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ゆさな日々

猫・本・歴史・アートなど、好きなものやその日考えたことをそこはかとなく書きつくります。つれづれに絵や写真もあり。


迷宮物件。

  1. 2015/02/06(金) 23:57:34_
  2. 一般書
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小野不由美さんの『営繕かるかや怪異譚』を読みました。
城下町に建つお屋敷や古民家に住む人々と、家に起こる怪異と、それを修繕する人を描く短編集です。
お話はそれぞれ独立していて、登場人物も舞台となる家も異なっていて
もちろん怪異も多種多様。
共通して登場するのが営繕屋の尾端さんで、
一見、どうという特徴のないこの職人さん(と、読んだ限りでは思える)が
家にまつわる怪異を修繕します。
雑誌『幽』には今後も連載予定とのことで、シリーズ化するのかな。したらいいなあ。

実は小野主上のホラー小説読んだのものすごく久し振りで(たぶん魔性の子以来だと思う)、
あ、そうそうこんなリズムの文章だったわって懐かしい感覚にかられながらも
主人公たちに迫る怪異の筆力にただただひれ伏しました。。
淡々としたト書きなのですが、事実を次々に述べていくだけなのでかえって凄まじさがビリビリくるし
くらのかみのようなジメリ感も相まって、今まさに鼻先5センチで何か起きてるような手触りがあって
たまに声出しそうになったよ。
やばいやばいこれマジやばい!!って怖さがピークに達したところで
「大工さんに頼まれまして」ってヒョッコリ登場する尾端さんの仕事ぶりがまた事務的で、
窓を開けるとか、水をためておくとか、瓦を置いておくとか、えっそれだけでいいの?みたいな
全面的に解決するというよりとりあえず何とかしたら大丈夫になった結末ばかりで
かえってリアリティと説得力がありました。
なにせ相手が相手なので、お互いに干渉しない共存方法を生きてる人たちが探すといいますか
あなたと一緒に生きることはできない、でも存在を否定はしませんって感じが
なんかアパートやマンションの人間関係みたいだなあと思いました。

尾端さんは最初、なんか面白い人だなと呑気に思っていましたが
読み進めるうちにどんどん頼もしく見えてきて、
幽霊やばい怖い早く来てえええ!ってページをめくって彼が登場したらホッとしたりしました。
本当に破綻寸前になってから来るので…。
(小野主上は十二国記とかでも主人公を容赦なく追い詰めまくってから救い上げる方であることも
やっと思い出したりした)
かるかや(苅萱)というと思い出すのは高野山の苅萱堂ですが、
調べてみたらそもそもは、俗世と縁を断ってお山や寺院などに身を隠して生きる遁世者の葛藤を語った
お説経の名前なのだそうな。
そんな風に聞くと、尾端さんのプロフィールがとても気になりますな…。
プライベートを匂わせる描写が、作中にまったくないので。

このお話に出てくる怪異は、鬼太郎や妖怪ウォッチとは違って
もっと意識的なものというか、人とコミュニケーションを取るのが困難な怪異だったりします。
こう、「そういうふうに縛られているから行動パターンを変えられない」みたいな切実感があって
ルールを決めてこういう風にしましょうね、とか話し合うわけにはいかない。
生きてる人からすれば、見えない(たまに見える時もある)相手の目的が何なのかまったくわからないから
何か起きるたびに恐怖しか感じられないんだけど、
彼らには彼らなりの理由があって行動しているわけで
それを尾端さんが調べて判明すると理解できたり共感が生まれたり、いとおしくなったりする。
その人が化けて出るのは伝えたいことがあるからだ、というテーマは
シックスセンスを始め多くのホラーや怪談で示されてきていますね。
存在する次元が異なるので共存は難しくても、耳をかたむけるって大事ですな…。

あと、このお話の主人公さんたちは自分で家を建てたわけではなく
引越し先の家や継いだ家で怪異を見ることになって、
でも引っ越すにはお金がかかるし、かといって対策も全然わからないし…という
とても現実的な問題で困ってしまうのもリアリティがあるなと。
金銭に関しては本当に社会問題になっているし、
対策は、つまり引継ぎがしっかりされていないってことになるよな…。
長生きした建物には色んな人が住んできたし色んな出来事があったわけですが、
4編目の「異形のひと」の中で女の子と大工さんが交わす
「人が死んだ家なんて嫌」「家では必ず人が死ぬもんさ」の会話が
時間が経っても建物は残るけど住む人は変わるのだ…という当たり前を思い出させてくれました。
(その後に大工さんが「死ねば必ず化けて出るってもんでなし」と付け加えていて有難さを感じる)
でも、5編目「潮満ちの井戸」でお庭にあった小さな祠を調べもせず壊して平気平気とか言ってる人には
あーあ、と思わなくもない気がする(苦笑)。

公式サイトのインタビューによると、お話を思いつかれたきっかけは
小野主上のお宅に出入りしていた工務店の若い職人さんと、
テレビ番組「大改造劇的ビフォーアフター」なのだそう。
工務店とお化け屋敷の組み合わせは楽しいかなと思われたのですって。
作中でも言及されていますけど、建築関係者、特に現場経験の長い職人さんなどは
験担ぎや家相などといった建物のおまじないや禁忌について詳しいイメージが個人的にもあります。
我が家も昔、両親が建て直したので地鎮祭にはじまる行事は一通り経験しましたので…。
(あと、小野主上は確か、十二国の設定を思いつかれたのは銀英伝を読まれたときに
理想的な君主はラインハルトかトリューニヒトか?と考えて
ある作家さんの「死なないラインハルトがいい」という言葉についてお考えなさったところからだと
銀英伝文庫9巻に寄稿しておられたはず。
アイディアってどこから降ってくるか本当にわからないものですね…)

表紙の漆原友紀さんの絵も、建物の室内が暗かったり草木の緑色がくすんでいたりして
暗くじめっとしたお話の雰囲気が感じられました。
空を青色に塗らないのも徹底してる…。
あちこちに作中のあれこれがさりげなく描かれているのもドキドキします。
それとも、こういうのってあまり探さない方がいいのかな…?(^ ^;)
尾端さんの表情がちょっとギンコに似てる。

しばらくシャッターと冷蔵庫と箪笥の引出しとお風呂の蓋あけるの怖い。

そしてそして…もうしょっちゅう言ってますけども泰麒と李斎はどうなるんですか小野主上~~~!!
新潮社から長編の刊行が予定されているそうですが戴のお話なのかな…戴だといいな…(゜ー゜)。


本日のお絵かき↓
dazaifu.jpg※クリックで大きくなります
太宰府天満宮の屋根にいる菅原道真と風神・雷神。
道真さんに寄り添っているのは牛さんです。
これを描いている間中ずっと「月灯りふんわり落ちてくる夜は~」の歌が脳内でエンドレス再生されていた。

北野天満宮や太宰府を始め、全国の天神社には必ずといっていいほど臥牛像があります。
道真が丑年生まれであること、流罪の道中付き添ってきた牛がいたこと、
亡くなった道真を乗せた牛車が今の天満宮付近にさしかかったところ牛が動かなくなったため
人々が亡骸を葬り宮を建てたこと、などの言い伝えがあるためだそうです。
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テーマ : 読んだ本    ジャンル : 本・雑誌

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