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ゆさな日々

猫・本・歴史・アートなど、好きなものやその日考えたことをそこはかとなく書きつくります。つれづれに絵や写真もあり。


リアルとリアリティ。

  1. 2014/09/05(金) 23:55:17_
  2. 古典・歴史
  3. _ tb:0
  4. _ comment:4
大森洋平『考証要集 秘伝!NHK時代考証資料』を読んでいます。面白い!
NHKで時代考証業務を担当された著者が、番組制作支援用に作成した考証資料を
「あんみつ」「扇の使い方」「花柳界」「キス」「軍議」「正座」「天下の台所」「鼠小僧」「バイバイ」
「幽霊」「流人」「ワイン」などなど、項目を辞典みたいに五十音順に並べて本にしたものです。
どのページから読んでも大丈夫な構成になっていますので
目次で興味のある言葉を選んでページをめくりだしたら、止まらない!
その時代にその物があったかなかったかはもちろん、言葉の語源や昔の読みや言い方、
現代にいわゆる「常識」とされる物や言葉がだいたい近代以降のものだったりすることまで
大河ドラマで実際に使われた事例も交えて説明してくれています。
歴史劇や時代劇の中でひとつの物を存在させるためにこんなに気が遣われているということも
ひしひし伝わってくる内容。
笑ってしまったのが本のタイトルです(笑)『往生要集』を意識しているんだろうなあ。

まずはよくある地球儀ネタ(笑)。
戦国時代や幕末ドラマに、かならずといっていいほど出てくる
「外国人が持ち込んだ地球儀を見て、世界が丸いことと日本がとても小さいことに驚く」イベント。
これ、ドラマの時代によってはオーストラリア大陸の有無に気をつけなければならないそうです。
オーストラリアの発見は17世紀、つまり江戸時代なので
戦国時代ドラマで地球儀を使いたいならオーストラリアが載ってないものを用意するらしい。
ちなみに『軍師官兵衛』で江口信長と内田お濃が地球儀を回してましたが
大陸はありませんでしたね。
(『新選組!』の江口龍馬が地球儀の前で両手を広げて
「これがわしらが住みゆう地球よ!」とのたまうシーンがいつになっても忘れられないくらい大好きです。
その後香取近藤が「意味がわからない」ってギョロ目で言うのも大好き)

地球儀イベントは戦国以降のドラマ主人公がだいたい通過していきますけども
幕末あたりになると加えて「黒船を海まで見に行きオオー!とびっくりする」イベントも発生するな…。
たぶん、その後の主人公の人生に決定的な影響を与えるのを強烈に印象付けられるのでしょう。

言葉コーナーもおもしろい。
「御酒」を発音するときのアクセントは"しゅ"ではなく"ごしゅ"なんだそうで
このアクセントでばっちり発音した役者さんがいてかっこよかったそうな。
「時代考証なんか少しくらいぞんざいでも、台詞がしっかりしていれば時代劇は決まる」と
コメントがつけられていて笑ってしまった。
「野菜」という言葉は江戸中期にできた言葉で、それ以前は「青物」というそうですな。
(伊藤若冲の実家が確か青物問屋「枡屋」さんといいましたっけ)
言葉の違いとしては、「いっこく」と「いっとき」があって、どちらも一刻と書くのですが
いっこくは約15分、いっときは約2時間だそうです。
大阪と大坂の違いについても、これは研究者の間でも色々な意見があるそうで
ドラマを作るときはだいたい「近代は大阪、それ以前は大坂」表記でやっているみたいです。
関東と関西で言い方が違う言葉もあって
たとえば「真ん中」というのは江戸なら「まん真ん中」、上方は「ど真ん中」と言うそうな。
同じように「インチキ」は上方、「いかさま」は江戸の言葉なんですって。
そうなのかーわたし両方とも使ってるな…。

