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ゆさな日々

猫・本・歴史・アートなど、好きなものやその日考えたことをそこはかとなく書きつくります。つれづれに絵や写真もあり。


小さな動物はしっぽに弓を持っている。

  1. 2014/11/07(金) 23:53:59_
  2. 絵本・児童書
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  4. _ comment:2
tobe1.jpg
思いがけず招待券をいただけたので(O先生ありがとうございました!)、
横浜そごう美術館の「トーベ・ヤンソン展 - ムーミンと生きる」に行ってきました♪
トーベ・ヤンソン生誕100周年を記念してフィンランドで行われた回顧展が
日本にやって来て今後は北海道や新潟なども巡回するそうですよ~。
フィンランドのご親族や美術館に所蔵されている原画や遺品の展示が中心で
ムーミンはもちろん、アリスやホビットの挿絵や生涯描き続けた油彩画、スケッチや習作、
手作りのジオラマのほかにヤンソンの映像や音声などもあって
まさに「人間トーベ・ヤンソン」がまるごとわかる内容でした。
入口パネルにでかでかと再現された「Tove Jansson」のサインが超かっこいい。

ムーミンは大好きで本も読んでいますが、実はヤンソン本人については何も知らなかったので
(ムーミンシリーズやアリスの本の巻末解説で簡単な経歴について記憶していただけでした)、
今日は一から学んでこよう~とウキウキしながら展示室にin。
幼少期のお絵かきや学生時代の油彩画(ストックホルム、ヘルシンキ、パリ等で学んだらしい)の
主線の太さにびっくりしました。
ムーミンを見慣れていたせいか細かいタッチで描くイメージがあったので…。
ヤンソンはすでに10代で絵の仕事を始めていて、学業のかたわら個展も開き、
絵の師だったサム・ヴァンニの影響か20代の頃は強い色彩を好んでいたようで
「青いヒヤシンス」は窓辺に置かれた花の色がくっきりしています。
筆のタッチも結構しっかり残っていて柔らかめのゴッホって感じなんだけど
「神秘的な風景」とか見ているとシュルレアリスムっぽくもあり
リンゴの静物画はあっさりしたセザンヌの絵ようでもあり
そういう部分はやはり20世紀の画家だなあと思いました。
ご家族の肖像画は、お母様や弟ペル・ウーロフ・ヤンソンのは正面だったり視線がこちら向きですが
本人の自画像は斜めを向いているのがほとんど。
ねえトーベ、こっち向いて。恥ずかしがらないで。

ヤンソンが表紙や記事に挿絵を描いた雑誌「GARM」もありました。
彼女は若い頃に第二次大戦を含む4度の戦争を経験しており、
絵にもそれが反映されているそうです。
ヴァイキングとヒトラーとダイナマイトの樽に座った男性の3人が
同時にマッチに火をつけようとするカリカチュアとかすごくて、
これを戦時中に出版できたというのもすごい…フィンランドって昔から意識高い国ですね…。
ラップランド戦争のイラストに小さくTove(トーベ)と書かれたサインには
ムーミン(スノークかな?)に似たキャラクターもくっついています。
身体はまんまるですが鼻が細くて目も小さい、でもかわいい。
ヤンソンが「一種の逃避」と表現してムーミンを描いた最初の本『小さなトロールと大きな洪水』の出版が
1945年だったと知って顎が外れるほどびっくりしました。来年で70年じゃないかー。
続く『ムーミン谷の彗星』もハラハラドキドキする大冒険小説でとても大好きな本なのですが
ヤンソンの人生を知ってみるとすごく終末観の漂う内容にも思えてきて
もう一度読み返したらきっと違った印象を受けるだろうな…。

