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ゆさな日々

猫・本・歴史・アートなど、好きなものやその日考えたことをそこはかとなく書きつくります。つれづれに絵や写真もあり。


般若のかなたその3。

  1. 2013/09/09(月) 23:41:47_
  2. 舞台鑑賞
  3. _ tb:0
  4. _ comment:0
3人目。
皐風会主催の「能楽のススメ IN 深谷」に行ってきました♪
去年に引き続き2回目の参加。
観世流能楽師の小島英明さんによる解説つきで能や狂言の公演が見られるイベントです。
各地の能楽堂の公演でも解説ってめったにしていただけないので
すごく貴重な機会だ!と思ってチケット取りました。
能はあらゆるものを削ぎ落とした芸術のため観客が自由に想像できるので
情報を入れずに観るのもひとつの楽しみ方ですが、
解説いただいてから観るとぐっと奥行きが感じられて見る目が変わりますね~。
気がつかなかった部分にも目が向くようになるし。

去年までは能の公演のほかにお囃子の説明や能装束の着付実演なども行われたのですが、
アンケートに「もっと色んな演目が見たい」「檜舞台を再現してほしい」などの意見が出たそうで
今回は最初から最後まで芸公演となっていました。
始まる前に小島さんが舞台についっと出てこられて、
演者の方々のプロフィールや今回の3演目について
面白おかしく解説してくださいました(^ ^)。
去年も思ったのですが、いい感じに肩の力が抜けていて冗談がうまくて素敵な方です。
「ちょっと歩くと比叡山、ちょっと歩くと横川、ちょっと歩くと戻ってきます」など
舞台でちょこまか動きながら話してくださって、客席から笑いが起こっていました。
能の便利なところは想像力でワープができるところ。ちぃ覚えた。

まずは舞囃子「菊慈童」。
菊花が咲き乱れる仙人の住まいにて、中国の皇帝に寿命を授けると言って舞った菊慈童の伝説が
舞踊になったもの。
面をかけず、装束も身に着けず、袴姿に扇を持って舞う短い小品です。
シテを務めるのは小島さんのお師匠様である観世喜之氏。
全体的にびしっと貫録がありましたけど、
さすが童子の舞らしく時折クルクル回ったり飛んだり実に軽やかでした。きれいだった。
重陽の節句が近かったのでタイムリーな演目だなぁと思いました。
(そういえば今日がその重陽ですね)

続いて狂言「附子」。
「この桶に附子という猛毒が入っている。決して開けるな」と主人に命じられた太郎冠者と次郎冠者が
主人の留守中に禁を破って桶の中身(実は砂糖)を全部食べてしまい、
何とかごまかすために主人の掛軸と瀬戸物を壊して、帰宅した主人に大声で泣きついて
「うっかり宝を壊してしまった。死んでお詫びしようと附子を食べたが死ねない」と叫ぶ…という、
国語や音楽の教科書にも載っているよく知られた狂言です。
(ちなみに元ネタは『沙石集』巻8「児の飴食ひたる事」らしい)
附子とはトリカブトのことで、タイトルはずいぶん物騒ですが
本編はとにかく笑いすぎておなか痛くなりました(笑)。
2人が桶の中身を気にしてソワソワするシーンで小さな笑いが起き、
2人が扇子で桶をあおぎながら
(「桶から流れてくる毒気を浴びただけでも死んでしまう」という設定なのです)、
「あおげあおげ」「あおぐぞあおぐぞ」とへっぴり腰で接近するシーンで爆笑、
中身が砂糖とわかって2人で桶を取り合いっこしながら
「さてもさても美味いことじゃ」とムシャムシャ食べるシーンで大爆笑!
見るなと言われたら見たくなる、食べるなと言われたら食べたくなるよね。にんげんだもの。みつを

附子ってあらすじだけ見れば何てことない話だけど、
桶を開けようと紐をとく、蓋をとる、中身を見る動作を「あおげあおげ」のセリフで区切ったり
「おまえが見ろ」「いやだ」「じゃおれが見る」などシュールなやりとりを挟んでるので
「食べちゃダメ!」というよりは「あーあ、食べちゃったよ」みたいな
アチャー(ノ∀`)感がうまく出てる。
特にシテの太郎冠者を演じていた野村万作氏(当代野村萬斎さんのお父様です)は偉大。
初めてお姿をナマで拝見しましたが、人間国宝SUGEEeeee!!
登場時のセリフ「オオォォオオオ~ッ、御前に」でもう、ぞわってきましたもん。
かと思いきや「あおげあおげ」の動作がキュートすぎてヤバイ。
桶の中身を毒見して「ア゛ア゛~~~~」と絶叫する声もすごい(笑)どっから出してんのあれ。
(記事上↑の写真がそのときの顔です)
その後ケロッと「砂糖じゃ」って言うかわいさもパない。
砂糖を食べてしまってどうしようと言う次郎冠者に策士顔で指示出すのもチョイワルっぽくていい。
すごいお方だな~。
客席のど真ん中で万作氏の芸が見られて幸せいっぱいでした。狂言は楽しい!

