ミラクル・ピクチャーズ。

先週末のことになりますが、江戸東京博物館で開催中の
「ファインバーグ・コレクション展-江戸絵画の奇跡」に行ってきました。
アメリカ人コレクターのファインバーグご夫妻の江戸絵画コレクションが見られるのですよ~。
しかも展覧会監修者がわたしの大好きな小林忠先生!
きっとソウルフルでハートフルでたまにピリ辛スパイスの効いた展覧会に違いない(´∀`)と
足取りも軽く見に行きましたとも…。
で、蓋を開けたらやっぱりそんなチョイスでしたとも。うむ、良かった。
展示品は狩野派から南画、文人画、浮世絵、琳派など江戸絵画のジャンルをほぼ網羅しています。
トップバッターは俵屋宗達の虎図!
江戸時代の絵師の描く虎の例に漏れず、猫みたいでコロコロしていてかわいかったです。
体毛がフワフワしていてぼかしかと思いきや、ちゃんと1本1本描いてあるんですね…気が遠くなるわ…。
めずらしいなと思ったのが鈴木其一の大江山図。
大江山征伐のストーリーをすべて描きこむ屏風絵ならともかく、
これを題材とした1枚ものの絵って酒呑童子が鬼の姿で描かれることが多いのですが
其一の童子は若者姿で描かれています。
画風も本画っぽくて、人物描写の細かいこと。其一の仕事ぶりが光っている作品です。
酒井抱一の十二ヶ月花鳥図は全12幅がそろってお出まし。
抱一の十二ヶ月花鳥図は過去の展覧会でいくつか見たことがありますが、
5~6セットほど確認されているそうな。
ファインバーグさんがお持ちの今回の出品も、抱一らしさが全面的に出ていて胸キュン。
縦長の掛軸を最大限に活かし、季節の題材を最小限にバランスよく配置したデザイン性の高い絵です。
抱一は江戸育ちだからさっぱりすっきりが好きな人なんだけど、
でも姫路藩主の弟だから雅さがそこはかとなく漂ってるよね☆
御育ちの良さに庶民的な部分もあって、人間的にもバランスの取れた人だと思います。庶民王子抱一。
谷文晁の「富士真景図」。おっきいです!
画面いっぱいに富士山がどーんと鎮座ましましています。
(ちなみに…歌川広重の『江戸高名会亭尽』に山谷八百善というお店が紹介されているそうですが
そのお店を描いた絵の中に、この富士真景図によく似た掛軸がかかっているそうです。
おおっ!広重が文晁の富士山を目にした可能性があるの!かも!
この2人、活躍した時代がギリギリかぶっているから、もしかしたら面識あるかもしれないし。
うは~~掛け軸ひとつでロマンが爆発しますな)
さらに、文晁の「秋夜名月図」。秋草と月を描いた絵のほぼ中央に、どかーんと巨大な落款が!
会心の作ということかな。自賛に「真景かくの如し」と書いているし。
池玉瀾の「風竹図扇面」は墨でさらさらと竹の葉を描いていて美しいです。
添えられた詩歌の雅なこと(*^ ^*)、玉瀾の美意識と教養の高さが伺えますな。
山本梅逸の「畳泉密竹図」。細かい竹の描写が圧巻です。
なんとなく伊藤若冲の竹の描写に似ているなあと思いました。
鈴木松年の「月に雲図」。3Dみたいに立体的な月で、遠くからでもはっきりとわかりました。すごい絵。
月の周りに雲が描かれてるんですが、暗雲だったから雨雲かなあ。
伊藤若冲の菊図…。
もう彼の何を見ても驚かないと思っていましたが、今回もやられました…円盤型の菊とか。まじか。
花がドレミと3つ並んだデザイン、もはやレコードにしか見えない件。DJとかできそう。
若冲せんせい時代を先取りしすぎです、さすがです(´∀`)ノ
曽我蕭白の「宇治川合戦図屏風」。平家物語における、佐々木高綱と梶原景季の戦い。
蕭白の奇想っぷりが大爆発してますなァ!
絵的に群仙図屏風とかと、制作時期は近いような気がする…蕭白が絶好調だった頃だと思います。
葛蛇玉の「鯉図」も面白いなー。
水の波紋とあおられる木の枝で強風を表現し、びっくりしたような顔の鯉がかわいい。
鯉翁と呼ばれるほど鯉を好んで描いた蛇玉の真骨頂ですね。
浮世絵もたっぷりありました。
しかも肉筆オンリーだよ!版画じゃなくて絵師の手描きですよ!手描きやばし。
作者不明の「男舞図」。若衆歌舞伎ですね。男の子が女装して業平舞を踊っています。
画中に「くもたる清水にかけみれハわか身なからもよいおなご しほらしや」と書いてありました。
作者さん、それたぶん萌えやで(`∀´)ニヤリ☆
菱川師宣の「吉原風俗図」。絵の屏風に、小さく隠し落款があります。面白い。
歌川豊春の「遊女と禿図」。かむろのうなじが美しすぎてポスカ買っちゃったよ!