そんなムーミン、挿絵やマンガの原稿がたっぷりあります(*´∀`*)。
あわあわムーミンが、スナフキンが、スニフが、スノークのお嬢さんが、ミィが、ミムラねえさんが、
ヘムレンさん、ニョロニョロ、ひこうおに、モラン、パパママも!
インクペンのベタと掛け網と空白だけで表現された白黒ムーミンの世界…うわあ懐かしい…!
結構、ざっくりした線ですけど手描きの味わいがすさまじいです。
挿絵は小さな小さな原稿で、マンガ原稿はふつうに雑誌サイズでしたが
ペン画の完成原稿と鉛筆画の習作が並んでいるのもありまして
いや、習作っていうかネームだよこれ!(感動)
この時代からネームと原稿は別々だったんだな…。
トレーシングペーパーを使った原稿もあって、所々変色もしててこれ保存大変じゃないのかな、
ダンスしてるパパとママの大きな絵がとっても素敵でした~!
「滞在 - ヴィヴェカとトーベ」のヤンソンの授賞式についてきたムーミン谷のキャラクターたちが
わくわくしてるのもすごくかわいい。
ニョロニョロの原型を描いたっぽい絵もありましたが、手足が生えていて緑色で
どう見ても今のニョロニョロの方がかわいさも不気味さも上回っている。
(ところでニョロニョロやモランみたいな生き物って、
ヤンソンと同じ北欧の作家リンドグレーンの『山賊の娘ローニャ』に出てくる灰色小人や鳥女とか
アスビョルンセンの『三匹のやぎのがらがらどん』のトロルとかに存在としては似てるのかな…。
あとラップランドの地名を初めて知ったのはラーゲルレーヴの『ニルスのふしぎな旅』だ)

ムーミンの原型は、ヤンソンが姉弟げんかをしたときトイレの壁に描いたという落書きと
叔父さんから「悪さをするとムーミントロールが首に息を吹きかけてくるよ」と聞いたことから
着想したといわれています。
叔父さんは"ムーミン"の名前をどこで聞いたんだろう…それともとっさに思いついたのかな…。
そして何冊か出版されていくうえで物語の内容も
大冒険からキャラクターの関係性中心へと変化していっているのがわかるようです。
特に『ムーミン谷の十一月』はヤンソンの身内に不幸があったことが色濃く反映されているとか。
…本当に読み返したくなってきた!

ヤンソンはムーミンのマンガ連載を10年ほど続けた後、
弟に連載を任せて1960年代から再び絵画を描き始めたそうです。
1975年の自画像でようやく真正面を向いたかと思ったら力強さが爆発してる。
若い頃よりもっと線が太くなって、たたきつけるように置かれる色はムンクのようなタッチで
でも配色が絶妙なのが本当にすごいな…!
この頃から一緒に暮らし始めたトゥーリッキ・ピエティラの作業風景を描いた「アーティスト」も
タッチは骨太ですが色遣いがパステル風でやさしい~。
水彩画のムーミンの絵も柔らかなブルーグレーでした。

展示室の真ん中には。
tobe3.jpg
ヤンソンが夏を過ごしたバルト海のクルーヴ島(ハル)の小屋が実物大で再現されていました☆
おおこれが…かつてまことしやかに噂された伝説の…!(そんな噂はない)
割と雑然とした散らかりようで、そのうちヤンソンがふらりと現れて机に向かいそうな雰囲気!
奥の棚にはムーミン一家の小さなフィギュアがありました。

tobe4.jpg
こういう台所って好き。

近くにはクルーヴ島の模型や、弟のペルさんが撮影した島での生活を楽しむヤンソンの写真が
パネルに大きく引き伸ばされて展示されていました。
日本で購入したという8ミリカメラで撮影されたヤンソンとピエティラの映像も上映されていて
ヤンソンが海で水泳するのとか、小屋の外で陽気にダンスをする様子などが見られます。
ナレーションは本人が直々に入れていました。
ひいぃ~~トーベの肉声!落ち着いたハスキーヴォイスでした…初めて聴いたよ。