食べ物ネタもありますよ~。
「ワイン」がワインと呼ばれるようになったのはここ50年くらいのことで
それまでは葡萄酒で通していたというのは何となく納得できたのですが、
「鍋料理」は江戸時代では"以下物"と呼ばれていたと知ってびっくり!
うわ良かった…鈴木春信のお話でお鍋のシーンとか書かなくてよかった…ドキドキ。
「味噌汁」と「饅頭」が普及し始めるのは室町時代で、
どちらも禅宗の食事や点心から始まっているらしくてこれもびっくり。
特にお饅頭は、戦国時代までは高貴な人々の食べ物だったらしいので
戦国大名とかは食べていたかもしれないけど、庶民はまだなんですねえ。
「まんじゅうこわい」の落語が生まれたのも江戸時代ですしね~。
「サンドイッチ」も18世紀には出島の役人が食べていたらしくて、
『新選組!』正月時代劇でラブさん榎本が耕史さん土方においしいよってすすめてたけど
あれ中身はハム・塩漬牛肉・固チーズ・ピクルスだったそうですね。
あのチーズが、歳さんが釜次郎さんに「あんたこそ死ぬんじゃねぇぞ。この土地を開拓して、
何万頭もの牛を飼ってチーズを作れ」っていうセリフに繋がってくんだよね、
あのときの歳さんは破格のかっこよさで視聴者の心を悩殺しにかかっていた…彼は本気だ…
さらに服部克久氏の美しく静かな音楽が涙腺を煽ってくる…うっ涙が…(以下自主規制

「川越江戸間の船便」の項が個人的にテンション高かったです☆
江戸時代に荒川で行われていた川越~浅草花川戸の船便は
通常30~50人乗りで、午後3時に川越を出発、翌日正午に花川戸に着いたそうです。
逆に川越行きは川の流れをさかのぼるので2日かかってしまうため、
人はほとんど乗らなかったとか。(確かに、歩いた方が早いよね)
「京大坂間の船便」の項もあって、こちらは京都の伏見~大坂間を淀川を使い行き来したもので
こちらは物資を運ぶのがほとんどだそう。へー。
伊藤若冲の『乗興舟』が伏見~大坂間を描いた拓版画ですが
また大倉集古館が公開してくれたら行きたい…もう何度見ても好き…話がズレている…。

あと、「"椿の花は打ち首を連想させるから武家になかった"のは間違い」というのも載ってるのですが
これまだ言われてるのでしょうか…。
この本には書いてないけど、正倉院には椿の木で作った杖が納められていますし
戦国時代には織田有楽斎が茶室に飾っていたりするし、
江戸時代には将軍家や武家が園芸品としてお庭に植えるほど愛された歴史のある花なんだけど。
椿が気の毒だからそろそろ消えてくれないかなあと思っている。
(ただし、実際は武家の家に植えられていたことと
"縁起が悪いから武家にはなかったと誤解された時期があった"ことは
椿の歴史として記録しておかねばならぬ)

ほかにも「河童」の項で「芥川龍之介によれば河童にとって最大の侮辱は蛙と言われること」とか
全然関係ないこと書いてあったり、
「オウム」の項で「戦国ドラマでセキセイインコが出た時、この鳥はオーストラリア原産だから
この時代にはいない」との指摘をいただいたそうで、注意することとしながらも
「しかし、インコよりドラマを見て欲しい」とか本音もこっそり書いてあったりして
笑えたりもします^^
わたしが知ってる考証ってほんとに少ないので
たとえば合戦で槍が使われ始めるのは室町時代とか、
昔の馬はどっしりして背が低くて、時代劇によくいるサラブレッドじゃなかったとか
「神経」という言葉を最初に書いたのは杉田玄白だとか
近代以前の夫婦は別姓で財産も別々だったとか、そんなもんだなあ。
座布団が全国に普及するのは近代というのもよく言われる話ですね~。
似たような理由で、掛け布団も一般に普及するのは近代以降で
それまでは着物を被って寝ていたはず。
(しかし殿様の寝床が綿布団にシーツつきというおそろしい図を
某戦国ドラマで見た覚えがあるぞわたしは…)

それから大事なことも書いてあった。
「考証において○○を再現しました!よりも大切なのは○○を出さずに済みました!という消極的成功」
だということ。
せっかくお金と時間と労力をかけて作ったドラマが、たったひとつの所作やセリフで台無しになるのは
実によくあることなのだそうです。
とはいえ、歴史ドラマはあくまでフィクションでありファンタジーなので
史実にこだわりすぎるとつまらなくなります、ともおっしゃる。
「考証が素晴らしくてもつまんないのはだめ」って
大石先生かどなたかがどこかでおっしゃったのを聞いた覚えがあるな…。
予算と時間と現場の人々の奮闘、様々なハードルを乗り越えて
ドラマやドキュメンタリーは作られているのでありました。
わたしもお話づくりやお絵描きにもっと真摯になって、きちんといいものを作りたいなあ。


sotatsu7.jpg※クリックで大きくなります
「風神雷神図屏風Rinne」宗達・光悦編その7。6はこちら
鷹峯に引っ越した光悦の家へ、宗達が風雷を連れてやって来ています。
(小川通~鷹峯間は歩いて1時間程度の距離です)

