自然に忠実たれ。

森アーツセンターギャラリーで開催中の「ラファエル前派 英国ヴィクトリア朝絵画の夢」展に行ってきました。
テート・ギャラリーに所蔵される70点余りのラファエル前派兄弟団の絵画が来日し、
しかもその中にジョン・ミレーの「オフィーリア」が入っているとのこと!
うひょーっオフィーリアが六本木に来るー!というわけで早々に前売券をゲット。
実はわたし本物を見るの初めてだったのです。
数年前に渋谷でミレー展が開催されたときにもオフィーリアは来てくれてましたが行きそびれてしまっていて
次に来てくれたら這ってでも会いに行くと決めていまして、ようやくその機会に巡り合えたのでした。
生きてて良かった。
午前中に行ったためかそんなに混雑はしていなかったのですが
入口で「触らないで・指ささないで・走らないで」との注意を受けてから(こんなの初めて)会場へin。
オフィーリアがどこにあるかはすぐにわかりました。人だかりで(笑)。
割と皆さん近づいたり遠くから見たりなさっていて、わたしもそうしてきたのですが
でもやっぱり張りつくように近づいてじーっと見てきてしまった。
宙を見つめるオフィーリアの顔、力の抜けた手、水に広がる髪、浮いた草花、背景の木々、
何から何まで細かく緻密な確かな描写力。
絵なのにオフィーリアがゆっくりと動いて流されていくような錯覚を覚えてめまいがして
慌ててまばたきして我に返ったりしました。
ものすごく綺麗だった。
ラファエル前派団結成後まもなくロイヤル・アカデミーに出品された作品で高評価だったらしいです。
それにしても「美人と狂気と悲恋と花と川」ってすさまじいドラマ要素だな…。
多くの画家が彼女を描いてきたのもうなずけますね。
ミレーはこの絵を一気に描いたわけではなく、まず夏から秋にかけて背景の植物を写生し、
冬に人物(オフィーリア)を描いたそうです。
モデルさんにバスタブに入ってもらって朝から晩まで1日中描き続け、それが何日も続いたために
モデルさんは凍死しかけたとか。
ラファエル前派のモットーは「自然に忠実であること」だそうですが、
それにしてもその妥協のなさって。
当時23歳の若者がそこまでやっちゃうって…いや若者だからこそでしょうか…。
ちなみにモデルになったのはミレーと同じラファエル前派のロセッティの妻エリザベス・シダルだそう。
夏目漱石が『草枕』の中でミレーのオフィーリアについて何度も書いていますけど
オフィーリアが水を流れていく姿がとても印象に残ったそうです。
ただあの表情がどうしても気に入らなかったらしく、
「ミレーは成功したのかもしれないけどミレーと自分が同じ思いかはわからないから
ひとつ自分も彼にならって風流な土左衛門を書いてみよう」的なことを書いてるあたり
漱石の"漱石枕流"ぶりがすごく感じられて2828してしまう。
また、宮崎駿氏がハウルの動く城の制作を終えてイギリス旅行でこの絵を見たとき
「緻密な絵はすでに先人たちが描いている。精度を上げた爛熟から素朴さへ舵を切ろう」と感じて
結果的に崖の上のポニョの制作につながっていったという話もありますね。
(ちなみに漱石と宮崎氏の誕生日は同じ1月5日)
ミレーの絵、ほかにもありましたよ。
キリスト一家をあまりにも世俗的に描いたためにチャールズ・ディケンズが「醜悪な聖家族」と酷評した
「両親の家のキリスト」とか(ヴィクトリア女王は気に入ったっぽいけど)、
子を膝に乗せる母を描いた「ジェームズ・ワイアット・ジュニア夫人と娘のセーラ」とか
(女性の背景にダ・ヴィンチの「最後の晩餐」やラファエロの「聖母子」の絵がかかっていた)、
刺繍を終えて腰を伸ばす女性の真っ青なベルベット服が鮮やかな「マリアナ」
(シェイクスピアの『尺には尺を』を引用したテニスンの詩から)など。
どの絵も人物の描きこみがきめ細かく繊細でした。
ラファエル前派にとって聖書は人間ドラマであって、神様の教えというよりも文学的詩的な世界だったと
キャプションに書いてあってなんか納得。
(わたしも聖書や古事記は教科書というより物語としてとらえているので…)
フォード・ブラウンの「リア王とコーデリア」、疲れ切ったリアにコーデリアが寄り添っていて
父にかけようとしているスカーフが真っ赤で目を引きました。
リアの手に枯れた草花が握られていてね…切ない場面ですね。
「ペテロの足を洗うキリスト」は有名な洗足のシーン、ペテロの申し訳なさそうな表情が切ないです。
背景に12人の弟子たちがいるので最後の晩餐の直前のシーンを描いたものでしょう。
(「足を洗う」という慣用句がありますが、
あれは修行僧が1日の修行を終えて足を洗い清める→道を正す、という語源なのだそうな)
アーサー・ヒューズの「4月の恋」、女性の肩にかかる真っ白ショールが透けるような美しさ!