襟足をぐっと下げてうなじの色気を見せるのが着物の醍醐味だよね!豊春ったらよくわかってる!!
歌川豊国の「見立松風村雨図」。これ、表具が面白いです。
文字や本のきれっぱしのようなものが散りばめられています。江戸っ子の好きそうな字ばかり。いいなあ。
歌川広重の「隅田河畔春遊図」の中に、
こちら(鑑賞者)に背中を向けて座っているツルッパゲのおっちゃんがいるのですが
たぶん広重の自画像ですね。背のひょうたんに隠し落款があるし。
祇園井寺の「化粧美人図」。
紅を濃く塗り重ねると玉虫色に見えるのを利用した化粧が江戸時代後期に京都で流行ったそうで
そのお化粧中の女性を描いた絵です。
ラストを飾っていたのは葛飾北斎の「源頼政の鵺退治図」。
平家物語の題材ですね。
筋骨隆々、きりりと弓を引き絞った迫力満点の頼政を描き切った北斎、当時88歳!
なんて元気なジジイなんだ!と絵を見た当初は思ったのですが、
午後の講演会で聞いた解説によると
実はこのとき北斎は老いのため手が震えていて、細い線を何度も重ねて仕上げているそうです。
北斎が90歳になったとき、あと5年くれ、そうしたら本物の絵師になってみせる、と
天を仰いだ話は有名ですけれども。
描いても描いてもずっと自分の絵に満足しなかった人なんだな…。
(鏑木清方も晩年の素描などを見ると線が震えているそうな)
肉体の衰えを修練でカバーしていた北斎のすさまじさ。頭が下がります。
午後は、展覧会の監修を担当された小林忠先生の講演会があったので聞いてきました♪
いつもニコニコしながら美術品への愛情たっぷりのお話をされる方で、
今回もやっぱりそんな感じでした(^ ^)。
先生とファインバーグご夫妻とは30年以上のお付き合いがあるそうです。
(というか、先生ほどの人物になると交友関係がビッグネームだらけな件。
ジョー・プライス氏、辻惟雄氏、浅野秀剛氏、狩野博幸氏とか、もうね…。
江戸絵画研究に関してはほとんど人間国宝級の人たちですね。小林先生ご本人もだけど)
ファインバーグご夫妻はご自宅に仏像や掛軸などを飾って楽しんでいるそうで、
小林先生が過去に日本で見た美術品を、いつの間にか購入されていることもあるとか。
趣味が合うんだなあ。
展示品の解説もしてくださいまして、特に南蛮図屏風について熱く語ってくれました。
ポルトガル人は大きく、日本人が小さく描いてあるのは身長差の衝撃だとか、
キリスト教が禁じられていたはずの江戸時代の制作にも関わらず堂々と十字架が描きこまれているのは
長崎の名家でひそかに隠されて保存されていたからとか。
美術品にはときたま真実が描かれるからね…そういう意味でもこの屏風は貴重ですね。
懐月堂安度の遊女図の、凛とした立ち姿や着物の美しさや表具の立派さ。七宝ですって。
酒井抱一の十二ヶ月花鳥図は、どうも酒井家の菩提寺にあった屏風が掛軸に分割されてしまったようで
お店で売られていたのをファインバーグさんが購入したらしいです。
豊春と抱一の遊女図の比較。
抱一は江戸に琳派をもってくる前は、豊春に私淑して浮世絵を描いていたので
「遊女立姿図」には豊春の影響が色濃く見られるそう。
池大雅の「孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風」。
先生いわく、大雅は子どものようにやんちゃな人で、それがよく出ている絵だそうです。
高士にとって帽子がとぶのは本来とても恥ずかしいことですが、
絵の中でそれを笑い飛ばすことで、身なりにこだわらない人物のあり方を描いたのでは、とのこと。
この絵を語っていたときの先生の顔がニヤけまくっていて笑った( *´艸`)。
本当に大雅が好きなんだなあ。
先生とファインバーグさんの共通認識として、
展覧会の副題「江戸絵画の奇跡」があるそうです。
200年以上も内乱が起きず、外国からも攻められない時代があったというのは奇跡に近いと。
そんな中で培われ発展・洗練された町人文化、
自由な立場の画家たちと自由な人々、自然へのやさしいまなざしなどに惹かれてやまないそうです。
たぶんわたしが江戸時代の美術に惹かれるのも同じ理由かも…。
あ、そうだ。インフォメーションをひとつ。
来年1月から江戸博で「大浮世絵展」が開催されるそうです♪
江戸博開館20周年・国際浮世絵学会50周年記念の開催で
小林先生がおととしからずっと「やります」っておっしゃっていた展覧会ですよ!
うおおマジすか…やっと実現するのね…!!
浮世絵が山のように見られるとか感無量です。嬉しいです。うひょー行くっ☆
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