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路地裏の向こうは不思議の町でした。

2015.01.21 23:47|一般書
行田尚希『路地裏のあやかしたち-綾櫛横丁加納表具店』を読みました。
煙草屋の隣の細い路地…綾櫛横丁を訪ねた男子高校生が
ひょんなことから横丁の表具のお店「加納表具店」に弟子入りして、
お店に(というか店主に)持ち込まれる小さな事件をひとつひとつ紐解いていく連作小説です。
よくある妖怪退治ものかと思って1年くらい読まずにいたのですが
思い切って読んだらとてもさわやかな気持ちの読後を迎えることができて
迷っていた過去の自分に「読め!いますぐ」って言うためだけにタイムマシン乗りたい。

お話そのものは非常にシンプル、特に大きな事件も起きずちょっと不思議な日常生活という感じで
全体的にサラッとした風が吹いてるみたいな雰囲気がよかったなあ。
セリフやト書きも多すぎず少なすぎず絶妙なバランス。
表具師の店主をはじめ横丁の住人たちが全員妖怪で
持ち込まれる案件がだいたい絵に関する怪異である点はまあよくあるパターンとしても、
齢数百年の店主がハンバーガーショップの新作を必ずチェックしていたり
天狗の男の子がランドセル背負って小学校に通っていたり
詐欺師の狸がカモから騙されていたり
セーターの似合う猫又が時々ふらっといなくなってまた帰って来たり
氷屋でバイトしてる雪女がコスメに夢中だったりするのはなかなかないような気がします( ˘ー˘ )。
みんな言葉が現代語で「~じゃ」とか語尾についてないのもかえってリアリティがあるというか
仕事したりハンバーガー食べたりカフェや美容院に行ったりしながらふつうに現代人やってるのが
全然違和感なく書かれていて
鬼外カルテとかRDGみたいな、隣に何気なく暮らす多様性を当たり前としているのに好感が持てました。
何より登場人物、絵や表具など古いものに対するリスペクトが感じられて(ここ超大事)、
妖怪や絵にまつわる怪異が退治されてしまうことがないのがとても良かったです。
人と異なる生き物を折伏したり排除したりする退治ものバトルものが最近どうも読めなくてですね…
こういう本と出会いたかったのですよ。食わず嫌いにしててもったいなかった。

洸之介くんがすごく誠実な男の子なのが、このお話にバランスが取れている理由かなと思います。
(もし癖のある主人公だったらかなり印象が変わると思う)
妖怪さんたちがどんなにぶっとんでいても、洸之介くんは最初は慌てるんだけど
妖怪さんたちの行動を見たり話を聞くうちに「まあこんなもんか」と水を飲むみたいにヒョイと受け入れたり、
環さんたちにお酒をすすめられても「未成年です!」って断って
自分より見た目が幼い妖怪たちが飲んでても「たぶんみんな20歳は超えてるだろう」とスルーしたりと
結構、頭回るし順応性高いなあと思う。
古いものに対しても素直に感動して、環さんの指導のもと技法を習得しながら
たまに妙な調査のために引っ張られていったりする典型的な巻き込まれ型主人公ですが
たぶん本人もまんざらではないと思ってるだろうな。お人好し少年☆
揚羽さんにオゴられたと知って仕事を断れなかったりとか、
2階から落ちかけた同級生を桜汰くんが助けたとき「あー桜汰が天狗でよかった…」って
心底ホッとしてるのとか、たまにヘタレ。
日常を失いかけてだんだん不安が膨張していくくだりは、ラストが予想できてはいてもドキドキしました。
妖怪さんたちに叱られて「ケータイ死んでました」って謝るしかないのがおかしくて笑ってしまった^^

店主の環さんのかっこよさは筋金入りですね~。
腕のいい表具師で、数百年生きてるから知識も経験もあるけどいい具合に肩の力が抜けてるから
洸之介くんにとってそんなに堅苦しい師匠ではない。
なにより普段着が着物で街へ出かけるときも着物なのが!スバラシイネ!
環さんが鮮やかなオレンジの着物姿で鰯チーズバーガーを頬張る描写が
かつて着物でマックに入って月見バーガーを食べた自分と重なって(おこがましい)、
なんだかうれしかったです。
(これで環さんが着物を洗濯機でガラガラ洗って干してアイロンかける描写があったら完璧だったわ)
猫又の揚羽さんや雪女の蓮華さんがキャッキャするのもすごくかわいくて、
でも2人とも環さんより年下とはいえ数百年生きてるから色んなことも経験してて
揚羽さんが戦争中に経験したこととか、蓮華さんがサラリと口にする葛藤とか
会話の節々にふと過去の影がよぎるのが切ない。
それを洸之介くんが黙って聞いてて、彼女たちの言葉の奥にある本音を思いやってるのがいいよね。
彼女たちも洸之介くんだから話せてるわけで、
そういう、お互いに相手の意図を汲み取れる信頼関係があるパターンは好きです。
うつけのふりとか、道化を演じてるとかね。ありがちですけど大好き。

表具に関する描写もワクワクしました!
裏打ち作業のときに紙をずらさないようにする緊張感とか、
僧侶の袈裟を表具につかったのが金地の表具の始まりみたいな豆知識とか。
糊作りで失敗してしまった洸之介くんに環さんが「裏打ちによっては腐らせた糊を使うから大丈夫」と
助け船を出しているのが、
仕事をポジティブにすすめるバイタリティを感じていいなあと思いました。
「糊ははがしやすくしておく。100年後の人が修理するときすぐに剥がせないと困るから」と聞いて
洸之介くんは目まいがしていたみたいだけど、
確かテレビで日光東照宮の修復をしていた職人さんが似たようなことおっしゃってたなあと
読んでて思い出しました。
100年後の人たちが修理する時わかりやすいように印をつけておく、みたいな言葉だったと思う。
また、「自分たちは100年前の人たちからこの仕事を引き継いだ。
100年後の人たちに恥ずかしくないような仕事をする」とも聞いたな…。
それは彼らにとってはすごいことでも何でもなくて、仕事でいつもそうしてるってだけだと思うけど。
尊敬。

そうそう忘れちゃいけない、猫又の話に凡河内躬恒の歌がふいに出て来てびっくり^^
「笹の葉におく初霜の夜を寒み しみはつくとも色にいでめや」古今和歌首巻十三・六六三番
揚羽さんは躬恒の歌と知っているのかな、環さんは作者まで教えてさしあげたのだろうか。
環さんはどこで知ったのかな、戦国時代あたりから生きてるし
彼女のお師匠建部宗由(実在の茶人)は金森宗和や小堀遠州と親交があった、当時のインテリですから
歌集とか持ってたかもしれないし。

本の帯に「文字の向こうに色彩が見えた」と選考委員の方がコメントを寄せていて確かに!とはげど。
特に環さんの着物の色彩と、怪異が解決したときに生じる色がすごく美しく思い浮かびました。

続編が出ているようなので読んでみたいと思います!
ひさびさに素敵な妖怪ものに出会えてしあわせでした☆
よい読書時間を過ごすと精神が潤いますね(´ー`)。
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テーマ:読んだ本。
ジャンル:本・雑誌

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