、「遣唐使がこういう航路で海を渡って、この道順で長安まで歩いて、
長安についたら皇帝に謁見して」などなど
物事の進行が一言で済まされていたりしますけれど、
この小説は、たとえば長安の儀式においても挨拶の言葉や献上品の内容や
並んでいる人たちの表情ひとつひとつにも気を配ってあって
見てきたような感じがしてリアリティあるなと。
多少は政治劇っぽい部分もありますけど、広成は大使や副使ではなく判官なので
あまり表舞台は書かれていなくて、でもこれくらいがいいんじゃないかと思いました。
タイトルにもあるけど、あくまで広成の冒険が主体なんだもんね。
安一族がすごくいい味を出していて大好きです。
特に安東が広成と三麻呂を崑崙国から連れ出した手段の鮮やかさがハイレベルでした。
かっこよかったよ安東~もう、好きっ☆
こういう、「外見からは何を考えているかわからないけれど
行動には筋がとおっている」人はゆさ的にはクリティカルヒットでして。
広成たちが安一族の手で蘇州に送り届けられるあたりは
タイムスクープハンターとか歴史秘話ヒストリアあたりで映像化すべきでしょ…。
特に安仁の一件を聞いて、広成が「かくや、かくや」と呟くシーンは
ナレーションではなく役者さんの声でやってくださいまし…。話がずれてきた…。
阿倍仲麻呂が広成を試しながらも広成の帰国に手を貸す、という構図は
同じく上野氏が脚本を担当されたオペラ『遣唐使』にも見られたので
ちょっと懐かしく思いました。
(あのオペラもっかい関東でやってくれないかな…観たい…)
仲麻呂と広成のやりとりはほぼ会話文だけで構成されていて
すいすい読めて楽しかったです。
わたしは「お互い、立場を理解しながらも相手のために全力を尽くす」というパターンに
ものすごく弱いのですが
仲麻呂が立場のボーダーラインギリギリのところまで歩み寄って来て
広成を助けようとする姿があまりにかっこよくて、
広成も最初は仲麻呂に頼るべきか判断しかねているけど
仲麻呂の真意に気づいてからは全面的に信頼していて、
「こういう関係いいなあ…」と2424しながら読んでいました。
広成たちが帰国していく部分には当時の外交関係もからんでくるので
「こういう形だとまずいから、こういう解釈でいかがでしょう」とか
当然のように行われているところがニヤリとしますね( ̄▽ ̄)。
広成も「しばらく考えて(考えるふりをして)」とかぬけぬけとやっちゃうし。
というか、仲麻呂と別れてからの広成はやたらと勘がはたらく人になっていてビックリした。
いろいろ経験して立ち回る術を身につけたのですなー。
(そもそも彼は遣唐使だから、日本を出発する前に外交教育は一通り受けているだろうけど
その知識の使い方を覚えたということでしょうか)
あと聖武天皇のキャラが新しすぎる件。
「ゆうゆうと俳優(わざおき)のように歩く」とかどういうことなの…!
今まで読んだどの歴史小説にも、こんなますらお全開な聖武天皇は出てこなかったぞ(笑)。
…というわけでだいたいの点においては面白かったし勉強にもなったのですが。
実は気になる点がひとつあったりします。
何かというと、吉備真備のキャラクター造形について。
わたしが真備びいきということもあるのですけど(というか最大の原因はそれだと思うけど)、
この小説の真備は広成に対して全然本心を明かさなかったり、
井真成がなくなったところへやって来て蔵書をごっそり持って行っちゃったりと
妙にいやらしく書かれていてあーこれ無理だわ…と本を閉じかけてしまった。。
たぶんわたしと上野氏の真備観が異なっているのでしょう。
あと、タイトル忘れちゃったのですが、以前に井真成が主人公の小説を読んだときも
なぜか真備や玄昉があまりいい人じゃなくてですね…。
山之口洋氏の『天平冥所図会』とか、高橋克彦氏の『風の陣』での真備は
前者はあたたかくやさしいおじさん、後者は老獪なデキるおじさんという感じだったので
個人的にとても好感が持てたのですが。
…とかなんとかで、100%満足とはいかないのですけれども
読み応えがあった!というのが総合的な感想です。
381ページと割と厚めな本ですが、時間をつくってあと2回は読み返したい。

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