ヤンソンはムーミンの他にも絵本の挿絵を描いていまして、
ホビットの冒険や不思議の国のアリスの原画がカラーも含めて展示してありました。
トールキンとキャロルが書いた濃密なあの世界観も
ヤンソンが描くとかわいらしくふわふわした不思議な印象になるからおもしろい。
ビルボは背が縮んだスナフキンに見えるし、マッドハッターも年取ったスナフキンに見えてしまって
自分がいかにスナフキンが好きか改めて思い知ることになったほかは
ムーミンで見たタッチがそこここに散見されて和んでおりました(´ω`)。
(ってか、無理もないけどアリスの絵は思いっきりジョン・テニエルに引っ張られてますな…
クロケー場にチェシャ猫が出てくる構図とかそっくりだし…
というか、ヤンソンのアリス絵にどことなくエドワード・ゴーリーを連想するのは
2人とも猫好きで、しかも猫を描くタッチがそっくりだからかもしれない)
不思議なメガネを拾ったスサンナがムーミン谷に行く『ムーミン谷へのふしぎな旅』のカラー原画は
とても大きく色彩豊かで、
これ絵本だったらページをめくるとパーッと光が溢れてくるみたいに見えそうで
そういう意味でもインパクトのある絵だなと思いました。
あと、ヤンソンは自国の保育園や病院に壁画を描いてもいて
その習作と、実際に描かれた絵の写真と、施設を赤点で示した地図が並んでいました。
特に病院の、ムーミン谷のキャラクターたちが大行進をする絵が明るくていいなあ。

ムーミンの小説に出てくるシーンを再現したジオラマ模型も4つほどありまして、
ヤンソンとピエティラの共同制作だそうです。
ムーミンのシリーズがひと段落したあたりから少しずつ作り始めて晩年は没頭していたとか。
暖炉であたたまるムーミン一家とスノークのお嬢さんのほんわかした雰囲気、
おさびし山に向かうヘムレンさんは張り切っててかわいい☆
ヤンソンが使っていた大型のパレット(絵の具が大量にこびりついてる)の裏にはTuulikkiの署名があり
ピエティラが制作したものであることがわかります。
このパレットからあの迫力のある油絵が生み出されていたんですね。

展示室出口の近くでは1991年に放送されたムーミンのアニメの上映も!
わああ懐かしい~~観てた観てた!
高山みなみさんのムーミンと大塚明夫氏のパパ、子安武人氏のスナフキン大好きだったなあ。
(冬眠前にスナフキンからハーモニカを預かるムーミンと、
ムーミンが冬眠から目覚めるとき間に合わなくて八つ当たりするスナフキンが好き)

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出口にあるヤンソンとムーミン谷の仲間たちのパネル。
一緒に写真が撮れますよ。

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3階の特設ショップにもムーミングッズがたくさんありました~。
限定品が多くて財布のひもを引き締めてかからないとたちまち散財しそうです(;´∀`)。
写真は撮影可のジオラマ。のどかですね…。

tobe6.jpg
眠れないのかな?(笑)

そういえば来年にムーミンの新作アニメ映画(フィンランド製)が公開されるそうですね。→こちら
楽しみすぎるよ(*‘∀‘*)。
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テーマ : イベント・サイン会    ジャンル : 小説・文学

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comment

職場ではヤサグレムーミンと呼ばれています

  1. 2014/11/08(土) 21:52:57 |
  2. URL |
  3. クマ社員
  4. [ 編集 ]
大昔のアニメを見てた頃は、ムーミンってカバなんだと思ってました。
それから暫くして妖精だと聴かされたんですけど、未だに納得はしていません。
原作を手にしたのは最近の事で、何とも不思議な世界で面白かったです。

Re: 職場ではヤサグレムーミンと呼ばれています

  1. 2014/11/11(火) 20:34:57 |
  2. URL |
  3. ゆさ
  4. [ 編集 ]
> クマ社員様

そういえばいつのアニメだったか覚えてないんですけど、
警察(?)からカバカバ言われて家に立てこもって戦うムーミン一家の話があったような…(笑)。
原作おもしろいですよね!不思議で哲学的でシュールでするする読んだの覚えてます。
 
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