光悦「ひと休みしないか」
宗達「するする、ありがとう」

宗達が何をしているかというと、光悦の引越し祝いに、襖に絵を描いている真っ最中です。
後ろの襖はすでに完成。宗達が絵を描き、光悦が書を入れています。

光悦は茶人でもあったので自宅屋敷にいくつか茶室を建て、
さまざまなお客をもてなしたそうです。
鷹峯に引っ越してからは大虚庵と号し、人がいてもいなくてもよく茶をたてていたとか。
数奇者というやつですね。
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テーマ : 雑学・情報    ジャンル : 学問・文化・芸術

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comment

No title

  1. 2014/09/09(火) 11:26:16 |
  2. URL |
  3. エッカ(ナギカルタ)
  4. [ 編集 ]
こんにちはー、ご無沙汰しております。
大分涼しくなって参りましたが、いかがお過ごしでしょうか。

『考証要集 秘伝!NHK時代考証資料』に興味津々です!!
ちょうど一冊(『図説朝食の歴史』)を読み終えたところで、グッドタイミング。
とりわけ民具や食物など、モノにまつわる歴史の話は大好物です。
上でふれられていた“ワイン”と“葡萄酒”のように、モノの呼び方ひとつとっても、時代は勿論のこと、地域、身分、職業なんかで変わったりするのはとても面白いなア、と思う反面、それで悩まされることも多々...

ゆささんの記事を読んで、もう買う気満々。
早速本屋で探してみようかと思います。
素敵な本のご紹介、有難うございましたー!!


Re: No title

  1. 2014/09/09(火) 23:42:33 |
  2. URL |
  3. ゆさ
  4. [ 編集 ]
> エッカ様

こちらではお久し振りです~~ほんとに涼しくなりましたね!
過ごしやすい季節うれしいですね☆

考証要集すっごいおもしろいのでぜひぜひ~おすすめです^^
モノの歴史いいですね…。
今ここにあるモノが昔はこうだったとか、おっしゃるように地域や身分ごとの物を知るの楽しいです。
職業のモノ大好物です☆どんな道具で仕事してたんだろうとか、お弁当は何だったんだろうとか。
すごく合理的だったり思わぬ謂れがあったりするんですよね。深い!

> 『図説朝食の歴史』
うほほっなんですその本気になります!読みます!読書の秋\(^o^)/

No title

  1. 2014/09/09(火) 23:49:05 |
  2. URL |
  3. 若野 史
  4. [ 編集 ]
素敵な資料のご紹介ありがとうございます!こういうの大好物です(笑)
時代がかった言葉はその世界に一気に引き込んでくれるなあとは思っていたのですが、やはり計算されていたのですね。
この記事を読んでいたら、映画『天地明察』のパンフに小道具は相当なこだわりをもって作られたと書いてあったのを思い出して、ついそちらも読み返してしまいました。「その時代にあってもおかしくないオリジナル小道具を作った」とか、そんな内容です。時代映画の小道具は深いのだと再確認しました。
その時代を踏まえてそれっぽく作る……考証とフィクションの融合ってそういう事なのかもなあ、と思いました。

Re: No title

  1. 2014/09/10(水) 21:26:26 |
  2. URL |
  3. ゆさ
  4. [ 編集 ]
> 若野様

わーい大好物よかったです(´▽`)ノ
ドラマを見るのは現代人ですから
言葉とか道具とか、どこまで再現するかバランスが難しいとおもうのですが
現場の人たちがんばってるなーと本を読んで改めて思いました。

天地明察の美術も凝ってましたねそういえば!
春海さん家の小道具とか観測の大道具も本物っぽかったな~。
下手するとイラストも設計図も残っていないものを作るのですから
ちゃんと考証して、でもドラマとして面白く見えるようにってすごいことですよね!
 
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