最後に蝋燭能「葵上」。
ホールの照明のスイッチを全部オフにし、蝋燭の灯りのみで演じられた演目です。
ゆらめく炎。
舞台の様子。公演終了後に明るくなってから撮影したもの。
公演中はもっと薄ぼんやりとしていました。
幽玄とはこういうものを言うんだろうな…。

病気で臥せっている葵上の枕元にやって来た六條御息所の生霊が
光源氏との幸せな日々を失った悲しみとつらさを語り、
やがてつらさと口惜しさのあまり鬼となった御息所が修験者により調伏され成仏する、という
源氏物語の葵巻に着想を得た曲。
これに出てくる鬼は道成寺、安達原の鬼とともに「能の三大鬼女」と言われています。
道成寺もこの前観に行ったから、ヤッホー!これで3人の鬼コンプリート(^∀^)☆

シテの御息所はまず女性面で出てきて、涙ながらに胸の内を語るのですが
身に着けている着物が粗末で哀れさを誘います。
ただ背筋はぴっと伸びていて気品を感じた。
おもしろかったのが、御息所が照日ノ巫女の口を通して我が身のつらさを切々と述べる際の
シテ、ツレ、ワキツレの立ち位置ですね。
小島さんの解説にもあったのですが、シテの御息所が舞台上にやって来ても
それが見えるのはツレの照日ノ巫女だけという設定。
御息所が照日ノ巫女に体を向け、巫女はワキツレの臣下に体を向け、
臣下は巫女に体を向けて巫女の話を聞いているけど、
実際にしゃべっているのは御息所の霊…という、何ともややこしい状況。。
御息所と巫女が同時に同じセリフをしゃべることで憑依を表していました。
面白いなあ。
寝ている葵上をに暴力を振るおうとして我に返った御息所が(彼女は身分もプライドも高い人です)、
ボロボロの牛車に乗って去っていくのも哀れ…。
(ここで観客は打掛を頭上にあげて去っていくシテの後姿からボロボロの牛車を想像する必要があります)

後半では一転、般若の面をつけて舞台に戻ってきて修験者と対決する御息所。
杖をぶんぶん振ったり、修験者をキッとにらみつけたり、長袴をバサー!と後ろに蹴ったり
小島さんの鬼はキレがあってかっこいいです。
もし舞台に近かったら風圧とか音とか感じられたんじゃないかな…。
杖を修験者につきつけて屹立する姿がマジで絵になるうえに
鬼や龍を表すウロコ箔の唐織がギラギラしてなお迫力。
わーーやべーーーずっと見ていたい!って思いました。
最後に修験者に調伏されて膝をがっくりとついた姿を見て泣きそうになりました。
ああ負けちゃった…でもよくがんばったね…みたいな。

安達原の鬼が人間不信、道成寺の鬼が恋人への恨みを抱えているならば
六條御息所は光源氏、葵上、そして自分自身への怒りが凝り固まった生霊なのかな…。
とてもやさしく気高いだけに、誰のことも責められなくて
抱え込んで膨れ上がった思いが爆発してしまったというか。
シテの般若の面が恐ろしくも悲しく見えるのは
御息所のたくさんの思いが面をバラバラにしかねない勢いであふれ出ているからかもしれません。
そして3人の鬼に共通するのは「こんなはずじゃなかった」という後悔じゃないかと思う。
どうしたらいいかわからなくて助けを求めていて、
自分がこんなにも苦しんできたことを誰かにわかって欲しかったんだろうなって。

シテ(だいたい幽霊)がワキ(だいたい修験者か旅人)に身の上を語り、
舞を舞って思い残すことをなくして成仏するのが能のストーリーのデフォですけども
「葵上」をはじめとする鬼たちは語るだけでは終われないのだなあと思いました。
同時に、報われない思いに縛られた人を解放するにはとてつもないエネルギーが必要なわけで
それをやってのけるワキはすごい存在だなあ、とも。
鬼が出てくる能を観るたびにワキの力を意識せざるをえません。
たぶん現代人のわたしよりも、昔の人はもっと意識していただろうな…。

能は慰霊の芸能だとわたしの手持ちの本に載っていました。
報われなかった人を語ることは慰霊になるんだよね。あなたを忘れないよっていう。
歌舞伎や落語、講談、文楽なども同じですね。



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縞模様がお江戸の縦縞とそっくりで好き~。
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ゆさ

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