「聖アグネス前夜祭」は絵も細かいのですが額縁にも感動しました。
金地に凸凹の蔦の葉がからみつくデザイン、斬新ですね。
フィリップ・コールデロンの「破られた誓い」は扉の向こうで逢引する恋人たちに
扉のこちら側で目を閉じて聴き耳を立てる女性の絵ですが
立体感がすばらしくて見とれた。
あんなスカート、一体全体どうやって描くのだ。
ジョージ・ボイスの「木立の中でブナの側に立つ少女」が綺麗な色遣いでしたー。
少女が赤毛で、道が赤茶色に塗られていたので『赤毛のアン』を連想しちゃったよね。かわいかった。
ウィリアム・ダイスの「ペグウェル・ベイ、ケント州」は海辺を旅行中の画家の家族たちが描いてあって
それだけですととても微笑ましい絵だなと思うのですけども
後ろ姿の画家が空を見上げていて、その視線を追っていくと
空にかかるドナーティ彗星(この日から数日にわたり地球に最接近していた)が描いてありまして
これは彗星の記録という意味でも貴重な絵になるんじゃないかと思います。
藤原定家が日記に残した超新星爆発の記録みたいだ。
ロバート・マーティノウの「我が家で過ごす最後の日」、
父と息子はグラスを片手に陽気にはしゃいでいるのに、母と娘は沈んだ顔。
実は破産を宣告され家具には差押さえのシールがベタベタ貼られているという裏設定がひそんでいます。
タイトルにそのまま書くのではなく、絵から読み取るようになっているのもいとをかし。
エドワード・ジョーンズの「愛に導かれる巡礼」は中世の『薔薇物語』からの引用で
薔薇に恋をした詩人が愛の天使に導かれながら茨の道を行くという何とも厨二世界に満ち満ちた絵。
ジョーンズはこの絵を20年かけて晩年に完成させたそうです。大きな絵でした。見応えあった。
「クララ・フォン・ボルク」と「シドニア・フォン・ボルク」は
2枚の絵が向かい合っていて対であることがわかりました。
クララは黒服に沈んだ表情、シドニアは狡猾な視線をクララに投げていてなかなか意味深。
当時刊行されたゴシック小説の一部を絵画にしたそうです。
シメオン・ソロモンの「ミティリニ庭園のサッフォーとエリンナ」は睦み合う女性たちを描いて官能的。
ソロモンは同性愛を描いたことで逮捕されたこともあり、私生活では同性と一緒に住んだりもしていたそうです。
今も昔も生きづらさを抱える人は無数にいる。
最後はロセッティ祭だった!
「ベアトリーチェ」は神曲のヒロインを描いた絵で、芥子の花を持っていて
そういえばミレーのオフィーリアが抱えている花の中にも芥子があったなと思い出してちょっとドキリ。
しかもモデルはオフィーリアと同じエリザベス・シダルで、
このとき重度の薬物中毒に冒されていたとキャプションにあってまたドキリ。
もともと病弱だったところにロセッティの浮気や子どもを死産したことなどが重なったらしいです…
ファム・ファタールとは。
「最愛の人」は結婚式でベールを脱いだ女性の絵で、
一瞬にして辺りがパーッと輝くような明るく華やかな絵でした。
「プロセルピナ」はローマ神話の春の女神で、ギリシャ神話におけるペルセポネのことですが
よくイメージされるペルセポネとは違って
真っ黒な髪に意志の強そうな瞳で石榴の実をつかんでいてゾッとするような美しさ。
全体的に暗めの色遣いなのに真っ赤な唇と石榴の赤がすごく映えていて見とれてしまいます。
ラファエル前派の画家たちは町の女性たちをモデルに絵を描くことが多くて
ついでに恋愛もしちゃうだめんずだったとキャプションのあちこちに書いてあったのですが、
部屋ひとつ分使ってメンバーそれぞれが誰と仲良しで誰とカップリング関係にあったかとかの相関図が
でかでかと掛けてあって見ごたえありました。
奇妙な三角関係、援助関係、モデル兼愛人関係とか何という泥沼。
芸術家の思考わけわからん~~なにこれ頭おかしい、でもそんな中に疑いもなく生きていた人たち。
みんなハードロックな人生送ったんですね…くらくら。
会場にあった年表でラファエル前派団の活動期間がヴィクトリア女王の在位期間とほぼ一致していて
それもなかなかすごいなと思いました。
ちなみに「オフィーリア」はヴィクトリア朝の絵画史上最高傑作ともいわれているそうです。
そしてヴィクトリア朝といえばアーツ&クラフツ運動にギャスケルにブロンテ姉妹、不思議の国のアリス、
フランケンシュタインにシャーロック・ホームズと盛りだくさんな時代ですよ。
あ、そういえばミレーで思い出したのですけども。
ビアトリクス・ポターもミレーの絵が好きだったらしく、父のルパート・ポターに連れられて
よく美術館に絵を見に行ったそうです。
ルパートとミレーが友達だったこともあり、ミレーの自宅に遊びに行ったり訪問を受けることもあったとか。
「隣人であるミレーの『オフィーリア』は世界でもっとも素晴らしい作品のひとつ」と
ビアトリクスが日記に書き残していると、わたしの手持ちの本に載っていました。
(ちなみにビアトリクスは同日の日記に「ラファエル前派の画家たちの特徴は影を描かないこと。
とことん対象を絞って描くことが彼らの本質」みたいなことを書いていたりして
画家が画家を見る目はやっぱりおもしろいなあと思います)
ソチオリンピックが終わりましたね~。
小野塚彩那さんに竹内智香さん、おめでとうおめでとう!
やっぱりアルペン競技は面白い~ジャンプとかターンとか種類がまったく分からない素人ですが、
選手のみなさんの技術が本当にすごくて見とれる。
竹内さんのスノボはたまたまLIVEで見ていてメダルが決まったとき拍手してしまった。すごいよー!
(しかしあんまり転ぶシーンばかり放送しないであげてほしい)
フィギュアスケートはどうしようかと思ったのですがLIVEで見てしまいました…。
村上さんと浅田さんで涙して、鈴木さんとリプニツカヤちゃんに感動して
メダリストの3選手にほわあああってスタンディングオベーション。
真央ちゃんはSPの結果もあってドキドキでしたが、
フリーで最初リンクに出てきたときあっ昨日よりキレがある大丈夫かもって思いながらもドキドキして
ジャンプ全部成功させてフィニッシュ!したときわーって拍手しちゃいました。
ついでにもらい泣きもしてしまった。自己ベスト更新おめでとう。本当にお疲れ様でした。
あと、エキシビションも見ちゃいました♪
選手がプレッシャーから解放されて伸び伸び踊ってていいですね。
町田くんの眼鏡マフラーに大笑いし、高橋さんの情熱的な舞踊にハートキャッチされ、
ゴールドさんのまるでブロードウェイミュージカルのような踊りに惚れ、
フェルナンデスさんの自由すぎるスーパーマン(?)にほのぼのしました。
選手たちがすごく仲良いのにもほのぼのしていたんですが、
アイスダンスのナタリー・ペシャラさんのインスタグラムに選手たちの変顔写真があって笑っちゃった→こちら
いいなあ☆
そしてこういう時も町田くんは町田ワールドだな…(笑)。
閉会式もちょこっと見まして、図書館や本が出てきてロシアの文豪オンパレードだったことに大感動でした。
選手のみなさん、関係者のみなさん、本当に本当にお疲れ様でした!!
来月から始まるパラリンピックも応援したいと思います☆
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